パーソナライズの心理学:カスタマイズされたユーザーエクスペリエンスが求められる理由

Ryan Bonnici
Ryan Bonnici

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暗黒時代―

中世の歴史に詳しくない人たちのために説明すると、「暗黒時代」とは、一定期間、技術の発展が著しく遅れた時代のことです。Amazon.comも、Netflixも、Huluも、SpotifyもPandoraもSiriusラジオもなかった時代です。

暗黒時代では、消費者は過去に購入した商品に基づいてパーソナライズされたレコメンド情報を目にすることなどありません。これまでの視聴履歴に基づいてパーソナライズされた、新しい音楽や映画、テレビ番組に関するレコメンド情報を受け取ることもありませんでした。 

お気に入りのテレビ番組を見るためには、決められた時間に「チャンネルを合わせる」しかありませんでした。テレビ業界は恐らく、視聴者全員向けのコンテンツを制作していたのでしょう。番組を見たければ、制作側のスケジュールに合わせて視聴しなければなりませんでした。

まさに暗黒時代です。

私の中世の歴史の話は少々的がずれてきたかもしれませんのでこのへんで。ただ、私がここで言いたかったことは、人は、パーソナライズされたエクスペリエンスを好むということです。

それも切実に。そして私は、ソフトウェア、コンテンツ、あるいは人(当たり前ですが)とのやり取りや関わりあいのうち、実際に自分の関心や好みが考慮されていると感じるものを指して、「パーソナライズされたエクスペリエンス」と呼んでいます。

誰かから自分のサイズにぴったりのベースボールキャップをもらったとします。そのキャップには前面に好きなチームのロゴが貼られ、側面に自分のイニシャルが刺繍されていました。これがパーソナライズです。

これに対して、フリーサイズのベースボールキャップをもらう。前面に嫌いなチームのロゴが貼られ、イニシャルはなく、好きなチームもまったく考慮されていないとすれば、それはパーソナライズではありません。Amazonでベースボールキャップ48セットを買ってプレゼントするようなものです。もらう側は、数多くの「ラッキーな」相手のひとりであったに過ぎません。

幸いにも、(暗黒時代ではない)現代の技術では、以前にはなかったパーソナライズ技術を利用できます。たとえば、マーケターは、ホームページ、ランディングページ、フォーム、コールトゥアクション(CTA)、Eメールをパーソナライズして、表示するコンテンツやメッセージを、それを目にする人に合わせて常に変えることができます。

マーケティングにパーソナライズを取り入れる方法について詳しくは、HubSpotの新しいガイド『How to Master Personalized Marketing』をご覧ください。

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パーソナライズが求められる心理学レベルでの理由を詳しく知りたい場合は、できる限り説明しますので、このまま読み進めてください。

パーソナライズされたエクスペリエンスが好まれる理由

米国テキサス大学の研究によると、パーソナライズされたエクスペリエンスが好まれるのには、2つの要因があります。それは、コントロール欲求と情報過多です。まずは「コントロール欲求」を取り上げます(参照記事はこちら:Consumer control and customization in online environments : an investgation into the phychology of consumer choice and its impact on media enjoyment, attitude, and behavioral intention)。 

パーソナライズされたエクスペリエンスは、その性質上、元の状態とはどこか異なります。パーソナライズされている場合、他の人が得ている情報が得られるだけでなく、自分に合わせて変えられた情報を得ています。そのため、自分がコントロールしているという感覚になります。  

ただし、たとえばWebサイトのページでパーソナライズされたコンテンツを閲覧するときに、本当の意味で自分が選択できるわけではありません。それでも、自分の興味に合った情報を得ていると気づけば、目にしているものを多少コントロールできていると受け止めます。

このような「コントロール感」はある種の幻想ですが、そうであるとしても効果は大きく、精神に好影響を及ぼします。Psychology Todayによると、自身の内部にコントロール感を持っている人、つまり自分の人生の結果をコントロールできていると思っている人は、外部の圧力のせいだと感じている人よりも、生理的に健康で成功している傾向にあるということです。

次に、テキサス大学の研究における第2の要因、「情報過多」について確認しましょう。

この研究では、パーソナライズされたエクスペリエンスが好まれる別の理由として、情報過多の抑制につながることが挙げられています。もっと正確に言えば、パーソナライズは、情報が多すぎるという感覚の抑制につながります。

たとえば、Webサイトに表示されているコンテンツが自分向けに作られているとわかっている場合、パーソナライズによってより管理しやすいエンゲージメントの枠組みができます。

パーソナライズされている場合、大量の情報源が示されて、そこからユーザーが情報を分類して利用するわけではなく、(理想的には)ユーザーが探していた情報が過不足なく示されます。だから、情報が「多すぎる」と感じることはありません。

救いとなる「関連性」

もちろん、パーソナライズがユーザー全体のコントロール欲求に加え、情報過多を抑えたいという欲求も満たすことができるという概念は、パーソナライズが実際に行われていると気づいているときにしか当てはまりません。 

想像してみればわかりますが、パーソナライズされていることを示す明白なシグナル(Eメールのあいさつに名前が含まれているなど)がなければ、パーソナライズされている部分があることすら気づけないでしょう。

パーソナライズされたコンテンツを目にしていると意識されない状況では、コントロール感や情報過多の抑制は作用しません。しかし、諸研究によって、人はパーソナライズされていることに気づかない場合でも、パーソナライズを好むということが確認されています(関連記事はこちら:Personalized Calls-to-Action Convert 42% Better [New Data])。

では、なぜ、心理学の面から言って、そのような状況でもパーソナライズされたコンテンツが好まれるのでしょうか?答えは簡単。情報の関連性が高くなるからです。人間は必然的に、関連性が高く面白いと思う情報に、より積極的に関わろうとします。

この答えでは物足りないでしょうか?実は私もそうです。もっと深く掘り下げてみましょう。

関連性の強さは、脳の網様体賦活系(RAS)に関係します(余談ですが、RASは「私の好きな体賦活系トップ10」の第7位です)。話を続けましょう。

RASには、脳に情報を届けるための通路があり、この通路で情報がフィルタリングされ、注意を向けるべき情報を知ることができます。「選択的注意」、あるいは「選択的聴取」ということばを聞いたことがあるかもしれません。このように情報の一部に集中すると同時に他の情報を無視できる能力は、RASによってコントロールされます。

Rachna Jain教授はSocial Media Examinerの記事で心理学的影響について記していますが、その中でこう述べています。「一般に、RASは選択的注意の概念と関連しており、自分が関心を注ぐ情報やアイデアに自然と注意が向くようになっています」

パーソナライズされたマーケティングと脳の働き方との関係

(画像の出典:howourbrainswork.com)

RASの実例としてもっとも一般的なのは「カクテルパーティー効果」と呼ばれるものです。その内容は次のとおりです。

たくさんの人が雑談しているパーティーでも、恐らくは簡単に周囲の会話を無視したり雑音を消したりすることができます。そのような会話は背景雑音に過ぎません。しかし、自分にとって特に興味のある話題を誰かが語り出すと、魔法のようにその特定の会話を聞き取ることができます。RASのおかげで、重要な情報は雑音から浮き上がります。

この「カクテルパーティー効果」を引き起こす最大の要因とは言わなくても、その一例を知りたいと思いませんか。それでは、詳しくお話ししましょう。

パーソナライズされた心地良い音

「どの言語でも、人にとって一番心地よい音は、その人の名前である」

- デール・カーネギー、 『How to Win Friends and Influence People』

この格言のポイントは、相手の名前を覚えること、そして適宜その名前を呼ぶことが、自分の考え方について相手を説得する上での成功の秘訣であるということです。彼はこの考え方に熱心で、実際に、効率的に名前を覚えるための独自システムを作成しました。

「人が自分の名前を聞くと何か特別なことが起きる」とカーネギーが理解していたことは明らかです。そして、前項で少し触れたように、「カクテルパーティー効果」もこのアイデアを裏付けるものになります。名前は結局のところ、RASがもっとも的を絞りやすい音のひとつです。

背景にいる誰かが仕事に関する愚痴を言っていたり、キッチンのリノベーションについて話をしていたりしたとしても簡単に無視できます。しかし、その人が自分の名前を言った途端に、そちらの方に耳をそばだててしまいます。

ここでは実際に何が起きているのでしょうか?科学的見地からの私の答えは―

「何か」です。何かが起きているのはたしかです。そして、この大胆な主張の裏付けとなる科学研究もあります。

ある研究(論文審査付きの専門誌『Brain Research』に掲載されたもの)によると、人が自分の名前を聞いたときに(他人の名前を聞くときと比べて)、脳に独特の反応が生じます(関連記事はこちら:Brain Activation When Hearing One's Own and Others Names)。

より具体的には、他人の名前ではなく、自分の名前を聞いたときに、脳がより強く活性化されます。特に、中前頭回(社会的行動に関わる部分)、中側頭回と上側頭回(それぞれ長期記憶と聴覚処理に関わる部分)、楔部(視覚処理に関わる部分)が活性化されます。

この研究に基づいて言えば、自分の名前を聞くことで、たしかに脳に特別な何かが起こります。では、この情報を、特にマーケティング力を高めるためにどのように利用できるでしょうか?

簡単なことです。まずはリードナーチャリング用のEメールで動的タグを使って、受信者を名前で呼ぶようにしましょう。また、以前にホームページにアクセスしたことのあるユーザーを名前で呼んで歓迎することもできます。スマートコンテンツでは、可能性は無限にあります。

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編集メモ:この記事は、2014年10月に投稿した内容に加筆・訂正したものです。Erik Devaneyによる元の記事はこちらからご覧いただけます。 

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