現代社会はデータで溢れており、中にはデータそのままの状態で公開されてひと目ではよく分からないものもあります。
膨大な数値や統計情報だけを見て明確にポイントをつかむのは簡単ではありません。データの意味を効果的に伝えるには、論理的かつ分かりやすい形でデータを見せることが必要です。
人間の脳は、文字情報よりも図示された情報の方がすばやく処理できます。そのため、チャートやグラフ、デザイン要素を駆使してデータを可視化することで、トレンドや統計結果が分かりやすくなります。一方で、どんなデータも同じように可視化すればよいというわけではありません(こちらのブログ記事をご覧になると、私の言いたいことがお分かりいただけると思います)。今回は、データを効果的に可視化する確かな方法と、ヒントになる実例を多数ご紹介しますので、アイデアを練る際にご参考になれば幸いです。
マーケティング担当者のためのデータ可視化入門
〜分かりやすく、かつ説得力のあるグラフを作成する方法〜
データビジュアライゼーションとは?
データビジュアライゼーションとは、膨大で煩雑な状態のデータを、要点がつかみやすく、説得力のある形式にデータを整形し、可視化することです。
具体的には、見る人がデータの意味を深く理解できるよう、チャートやマップなどの方法で表現することを指します。例えば、売上データは表のまま見るよりも、折れ線グラフで見ることで売上の増減がひと目で分かるようになります。
膨大なデータが溢れる現代において、ただ情報を置いておくことは見る人の時間を無駄にするばかりか、見て欲しい人に見てもらえなくなることもあります。データビジュアライゼーションをすることで、そのデータが何を意味するのかを瞬時に理解できるようになります。
データビジュアライゼーションの一例としては、さまざまなデータを1つの画面で分かりやすく表示する「ダッシュボード」も該当します。ダッシュボードについては、以下のコラムにて詳しく解説しています。
Google が提供している代表的なダッシュボードツール「Google データポータル」については、以下の記事にてご紹介しています。
データビジュアライゼーションのメリットは?
文字だけのデータが味気ないのはもちろんですが、意図も伝わりづらくなります。一方、視覚的なフォーマットで表現されたデータからは、すばやく簡単に意味を読み取れます。データ可視化によって、他の方法では見つからないようなパターン、トレンド、相関関係を明らかにできます。
「静的なデータの可視化」と「インタラクティブなデータの可視化」
データビジュアライゼーションは、静的なものとインタラクティブなものの2つに大別されます。
かつては、チャートやマップなどの静的なデータ可視化が何世紀にもわたって活用されてきました。分かりやすい動きを駆使したインタラクティブなデータ可視化は比較的新しい方法です。PCやモバイルデバイスがあれば、動きを駆使することでチャートやグラフの不明瞭な部分を掘り下げ、表示するデータとその処理方法をインタラクティブに変更できるようになりました。
時系列によるデータビジュアライゼーション
「静的なデータの可視化」や「インタラクティブなデータの可視化」に加えて、「時系列による可視化」という言葉もあります。
時系列による可視化とは、その名のとおり、データやパフォーマンスを一定期間にわたって追跡した結果を視覚化することです。これは、主に時間や時期によって変化するタイプのデータを視覚化する際に重要になります。
時系列でデータビジュアライゼーションするには?
時系列によるデータ可視化には多数の方法があります。詳しくは以降のセクションで説明しますが、簡単に触れておくと、時系列による可視化には以下のようなグラフが使用されます。
- 折れ線グラフ
- 棒グラフ
- 面グラフ
- ブレットグラフ
データビジュアライゼーションのベストプラクティス
データビジュアライゼーションの方法を判断するときには、ベストプラクティスとして必ず以下のポイントを念頭に置いておきましょう。
- データとその目的に最適なビジュアルを選択する
- データが理解しやすく、見やすく表示できるかどうかを確認する
- ビジュアルとその周辺に必要な背景情報を提供する
- ビジュアルをできるだけシンプルで分かりやすくする
- 視覚に訴えることで重要な情報を確実に伝える
これらのベストプラクティスを踏まえたうえで、実際にデータを効果的な形で表示するにはどうすればよいのかを見ていきましょう。
さて、以下のようにデータ可視化にはさまざまな種類があります。
- チャート
- 表
- グラフ
- マップ
- インフォグラフィック
- ダッシュボード
上に挙げたのは大まかなカテゴリーで、それぞれさらに詳細な形式に分類できます。多岐にわたる形式の中から、今回は特に入門用としてお勧めの10種類をご紹介していきたいと思います。
お勧めのデータ可視化形式10選
- 折れ線グラフ
- 棒グラフ
- 散布図面
- グラフマップ
- インジケーター
- ピボットテーブル
- ブレットグラフ
- 箱ひげ図
- マトリックス
1. 折れ線グラフ
折れ線グラフは、連続したデータの時間的変化に関してトレンドと変動幅を示す場合に効果的です。単一または複数のデータポイントを使用して表すことができます。
2. 棒グラフ
出典:pnp/spfx-controls-react(英語)
棒グラフは、明確な値を表示しながら複数のグループやカテゴリーを比較する場合に適しています。
3. 散布図
散布図では、2つの異なる要素を横軸と縦軸とし、観測値を図上の点として示します。
4. 面グラフ
面グラフは、折れ線グラフと似ていますが、線と線の間の空間が塗りつぶされ、量的な変化を表現できるのが特徴です。折れ線グラフと面グラフはどちらも値の変化を表します。
5. マップ
マップは、地理的なデータを表示する場合や、特定の地域における分布や比率を表示する場合に適しています。
6. インジケーター
インジケーターは、計器や時計のようなビジュアルを使ってデータを表示し、時間の経過と共にどの方向に進んでいるかを明確に表します。
7. ピボットテーブル
ピボットテーブルは、最も重要なデータを強調表示しながら、大量の情報をまとめて表示する場合に適しています。
8. ブレットグラフ
出典:Visual Business Intelligence(英語)
ブレットグラフは、棒グラフと同じように使用します。棒グラフと大きく異なるのは、見た目の煩わしさを感じさせずに、詳細な情報やデータを含めることができる点です。
9. 箱ひげ図
箱ひげ図は、データの分布を示します。表示している属性ごとに1つの箱が作成されます。
10. マトリックス
出典:Harvard Business Review(英語)
マトリックスは、数百、数千のデータポイント、要素などの間の関係を示し、それらの相互作用をすべて1つの場所で確認できます。
では、これらを実際にどう活用したらよいのでしょうか? インタラクティブなデータ可視化と静的なデータ可視化のお手本となる実例をご紹介します。
データビジュアライゼーションの成功例
ここからは、「インタラクティブなデータの可視化」と「静的なデータの可視化」の2つのセクションに大別し、計10件の事例を紹介しましょう。
インタラクティブなデータを可視化した事例
1.世界各国の言語
DensityDesignによるデータ可視化では、言語学者でなくても世界各国で使用されている言語がすぐに確認できます。対象言語の数は2,678です。出典:After Babylon(英語)
この例では、一般的な言語族を探索したり、最もよく話されている言語や各言語が話されている場所を確認したりできます。これは視覚的なストーリーテリングです。深いテーマを取り上げ、分かりやすく紐解いていきます。
2. NFLの全歴史
この例では、ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)が始まって以来の全試合における「イロレーティング」を計算した結果が可視化されています。イロレーティングとは、試合ごとの結果に基づいて強さを測定するシンプルな指標です。出典: FiveThirtyEight(英語)
レーティングの件数は、計30,000以上にのぼります。各チームのイロレーティングを比較しながら、数十年にわたる歴史の中でのそれぞれの実績を知ることができます。
3. Google フライトで見る米国の感謝祭
Google トレンドから提供されたこの画像には、感謝祭前日の米国発着フライトの動きが記録されています。出典:Maps Mania(英語)
国中を移動するフライトの様子が、1日の始まりから動画のように表示されます。表示されている数値は時間のみですが、国際線、国内線、国内の各ハブ空港を発着する便で、それぞれ人気の高い時間帯を確認できます。
4. 地球温暖化の本当の原因
「ただデータを見せるだけで説明を済まそうとしてはいけない」といった類いのアドバイスを聞いたことがありますか? まさにそのベストプラクティスに沿って、最初から最後までインタラクティブな方法でストーリーを伝えているのが、Bloomberg Businessweekによるデータ可視化です。この例では、地球温暖化は自然要因で説明できると主張する説を反証しています。
最初に表示されるのは、1880年から現在にかけて観測された気温上昇のデータです。出典:Bloomberg Businessweek(英語)
下にスクロールすると、気温データと対比して、ストーリーテリングの新たな情報が追加されていき、それぞれの要因がどれだけ地球温暖化に寄与しているかが正確に分かるようになっています。制作者が伝えたい結論が非常に明確に示されています。
5. シリア内戦の対立の構図
多数のグループの間の関係を理解するのは簡単ではありません。しかもグループが11もあれば、通常は対立しているのに多くのグループが味方同士になったり、その反対が起こったりする現象が見られます。しかし、Slateは赤・黄・緑に色づけした親しみやすい絵文字で表を作成して、複雑なデータをシンプルで分かりやすいインタラクティブな形式にまとめました。出典:Slate(英語)
絵文字をクリックすると、その2つのグループの関係について簡潔な説明文が表示されます。出典:Slate(英語)
6. スポーツチームの価値
ここでは、データを追加してさらに深いストーリーを伝える例をご紹介します。出典:Column Five(英語)
このインタラクティブなビジュアライゼーションでは、各チームの存続年数と大会での優勝回数が表示されており、フランチャイズ制の各チームの歴史と成功を包括的に把握できます。
7. 米国の風向・風速図
これは、2015年当時の米国の風速と風向を表示したものです。出典:wind map(英語)
線の動く速さで風速を、線の動く方向で風向を表現していて、直観的なデザインの好例と言えるでしょう。地図をクリックするとその場所の数値が表示されますが、具体的な数値を見なくても全般的な傾向がひと目で分かります。さらに、風速・風向の2種類の要素に制限することで理解しやすくなっています。
静的なデータ可視化の例
8. 報道機関の政治的スペクトル
この例では、分布図を使用することで、各報道機関がスペクトル上のどこに位置しているかというデータを効果的に視覚化しています。出典:Pew Research Center(英語)
スペクトル上では、各報道機関の点の間隔にも重要な意味があります。これがもし各報道機関が一覧表になっているだけなら、各社の立場がよく分からなかったでしょう。
9. 芸術家たちの日常
このウェブサイトでは、Mason Currey氏の著書『Daily Rituals: How Artists Work』に掲載されている情報を基に、有名な作家や音楽家などの1日のスケジュールを時間帯と活動カテゴリーに分けて紹介しています。出典:My Modern Met(英語)
これはデータとして非常に興味深い(活動カテゴリー別にスケジュールを確認できる)だけでなく、ブランドの編集コンテンツとしても効果的に活用できる例です。
10. 1年のニュースのハイライト
Echelon Insightsは、2014年にTwitterでどのようなニュース記事が特に話題にのぼっていたかを可視化しました。1億8,450万件のツイートが、まるで見事なアートのようですね。出典:Vox(英語)
ここまでデータ可視化の効果的な例をご紹介してきました。これらは、どのようなアプローチで進めるかを検討するうえで非常に参考になると思います。
一方で、データ可視化においてあまり効果のない方法を知り、それを避けることも重要です。そこで、効果の低い例もいくつかご紹介しておきます。
データビジュアライゼーションの失敗例
データビジュアライゼーションの効果が発揮できない原因はさまざまあります。たとえば、2013年のMLS(メジャーリーグサッカー)の年俸のデータ可視化の例をご覧ください。情報量が多すぎて見づらくなっています。出典:tableau public(英語)
さらに、各要素の表示が小さいため、かなり拡大しないとデータを読み取れません。各選手のデータを表しているボックスはほとんどが横長ですが、中には縦長のボックスもあり、これも混乱の原因になります。
1つのビジュアルの中にまったく異なる要素を多く含めると、閲覧者にとっても複雑で理解しづらくなります。次のグラフはその一例です。出典:Elsevier(英語)
この他に、必要以上に複雑なビジュアルになっていないか確認することも必要です。たとえば、次のグラフでは多くの要素を3Dバーで表していますが、3Dにする必要はなかったようです。単に情報が分かりにくく、見づらくなってしまっています。出典:Live Stories(英語)
最後に、データ可視化に役立つツールをご紹介します。
データビジュアライゼーションに役立つツール
現在、多数のデータビジュアライゼーションリソースが提供されていますが、ここではデータの可視化を始めるときに役立つツールをご紹介します。ご自分のニーズ(とデータ)に最適なツールが見つかるよう、いくつか試してみることをお勧めします。
なぜツールが必要なのか
データビジュアライゼーションされたデータは、ひと目で何を意味しているのかが分かる必要があります。人間にとって見やすい、瞬時に理解しやすいデザインを1から作ろうとすると、まずはそのノウハウを学ぶ必要があり、プログラミングやデザインの技術も必要になってきます。一方、データビジュアライゼーションツールを使えば、人間にとって見やすいデザインをすぐに作成できます。
データビジュアライゼーションツールでは簡単にビジュアライズが可能ですが、誰に、どのデータを、なんの目的で、どう理解して欲しいのかといった目的をはっきりさせて作ることが大切です。
1. HubSpot
HubSpotには、レポート内を中心に、データ可視化を行える多数の機能が搭載されています。好みに応じて、さまざまな方法でグラフやチャートを作成できます。データ可視化のプロセスを簡素化するダッシュボードとレポート追加機能もあります。独自のニーズに合わせて、HubSpotでデータやダッシュボードを管理したり、カスタマイズしたりすることができます。
2. Tableau Desktop(英語)
Tableau Desktopのデータビジュアライゼーションソフトウェアでは、インタラクティブなダッシュボードでライブ分析を実施でき、トレンド、パターン、インサイトを簡単に突き止められます。マップ、インジケーターなど、多彩なビジュアルを簡単に作成できるほか、作成後に計算、基準値、予測を基に実用的な情報を導き出せる簡単な分析機能を備えています。
3. Chartio(英語)
Chartioのデータビジュアライゼーションツールは、15種類のチャートを複数のバリエーションから選ぶことができ、データプログラミング言語の使い方を知っていれば、さらに多くのオプションを利用できます。Chartioを使えば、Amazon Redshiftのような場所からすべてのデータをまとめ、Visual SQLソリューションでデータを閲覧し、チャートやビジュアルをカスタマイズして管理し、(ウェブページ、Slack、Eメール用のPDFレポートなどを介して)簡単に共有できます。
4. Databox(英語)
Databoxは、さまざまな方法でデータをアップロードして効率的にビジュアルを作成し、知見を導き出せるツールです。70種類以上の連携が可能で、事前に構築されたダッシュボードやレポートを使ってすばやく簡単にビジュアルを作成できます。カスタムの指標も作成可能です。Databoxでは、Google スプレッドシートやSQLデータベースに接続したり、API経由でプッシュしてデータを表示、共有したりすることができます。
5. Google Chart Tools(英語)
Google Chart Toolsでは、インタラクティブかつカスタマイズ可能な多数のチャートおよびデータのツールを使用して、ウェブサイト(およびモバイル)のライブデータを可視化できます。Google Chartを使用する最も一般的な方法は、ウェブページに埋め込むシンプルなJavaScriptを使用することです。また、DataTableクラスを使用すると、チャートの種類を簡単に切り替えられます。
データビジュアライゼーションを活用してビジネス成長につなげよう
データ可視化により、データをそのまま見るよりもさらに簡単かつ効果的な方法で知見を引き出し、それについて議論し、実践に活かせるようになります。
ご紹介した優れたアイデアを参考にして(効果の低い方法は避けながら)、さまざまなデータ可視化ツールを試し、自社のニーズや目標に最適な方法を見つけていただければと思います。
編集メモ:この記事は、2015年3月に投稿した内容を最新の情報に基づいて加筆・訂正したものです。