会社を成長させるための選択肢は2つあります(実際には2つ以上ありますが、経営者が会社を成長させるために取り得るアクションは、突き詰めればこの2つのいずれかに分類されます)。

1つは新規顧客の獲得コストの引き下げ、もう1つは顧客が将来にわたって支出してくれる金額の引き上げです。

どちらも簡単なことではありません。

まったくの新規顧客と契約を結ぶのは困難(かつ大きなコストがかかるもの)であり、そこに投資するのはややリスキーです。契約を更新したり、リピーターにならなければ、投資が無駄になってしまいます。

しかも、難度はさらに高まりつつあります。オーガニックチャネルや有料チャネルでの顧客獲得コスト(CAC)の平均値は、過去5年間で50%増加しています。

顧客が自社にもたらす生涯価値(LTV)を増やすのも簡単なことではありません。優れた製品を提供することは重要ですが、リピーターになってもらうには、良質なカスタマーエクスペリエンスが不可欠です。

これまでカスタマーサービスは、事業運営上のコストと見なされてきました。しかし、カスタマーエクスペリエンスを本当の意味で「磨き上げる」ことができれば、想像以上の投資効果を得られることでしょう。

顧客獲得はいっそう困難になりつつある

10年前、顧客獲得はマーケティング担当者にとって魅力的な新領域でした。インターネットの普及で競争環境が変わり、高額の費用をかけて広告を出して他社のオーディエンスを「借りる」必要がなくなったのです。

独自のコンテンツを生み出し、独自のオーディエンスを作り上げれば、オーディエンスの方から見つけてもらうことができました。

この12年間、成長過程の会社を支援するためにハブスポットが取り組んできたのも、まさにその「インバウンドマーケティングによるCACの削減」でした。

しかし、それもだんだんと困難になりつつあります。この数年間、私たちの目の前で、CACに関して次のような大きな変化が起きたのです。

  • 競争の激化により、オーガニックチャネルや有料チャネルでのCACが、過去5年間で50%増加しました。
  • コンテンツマーケティングを担当するスタッフの人件費が増大しました(ハブスポット本社のあるボストンでは約40%、大都市圏の平均で25%、給与額が上昇しています)。
  • GoogleやFacebookなどのチャネルによるコンテンツの配信方法が変わり、コンテンツの表示場所をチャネル自身で管理するようになったことで、これまでブランドのサイトに誘導されていたトラフィックが減少しました。

購入する側も変わってきています。消費者は、かつてないほどスピード感を重視すると共に、疑い深くなりました。現在、企業のアドバイスよりも、友人や家族や同僚のアドバイスを信用する消費者の割合は81%に及びます。

しかも、現代の消費者は、製品を購入する前に使ってみたいと考えるようにもなりました。企業は対価を得るよりも先に、価値を提供することが求められているのです。

ハブスポットの場合、新規顧客の約半数が、実際に購入する前にハブスポットの製品を使い始めています。

新規顧客の獲得数が一気に増えるのは、顧客が自分で問題を解決できるようなアプローチを導入したときです。私たちはこれを「タッチレス」購入と呼んでいます。

顧客は、製品の宣伝文句を聞きたいのではなく、製品を通じて手に入れられる価値を確かめたいと考えています。

顧客獲得手法のトレンドの変遷について詳しく知りたい方は、HubSpot Service Hub担当のゼネラルマネージャーMichael Redbordが執筆した衝撃的な記事(英語)をご覧ください。

成長の最大のチャンスは顧客にあり

こうした状況の変化により、企業が力を入れて取り組むべきところも変わってきています。成長のチャンスは、CACに代わってLTV関連で増加しつつあります。顧客の満足度を高めることで、顧客がブランドのプロモーター(推奨者)となって、購入する金額や頻度を増やすだけでなく、他の人に自社を紹介してくれるようにもなります。

10年前、取り組むべきは顧客獲得でした。今は獲得した顧客そのものに働きかけるべきときです。

顧客を大切にすることは、言うまでもなく正しいことです。しかし、同時に賢い選択でもあるということに私は気付きました。

ハブスポットが成長し始めたとき、私たちはインバウンドマーケティングの手法をどう活用して多数のリードを獲得し、顧客に転換すればよいかを理解していました。CACは良い数値でした。しかし、顧客の定着率は悲惨なもので、毎月3%の顧客を失っていました。

この数字はそれほど多くないように見えるかもしれませんが、ハブスポットの収益モデルが1か月単位の再契約であることを踏まえると、毎月3%の解約が12か月続くと、年度当初の顧客の42%を失っていることになります。これは大きな打撃です。

解約率がこんなに高くなってしまったのは、顧客へのサポートが不十分だったからです。顧客はハブスポットの製品を有効活用できていなかったのです。

マーケティング担当者が集めたプロスペクトも、営業担当者が販売した顧客も適切な対象だったとは言えず、カスタマー サポート チームが問題に対応しようとする段階では既に手遅れでした。

私たちは社内全員の足並みを揃え、カスタマー サービス チームに適切なカスタマーサービス用ツールを用意する必要に迫られました。

そこで私たちが考案したのが、「アンチペルソナ」です。これは、ハブスポットの製品を有効活用できるとは考えられず、販売しない方が良いと判断した相手を表します。

営業担当者の歩合給にペナルティーを導入し、ノルマ達成のためだけに適切でない顧客に製品を販売するのをやめさせました。これにより、顧客獲得の面から、解約率の問題が改善し始めました。

また、顧客の維持に関しては、カスタマーサービスへの大規模投資を実施しました。

まず、当社製品の導入を支援するための「顧客に寄り添う仕組み」を構築し、カスタマーサクセスを最大の目標とするアカウント管理チームを設置しました。また、世界でもトップレベルのサポートチームを組織し、「チケット」の発行ではなく電話で担当者から直接サポートを受けることを顧客に推奨しました。

大成功でした。

why_leader_1私たちは、顧客のライフサイクルを、マーケティングから始まってカスタマーサービスで終わる「ファネル」として捉えるのではなく、「サイクル」として捉えるようになりました。

このサイクルでは、ハブスポットのエコシステムに加わった顧客の成長私たちが後押しします。そして顧客がハブスポットへの支出額を増やし、他の人に紹介し、ウェブ上で良い評判を広めてくれます。

ハブスポットの成長の原動力は、もはやリードの増大だけではなくなりました。まったく新しい収益源を手に入れたのです。

これにより、ハブスポットは自社製品に現在ほどの信頼性がなく、製品が発展していないときから、競争上の強みを得ることができました。

顧客を第一にすることの重要性

5年前のある日のこと、不満を抱えた顧客から電話がかかってきました。ハブスポットの製品が宣伝どおりの機能を備えていないというのです(私は実際にこの顧客のところに出向き、製品をどのように使っているかを見て、何を改善すべきかを確認しました)。

そのとき、私は次の2つのことに衝撃を受けました。

  1. 製品に本当に欠けている機能がありました。その時点で対応には取りかかっていたものの、顧客に宣伝していた内容を踏まえると、十分なスピードではありませんでした。
  2. その顧客は、カスタマーサクセス担当者や、サポートチームをはじめ、話をしたことのあるハブスポットのスタッフ全員を信頼してくれていました。ハブスポットを信頼し、支持しているので解約したくないと考えてくれていましたが、同時に、製品の方向性がわかりにくいとも感じていました。

この経験から、顧客のことを第一に考えること、そして顧客にわかりやすく情報を伝えることの重要性に気付くことができました。

また、この2~3年、別の興味深い現象も目の当たりにしています。「新規」の顧客の多くが実際には新しい顧客ではなく、前の職場で当社製品を使用していて、転職先でも当社製品を使おうとしてくれた人たちなのです。

このような顧客は、当社製品のエクスペリエンスに満足し、当社を熱心に支持してくれるようになりました。ただし、これについては、私たちが見落としがちな裏の側面があります。

製品のエクスペリエンスに満足できなかった顧客は、製品を使い続けてくれないどころか、周りにまで不満の声を広めてしまいます。

顧客が周りにどう話すかによって、サイクルが加速することもあれば、減速することもあります。口コミが拡散されると、良くも悪くも、ビジネスの成長に多大な影響を及ぼします。

たとえば、1人の顧客が製品に満足して、2人の友人に紹介してくれたとします。その2人が製品を購入して有効活用し、それぞれ別の2人の友人に紹介してくれれば、評判はどんどん拡散していきます。

しかし、この効果は正反対の方向にも働きます。悪い口コミは良い口コミと同じ勢いで拡散されるため、ビジネスの成長を急停止させてしまう危険性があります。

そこでハブスポットでは、顧客の満足度を向上させて、自社の製品を使い続けてもらうだけでなく、カスタマーエクスペリエンス全体の改善に注力することで、口コミの拡散による効果を得られるようになりました。

そのためには、カスタマーエクスペリエンスというものが、実は顧客が製品を購入するより前から始まり、製品の使用をやめた後も続くということを認識する必要がありました。

以上のような動向の変化が、業界内で起きているように見受けられます。CACが全体的に低いうちは、顧客の維持にあれこれと悩まされる必要はありませんでした。

しかし現在、カスタマーサービスやカスタマーマーケティングのROI(投資収益率)が明確になりつつあります。

これこそ、マーケティングソフトウェアやCRMソフトウェアの分野のリーダー的存在である企業が、カスタマーサービスに参入しようとしている究極的な理由です。私たちがHubSpot Service Hubを開発したのも、今ではマーケティングや営業と同じくらい、カスタマーサクセスが顧客獲得のための重要な鍵となってきているからなのです。

ハブスポットが過去12年の経験から得た教訓を、今こそ皆さんにお伝えしたいと思います。マーケティングや営業に関するすべてのデータを搭載したCRMソフトウェアを基盤とする、チケットや顧客のフィードバック、ナレッジベースといったツールを柱として、顧客に優れたサービスを提供し、顧客を味方に付けるカスタマーサービスを展開していくべきです。

カスタマーサービスの分野は、変化がまだ始まったばかりの段階です。企業の宣伝文句よりも顧客の口コミが信用される今、ビジネスの成長をもたらす最大のチャンスは、既存顧客の中に眠っています。New Call-to-action

元記事発行日: 2019年3月25日、最終更新日: 2019年3月25日