HubSpotには幸いにもアワードを頂けるようなカルチャー(企業文化)が形成されており、そのおかげで「どのように取り組んでいるのか知恵を借りたい」というリクエストがよく寄せられます。
一見すばらしいチームに見えるかもしれませんが、実は私たちにはもっと大きく野心的な目標があります。また、HubSpotのPeople Ops(人事)チームにはプライベートでも楽しく充実した生活を送ってほしいと思っているので、「NO」と言うことを積極的に推奨しています。大切な場面で「YES」と言えるようにするためです。
しかし、私たちはインバウンドマーケターであり、自分の知識を皆さんにお伝えしたいと心から思っています。良いことも悪いことも含め、すべてをです。
そこで、今回の記事では、自社のカルチャーについて考えていらっしゃる方のために10のヒントと、参考になるウェブページや書籍をご紹介します。
そして、こういったことを尊重する会社に勤めたいと思っている皆さん、HubSpotでは新しい仲間を募集しているので、ぜひ検討してみてください。
- 言語化する:小さな組織の中では、自社のカルチャーについて全員の見解が一致しているとだれもが考えています。ごく小さい組織であれば、その見解について直接徹底的に話し合うこともできますが、たいていの企業では、何か問題が起きるまで自分たちのカルチャーを言語化することはありません。
このような話をすると、プロダクト マーケット フィット(顧客のニーズに対応する製品を提供し、適切な市場に受け入れられている状態)に至らないうちにカルチャーを定義するべきなのかとよく質問されます。
個人的には、会社の創立メンバーがどのような会社にしたいかを早い段階で明示する必要があると考えています。ハブスポットのDharmeshとBrianは、自律性を重視するカルチャーを形成したいとビジョンをはっきりと示していました。
2人とも、才能豊かなスタッフが偉大なことを成し遂げられる会社を作りたいと心から思っていたからです。それでも、当社がカルチャーの指針となる「カルチャーコード」を作成したのはハブスポットを創業して6年ほど経ったころでした(カルチャーコードについては後で詳しく取り上げます)。ですから、起業直後の数か月で作らなければと焦る必要はありません。(日本語版のカルチャーコードはこちらから。)
初めの段階では、会社のビジョンに合う従業員を雇用できるよう、何を重視しているかを明確にしておきましょう。そして、多くの人数を一括採用するようになったころ、カルチャーコードの文書化を検討して、会社が掲げる理念とその理由を従業員や採用責任者や候補者に伝えていくことをお勧めします。
このプロセスについては、たくさんの方々からご質問を受けますが、すべての企業に適用できる万能のレシピがあるわけではありません。私にアドバイスできるとしたら、完璧を求めないことです。たとえば初期製品を開発したときと同じように、まずは今できあがっているものを出荷して、それから徐々に改善していきましょう。 - 会社の強みを出し惜しみしない:当社のカルチャーコードを社外に公開するとDharmeshが言ったとき、多くの従業員が心配しました。よそのだれかに「秘密のレシピ」をまねされてしまったら、はたまた競合他社に盗まれてしまったらどうするのだと。
しかし、カルチャーに関して言えば、成功に欠かせないのは戦略ではなく実行力です(ビジネス全般に当てはまることですが)。ですから、カルチャーコードの文言を模倣されることを心配するよりも、自分たちが有言実行できているかどうかを常に意識してください。
カルチャーコードを公開したとき、私たちもいくつか無謀な内容が書かれていることは認識していました。まだ望む状態には達していませんでしたし、そう伝えました。
現状と目標の両方を盛り込んだカルチャーコードを公開した結果、2つの大きなメリットが得られました。
1つ目は焦点が定まったことです。あらゆる人にとって完璧な会社でありたいと常に望んではいても、規模が拡大するにつれ、実現は難しくなります。どのような会社にしたいか、それはなぜなのか、時間をかけてきちんと定義することで、チームの足並みが揃い、人材の採用、解雇、昇進において何を重視するべきかを共通の認識に基づいて議論できるようになりました。
2つ目は、私たちが何を構築しようとしているかとその理由を、候補者によく理解してもらえたことです。何万もの人が当社のカルチャーコードを読み、応募してくれました。とてもありがたく思っています。
しかし反対に、読んだうえで応募しなかった人も多かったはずです。実はそれもメリットと言えます。どのようなカルチャーなのかが明示されていることは、興味を持ってくれた候補者だけでなく、それを見て応募しないと決めた人にとっても同じくらい重要です。カルチャーの概要を文書化するときに、万人にアピールする必要はありません。
それよりも、現状と将来像とを、明確かつ正直に、意図が伝わるように表現してください。そうすれば、エンプロイヤーブランディング(働く場としての価値を高める取り組み)の一環として、未来の従業員が入社するずっと前の段階から、信頼できる公明正大な就職先として認識してもらえるようになります。 - 型にはまった人よりも新しい文化を持ち込んでくれる人の方がずっと望ましいことを早いうちに明示する:確固としたカルチャーが構築されている場合に危険なのは、同質のカルチャーが当たり前になり、カルチャーに適合することを言い訳にして、自分たちと同じように考え、行動し、同じような製品を作る人ばかりを雇用してしまいがちなことです。
しかし、新しい有意義な文化を持ち込んでくれる人こそ、どのような組織にとってもベストな人材と言えます。こうした人材は現状を疑問視します。理由を追求し、会社の規模が拡大したときには、何に効果があって、何に効果がないか、社内でこれまで重視されてきた見解を打ち砕いてくれます。
ハブスポットでは、この点を十分に明確にし、採用戦略に取り入れるまでに、時間をかけすぎてしまいました。今はそれを取り戻すために、当社の多様性に関するデータ(英語)を公開すると共に、ダイバーシティー(多様性)を受容するインクルーシブ(包摂的)な会社を目指して努力を続けています。
しかし、当社の歴史の中でもっと早くに取り組んでおくべきことがあったとしたら、それは、何世代にもわたって誇りに思えるような会社を作りたいという意思、つまり、世界中に広がるHubSpotの顧客ベースと同じくらい多様な人材を惹き付け、定着させ、増やしたいという意思を、社内外にきちんと示しておくことだったと思っています。 - 忘れてしまいがちなときにカルチャーを再確認する:あらゆる数値目標を達成し、勢いよく成長しているときなら、会社の価値観に合った行動を取るのは簡単です。それが困難になるのは、何らかの変化(新しいオフィスを開設する、チームを再編する、リーダーが退職する、株式を公開するなど)を経験したときです。
しかし、このようなカルチャーの転換点でこそ、最もカルチャーを重んじなければなりません。ハブスポットで上場後の企業に関する大量のデータを調査したところ、多くの企業で上場後に従業員の離職率が高くなっていました。
そのため私たちは、株式公開を単なる財務上のイベントと捉えるのではなく、何を構築したいかというビジョンを従業員としっかりと共有し、旅は始まったばかりで終わりではないのだということが世界中のマネージャーに正しく伝わっていることを確認しました。
組織としてのターニングポイントに差しかかったときには、財務計画とコミュニケーション計画、そしてカルチャーの計画が必要です。そのようなときに、会社の価値をどう実現し、どう表現すればよいでしょうか。どうすれば、各リーダーからチームメンバーに明確に伝えられるでしょうか。
もし答えられないなら、時間を取って考えてみてください。転換点を迎えたときには、カルチャーをはっきりと示し、従業員は会社にとってとても大切な存在なのだという力強いメッセージを発信できるよう気を配る必要があります。それを考慮して計画を立ててください。 - 職場やチームは双子ではなく兄弟でなければならない:ハブスポットには、各部署が非常に強い権限を持っているという特徴があります。言い換えると、多くのチームが、自チームの運営方法について確かな見解を持っているということです。
これは、自律を重んじるという当社のビジョンに照らせば完全に理にかなっており、積極的に推奨されています。同様に、8か所(もうすぐパリが加わって9か所になります)のオフィスにもそれぞれのカルチャーが形成されています。
こうして独自性を伸ばすことによって、地元で採用される従業員やオフィスをまとめるリーダーの雰囲気をオフィスに反映できるため、これも積極的に推奨されています。ただし、変えてはならない事柄については明確に合意し、組織全体の共通の目標とDNAを共有しなければなりません(兄弟の比喩はここから来ています)。
1つ例を挙げましょう。カルチャーコードに関する資料に、最も古くから使っている「SFTC(Solve for the Customer)」のスライドがあります。このスライドは、自分自身よりもチームのために、チームよりも会社のために、会社よりもお客様のために、物事を解決しようと従業員に伝えています。
SFTCの原則は、製品の発売から雇用計画の立案まで、私たちが組織として重要な意思決定を下すときの判断基準となります。そして、カルチャーコードは、世界中のお客様にとって何が適切かを議論し、正しい意思決定を下すうえでの共通言語となります。
これは、まったく異なるタイプの従業員から構成される会社でも同じです(たとえばメーカーがわかりやすい例です。一般的に工場の作業員は、事務所の職員に比べて働き方の自由度があまり高くありません)。
チームのカルチャーは異なっていてもかまいませんが、共通の言語を使用しながら、共通の目標に向かって団結することが大切です。 - 日光は最良の消毒剤である:引き続きメーカーを例に考えてみましょう。「〇〇のオフィスと△△のオフィスは反りが合わない」「工場作業員と事務所職員の文化がまったく異なっていて、どうすればよいかわからない」… これまでに数え切れないほどの創業者がそう相談を持ちかけてきました。
そのとき私はまず「本人たちと話をしてみましたか?」とたずねます。たいていの場合、答えは「NO」です。違いを正直に口に出すのはなかなか難しいのですが、何がうまく機能し、何が機能していないかを話し合うのは、長期的に見て成功するカルチャーを作り上げるためにはどうしても必要です。組織内に複数の派閥が生まれてしまうのは、珍しいことではありません。
しかし、その違いに目を背けるだけで調和が保たれるなどとは考えないでください。ハブスポットでは、有名な法律家Louis Brandeis氏の「日光は最良の消毒剤である」という言葉を参考に、透明性について考えるようにしています。秘密は隠そうとしても、すぐにカルチャーににじみ出てしまうものです。それは会社やブランドにとって体裁の良いものではありません。
候補者や従業員の手に入る情報量は格段に増えています。そのため、以前なら3人の同僚の井戸端会議だけでとどまっていた話題も、今では「Glassdoor」などの企業のレビューサイトで何千人もの候補者や従業員の目に触れるようになりました。
険しい道のりであっても透明性を尊重しましょう、それが私のアドバイスです。長い目で見ればその努力は必ず報われます。 - 成功と失敗を見極められていると思い込まない:ハブスポットでは年に4回、従業員のアンケート調査を行っています(詳しい内容はこちらの記事(英語)でご紹介しています)。このデータは全社に公開されており、一般的な方法とは異なりますが、成功のためには欠かせません。
なぜそれほど大切なのでしょうか。経営陣は自社のカルチャーを気にかけているでしょうが、それでもなお、チームや拠点の中、または組織の局所的なカルチャーにおいて、うまく運んでいない事柄を見逃してしまうことがあります。
昨年、ハブスポットの製品を統合してGrowth Stackを作成したとき、お客様に対してはさまざまな働きかけを行いましたが、従業員に向けて統合の詳細を伝える機会を十分に設けていませんでした。
幸いにも、従業員アンケートによって、どこに不具合があるか、どう修正すればよいかについて率直な意見を収集できたため、従業員の懸念事項のほとんどをすぐに解消することができました。
何もかも理解していると思い込んでしまうと、その途端に大きな間違いを見逃し、従業員や候補者に迷惑がかかります。そのため、ハブスポットでは社内アンケートから、Glassdoor、Comparably、InHerSightといった企業のレビューサイトまで、ありとあらゆるものに目を向け、改善につながる情報を探しています。
よく質問されるのですが、従業員アンケートのベンダーやタイミングは、自社の都合と価値観に合わせて選んでください。ただし、フィードバックに対応しきれないうちに次のアンケートを開始することのないよう、実施頻度には注意しましょう。経営陣として対処できるだけの意欲と能力と興味がある場合にのみ、意見を集めるようにしてください。 - 昔を懐かしむ気持ちを入り込ませない:これまでの会社の姿を伝えるには、その歴史やストーリーが大いに役立ちます。しかし、組織が拡大するにつれて、懐古の思いは危険なものになりがちです。古参の従業員が過去のことばかり話していたら、将来の目標には到達できないでしょう。
当社CEOのBrian Halliganは、そんな気持ちを鎮める巧みな一言を考案しました。だれかに「ハブスポットの古き良き時代には…」と言われたら「今がその古き良き時代だよ」と返すのです。
この配慮にあふれた優しい一言は、顧客や製品やチームにとってすばらしい未来を作り上げるために、現在の働きが重要なのだということを明確に教えてくれます。従業員やマネージャーやリーダーが現在の職場環境について愚痴をこぼしているのに気付いたとき、昔を懐かしむ気持ちから出た不満であれば、ぜひ反論してください。
うまくいけば、本当に気に入っていた以前のやり方を取り戻す方法や、会社の魅力を再発見するために実施できるプロジェクトなどについて、有意義な会話ができるかもしれません。
しかし、それが成功しなかったときには、難しい決断を下すことも検討してみましょう。会社の黄金期は過ぎてしまったのだと考えているマネージャーやリーダーの下ではだれも働きたくないはずです。
従業員を採用して定着させるときには、過去を愛し尊重しながらも、未来に向けて全力を尽くす人を選んでください。懐疑的な目で物事を見られる人は組織の宝物ですが、悲観的な人は害になる可能性があります。 - 部下を持つマネージャーに投資する:ハブスポットではマネージャーに十分な投資を行うのが遅くなってしまったのですが、これは失敗でした。
マネージャーとは、最前線で働くファーストラインワーカーにとって毎日顔を合わせる、会社を象徴するような存在であると同時に、会社がだれを採用し、解雇し、昇進させるか、従業員が組織内での学習方法をどう身に付けるかに、大きな影響を及ぼします。
強固なカルチャーが育まれている企業では、おそらく社内で人材を育成できるでしょう。それはすばらしいことです。しかし、世界トップレベルで活躍する個人プレーヤーから、部下を抱えるマネージャーに転身するには、時間もエネルギーもワークスタイルも、同僚との付き合い方もまったく変えなければなりません。
そのため、じっくりと時間をかけてマネージャーの成長をサポートすることが不可欠です。法務チームと協力してコンプライアンスについて説明する(新任マネージャーはたとえば、面談で質問できる内容とできない内容の区別を知りません)といった基本的なことから、マネジーメントについての書籍を読む、マネージャーコミュニティーを構築するなど、手始めに行える対策はいろいろとありますが、会社が成長を遂げている間もマネージャーを放っておいてはいけません。
ハブスポットには現在、マネージャーやリーダーの啓発を専門に行うチームが設置されていますが、皆さんにはまず小さなことから実践してみることをお勧めします。 - どのようなカルチャーにとっても謙虚さが最も大切な要素である:カルチャーについて一番やってはならないのは、どの段階のこともすべて理解していると考えることです。従業員の言葉に耳を傾け、競合他社が自社の一挙手一投足を模倣していると想定し、カルチャーを適度に疑いましょう。
結局のところ、ハブスポットのカルチャーがうまく機能しているのは、入ったばかりの研修生から、経験豊かなマネージャー、People Opsチーム、そして創業者も含めた全員が、現状を維持するのではなくもっと改善していこうと心から考えているためです。
当社の研修チーム、人材開発チーム、採用チームは、新しい従業員を見つけて受け入れ、戦力化するという役割を見事に果たしながらも、それをさらに改善し、意見を聞き、成長するための方法を常に模索しています。
たとえば、候補者へのアンケート調査、経営陣との討論、採用責任者のフィードバックなどです。改善と成長に向けた絶え間ない努力こそ、当社の成功へとつながる最大のカギであり、新しい1日を迎える活力となっています。
実際のところ、会社のカルチャーを構築し拡大していくための裏技など存在しません。リーダーシップに関しては何事もそうですが、慎重に考え、判断し、繰り返しやってみるしかないのです。
しかし、これだけは言えます。毎日気持ち良く働ける会社を作ることは、血と汗と涙を流すに値する重要な仕事です。人材争奪戦において、有意義な使命とすばらしい同僚に勝る武器はありません。
なんと言っても、解決すべき大きな課題と、それに一緒に取り組む仲間たちに恵まれることが最大のメリットであり、それ以外はさして重要ではないのです。*
ハブスポットのカルチャーや新規採用情報、エンプロイヤーブランディングについて詳しく知りたい方のために、私の同僚や尊敬する業界エキスパートたちが提供している情報のリンク(英語)を以下に挙げておきます。
- Dharmesh Shahがスタンフォード大学でカルチャーについて話した1時間の講演(カルチャーに関心をお持ちの方には必見です)
- ハブスポットが重視する価値の1つを見直したことについて書いたDharmesh Shahのブログ記事
- ハブスポットがカルチャーやリーダーシップに関する教訓をどのように広範に適用したかについて書いたBrian Halliganのブログ記事
- Tamara Lilian(@tamaralilian_)がカルチャーチームの構築と拡大について書いたブログ記事
- Hannah Fleishman(@hbfleishman)がインバウンドリクルーティングとエンプロイヤーブランディングに関するハブスポットの方針について語ったポッドキャスト
- ハブスポットがどのようにして世界中から優秀な候補者を集めたかについて、Becky McCullough(@BeckyHMc)が語ったブログ記事
- ハブスポットがインクルーシブなカルチャーをどう作り上げてきたかについて、Melissa Obleada(@MelissaObleada)が書いたブログ記事
- NetflixのPatty McCord氏が自社のカルチャーについて語った動画(同氏の著書『NETFLIXの最強人事戦略』もお勧めです)
- Laszlo Bock氏の著書『ワーク・ルールズ!』は大々的に売り出されていますが、それだけの価値があります(People Opsの担当者やそれを目指す皆さんはぜひお読みください)
- ダイバーシティー&インクルージョンのあらゆる面について大まかにまとめたAubrey Blanche氏による入門者向けのブログ記事
- Tony Hsieh氏の著書『顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説』は、カルチャーと顧客満足度を結び付ける方法を教えてくれます(同氏が創業したDelivering Happinessの公式ページはこちら)