しばらくして、私は本当にそれをやめてしまいました。紙に絵を描くことがあまり得意でないと気付いたからです。紙でなくても、コンピューターを使ってでも、絵を描くことはできます。アイデアをコンピューターで形にしていくこともできるのですが、当時の私はそれを知りませんでした。大学生になってから、コンピューターでレタリングや画像作成を行うグラフィックデザイナーという職業があることを知りましたが、その時点で専攻を変えるには、残念ながら遅すぎました。それで、私は自己流でデザインを学んでいこうと決めたのです。
まずは、グラフィックデザイナーである友人からアドバイスをもらおうとしたのですが、彼らのアドバイスは決まって「PhotoshopとIllustratorとInDesignを習得しなさい」や「デザインの基礎について解説した本を読みなさい」ばかりでした。それも確かに役には立ちましたが、ソフトウェアのセミナーや技術書では習得できない知識があるはずだと私は感じていました。クリエイティブな何かを独学で学ぼうとしたことのある人なら誰でも、基礎を学んだり、ツールの使い方を習ったりするのと並行して自分なりのスタイルを確立することの難しさを理解しているはずです。
そこで今回の記事では、私が自己流でグラフィックデザインを学び始めた頃に知りたかった(と今でも思う)テクニックを、いくつかアドバイスします。皆さんが効率良く学習するための一助になれば嬉しく思います。また、素晴らしいヒントや教材、手本になるデザインなどが必要な方は、ハブスポットによるデザインブログ(英語)をぜひご覧ください。
マーケターなら誰しも、業界のインフルエンサーからいかに多くを学べるかをご存知だと思います。成功を目指す多くの人にとって、インフルエンサーによる体験談は、これ以上ない貴重な教材です。また、成功の秘訣について、彼らの考えを聞かせてもらえることも少なくありません。それらの話に積極的に耳を傾けているうちに、デザインの世界で徐々に存在が知られるようになり、デザインのテクニックについて知識を得たり、専門用語に慣れたり、最新のトレンドをいち早く入手したりできるようになるはずです。
勇気を出して、インフルエンサーたちにTwitterでメッセージを送ってみましょう。返事をもらえるかどうかはわかりませんが、送ってみないことには何も始まりません。フォローしたり、会話に参加したりするうちに、デザイナーコミュニティーの一員として自然と認められるようになり、サポートやアドバイスももらえると思います。
Twitterで影響力の大きいデザイナーを選んでリストを作成し、その人たちのツイートを、友人や同僚による大量のツイートやニュース投稿の中からでも簡単に見つけられるようにするとよいと思います。HubSpotのユーザーの方は、インフルエンサーたちのTwitterハンドルをソーシャル メディア ツールのTwitterストリームに追加してください。
HubSpotをお持ちでない方は、Twitterにログインして画面の右上にあるプロフィール画像をクリックし、ドロップダウンメニューから[リスト]を選択して、[新しいリストを作成]をクリックしてください。
このリストにはさまざまなインフルエンサーを選んで追加しましょう。知名度が非常に高く、多くのデザイナーに崇拝されている人や、個人的に尊敬している人、デザインのスタイルがあまり好みではない人も追加してください。好きでもないデザイナーをなぜ追加するのか不思議に思うかもしれませんが、その作品をよく見て何が気に入らないのか理解することも、デザインを学ぶうえで非常に重要だと思います。
フォローするデザイナーを探すなら、こちらのウェブサイト、365 Awesome Designersをお勧めします。ここには毎日一人ずつデザイナーの作品が紹介されています。
これは絶対に実践していただきたい重要なアドバイスです。独学でデザイナーになることを決心したら、素晴らしいと感じる作品を多く集めることに、すぐにでも取り掛からなくてはなりません。手間はほとんどかかりません。ブラウザーで画像をブックマークしたり、Pinterestのボードを作成したり、PCのフォルダーにアイテムを保存したりすればよいのです。
インスピレーションを受ける素晴らしい作品に数多く触れるうちに、それぞれのデザインからパターンを見分ける力がつき、最新のトレンドを把握できるようになります。あるいは、たとえば自分がインフォグラフィックスの画像ばかりを集めていると気付いたら、インフォグラフィックスの作り方を学んでみるのもよいかもしれません。
また、これらの作品を集めることは、将来自分がデザインを作成する際、ひらめきを得るためにも有用です。Austin Kleon氏もTEDxの講演で、「クリエイティブな作品はすべて、過去の作品の上に成り立っている」と述べています。作品を集めていつでも参照できるようにしておけば、自ら制作に取りかかるとき非常に役に立つでしょう。
著名なデザイナーの作品を集めて紹介する、DribbbleやBehanceなどのサイトを利用しましょう。これらのサイトでは、WebやUXのデザイナーからグラフィックデザイナー、タイポグラファーにいたるまで、著名なデザイナーによる非常に質の高い作品をいくつでも見ることができます。また、制作のプロセスについて詳しく説明しているデザイナーも多く、自分でデザインを始めようとする人たちの貴重な情報源となっています。
日々仕事が忙しく、作品を集める時間が取れないという方には、Pandaというウェブアプリケーションを利用して、作品の収集を習慣化することをお勧めします。Pandaを使用すると、Chromeの「新しいタブ」に、Dribbbleなど複数の画像サイトから集めたコンテンツが自動で表示されるので、新しくタブを開くたびに表示される画像のなかから、気に入ったものを選んで保存することができます。(ただし、仕事に集中できなくなる恐れのある方は使用を控えてください。)
私が興味深いと感じるイラストやインフォグラフィックスやアイコンは、図形とラインを組み合わせて描く技をマスターした人がデザインしたものばかりです。それに気付いたとき私は、それまでのデザイン人生で最も大きな衝撃を受けました。図形とライン以外の要素に意味がないとは言いませんが、基本的に、素晴らしいデザインはシンプルな図形だけで作られているのです。
デザインの裏に隠されたプロセスを分析すると、作品の制作に必要となる手順を理解できます。スキルのレベルが上がれば、使用されたツールや、最初に作られた要素などを調べることも上手になるでしょう。ですが、そこで満足しないでください。創造力を鍛えるための頭の体操だと思って、デザイン構成の分析を続けてください。そうすれば、非常に多くのことが学べるはずです。たとえば以下のことがわかると思います。
デザインを分析する技を手っ取り早く習得するために、無料のベクター、またはPSDのデザインデータをダウンロードし、レイヤーを念入りに調べて、そのオブジェクトがデザイナーによってどのように作成されたかを理解するとよいと思います。
たとえば下の画像をご覧ください。これはDribbbleのユーザーであるCorey Michaud氏が無料で提供している、デバイスアイコンが描かれたPSDデータです。
このデータをダウンロードし、Photoshopでレイヤーパネルを開いて「iPad」や「iPad Mini White」のフォルダーを展開すると、それぞれにレイヤーが含まれていることがわかります。そのレイヤーの可視性を変えるだけでも、複数の図形の組み合わせでデザインが構成されていることを理解できます。特に注目したいのが、デバイスアイコンのスクリーンに見られる「反射」の部分です。これはスクリーンを表す長方形の上に三角形を作成し、色で塗りつぶしてから、レイヤーパネルでサイズを調節して作られています。
また、ドロップシャドウやストロークなどの効果の使い方もわかってくるはずです。たとえばこの画像に表現されたディスプレイで、設置部分に使用されている陰影なども、複数の効果を組み合わせてデザインされていることがわかると思います。
デザインを作成していると、「これはどうすればよいのだろう」と悩んでしまうことも多いと思います。それは誰もが同じです。最近では、独学で何かを学ぶ人のほとんどが、オンライン検索を多用していますが、私自身もデザインのテクニカルな知識のほとんどを、YouTubeを見ては操作を真似するという方法で習得しました。
検索する際のポイントは、できるだけ具体的な語句を使用することです。たとえばチュートリアルを検索するために「アイコンの作り方」などと入力すると、あまりにも広範な結果が表示されるので、「ロングシャドウを使用したフラットアイコンの作り方」のように、知りたい内容を具体的に入力するようにしましょう。
デザインの用語集から、知りたいと思うテクニックに対応する用語を見つけて検索に使用してください。そうすれば、オンラインで必要な情報を簡単に検索でき、しかもデザインの用語にも詳しくなります。
最初に言っておきますが、著作権の侵害は絶対に許されませんので、他のデザイナーの作品を複写したものを、自分の作品として提出しないでください。ここでアドバイスしたいのは、誰かの素晴らしいデザインを複写することで、そのテクニックを深く理解できるということです。制作のプロセスを分析するのと同じように、作品を複写することでも、デザインの作成に必要な技術的スキルの習得に役立てることができます。
デザインを複写する際、その方法を選ぶために創造力を十分に働かせる必要があります。ですから、右脳と左脳を同時に鍛える素晴らしい訓練になると思います。デザインを完璧に真似できなくても問題ありません。この訓練では結果よりもプロセスを重視してください。
まず、素晴らしいと思うデザインを選んでください。2)で集めた作品のなかから選べば簡単です。次に、PhotoshopやIllustratorなど、自分の好きなソフトウェアを使用してデザインを複写します。どのような方法で作るかは、自分で自由に選んでください。具体的な語句を使って検索したり、デザインのコミュニティからアイデアをもらったりしながら作業しましょう。
デザインの初心者には、あるいは上級者であっても、余白を上手に活用できていない人が多いと思います。余白とは、デザインに使用するスペースのうち、ビジュアルとテキストのどちらの要素も存在しない部分のことです。デザインに適度な余白が置かれていないと、句読点が何もない文章のように、非常に理解しにくくなります。
タイポグラフィーの世界で最も偉大なインフルエンサーとされるJan Tischold氏も、余白の重要性について、「パッシブな背景としてではなく、アクティブな要素として捉えるべきだ」と述べています。実際、余白を効果的に利用することは、デザインそのものと同じくらい重要なのです。嘘ではありません。余白によって読みやすさや理解のしやすさが改善されることは、科学的にも証明されています。このことに常に注意しながらデザインを考えましょう。
余白の活用方法は1日や2日で習得できるものではありません。さまざまな方法を何度も試し、どれが最も効果的かを調べる必要があります。まずは、Hack DesignのDavid Kadavy氏によるこちらの記事一覧(英語)をご覧ください。その後で、いくつか実際に試してみるとよいと思います。
余白については、どのデザインにも使える便利なルールなど存在しません。実践を重ねるしかないのです。作品に配置する要素のサイズを変えたり、レイアウトを変更したりするうちに、適度な余白の大きさというものが自然と理解できてくるはずです。
程度の違いこそあれ、誰もが批判されることを恐れます。アイデアを完全に否定され、最初からやり直せと言われるのはまっぴらだと思っています。建設的なフィードバックをいただいたと認められるだけの能力は、簡単に得られるものではありません。ですが、これこそが優れたデザイナーになるために必要だと思います。
Saatchi and Saatchiの絶頂期にクリエイターとして同社の成功を支えたPaul Arden氏は、自身のベストセラー本、「大事なのは今のあなたじゃない。この先、どのくらい上を目指そうと思っているかだ。」のなかで次のように述べています。
今度、自分の書類を見せるときは、「どう思いますか?」ではなく「どこが駄目だと思いますか?」とたずねてみよう。
彼らは恐らくあなたが聞きたくない(耳の痛い)ことを言うだろう。
そのかわり、彼らは本音で評価してくれるに違いない。
そのとき、もし正しくないことを言われたら、違うとわかるだけの力が自分にあるなら、認めなければいい。
つまりはこうです。自分のデザインに対して批判を受けることで、他の人の観点を作品に取り入れ、アイデアに磨きをかけることが可能になるのです。他人からの批判が自分の考えと一致しないのは当然ですが、それでもまずその内容について考えてみることが重要です。デザインは主観的なものです。
誰かの意見が自分と異なるからと言って、自分が間違っていることにはなりません。実際、自分の直観を信じることも同じくらい重要でしょう。ただし、自分の判断に対して説明を求められたとき、しっかりと答えられる必要はあると思います。
フィードバックを得るには、熟練したデザイナーと一対一で話すのが一番です。そのような人が周りにいない場合は難しいかもしれませんが、インターネット上にはデザイナーのコミュニティがいくらでも見つかりますので(作品に意見するのが大好きな人もいます)、参加してみるとよいでしょう。現状に満足するのではなく、勇気を出して外の世界へ飛び込み、さまざまな批判を喜んで受けましょう。
たとえばInbound.orgはデザインを見た人が直接サイトでコメントを書き込める強力なフィードバックツールです。また、Graphic Design ForumsのThe Crit PritやRedditのDesign Critiques、あるいはEstetica Design Forumなども素晴らしいと思います。
この記事の中からアドバイスを1つだけ実践しようと思った人は、ぜひこれを選んでください。やりたくない仕事をやるのは、誰にとっても実に辛いものです。苦痛以外の何ものでもありません。熱中して取り組むことが難しい仕事を選ぶと、働いていても時間や労力を無駄に使っている気がして、ストレスが溜まると思います。
確かに、デザイナーとしてのキャリアのなかで、楽しいと思えないような仕事でも、受けざるを得ない場合があることは間違いありません。ですが、それはいくらか経験を積み、デザインのスキルも向上してからの話で、初心者のうちはやりたいことだけに熱中していればよいのです。
何の目的もなく、ただ時間をかけて独学でグラフィックデザインを勉強するというのは、単に好きだからやっているに過ぎません。デザインをするうえで大切にしたい何かが見つかってはじめて、面倒なことがあっても我慢してやり遂げようと思えてくるはずです。
デザインを学ぶ人にとって最も難しいのは、何をデザインするか見つけることではありません。信念を持って、この先長く続けられる何かを選ぶこと、つまり方向性を定めることが、本当に難しいのだと思います。
何をデザインするかを、自分で興味の持てること、あるいは自分が現在置かれている状況に合わせて決めましょう。たとえばブロガーの人なら、ブログ記事に使用するヘッダーの画像を作ってみるのもよいと思います。コンテンツチームで作成するオファーに作品を提供してください。仕事を探している人は、自分個人のロゴを作成して履歴書に表示してはいかがでしょうか。
日々の生活からデザインの仕事を探す方法はいくらでもありますが、自分にとって意味のある何かを選べるかどうかはあなた次第です。デザインは必要だからやるのではなく、やりたいと思ってやるものです。
何はともあれ、まずは始めてみることです。グラフィックデザインには学ぶべきことがあまりにも多く、怖気づいてしまうかもしれませんが、どれほど才能豊かなデザイナーでも最初は自分と同じ素人だったと、自分に言い聞かせましょう。クリエイティブな職業が特別なのは、誰一人として同じ道を歩むことがないからです。もちろん、デザインを自己流で学ぶ方法も1つではありません。自分にとって何が大切で、何を学ぶべきかを丁寧に見極めながら、自分なりの方法を見つけ出してください。
デザインはプロセスを繰り返しながら行う作業ですので、アイデアや作品も何度も練り直す必要があると思います。ですが、スキルが上がれば作業の方法も徐々に確立し、まる1日かかっていた仕事が1時間でできるようになるはずです。私がそうだったのですから間違いありません。
独学でデザイナーになるためのアドバイスを何かほかにご存知ですか? 下のコメント欄でお聞かせください。
編集メモ:この記事は、2015年4月に投稿した内容に加筆・訂正したものです。Sapphire Reelsによる元の記事はこちらからご覧いただけます。