常にやる気をみなぎらせておくというのは、非常にしんどいことです。
時には、ソファーにだらりと寝そべって、饅頭でも食べながらNetflixをボーッと見ていたい気分になることもあります。それも、間抜けでナンセンスなB級映画で十分です。成果だの生産性だのといったことを一切忘れて、頭を空っぽにできさえすれば、それでよいからです。
実際、そうやって頭を休めるだけで、心の充電になることも時にはあります。
しかし一方で、納期が迫っているときや、大きなプレゼンの予定があるとき、同僚や顧客の期待を一身に背負っているときには、ボーッと頭を休めているわけにはいきません。心の中のカウチポテトを黙らせて、自分のやる気をみなぎらせ、厳しい挑戦に立ち向かっていく必要があります。そこで、皆さんのやる気が奮い立つようなコラムを書こうと思ったのですが、残念ながら、私にはそういう文才はないようです。
そんなわけで、今回は、ビジネス、スポーツ、エンターテインメントなどの各界から、やる気が湧いてくる16の名スピーチをご紹介したいと思います。伝えている内容はスピーチごとにさまざまですが、大きな挑戦に適した精神状態に自分を持っていけること請け合いです。
(ちなみに、Al Pacino氏のスピーチの原文には、汚い言葉を使っている部分もありますので、英語圏の職場での閲覧にはご注意を)。
やる気が湧いてくる16の名スピーチ
1)J.K. Rowling氏:「失敗の思わぬ効能、そして想像力の重要性」(2008年)
「Harry Potter」シリーズの著者J.K. Rowling氏は、2008年にハーバード大学の卒業式で行ったスピーチの中で、失敗と想像力という2つの要素が、成功のために決定的な役割を果たすという話をしました。失敗のおかげで、自分の本当の情熱のありかがわかり、どこにエネルギーを集中させて前進したらよいかが掴める。想像力のおかげで、他の人々と共感し、自分の力を善のために生かすことができる。そんな話です。
「世界を変えるのに、魔法は必要ありません。必要な力はすべて、私たちの中にすでにあります。よりよい状態を想像するという力です」
2)David Foster Wallace氏:「これは水です」(2005年)
David Foster Wallace氏が2005年にケニヨン大学の卒業式で行ったスピーチは、卒業スピーチのしきたりに疑義を呈している冒頭の部分を聞くだけでも、その含蓄が明確に伝わってきます。スピーチの核心は、自分自身の偏狭な見方に気づいていない人が多い、ということです。一人ひとりが、自分自身を中心に置く図式で世の中を別々に捉えていて、互いの世界がつながり合った大きな捉え方ができていません。
「何が現実なのか、本当に重要なのは誰の何なのか、ということを無意識の思い込みに任せ、デフォルト設定のまま進んでいこうとするのなら、皆さんも私も、自分が不快な目に遭わされているという以外の見方なんて、思いもよらないことでしょう。でも、頭の使い方、注意の払い方が身に付いていれば、ほかの見方もできるのだとわかるはずです。買い物客がごった返す蒸し暑い中を延々と待たされるという不快な状況でも、それを意味あるものとして、さらには神聖なものとして経験する力は、皆さんの中に燦然と輝いています。それは星を灯したのと同じ力です。愛であり、友情であり、心の奥底にある万物の神秘的な調和です」
3)Brené Brown氏:「傷つく心の力」(2013年)
上の動画は、研究者Brené Brown氏の講演「The Power of Vulnerability(傷つく心の力)」からの抜粋をアニメ化したものです。この中でBrown氏が話したのは、自分が不完全であることへの恐れなどが原因で、人は自分自身の心のもろさにガードをかけているということです。そのような心の鎧をまとうのではなく、他人への共感を通じて心のもろさを受け入れることをBrown氏は説いています。
「共感は自らの選択です。それも、心をさらけ出す選択です。なぜなら、他人とつながり合うためには、自分自身の中でその感情を知っている部分とつながり合わなくてはならないからです」
4)Al Pacino氏:「1歩ずつ」(1999年)
この動画は、アメフト映画「Any Given Sunday(エニイ・ギブン・サンデー)」のワンシーンですが、スポーツものでありがちな、威勢よく応援するだけのセリフではありません。人生や敗北など、深い話が出てきます。Al Pacino氏が魂を込めて発する言葉を、ぜひ聞いてみてください。
「チームとして息を吹き返すか、それとも、このまま崩壊するか。1歩ずつ、1プレーずつ、結末に向かう。いま我々は地獄にいる。このまま、おめおめと引き下がるのか。それとも、ここから何とか這い上がるのか。我々は地獄から這い上がることもできる。1歩ずつだ」
5)Steve Jobs氏:「死ぬまでの生き方」(2005年)
Steve Jobs氏が2005年にスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチのYouTube動画は、見たことがある人も多いと思います。再生回数が実に2400万回だからです(さらに、同じスピーチの別バージョンの動画も1000万回以上です)。このスピーチでJobs氏は、2つのテーマを取り上げています。1つは、点と点を結ぶということです(体験談:カリグラフィーの講座を取ったことがMacの開発に役立った)。
もう1つは、愛と喪失ということです(体験談:Appleを首になって新たに始めたことが、同氏の代表的な成果につながった)。このスピーチで最も印象に残るのは、おそらく最後の部分でしょう。Jobs氏のお気に入りだった雑誌「The Whole Earth Catalog」の最終号から引用した言葉は、今や有名な一節です。
「ハングリーであれ。愚かであれ」
6)Ellen DeGeneres氏:テュレーン大学の卒業式でのスピーチ(2009年)
Ellen DeGeneres氏のスピーチは、コメディアンらしいユーモアを散りばめていますが、コメディの道へと進むきっかけになった、私生活での悲しいエピソードも取り上げています。スピーチの主なテーマは2つ。逆境を乗り越えることと、自分に正直であることです。同性愛者とカミングアウトしたために出演番組を打ち切られた後も、自らのキャリアをあきらめなかったことがそれにあたります。
「実のところ、当時を振り返ってみると、私は何も変えようとは思いません。すべてを失うことは私にとって非常に重要だったのです。なぜなら、何が最も大切なのかがわかったからです。それは、自分に正直であることです。結局のところ、それがあったからこそ、私は今この場所にいます。私は恐怖におびえながら生きてはいません。私は自由です。私に秘密はありません。これからもずっと大丈夫だと知っています。なぜなら、何があろうとも、自分が誰かを知っているからです」
7)Will Smith氏:映画「The Pursuit of Happyness(幸せのちから)」のセリフ(2006年)
再び映画から。今度は、2006年の映画「The Pursuit of Happyness(幸せのちから)」です。Will Smith氏が演じる主人公が、バスケットボール好きの息子に向かって、きっと「人並み以下」に終わるだろうからバスケの道はあきらめた方がいい、と助言した直後に、大きく心変わりするシーンです。
「そんなのできっこない、なんて人から言われる筋合いはない。父親からであってもだ。そうだろ。お前には夢がある。それを守り抜け。人は、自分にできないことは、他人にもできないと言いたがる。自分でしたいと思うのなら、自分でつかみ取れ。それがすべてだ」
8)Sheryl Sandberg氏:ハーバード ビジネス スクールの卒業祝賀スピーチ(2012年)
「Lean In(リーン・イン)」の著者で、IT企業の幹部であるSheryl Sandberg氏は、ハーバード ビジネス スクールの2012年の卒業祝賀スピーチの中で、「キャリアは階段だ」という考え方に異を唱えています。同氏の考えでは、キャリアで肝心なのは、自分がインパクトを与えられる機会を見つけることです。肩書を追い求めたり、進む道筋を綿密に計画したりすることではありません。
「仮に私が、ビジネススクールを卒業する段階で、自分のキャリアの計画を事細かに立てていたとしたら、キャリアを逃していたはずです」と同氏は言います。さらに同氏は、職場に感情は不要という昔ながらの見識にも異を唱えます。自分が何に取り組んでいるかだけでなく、誰と一緒に取り組んでいるかも気にかける必要がある、というのがSandberg氏の考えです。
「人の心をつかみたかったら、頭だけでなく心を使って率いていくことが必要です。月曜から金曜まではプロフェッショナルな自分、土曜と日曜はパーソナルな自分、という区別はできないと思います。常にプロフェッショナルでもあり、パーソナルでもあるのです」
9)Dan Pink氏:「やる気に関する驚きの科学」(2009年)
ビジネスの世界では、奨励金やボーナスなどの報酬が人をやる気にさせると考えられてきました。しかしDan Pink氏は、2009年のTED Talkで、こうした外的な動機づけ(いわゆる「アメとムチ」)はむしろ害になると指摘しています。社会学の最新の研究結果によると、優れた成果を生み出す本当の鍵は、自分自身に内在するやる気を見つけることだそうです。
「科学的な知見と、企業の実際の動きに、隔たりがあります。金融危機の余波が続く中、私が懸念しているのは、企業が意思決定や人材に関する方針決定を行う際に、実証されていない時代遅れの思い込み、科学というより言い伝えに根ざした思い込みを元にしているケースがあまりに多いことです」
10)Denzel Washington氏:「前に転ぶ」(2011年)
ペンシルベニア大学の2011年の卒業式スピーチで、Denzel Washington氏は、成功のためには失敗を受け入れる必要があると話し、3つの理由を挙げました。
1つ目は、人は誰でもどこかの時点で必ず失敗するのだから、慣れておいた方がよいということ。2つ目は、失敗していないのだとしたら、実はその人が挑戦していない証しなのだということ。3つ目は、自分が進む道を理解するうえで、最終的には失敗がヒントになるということです。
「前に転ぶ。つまりこういうことです。(大リーグの名選手だった)Reggie Jackson氏は、キャリア通算の三振が2600回で、歴代1位です。でも、今現在、Jackson選手の三振が話題になることはありません。人々の記憶に残っているのはホームランです。前に転ぶ。(発明王の)Thomas Edisonは、実験に1000回失敗したとご存じでしたか。私は知りませんでした。なぜなら、1001回目に電球が生まれたからです。実験に1回失敗するたびに、成功へと1歩ずつ近づいていたのです」
11)Sylvester Stallone氏:映画「Rocky Balboa(ロッキー・ザ・ファイナル)」のセリフ(2006年)
Denzel Washington氏のスピーチと同じようなテーマの話をもうひとつ。2006年の映画「Rocky Balboa(ロッキー・ザ・ファイナル)」のワンシーンです。Sylvester Stallone氏が演じる主人公が息子に対して、失敗や逆境にひるむことなく前進を続けろ、という本音のアドバイスを贈っています。
「わかっていると思うが、世間はバラ色ではない。下劣で浅ましい場所だ。お前がどれだけタフかは知ったことではない。お前は現実に打ちのめされ、何もしなければ永遠に打ちのめされたままだ。お前も俺も、この世の誰も、人生の現実が繰り出すパンチにはかなわない。しかし肝心なのは、お前がどれだけ強いパンチを打てるかではない。どれだけ強いパンチを食らっても、前進を続けられるかどうかだ。どれだけ我慢して、前進を続けられるかだ。その先に勝利がある」
12)Elizabeth Gilbert氏:「創造性をはぐくむには」(2009年)
著書「Eat, Pray, Love(食べて、祈って、恋をして)」が大ベストセラーになったElizabeth Gilbert氏は、この本以降、皆から繰り返し同じ質問をされるようになったそうです。「あれを越える本をどうやって出すの?」という質問です。2009年のTED TalkでGilbert氏は、この質問について掘り下げ、天才や創造性に対する捉え方が時代と共に変わってきたという話を展開しています。
興味深いことに、天才や創造性は、かつては本人とは別個に存在するものとみなされ、ひらめきが降ってくることは誰にでもあると捉えられていました。しかしその後、次第に個人と結び付けて考えられるようになったそうです。その変化に伴って、芸術家や作家など、独創的な作品を生み出す人が受けるプレッシャーが強まっていったとGilbert氏は言います。
「神聖な謎、創造の謎、人知を越えた謎、永遠の謎を宿らせた、いわばその源泉であり神髄であり鉱脈である人間が自分なのだと、1人のちっぽけな人間に信じさせるのは、人間の繊細な心にのしかかる使命としては、少しばかり重すぎます。いわば、太陽を飲み込めと言われるようなものです。自我が完全に歪みますし、偉業に対する期待にブレーキがかからなくなります。そのプレッシャーが、過去500年間にわたって芸術家たちを殺してきたのだと私は思っています」
13)Charlie Day氏:メリマックカレッジの卒業式でのスピーチ(2014年)
シットコム「It's Always Sunny in Philadelphia」で知られる俳優のCharlie Day氏は、自身の母校であるメリマックカレッジの2014年の卒業式スピーチで、含蓄のある話を繰り広げました。大学の卒業学位は、換金できるわけではないので、元来は無価値だと同氏は言い、人生に本当の価値をもたらすのは、本人自身と、本人の努力、そして本人がとるリスクだと話しています。
「失敗への恐怖、比較される恐怖、評価される恐怖があったとしても、自分を卓越した存在にする物事への取り組みをやめてはいけません。失敗のリスクなくしては、成功はあり得ません。批判を受けるリスクなくしては、発言権を得ることはできません。失うリスクなくしては、愛することはできません。こうしたリスクをとる必要があります」
14)ヨーダ(Frank Oz氏):映画「The Empire Strikes Back(スターウォーズ エピソード5/帝国の逆襲)」(1980年)
映画「The Empire Strikes Back(スターウォーズ エピソード5/帝国の逆襲)」のワンシーンです。Charlie Day氏のスピーチに続けて紹介するのにぴったりだと思います。このシーンでヨーダ(声はFrank Oz氏)は、フォースの働きについてルークに教えています。肝となる教えの1つは、ある事を実現できるかどうか(たとえば、戦闘機X-Wingを沼から引き上げられるかどうか)は、すべて自分の頭の中にあるのだから、自分を疑うのではなく、自分を信じよ、ということです。
「やるか、やらないかだ。試してみる、はない」
15)William Wallace:スターリングブリッジの戦いでのスピーチ(1297年)
スコットランド独立のために立ち上がったWilliam Wallaceがスターリングブリッジの戦いで残したスピーチに関して、肉声の録音は見つかりませんでした。なにしろ、スターリングブリッジの戦いは1297年の話だからです。
しかし、史実として正確かどうかはともかく、1995年の映画「Braveheart(ブレイブハート)」でMel Gibson氏が演じたWilliam Wallaceのスピーチは、見る者の心を間違いなく奮い立たせます。
「確かに、戦えば死ぬかもしれん。逃げれば生き延びられる。しばらくはな。そして、年月は流れ、君たちが死の床につく日が来る。だが、今日という日からその日までの年月に代えて、この地に立てる1回限りの機会を掴んではくれないか。そして敵どもに言ってやるのだ。俺たちの命は奪えても、俺たちの自由は奪えんと!」
16)Orlando Scampington氏:「C.L.A.Mの柱」(2015年)
何にも増して、ユーモアがやる気をかき立てることもあるものです。そこで、今回の記事の締めくくりとして、HubSpotのカンファレンス「INBOUND」から、「Bold Talk」の講演を1つご紹介します。作家でオピニオンリーダーで夢想家で猫飼いで予見者で「人間が持つ無限の可能性の信奉者」だと自称するOrlando Scampington氏の講演です。
下に引用した部分を読むだけでもわかるとおり、この講演の何たるかは、簡単には説明できません。ぜひご自身の目と耳で動画をお楽しみください。
「文化とは何か。言うなれば、酔っ払った毒舌家が馬車を操っていて、恩知らずな馬をむち打ってモチベーションをたたき込み、成長という馬車で成功という道を進んでいこうとすること。これが、文化というものを極めて正確に表した例えだと思います」
やる気が湧き立ってくるスピーチをほかにもご存じでしたら、ぜひコメント欄で教えてください。
編集メモ:この記事は、2016年3月に投稿した内容に加筆・訂正したものです。Erik Devaneyによる元の記事はこちらからご覧いただけます。