長年、デジタル広告業界を悩ませている問題が「アドフラウド」です。アドフラウドとは、デジタル広告における詐欺的な不正行為を示します。アドフラウドを放置すると、広告費の搾取や収集データの質の低下、さらにブランドイメージ毀損などにつながる恐れがあります。
アドフラウドは複雑で難しいイメージがあるかもしれませんが、正しい知識を身につければ、自社での対策も可能です。本記事では、不正業者からの搾取を防止しブランドイメージを守るため、アドフラウドの基礎知識や企業ができる対策を解説します。
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アドフラウドの被害総額は全世界で約5.5兆円に
アドフラウドとは、デジタル広告における詐欺的な不正行為を意味します。
アドフラウドと言えば、ボットによる不正クリックの水増しを思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、アドフラウドには様々な種類があります。クリック数やアプリのインストール数が多いにも関わらず、コンバージョンにつながっていない場合は、アドフラウドの被害に遭っている可能性が高いです。
2025年には、全世界でアドフラウドの被害総総額が約5.5兆円にまでなると予測されています。また国内の場合、デジタル広告を運用している企業は、広告予算のうち平均20%はアドフラウド被害に遭っていると言われています。広告費の搾取を免れるためにも、早めの段階からアドフラウド対策に取り組みましょう。
アドフラウドが広告主(企業)に与える被害とは
アドフラウドが広告主に与える被害は大きく分けて3つあります。
1つ目が広告費の不正搾取です。GoogleやYahoo!を始めとした多くのデジタル広告はPPC(Pay Per Click:広告がクリックされるたびに課金)を採用しています。アドフラウドでクリックが水増しされると、成果につながらない無駄な広告費が発生します。
2つ目がブランドイメージ毀損リスクです。詳しくは後述しますが、アドフラウドの標的になると、不適切なWebサイトに広告が表示され、ブランドイメージを損なう可能性があります。
3つ目が正確なデータ分析ができなくなることです。アドフラウドは「データのノイズ」とも呼ばれます。アドフラウドを放置すると、実際のユーザーと偽のユーザーのデータが混同するため、正確なデータ分析が難しくなります。
アドフラウドが発生する仕組み
アドフラウドは不正業者によって実施されます。不正業者は、作成したボットをフリーアプリなどに紛れ込ませ、一般ユーザーに拡散します。拡散したボットを操作し、フラウド用のサイトに大量のアクセスを稼ぐことで、広告出稿先として魅力的なサイトに仕立てあげるのです。
この不正サイトに広告が出稿されたり、悪意あるアフィリエイトサイトからクリックが発生したりします。この一連のアドフラウドの対価として、ハッカーや不正業者は広告費を得るのです。
アドフラウドの主な5つの特徴
ここでは、アドフラウドの主な特徴を5つお伝えしましょう。
1.クリック洪水
クリック洪水とは、実際のクリックがないにもかかわらず、クリックがあったように偽装するアドフラウドです。「クリックフローティング」や「クリックスパム」とも呼ばれます。ボットによるクリックのほか、報酬を得たユーザーが複数端末で広告をクリックすることもあります。洪水のようにクリック数が急増するため、比較的発見しやすいです。
2.インストールハイジャック
インストールハイジャックとは、ユーザーの端末をマルウェアに感染させて、広告表示やクリック、インストールを自動で行うアドフラウドです。 ボットではなく、ユーザー行動を起点に発生するアドフラウドのため、コンバージョン後の指標は悪くありません。
発見の手がかりとして、CTIT(Click to Install Time:クリックからインストールまでの時間)が挙げられます。CTITが10秒未満のユーザーが多い場合、インストールハイジャックの被害に遭っている可能性が高いです。
3.ボット
不正業者が作成したボットやプログラムが、インプレッション(広告の表示回数)や不正クリックを起こすアドフラウドです。広告主はユーザーに広告が見られるといった成果が発生していないにもかかわらず、広告費を支払うことになります。
また、広告を不正クリックするだけではなく、製品レビューやSNSコンテンツの「いいね」などの深いファネルコンバージョンにも影響を及ぼすケースもあります。
4.異常行動
ボットやプログラムを利用したアドフラウドの被害に遭った場合、突然ユーザーアクティブ率が10%まで下がったり、数日後にはアクティブ率が80%のユーザーが大量に現れたりするなどの異常行動が見られます。通常では考えにくい異常行動が見られたら、アドフラウドの可能性を疑いましょう。
5.デバイスファーム
デバイスファームとは、一つの端末でIDのリセットを繰り返すことで、複数の端末からアプリのダウンロードがあったかのように見せるアドフラウドです。ステルス性が高いため、自社で発見するのは難しいです。
アドフラウドを防ぐために企業ができる対策とは
広告費の搾取を防ぎ、正確なデータを計測するためにも、企業はアドフラウド対策に取り組むべきです。以下では、3つのアドフラウド対策をご紹介します。
1.解析用タグで不審な動きをモニタリング
解析タグとは、Webサイト訪問者の情報や行動を追跡するためのタグです。解析用タグをデジタル広告に設置すれば、ユーザー行動をリアルタイムで追跡できます。
定期的に解析データを確認し、異常行動が見られるユーザーの非許可リストを作成しましょう。非許可リストのユーザーには、広告の非表示やダミーとなる広告の表示といった対処を実施すると、クリック洪水やボットによるアドフラウドを防止できます。
2.不正リスクの高い出稿先を非許可リスト化
アドフラウドの被害に遭うと、不適切なサイトに広告が表示されます。そのため、出稿先別の広告パフォーマンスも測定し、下記の出稿先は非許可リストに追加しましょう。
- 不適切なサイト
- 配信回数が多いにもかかわらず、成果につながっていないサイト
- 広告主に対してネガティブなコンテンツを掲載しているサイト
非許可リストに追加したサイトは出稿先から除外します。広告の出稿先を精査すれば、アドフラウド被害の防止だけではなく、ブランドイメージ毀損リスクも下げられます。
3.アドベリフィケーションツールの導入
アドベリフィケーションツールとは、リアルタイムでアドフラウドの検知と防止を行うツールです。具体的には、不正クリックの判断や適切なサイトに広告表示されているかの計測などを行います。
先に紹介した2つの方法を用いれば、自社でアドフラウド対策することも可能です。しかし、大量のアクセスがあるサイトの場合、広告データや出稿先を自社で精査し、アドフラウドを発見するのは困難です。
そこで アドリフィケーションツールを導入すれば、アドフラウド対策が効率化され、マーケティング担当者は本来の業務に注力できます。
まずは、アドフラウドの被害額とアドリフィケーションツールの導入費用を比較しましょう。導入したほうがコストが下がる場合は、導入の本格検討することをおすすめします。
なお、アドフラウドの被害額は、「大まかな不正ユーザー数×CPI」で算出できます。
アドフラウド以外にマーケターが意識すべき問題
デジタル広告の運用で大きな問題になっているのがブランド毀損です。デジタル広告でブランド毀損が起きる原因は、主に以下の3つがあります。
- アドフラウド:不正なクリックや閲覧がされる
- ブランドセーフティ:広告が不適切なサイトに表示される
- ビューアビリティ:配信広告がユーザーに見られていない
ここでは、アドフラウド以外のブランドセーフティとビューアビリティについて解説します。
ブランドセーフティ
ブランドセーフティとは、不適切なサイトへの広告掲載をなくし、ブランド毀損を防ぐ考え方です。デジタル広告を運用すると、意図せずに不適切なサイトに広告が掲載されるリスクがあります。
ドイツに本社をおく世界的な広告会社アバスは、2017年にブランド毀損のリスクが高いことを理由として、イギリスでYouTubeやGoogleへの広告出稿を停止しています。ブランドセーフティを順守するためにも、確実に安全なサイトやブランドイメージとマッチしているサイトへ広告出稿しましょう。
ビューアビリティ
ビューアビリティとは、広告インプレッション全体のうち、実際にユーザーが閲覧できる状態にあったインプレッションの比率を表します。
Webメディアへの広告配信の場合、広告が配信されたからといって、必ずしもユーザーに広告を見てもらえるとは限りません。たとえば、スクロールが必要な画面下部に広告が表示されると、広告を見る前にサイトを離脱するユーザーが多数出てきます。広告が閲覧されていないにも関わらず、広告は配信されているため費用が発生します。
そのため、デジタル広告を運用するのなら、ビューアブルインプレッションも意識しなければいけません。ビューアブルインプレッションは「広告の50%以上が1秒間以上(動画の場合は2秒以上)表示されたインプレッション」と定義されており、「広告掲載インプレッション×ビューアビリティ」で算出できます。
アドフラウドを排除して自社広告の信頼醸成を
アドフラウドを放置すると、無駄な広告費用が発生するだけではなく、信頼性の低いデータ収集やブランドイメージ毀損などのリスクも生じます。顧客の信頼を損なわずに、マーケティング担当者が本来の業務に注力するためにも、アドフラウドを排除する環境構築が必要です。
まずはデジタル広告管理画面の数字を見て、異変がないか確認し、必要に応じて非表示リストを作成しましょう。また、サイト規模や費用対効果などを考慮して、アドベリフィケーションツールの導入を検討してみるのもおすすめです。