購入を検討している製品に関する情報を直接営業担当者から聞き出していたのは、もう昔のことです。今はわずか数クリックの操作で情報が見つかります。
とはいえ、すべてを見込み客自身に任せておこうとはならないはずです。
FAQや製品ページを読めばすべての疑問が解消されるとは限らず、「そのバージョンはこの動作環境で○○を実行できるの?」「△△には対応しているの?」「▢▢に関する方針は?」などと疑問が残るかもしれません。
デイヴィッド・ミーアマン・スコット氏は、最新の営業手法などに関する著書『The New Rules of Sales and Service: How to Use Agile Selling, Real-Time Customer Engagement, Big Data, Content, and Storytelling to Grow Your Business』の中で、次のように述べています。「買い手からのアプローチがあったら、それはあなたと具体的に話をしたいという意思表示です。これは大きなチャンスの瞬間です」
ただしスコット氏は同時に、課題が突きつけられる瞬間だとも指摘しています。買い手は営業担当者から、ウェブサイトに記載された以上の詳細な情報を得られて当然と考えています。加えて、即答を期待しています(英語)。今や情報の提供までの間、気長に待ってもらうことは難しくなりました。
このような場面で活用したいのがウェブチャットソフトウェアです。ウェブサイトにリアルタイムのメッセージング機能を持たせることで、営業担当者は即座に応対し、カスタマージャーニーにおける最適なタイミングで信頼関係を築き、受け取ったコミュニケーションから新たな見込み客を生み出すことができるようになります。
営業こそウェブ チャットを活用するべき
ウェブチャットは営業チームと見込み客の間のリアルタイム対話を可能にするツールで、ウェブサイト上のホームページや製品ページ、価格ページなどに設置されるのが一般的です。
ウェブチャットというとカスタマーサポートが担当する領域というイメージがあるかもしれませんが、買い手と売り手のコミュニケーションを促進する手段としても非常に有用です。
以前は営業担当者と見込み客をつなぐ最も速く直接的な方法といえば電話でしたが、電話は相手に配慮したタイミングでかけることが難しく、背景情報も不足しがちで「知らない人だけど、話を続けないといけない?」と相手に思わせてしまいます。
十分な背景情報を提供でき、都合が良いときに読んでもらえるEメールは、電話と比べればコミュニケーションが円滑になりましたが、スピードも効率もウェブチャットには及びません。
ウェブ チャットが活きるタイミングは?
ウェブチャットは、カスタマージャーニーの中でも「検討ステージ」と「決定ステージ」で活用できるでしょう。この段階では課題や目標が明確になっていて、特定のソリューションに関する詳細の検討や、製品の絞り込み、購入に向けた最終判断が行われます。
そのため、製品のメリットや特徴、実績、価格のほか、バリエーションやオプションの詳細などに関する質問が多く寄せられます。
ウェブチャットの効果を引き出すためには、有益で価値のある体験を提供することが大切です。ここからはHubSpotでウェブチャットからの問い合わせ対応を担当する、インバウンド セールス コンサルタント Alexis Sellsからのアドバイスをご紹介します。
課題解決を最優先し、見込みがあるかの見極めは後回しに
Sellsは、「ウェブチャットでの会話は、Eメールでのやり取りとは大きく異なります。問い合わせてくれた相手は、非常に具体的な目的を持って話しかけています」と指摘しています。
この段階では、相手の好奇心や切迫感を煽ったり、購買行動を喚起したりするのではなく、とにかく質問に答えることが最初の目標になります。
自社の製品やサービスを購入してくれそうかどうかを見極めることは、二の次です。
「ギブ アンド テイクの関係です。データを1つ提供していただいたら、こちらからも情報を1つ提供し、また別のデータを集めていきます」(Sells)
Sellsは、支援の手を差し伸べるために背景情報が必要なのだと理解してもらうことが重要とも述べています。
「例えば『HubSpotでは電子メールの一括送信ができますか?』と聞かれたら、『正確にお答えするためにお客様のビジネスや目標などについてお聞かせ願えますか? 貴社にとってその機能が最適かどうかもお調べいたします』と答えます」(Sells)
Sellsの経験によると、なぜ詳しく聞くのかがわかれば、質問に応じてもらえるということです。
詳しく聞いた結果、自社の製品やサービスが相手のニーズにマッチすると判断したら、次のように提案してみましょう。
「○○の担当者から詳細をご案内できますので、この場で打ち合わせ日程を設定させていただくことも可能ですが、いがかでしょうか?」
仮にマッチしない場合でも、投げやりに切り上げたりしないでください。相手の状況が変化したり、その人が自社の製品やサービスにぴったりの組織に転職したりする可能性もあるはずです。丁寧な対応がいつか、大きなメリットをもたらすかもしれません。
例えば以下のように添えてみましょう。
「お問い合わせいただき誠にありがとうございました。詳しい資料を何点かEメールで送らせていただきます」
簡潔なコミュニケーションを心掛ける
Sellsは、1回の応答を5文以内に収めることを推奨しています。
「相手は迅速かつ効率的な回答を求めてチャットを始めるのであって、長々と話をしようとしているわけではありません。ストレスを感じさせない、簡潔な回答を心掛けてください」(Sells)
同様に、問い合わせの最初のメッセージには、できるだけ早い応答が求められます。Sellsの経験によると、すぐに反応がない場合は相手が気長に待てなくなります。
一旦やり取りが始まれば、以降の回答には少し猶予が生まれます。担当者が在席していることがわかれば、ウェブページから離れることなく少し待ってもらえるようになるからです。
チャット対応にかかった平均的な時間を把握して、一度に対応できる件数を決めておくとよいでしょう。
「私の場合、ウェブチャットでの対話は1件あたり3~10分ほどで終わり、3件までなら問題なく並行して対応できます」(Sells)
当然、内容の複雑さにもよるため注意が必要です。慎重な確認が必要な質問に対応する際には、1人の相手に絞るという判断も必要になります。逆に、よくある質問なら同時に5人に対応できることもあります。
何よりも、回答の質が低下しないように気を付けることが重要です。やり取りの中で満足してもらえない場合は、見込み客の検討リストから外されてしまうおそれがあります。
温かみのあるコミュニケーションを意識する
Sellsは、メッセージアプリを使い始めたころ、てきぱきとロボットのような回答を繰り返していたそうです。
「ウェブチャットでのやり取りは機械的になりがちです。私は当初、素早く箇条書きの回答を送っていましたが、相手には人間ではないボットとのやり取りのように受け取られていたようです」(Sells)
会話に温かみをもたせるために、Sellsは次のようなフレーズを勧めています。
- ご質問をありがとうございます。
- [自分の名前]と申します。お問い合わせをいただき、誠にありがとうございます。
- お問い合わせ、ありがとうございます。私、○○が担当させていただきます。
- 週明けのお忙しい中、恐縮です。
- お問い合わせの件、お調べしますので少しお待ちください。
「冗談には(笑)などのくだけた表現で返すこともあります。基本的には自然体の対応を心掛けています」(Sells)
回答がぎこちなくなる場合は、友人や家族に送る文を少し意識するとよいでしょう。もちろんカジュアルになりすぎない程度に気を付ける必要はありますが、こうした練習を続けることが、ビジネスにふさわしい自身の文体の確立に役立つはずです。
絵文字もまた、会話を人間味のあるものにします。Sellsによると、絵文字を使うとメッセージの親しみやすさが増すようです。とはいえ、1回のやり取りにつき1回か2回に留めているそうです。
相手のデモグラフィック(人口統計学的情報)も忘れてはいけません。マーケティングやデザインといったクリエイティブ業界の顧客には、比較的カジュアルな文面でもかまわないでしょう。金融機関や医療機関などでは、少し礼儀正しい表現が好まれるようです。
否定する言葉は避ける
否定の言葉は絶対に避けるように、とSellsは指摘しています。
「質問を受けた担当者が、『いいえ』『弊社としては辞退いたします』のように否定や拒否で会話を終わらせると、その相手は二度と戻ってこない可能性があります」(Sells)
求められている機能や性能が自社製品にはない場合、また、答えがわからない場合や難しい要望の場合には、さらに具体的に質問することをSellsは勧めています。多くの情報を引き出すことで、有益な回答を提供できるチャンスがあるはずです。
いかに相手に寄り添えるかが鍵
最後に、今回のポイントを網羅した架空の対話例をご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
見込み客:患者の支払いデータの暗号化はどうなっていますか?
営業担当者:お問い合わせ、ありがとうございます。私、担当させていただく高橋と申します。具体的にお答えするためにも、もう少し詳しくお聞かせ願えますか?
見込み客:かまいませんよ。
営業担当者:ありがとうございます。では勤務先のお名前を伺ってもよろしいでしょうか。また、現在導入されているお支払い方法を教えていただけますか。
見込み客:あおぞら病院という医療機関です。大半は現金ですが、クレジットカードにも対応しています。
営業担当者:支払いを窓口で処理されているようにお見受けしますので、P2PEという暗号化が必要になります。弊社のソリューションの場合、POIデバイスという決済端末で患者様のデータを暗号化できますので、非常に安全です。また、PCI SSCという認証にも完全準拠しております。
見込み客:なるほど、ありがとうございます。
営業担当者:担当者からご連絡させていただくことも可能ですが、いかがでしょうか。P2PEについて詳しくご案内させていただきます。
見込み客:助かります。明日の午後1時以降なら空いています。
ウェブ チャット ソフトウェアは買い手と売り手の双方に大きなメリットをもたらします。買い手の疑問を迅速に解決し、有望な見込み客を増やしましょう。