私たちはなぜ朝早く起きてストレスを感じながら通勤し、1日8時間以上も働くのでしょうか。
もし、お金を稼ぐ必要がないとしたら、あなたはどのようにして毎日を過ごしますか?
広告業界に従事していれば、自分を世のため人のために働いていると考える人は稀かもしれません。ですが、そのように考えることもできますし、考えるべきでもあると思います。自分たちの仕事の意義を理解することが重要です。
なぜこの仕事をしているのか、あるいはこのエージェンシーがもし消えてしまったら、人々がどのように困るかを考えなくてはなりません。
働く目的を決めましょう。
目的を決めたからと言って、仕事の内容が変わるわけでもありませんし、クライアントの業績に貢献する以外の目的で、広告を作成したりマーケティングをしたりするわけでもありません。
変わるのは仕事に対する取り組み方です。マーケティングの役割を考え直し、理解することで、結果的に企業全体を変えていくのです。
エージェンシーとそのクライアントが、自らの働く目的を理解すれば、目の前にある仕事をただ最後まで終わらせるために働くことはなくなるはずです。
この記事では、目標を決めることで社内の文化を変え、スタッフの士気を高め、クライアントに影響を与えて、仕事の質を向上させることに成功した、エージェンシー企業4社をご紹介します。
LRXD
LeeReedyとXylem Digitalが合併して1968年に創立されたLRXDは、広告に関するサービスを全般的に提供するエージェンシー企業です。
自社を「Health & Happiness Advertising Agency(健康と幸せを宣伝する広告代理店)」と位置付け、生活の質を高める商品を扱う企業を主なクライアントとして仕事をしています。
同社がこのポジショニングに移行したのは約2年前のことです。創業して間もないNaked Juiceと仕事をするようになってから、LRXDのスタッフのようすに変化が現れました。人々の生活を良くしたいと願うブランドと仕事をすると、自分たちの何かが変わることに気付いたのです。
それ以降、LRXDはJenny Craig、Curves、Fresh Expressなどの企業と一緒に、Activate、Perfect Bar、Level Life、Rise Barをはじめとする数多くの健康的な商品のためにマーケティング活動を行っています。
LRXDのチーフ ストラテジー オフィサーであるEric Kiker氏は次のように言います。「順調な企業や成功を収めた企業には必ず、自らの力で手に入れ守っていくべき、情熱から生まれる偉大さがあります。それが何かを考えることが重要です」
このエージェンシーの健康と幸せへのこだわりは、会社の経営方針とは別の次元で生まれたものです。エージェンシーの目的を決める社内行事では、30名ほどのスタッフ全員が集まって話し合いを行い、何をどう変えるかなどの意見にそれぞれが耳を傾けます。
目的が決定した後は、それを実行に移すためのリーダーシップが必要です。しかし、スタッフ全員が同意し、互いに信頼してサポートしなければ、その目的を軸として企業が形成されることはありません。
「その目的の妥当性を立証し、社内の誰もが他のスタッフの前で“これが自分たちの存在意義であり、今やるべきことであって、その理由でもある。企業の収益を気にする以前に、自分たちはこれを達成するべきである”と言える必要があるのです」(Kiker氏)
LRXDはオフィスの休憩室から砂糖の入った飲料水(ソーダなど)を撤去することを決めました。そして、マルガリータを皆で楽しむハッピーアワーや、泥んこレース、農場体験など、さまざまなイベントを企画しています。
「自分たちの偉大な部分を見つけて、スタッフ全員がそれに同意し、誰もが正しいと認める目標を決めることが重要です。そして目標が決まったら、諦めることなくそれにこだわる努力を続けてください」(Kiker氏)
一度決めた目標を投げ出すことは許されません。目標を放棄すれば、エージェンシーの方向性を転換しなければならなくなります。
Made Movement
Made MovementはDave Schiff氏、Scott Prindle氏、John Kieselhorst氏の3名によって、コロラド州ボルダーのコーヒーショップで設立されました。彼らは同じテーブルに座り、電源コードをシェアして仕事していました。
3人は同じ悩みを抱えていました。当時、米国は不景気で仕事に恵まれなかったのです。彼らは製造業のことは何も知りませんでしたが、広告業のことはよく理解していたので、そのスキルを利用して、米国内でものづくりに携わる会社を支援しようと決めました。「米国に雇用を創出するブランドに貢献する」ことを、Made Movementの活動目標として掲げたのです。
ですが、その目標を達成させることと、クライアントのCMOを満足させることは、まったく別の話でした。エージェンシーが目標を定め、それに基づいて判断を下すことで結果を出していても、クライアントの側にはその意識がなく、なぜ成果が上がっているかを理解していなかったのです。
Schiff氏は次のように言います。「CMOにとっては目標など意味を持ちません。重要なのはブランドが成功することのみだからです」
「目標があるからこそ朝起きて仕事に行ける。目標があるからこそお客様を選び、仕事を選ぶことができる。私たちはそれを学びました。ただその先のことは、なるようにしかならないと思っていました」(Schiff氏)
Made Movementの取り組みは、やがて実を結びます。同社は35名のスタッフを抱え、Seventh Generation、Repair.com、Asurionなどのブランドと仕事をするようになるまでに成長しました。
3人の創設者たちは、最初から仕事を選ぶことを考えていたわけではありません。目的を決めることによって、Made Movementの仕事ぶりが注目を集めるようになり、ブランドが確立されていったのです。
「本当に大変でした。まあ聞いてください」と言いながらSchiff氏は打ち明けてくれました。「いくつかのプロジェクトをお断りしたのですが、まったく有望なお客様で、商品も立派。成功の可能性だって高く、予算も潤沢でした。私たちはご覧のように若い会社で野心もありますが、自分たちの気持ちに正直でいたいと思っています。そして本当に良い仕事を嗅ぎ分ける嗅覚も持っています」
School
Max Lenderman氏がShane Kent氏、およびJoe Corr氏と一緒にコロラド州ボルダーにSchoolを設立したのは2012年のことです。そのエージェンシーの戦力は、フルタイムで働く8 人のスタッフとフリーランサーでした。
Lenderman氏はSchoolを「日々の生活をより良いものにするという目標を掲げた広告エージェンシー」と位置づけ、
「特定分野に偏ったエージェンシーにはなりたくない」とのこだわりを示し、次のように語っています。「成功につながる広告を作りたいのはもちろんですが、当社の場合、仕事への取り組み方が異なります。アピール方法も違います。広告のあり方についての捉え方も他社とは異なります」
目標にはブランドとエージェンシーの両者にもたらす力がある。School設立の裏にはこのような理念がありました。
Lenderman氏によるこの考えを裏付けるような調査結果も報告されています。「The Stengel 50」によると、社会的ミッションを掲げるブランドは、他社と比較して400%近くもパフォーマンスが高くなるそうです。
目標にフォーカスするというミッションを実行に移すため、Schoolはマーケティングおよび広告賞を受賞するための予算を、発展途上国に女子校を設立するために寄付しています。先週の金曜日にも、エージェンシーの担当者が、Pencils of PromiseおよびGeneral Assemblyと一緒に、学校を建てるためにグアテマラへ向かったところです。
目標を立てることは、人材の獲得においてもメリットが大きいとSchoolは言います。
「カンヌライオンズやクリオ賞といった広告賞に多額のリソースを注ぎ込むエージェンシーがいます。また、そこで働く人たちに大金をちらつかせ、優秀な人材を自社に勧誘しようとするエージェンシーもいます。」(Lenderman氏)「そして、広告賞の開催に対して費用を負担したり、スポンサー契約をしたりする一方で、カンヌやクリオで名前が出るような大きな仕事ができると、優秀な人たちに約束して勧誘するのです」
またそのことが、広告業界にリボルビングドア症候群(人の入れ替わりが激しいこと)をもたらす要因となっているとも、Lenderman氏は指摘します。社員に広告賞ではなく何か別の信じるべき目標を与えられるなら、エージェンシーは優秀な人材を維持できるだけでなく、エージェンシのあるべき姿を理解し、自分もそうありたいと願う素晴らしい人材を惹き付けることができるはずです。
GSD&M
1971年に設立されたGSD&Mは、「差別化を実現するアイデアを創出すること」を目標に掲げ、そこにフォーカスしてマーケティングを展開してきました。
GSD&Mの上級副社長兼CMOであるJ.B. Raftus氏によれば、1990年代の中頃にGSD&Mは「ミッドライフクライシス」に陥っていたそうです。同社は25周年を迎えて経営は順調でしたが、創設者主導の体制から抜け出せていなかったため、やり方を変えるべき時期が来ていると考えていました。
同社は「Good to Great」や「Built to Last」の著者であるJim Collins氏と仕事をしましたが、その期間に「目標」とは何なのか、そして目標がエージェンシーやクライアントをどう変えるのかを、本当の意味で理解したそうです。
「以来、自分たちにとってこの経験が、エージェンシーとしてあるべき姿に力強く導いてくれる、北極星のような存在になりました」(Raftus氏)
GSD&Mの共同創設者であるRoy J. Spence, Jr.氏は、同社が目的主導のエージェンシーにシフトしたのちに、「It’s Not What You Sell, It’s What You Stand For」というタイトルで本を執筆しています。
この本は、目標が企業の収益に与える影響や、組織全体のアプローチが目標によってどう変わるかを知りたいブランドおよびエージェンシーの必読書となっています。
GSD&Mは、以下の3つの質問に答えることで、自分たちが無意識のうちに掲げている、ブランドとしての、エージェンシーとしての、あるいは営利目的以外の目標を特定できると言います。
- 自分たちが夢中になれるものは何か
- 世界一と誇れるものは何か
- 収益を生み出すものは何か
「これらの3つの質問に対して似たような答えがすぐに思い浮かぶようなら、そこに何かがあると考えてよいでしょう」とRaftus氏は言います。「自分たちが最も得意とすること、熱中できること、収益を上げられることが、目標を考えるための手掛かりになります」
目標がなぜ重要なのかを理解し、そのアイデアに基づいて広告の作成やマーケティングを続けた結果、GSD&MはSouthwest Airlines、John Deere、Northwestern Mutual、Chipotle、Walgreensなどのブランドをクライアントに持つまでに成長します。
少し前には、Walgreensに対してデータマイニングやコミュニケーションの改善を中心に支援を行い、100年以上も続く老舗の薬局チェーンに再び活気を与えました。
Walgreensは売上高720億ドルの大手薬局チェーンですが、CVS/ファーマシーやその他の小売業者にマーケットシェアを奪われつつありました。Walgreensの経営陣とGSD&Mは、次の世代の消費者によるブランドへの要求の拡大に着目し、マーケティングを展開します。
「もしWalgreensとCVS/ファーマシーが同じエリアにあり、その2つが顧客にとってどちらも大差なく、距離的に少しでも便利な方へ行ってしまうようなら、Walgreensは成功を勝ち取ることができないでしょう」(Raftus氏)
GSD&Mのサポートを得て、Walgreensは再び「人々の健康が回復し、それを維持してより良く暮らすこと」という目標を掲げました。経営陣の協力もあり、その目標は組織全体にしっかりと浸透したそうです。
Walgreensのように、全米に8,000もの店舗を持ち、24万人を超える社員を抱え、化粧品からスポーツ飲料、医薬品などさまざまな商品を販売する企業では、このように短く簡潔な目標を掲げることで偉大な力が生まれやすい、とRaftus氏は言います。
クライアントが自社の製品や、そのマーケティング手法に対する想いを超越するほど強く、確固たる目標を掲げ、それを信じているなら、エージェンシーには偉大なアイデアを創出し、企業のイメージを覆すほど強力なキャンペーンを作り上げるための、豊かな素地が与えられるに違いありません。
「目標という確かな土台があれば、優れた洞察を基に創造力豊かなメッセージを発信することができます」(Raftus氏)「その目標がないなら、Walgreensのように新しく考えるべきです」
編集メモ:この記事は、2014年9月に投稿した内容に加筆・訂正したものです。Jami Oettingによる元の記事はこちらからご覧いただけます。