セレブリックス今井氏とHubSpot伊佐が語る営業組織の生成AI活用術:顧客体験向上と効率化を両立するには

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水落 絵理香(みずおち えりか)
水落 絵理香(みずおち えりか)

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生成AIをビジネスに活用する動きは、世界的に広がっています。しかし、実際の業務で活用するまでには至らず、手探りの日々が続いている方も多いのではないでしょうか。

セレブリックス今井氏とHubSpot伊佐が語る営業組織の生成AI活用術:顧客体験向上と効率化を両立するには

【プロンプト例付き】生成AIを営業活動に活かすための完全ガイド

「営業現場での生成AI活用」を推進するためのヒントを紹介します。事例を参考にAI活用に向けて最初の一歩を踏み出しましょう!

  • 生成AIは営業にどう活用できる?
  • 生成AI活用で失敗しないための3つのポイント
  • 営業活動における生成AI活用のヒント
  • HubSpot Japan 営業部門での生成AI活用シーン

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    2024年8月6日にHubSpotが開催したセミナーでは、営業組織における生成AIの活用方法や将来的な役割などについて、営業・人材支援事業を展開する株式会社セレブリックス 執行役員 セールスエバンジェリストの今井 晶也氏にお話しいただきました。同社では、AIを活用した知的でスマートな営業活動を「インテリジェントセールス※」と定義しています。

    本記事では、企業におけるAI活用の現状を説明したうえで、セミナーで実施した対談とQ&Aの内容を紹介します。生成AIを用いることで営業の現場はどのように変わるのでしょうか。また、営業部門においてAIに期待される将来的な役割とは何でしょうか。生成AIを取り入れた新時代の営業活動を具体的に見ていきましょう。

    ※「営業総合研究所」 「インテリジェントセールス」 「インテリジェントセールスプロセス」は、株式会社セレブリックスの商標又は登録商標です。

    企業における生成AIの活用は初期段階

    株式会社セレブリックスが2023年に実施した生成AIの活用に関する調査では、「生成AIツールやサービスを導入・使用していない」と答えた企業が44.0%、「全社的に使用が許可されていない、あるいは禁止されている」と答えた企業が28.1%という結果でした。生成AIをビジネスに取り入れようとする動きはあるものの、全体の7割以上が生成AIを活用していない状況が明らかになりました。

    生成AIの使用率が低い理由として、「正しく使えるかどうかが不安」「具体的な活用方法がわからない」と感じている人が多いことがあげられます。

    営業職においても、生成AIの活用が本格的に始まるのはこれからといえるでしょう。
     

    生成AIを営業活動に取り入れることで起きる変化

    ここでは、生成AIを営業活動に取り入れることで起きる変化を具体的に解説します。
     

    営業担当者の業務効率化とスキルアップに役立つ

    生成AIを活用すると、業務にかかる手間や時間の節約になり、業務効率化が可能です。

    例えば、生成AIの分析によって、案件につながりやすい見込み客のリストを作成できます。見込み客のリストを上から順番に架電するような従来の営業スタイルから脱却できることは、大きな変化といえるでしょう。

    ほかにも、顧客情報をもとにしたメール文章の作成を生成AIで行ったり、商談先の下調べや雑談のネタ出しに活用したりと、アイデア次第でさまざまな業務効率化に役立ちます。

    また、生成AIを営業担当者のスキルアップに活用する方法もあります。AIに商談相手の条件をインプットしたうえでロールプレイングの相手をしてもらうと、より実践的な練習が可能です。提案内容を第三者に話してブラッシュアップする「壁打ち」の相手としても、生成AIは大いに役立つでしょう。
     

    顧客体験の質を高められる

    生成AIを活用するメリットとしてよくあげられるのは業務効率化ですが、顧客体験の質を高めるうえでも重要な役割を担っています。

    営業のスタイルは、商品提案型に加えて、顧客の抱える課題を解決する課題解決(ソリューション)型営業や、顧客の問題を先回りして発見し解決に導く主導(コンサルティング)型営業など、時代とともに変化しています。とくに主導型営業では、顧客の業界やビジネスへの理解(= 深い顧客理解)が不可欠です。

    しかし、主導型営業は、顧客も気付いていないニーズを掘り起こす必要があるため難易度が高いといえます。業界に特化した課題を見つけ出すことは、なおさら難しいでしょう。事前の情報収集や業界・顧客理解のためのインプットに時間がかかると、本来最も時間を割くべき顧客との対話量が減ってしまうというジレンマもあります。

    HubSpot Japanが国内の営業担当者・責任者約1,500名を対象に行った「日本の営業に関する意識・実態調査2024」では、営業担当者が顧客とのやりとりに使っている時間は、業務時間の54%で理想としては平均で「1日に25分」顧客と接する時間を増やしたいと感じているいう結果が出ています。

    意識・実態調査2024 データ集
    ダウンロードする→

    顧客と対話する時間を増やし、より顧客理解を深めるためには、商談までの限られた時間でいかに効率よく情報収集を行えるかが鍵です。

    生成AIを情報収集に活用することで、見込み客の業界事情や現状の課題、将来性などにつながるヒントが見つかる可能性があります。生成AIで収集した内容をもとに提案を行うことで、見込み客に「自分たちのことをわかってくれている」と感じてもらうことができるでしょう。商談もスムーズに進み、結果的に顧客体験の向上につながります。

    ほかにも、顧客の心をつかむ「For You メッセージ」を生成AIで作成するなど、アイデア次第で顧客体験の質を高めることが可能です。

    詳しくは、今井氏の書籍「The Intelligent Sales」をご参照ください。
     

    生成AIを活用する際の注意点

    生成AIを活用する際は、著作権などのルールを押さえることが基本です。生成された文章や画像を資料へ使う際などは、著作権に触れていないか確認しましょう。

    学習データの誤りやプロンプトの不正確さによって誤った解釈をして出力する「ハルシネーション」にも注意しなければなりません。「AIは不完全なものである」と認識したうえで、出力された情報の信憑性を人間が判断することが大切です。

    取引先が生成AIの使用を禁止している可能性にも、配慮が必要です。例えば、「商談の内容を生成AIに読み込ませている」と伝えると、不快に思う取引先もいるでしょう。企業における生成AIの活用は道半ばであることを理解し、相手の価値観を尊重しながら、良い関係性を築くために生成AIを活用するのがポイントです。

    また、生成AIはあくまでも対話型であることを理解し、一度ですべての回答を求めないことも大事です。返ってきた回答をもとに追加で質問をするなど、プロンプト&ラリーを行って情報の密度を高めていきましょう。

    次章からは、株式会社セレブリックスの今井 晶也氏と、HubSpot Japan株式会社 シニアマーケティングディレクターの伊佐 裕也による対談の内容を紹介します。

    <今井晶也 氏プロフィール>

    株式会社セレブリックス 今井晶也 氏
    セールスカンパニー 執行役員 カンパニーCMO
    セレブリックス営業総合研究所 所長 兼 セールスエバンジェリスト

    セールスエバンジェリストとして、法人営業・法人購買・営業とAIの実務に関する研究を行う。2021年8月には “Sales is 科学的に「成果をコントロールする」営業術” を扶桑社より出版。営業本のベストセラーとして累計出版数が5万部を超える。2022年7月には単著二作目として “お客様が教えてくれた「されたい」営業” を出版。

    2024年4月25日に待望の3作目として、 “The Intelligent Sales AIを活用した最速・最良でクリエイティブな営業プロセス” を翔泳社から発売。生成AIと営業に特化した国内最初の書籍として注目を集める。

    出典:今井晶也|セレブリックス

     

    営業組織における生成AI活用の成功事例

    まずは、営業組織における生成AI活用の成功事例について、今井氏にお話しいただきました。

    「会社の規模が大きいほど、無駄な業務を減らし、顧客とのコミュニケーションに使う時間を増やすことで顧客体験を高めることを意識しているのではないでしょうか。

    人材サービスを展開するディップ株式会社では、2,000名以上の営業担当者に生成AIの活用を促しました。特定の営業担当者が生成AIの活用方法を伝える『アンバサダー』になり、ほかのメンバーに生成AIをより身近に感じてもらえるようにサポートしています。ピアプレッシャー(同僚からの良い圧力)によって、『自分も生成AIを使ってみよう』と考える人が増える仕組みですね。

    API連携によってビジネスチャットに生成AIを組み込むことで、ほかのツールを開かずに活用できる環境を整えていることもポイントです。

    生成AIは、従業員にとって未知のものです。活用の前に、まずは生成AIに慣れることから始めなければなりません。そのためには、まず企業のトップが『生成AIを活用する』と意識を固めることが重要です。生成AIの活用をきっかけにDXを進めるのも良いのではないでしょうか。」(今井氏)
     

    生成AIの進化が今後の営業組織に与える影響

    「昨今、生成AIが普及することで『営業担当者が必要なくなる』ともいわれていますが、営業組織にどのような影響があると考えますか。」(伊佐)

    「まずは、新人営業担当者であっても、ベテランならではのノウハウを手繰り寄せやすくなったことがあげられます。

    勘や経験、製品に関する情報、課題解決の方法など、従来は長年の実績がある営業担当者が多くの情報を持っていました。しかし、現代では誰でもアクセスできる情報が飛躍的に増えています。新人営業担当者も、社内の営業ノウハウや顧客のビジネスに関する情報を集めやすくなっているということです。」(今井氏)

    「生成AIの普及によってロールプレイングなどの経験も積みやすくなっているので、営業担当者がスキルアップするスピードが上がるかもしれませんね。ただ、今井さんの書籍『The Intelligent Sales』の冒頭でも触れられていた、『営業業務の効率化はできても人間関係の効率化はできない』というのは重要なポイントだと感じました。営業としてのスキルを身につけることを効率化したら、今度は身につけたスキルを使って顧客とどのように関係を築いていくかが問われます。それが営業の役割になるのでしょうね。」(伊佐)

    「そうですね。『生成AIの普及によって営業担当者が必要なくなる』という話にもつながりますが、顧客が人間である以上、AIが人間の仕事を奪うことは簡単ではありません。」(今井氏)

    「しかし、生成AIを活用するかしないかで営業のパフォーマンスは確実に差が出ますね。」(伊佐)

    「そこは間違いないと思います。上司が部下に仕事を割り振るときも、重要な案件は良い仕事をする人に任せたいと思うでしょう。生成AIを活用して良い仕事をする人に仕事が集まっていくということを考えると、使えるようになったほうが得ですよね。そういう意味では、AIが人の仕事を奪うのではなく、AIを使いこなせる人に仕事が奪われていくといえるかもしれません。」(今井氏)
     

    将来的に期待したい生成AIの活用方法

    「生成AIの先進的でおもしろいと思う使い方や、将来的にこういうことができたら良いなと思うことがあれば、ぜひ教えてください。」(伊佐)

    「私の場合は、井戸端会議のような使い方をすることが多いです。営業担当者がアイデアをたくさん持っていると、取引先に示唆を与えられたり、良いディスカッションができたりしますよね。そのような形で、何かの考察や準備をするときに生成AIを使っています。」(今井氏)

    「HubSpotでは、相手から価値を受け取る前に、こちらから価値を提供するという『インバウンド』の思想を大切にしています。生成AIを活用したアイデアを商談で提案できれば、会話も弾みそうですね。生成AIが顧客体験の向上に役立つというわかりやすい例だと思いました。」(伊佐)

    「そうですね、相手に新たな提案をする『GIVE型営業』になるチャンスだと思います。逆に伊佐さんにお聞きしたいのですが、CRMやSFAの世界では、AIを活用してどのようなことができるようになっていくのでしょうか。」(今井氏)

    「究極的には、CRMやSFAに蓄積された情報をもとに、お客様ごとにメールの内容を出し分けられるようになるといいですよね。一般的には「業種」などのざっくりとしたセグメント分けが主流ですが、CRMやSFAの情報をもとに、お客様を惹きつけるメッセージを個別に作成できるのが理想です。」(伊佐)

    「生成AIの使用を躊躇している人には、『当たり障りのない情報しか出てこないのでは?』と考えている方もいらっしゃると思います。CRMやSFAの情報を活用することで、相手の心をつかむメッセージの自動生成も可能になりそうですね。生成AIが加わることで、CRMやSFAが『管理』から『攻め』のツールに変わるようなイメージを持ちました。情報があるから『攻め』が可能になるというのは、未来のCRMやSFAとの向き合い方かもしれません。」(今井氏)
     

    初めて生成AIを営業活動に使う方へのアドバイス

    「初めて生成AIを活用する方は、何から始めるべきなのか迷うと思います。ぜひ、アドバイスをお願いします。」(伊佐)

    「組織の場合と個人の場合で、回答が変わってきます。組織の場合は、現状の営業プロセスを棚卸しして『ムリ・ムダ・ムラ』を発見し、どのように改善するかを考えるというのがセオリーだと思います。個人の場合も、やはり遊びではなく仕事で使ってみてほしいですね。そこで重要になるのが、上司の協力です。部下が上司に何かを質問したときに、上司には『AIは何て言ってるの?』と答えてほしい。そうすると、まずAIで調べることが当たり前になり、AIが日常にフィットしていくのではないでしょうか。

    また、営業活動の振り返りに使ってみるのもおすすめの方法です。例えば、実際に商談を行ってから、全く同じ商談の準備に生成AIを使ってみて、得られたアウトプットを実際の商談内容と比較してみます。まだ起きていないことについて生成AIを使っても、『どこまで情報が正しいのだろうか』と考えてしまうと思いますが、振り返りであれば答え合わせができます。」(今井氏)

    「答えがあるなかで生成AIを使ってみて、『良い示唆を与えてくれるな』と感じることができれば自信になりますね。積極的にAIを使ってみようという動機付けになると思います。」(伊佐)
     

    生成AIに関するQ&A

    Q. セレブリックスさんの社内における生成AI活用の成功事例を教えてください。

    一番わかりやすいところでは、反響営業に活用しています。反響営業では、問い合わせに対して5分以内に回答しないと着電率が下がるといわれています。限られた時間のなかで、可能な限り良い情報を出すために生成AIが活用可能です。生成AIを使って、業界に精通している人でないとわからない課題などを情報収集します。(今井氏)

    Q. ロールプレイングなどにAIを活用する場合、読み込ませる事前情報はどの程度の粒度で必要なのでしょうか。

    いろいろ試してみることが大切ですが、商品に関する情報は前提として必要です。その情報をまとめるのにAIを使うこともできます。ロールプレイングに必要なペルソナなども、AIにアイデア出ししてもらうと良いでしょう。例えば、生成AIにペルソナの案を20案出してもらい、そのなかで良いものをいくつか選びます。次に、それらの案が良いと思った理由(=共通点)をAIに言語化してもらい、言語化した内容を反映した案を、新たにAIに作ってもらいます。このように、プロンプトをラリーすることで出力の精度を高めることが可能です。(今井氏)

    Q. セレブリックスさんのロールプレイングにおける生成AIの活用方法を教えてください。

    仕草や性格など、顧客のコミュニケーションスタイルを生成AIに指定して演じてもらう方法があります。自分の苦手なタイプの人を演じてもらうと、良い練習になるでしょう。(今井氏)

    Q. 実際に業務が楽になった経験があれば教えてください。

    CRMやSFAに入力する情報をあらかじめプロンプトで指定しておいて、商談の動画を文字起こししたものから拾ってもらっています。(今井氏)

    HubSpotに組み込まれている生成AIは、CRMやSFAへの情報入力に対応しており、実際に営業チームが活用しています。動画の文字起こしや要約、ネクストアクションをまとめるなどの作業、顧客へのメール送信も可能です。(伊佐)

    Q. 見込み客の創出に生成AIを活用する方法はありますか。

    まずは、「自分が得意とする見込み客はどのような特徴があるのか」を言語化することが重要だと思います。前提として具体的な顧客情報は伏せる必要がありますが、これまでに受注した顧客の特徴をペルソナ情報として生成AIに入れてみてはどうでしょうか。その情報をAIに要約してもらい、自分の得意とするターゲット層を導き出します。さらに、そのターゲット層に響くコンテンツをAIに考えてもらいます。営業担当者がそれまでに接触した顧客の傾向をAIにインプットすると、ニーズに合ったコンテンツが量産しやすくなります。(今井氏)

    Q. ロールプレイングは下準備せずにいきなりできるものでしょうか。

    下準備なしでも問題ありません。ただし、前提条件として顧客情報などは入れておくと良いでしょう。実際の顧客の傾向を反映したプロンプトの図書館のようなものを作っておけば、コピペで使えるので便利です。(今井氏)

     

    生成AIをスマートに活用するには、泥臭く使い続けることが大切

    最後に、生成AIの活用について今井氏にメッセージをいただきました。

    「新しいことを習慣化するまでには、ある程度の時間が必要です。生成AIも同様で、導入したからといって、すぐに使いこなせるようになるわけではありません。生成AIの恩恵を受けるのは少し先の話であると認識したうえで、使い続けることが大切です。『知的でスマートにAIを使いこなすまでには、ちょっとした泥臭さが必要』と覚悟を決めると良いかもしれませんね。」(今井氏)

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