現在、さまざまな企業で積極的に進められている業務改善プロジェクト。2000年以降のIT技術の急激な進化、日本でも進む働き方改革、そして2020年の急激な変化を機に、その動きはますます加速しています。
一方で、業務改善といっても、具体的にどのような考え方のもとで、どう進めていけば良いのか、イメージがつかない方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、一般的な業務改善プロジェクトの進め方や注意点、活用できるフレームワークやツールを紹介します。
時短実現のためのヒント!業務効率化チェックシートとツール選定のコツ
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業務改善とは? 混同しがちな関連用語も合わせて理解しよう
そもそも、企業活動における「業務」とは、資源であるヒト・モノ・カネを駆使して、商品・サービスなどを作り出して世の中に提供することなどを意味します。
それを踏まえると、「業務改善」は企業活動をより良くするために、ヒト・モノ・カネといった資源の流れを見直すことだといえます。
一方で、業務改善にもさまざま側面があります。ここでは、この業務改善と混同しがちな3つのワードとの違いをみていきましょう。
BPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)
BPM(Business Process Management)とは、企業活動における各業務プロセス(ビジネスプロセス)全体に着目し、最適化に向けた改善を「継続的」に施していくアプローチとなります。
BPMによって企業の業務プロセスが最適化されることで、様々なコスト削減に伴う利益の向上はもちろん、顧客満足度やNPS(Net Promoter Score=ネットプロモータースコア)の向上、ビジネス展開の高速化、人材育成の効率化、品質の向上など、各業務プロセスに付随した様々なメリットを享受できます。
BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)
BPR(Business Process Re-engineering)とは、企業活動における業務プロセスを「抜本的」に改善するアプローチとなります。
業務プロセスに着目して改善を施していく、という観点では先ほどお伝えしたBPMに似てはいますが、BPMが継続的な取り組みであるのに対して、BPRは抜本的な改善を一気に一度で行うのがほとんどです。
またその適用範囲も、BPMが各業務にフォーカスするのに対して、BPRは会社全体の業務再構築を進めます。例えば、統合業務パッケージソフトであるERPの導入は、まさにBPRプロジェクトの1つと言えるでしょう。
BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)
BPO(Business Process Outsourcing)とは、企業の業務プロセスの一部を外部業者へと委託することです。BPMやBPRが業務改善の全体的な進め方を示すものであったのに対し、BPOは業務改善を具体的に進めるための手法の一つと言えるでしょう。
例えばグループ会社の給与計算業務全体を見直すべく、外部の業者に計算業務をお願いして、シェアードサービスセンター対応にするといった取り組みは、典型的なBPO業務の一つだと言えるでしょう。
業務改善の目的と「QCD」の考え方
業務改善を行う目的は先述の通り、会社全体の生産性を上げて売り上げ・利益を向上させるため、経営計画を達成するためのプロセスを最適化することにあります。
ここでポイントとなるのが、「業務改善≠経費削減」、ということです。経費削減はあくまで効果の一つであって、それ自体が目的にはなりません。
ビジネスの世界では「QCD」という概念が根底にあります。Qは品質を示す「Quality」、Cはコストを示す「Cost」、そしてDは納期を示す「Delivery」です。上述のコスト削減はCにあたりますが、本来はQ,Dとともに3つを向上させる必要があります。Qの向上とCの維持・削減、そしてDの短縮化をバランスよく進めていくのが理想であり、それによって最適な業務プロセスが構築できるのです。
業務改善を進める4つのメリット
以上のQCDの考え方に則ると、業務改善を行うメリットは以下の4点が挙げられます。
1, 品質の向上
1つ目は品質の向上です。QCDの「Quality」の部分です。
製品やサービスにとって、品質の担保は非常に大切な考え方です。品質が低いと、顧客満足度やNPSの低下を招き、中長期的なLTVの低下に伴う売り上げ減少につながります。
業務改善を進めることで、品質を向上させ、顧客満足度の向上も期待できます。
2, コスト削減
2つ目はコストの削減です。QCDの「Cost」の部分です。
品質の向上をはかろうとすると、それに比例してコストが増加しがちです。
しかし、先ほどもお伝えした通り、重要なことはQCDのバランスをとることです。過剰品質にならないようにコストの折り合いをつけ、必要に応じて削減できるコストは削減する。業務改善を行うことで、このようなコスト削減も期待できるでしょう。
3, 生産性向上による納期の短縮化
3つ目は、生産性向上による納期の短縮化です。QCDの「Delivery」の部分です。
業務改善によって業務が最適化されると、業務にかかる時間が減り、従業員の生産性向上が実現します。それにより、顧客への商品・サービスの納期も短縮化されるでしょう。
もちろん無理に短縮化すると、品質低下やコストの増大につながります。あくまでもQCDのバランスを考えながら最適化を進めるのが理想です。
4, 労働環境の改善
QCDのバランスを取りながら業務改善が進むと、労働環境の改善も実現します。
現場の生産性が向上すると、その分、従業員が既存業務にかける時間も短縮化されます。これにより、今までより早く退勤したり、また新たな業務改善の取り組みが進められるでしょう。
良い商品・サービスの提供と従業員満足度の間には、相関関係があることがデータでも明らかになっています。労働環境の改善も、経営計画達成のための重要なポイントであるといえます。
業務改善を実現するために活用したいフレームワーク5選
業務改善を進める際は「フレームワーク」の活用がおすすめです。実際にどのようなフレームワークがあるのか見ていきましょう。
1, BPMN(ビジネス・プロセス・モデリング表記)
BPMN(Business Process Modeling Notation)は、業務プロセスの流れを簡略的に図式化するものです。
業務プロセスは複雑に形成され、部門間をまたがっていることも多く、それぞれを詳細に把握するのは困難です。しかしBPMNを活用すれば、複雑な業務プロセスをモデルとして可視化し、誰が見ても分かるようになります。
一つひとつの業務を、一種の部品のような形で表現して組み立てることで、ボトルネックになっているプロセスを発見しやすくなります。これにより、改善するべきポイントが明確になり、システム導入などの改善策も進めやすくなるでしょう。
2, バリューチェーン分析
バリューチェーンは「価値の連鎖」を意味しますが、業務改善の文脈では、各業務を機能ごとに細分化し、どのような流れで業務が連なるのか見える化するフレームワークを指します。
バリューチェーン分析を行うことで、各業務でどのような付加価値が生み出され、またどこに問題があるのか明らかになるのです。
3, ロジックツリー
ロジックツリーとは、一つのキーワードから派生するキーワードを、樹形図状に挙げていくことで、問題の原因を掘り下げていくフレームワークです。メイン業務に紐つくサブ業務を論理的に洗い出し、分析・検討する際に有効な手法を探ります。
ロジックツリーを駆使すれば、業務にまつわる諸問題の原因や手段の関係性を明確にでき、ボトルネックとなる事象への対応を検討しやすくなるでしょう。
4, ECRS(イクルス)
ECRSとは、業務改善を進める「順番」と「視点」を示すフレームワークです。
E(Eliminate:エリミネート)とは、不必要な業務や物、ルールを無くせないかを検討することで、C(Combine:コンバイン)は、個別に分散している業務をまとめることができないか模索します。またR(Rearrange:リアレンジ)では業務の再整理や効率化を検討し、S(Simplify:シンプリファイ)は、業務をより単純化できないか検討します。
このECRSを文言の順番で進めることで、煩雑かつ不要な業務が整理され、業務の省力化と効率化が実現します。これにより、新しいビジネスに挑戦するリソースなどを生み出せるでしょう。
5, KPT
KPTとは、いわゆる「ふりかえり」によって業務改善を行うフレームワークです。
K(Keep)では良かったことなどを書き出し、P(Problem)では悪かったことなどを列挙し、T(Try)では次回挑戦することを挙げます。ホワイトボードや模造紙にふせんを貼り出していくワークショップのような形で進めるのがおすすめです。
これにより、具体的な問題点があぶり出され、業務のボトルネックをより具体的に把握できるようになります。
4つのステップで、業務改善を成功に導く
業務改善は、大きく「業務分析」と「業務効率化」の2つのフェーズがあり、合計で4つのステップに分けられます。そこで、まずは業務分析の2ステップを見ていきましょう。
1. 業務の可視化と現状把握
業務改善の最初のステップとして、現状把握が欠かせません。現在行なっている業務の内容や担当している社員、業務フロー、各業務の業務量などを可視化します。
また必要に応じて現場で使用されているマニュアルをチェックしたり、現場へ直接ヒアリングを進めるなどのアクションも行いましょう。
現状把握のポイントは、できる限り定量的に業務を捉えることです。先ほどご紹介したBPMNなどのフレームワークを活用しながら、可視化しましょう。
2. 課題点の洗い出し
洗い出した業務の現状に対して、どこにどんな課題が潜んでいるか探ります。
ここでも、先ほどご紹介したイシューツリーなどを使い、課題がどこにあるのかを分析していきましょう。
業務分析が完了したら、次は「業務効率化」のフェーズに移ります。業務効率化にはどのような作業が求められるのか、2つのステップを見ていきましょう。
3. 改善計画とKPIの策定
まずは、先ほどの作業で列挙した課題に対する改善案を挙げます。そして、それらを具体的な施策に落とし込み、優先順位をつけて改善計画へと落とし込みます。
ここで重要なのは、最終的なKGIを策定し、その上で各種KPIを策定することです。一般的なKPIツリーのような樹形図状に設けるとわかりやすいでしょう。
4. 改善の実行を伴うPDCAの実施
KPIの策定が完了し、改善計画が立案されたら、実際にプランを実行します。
これは「一回実行して完結」ではありません。改善して業務状況を俯瞰してチェックし、その上でまた課題が発生したら同様のプロセスを踏んで改善します。このようなPDCAサイクルが、業務改善では重要となるのです。
業務改善を促進するなら、ツール活用が◎
業務改善の実行は、それに特化したツールを使って実施するのがほとんどです。ここでは、以下のカテゴリに分類してツールをご紹介します。
- 営業・マーケティング
- カスタマーサポート
- 経理・総務
- 人事
1, 営業・マーケティング
b→dash
データ統合テクノロジーであるData Palette機能が搭載されている「b→dash」では、顧客とのOne to Oneマーケティングを進める上でさまざまな機能が実装されています。ノーコードで使えるテンプレート数も多いので、プログラミングが苦手な人でも扱いやすい仕様となっています。
Marketo Engage
5,000社以上の導入実績があるグローバルなマーケティングツール「Marketo Engage」は、アドビが提供するMAツールです。マーケター視点で設計されたプラットフォームとして、各種パートナーソリューションとの連携が充実しており、サポート体制も充実しています。
Senses
クラウド営業支援ツール「Senses」は、営業マンの入力負荷を最小にして、その分を顧客コミュニケーションなどに充当できるように設計されたSFA(営業支援システム)です。
もちろん、入力負荷を下げるだけでなく、蓄積された情報を簡単に分析できるようにも設計されており、現場の運用にフィットしやすい仕様になっています。
Notia
同じ営業支援ツールでも、「Notia」はメール業務に特化した支援ツールです。AIエンジンが、重要なメールの自動仕分けや返信漏れなどの検知し、また日程調整メールを自動化するなど、煩雑なメール付随業務の省力化を実現します。
HubSpot CRM
見込み客や顧客を管理できる統合的なCRMツールとして提供されている「HubSpot CRM」は、無料にもかかわらず、顧客情報の収集・管理から各種リードとのコミュニケーションまで、実に多くの機能が実装されています。
例えば営業部メンバーとしては、顧客情報が一元管理されることで案件管理が効率化されるだけでなく、新規アプローチや既存顧客へのフォローなども容易になります。企業活動に必要な情報を集約管理できるプラットフォームとして、今後も進化し続けるでしょう。
2, カスタマーサポートで使えるもの
Zendesk
カスタマーサポートを効率的に行える統合型ソリューション「Zendesk」は、電話やチャットなど、異なるチャネルからの問い合わせを一つの画面で集約管理・対応ができるサービスです。
スタッフ同士の情報共有がスムーズになるだけでなく、顧客からの問い合わせに対する回答のテンプレートも柔軟に作成できます。
AI Messenger Chatbot
カスタマーサポート向けAIチャットボット「AI Messenger Chatbot」では、累計100社以上の運用実績をベースにした導入時の分析によって、精度が高い回答を提供します。また、AIによる自動応対のみならず、有人によるチャット対応を組み込めるのも特徴です。
3, 経理・総務で使えるもの
freee
日々の経理データを簡単に入力できる「freee」を使うことで、経理・総務スタッフは確定申告書類の作成がスムーズに進み、また従業員も自宅から経費清算の書類などが提出できるようになります。また、毎月の運用でしっかりとデータを入力すれば、経営状況もリアルタイムで把握できます。
Tayori
クラウド情報整理ツール「Tayori」では、メールフォームやチャットフォームなどを通じて、社内の情報を一元管理できます。たとえば、総務部門スタッフなら様々な社内設備の取扱情報をまとめて展開したり、従業員アンケートを通じて社内環境の改善を行うなどの活用方法が挙げられます。
4, 人事で使えるもの
Smart HR
クラウド人事労務ソフト「SmartHR」では、従業員が直接個人情報を入力できるように設計されており、年末調整や算定時期におけるさまざまな書類・帳票類を自動的に作成できます。給与計算はもちろん、人事業務全般をサポートするツールとして注目を集めています。
HRBrain
クラウド人材管理サービス「HRBrain」は、従業員の目標管理と評価に特化したソリューションです。評価プロセスの最適管理はもちろん、従業員のスキル管理や目標管理といった管理業務や、人事評価制度のシステム化なども支援する機能を有しています。
自社の業務課題に沿った改善プロジェクトを進めよう
ここまでみてきた業務改善ですが、実施にあたって注意点もあります。
業務改善プロジェクトは様々なステークホルダーが関わることになります。各ステークホルダーの立場に立ってプロジェクトを進めないと、思わぬ形で社内の反発を招くこともあります。十分な説明と社内調整を行いながら、業務改善プロジェクトを進めるようにしましょう。
またBPOなどアウトソースありきではなく、自社でできることは何か模索する必要もあります。BPOを活用するまでもなく改善できる業務もあるでしょうし、その方が余計なコストをかけずに済むでしょう。
業務改善と言っても、どのくらいの規模で進めるかによって、進め方も予算もチーム体制も大きく変わってきます。ここでは一般的な進め方を紹介しましたので、本記事を参考に、自社の業務課題に沿った改善プロジェクトを進めましょう。