ERP(Enterprise Resource Planning)とは、企業が持つ「カネ」や「ヒト」といった経営資源を一元管理し、効果的に活用するためのツールです。
マーケティングオートメーションの基礎&実践ガイド
業務効率化しながら、顧客視点の施策を実施するためのノウハウがつまった成功事例付きガイド
- MAの導入で解決できること
- MAの主な機能
- MA導入から運用の流れ
- MA実践例
今すぐダウンロードする
全てのフィールドが必須です。
ERPは、さまざまなベンダーによって開発されていますが、なかでもSAP(SAP ERP)は、知名度の高いERPのひとつです。製造・調達・物流・販売・会計といった幅広い業務領域に対応可能で、「モジュール」と呼ばれる機能でデータを一元管理できます。
本記事では、SAP ERPの仕組みや代表的な機能、導入時の注意点などを解説します。ERP製品を比較検討している方は、ぜひ参考にしてください。なお、本記事の情報は2024年8月時点のものです。
SAPはERP製品の一つ
SAPは、ドイツに本社を構えるSAP社が提供しているERPです。正式名称は「SAP ERP」で、「サップ」と呼ばれるケースもありますが、正式には「エスエーピー」と読みます。
SAPの特徴
ERPには、生産管理や在庫管理、販売管理などの業務に関する情報を一元管理するための機能が搭載されています。ERPが登場した当初は、大手企業を中心に大規模なシステム構築を目的として導入されるのが一般的でした。その後、ERPが中小企業にも広がっていき、小規模運用に適したERPのニーズが高まっていった背景があります。
SAP ERPは、必要な機能(モジュール)を組み合わせて小規模運用が可能であることが大きなメリットです。大企業から中小企業まで、ニーズに合わせた運用が実現できます。
また、各業界の特徴に最適な機能が標準搭載されており、連携可能な外部アプリケーションも豊富なので、アドオン開発の追加コストを最小限に抑えられます。
SAPが提供するERPパッケージ
SAPでは、大企業向けと中堅・中小企業向けに3種類のERPパッケージを提供しています。
<大企業向け>
S/4HANAは、従来のR/3、ECCからバージョンアップしたタイプです。ECCではオンプレミスがメインでしたが、S/4HANAではオンプレミスとクラウドの両方を利用できます。
<中堅・中小企業向け>
Business Oneは、S/4HANAの製品から一部の機能を減らして、中小企業向けにアレンジされたタイプです。会計・財務・購買・在庫・販売・顧客管理(CRM)などの業務領域に対応しています。
Business ByDesignは、財務・販売・製品管理・購買などにおける事前構築を、ベストプラクティスにより効率的な事業成長につなげるサービスです。人事・経理・財務・サプライチェーンなどに対し、39のビジネスシナリオを提供しています。
SAP ERP導入のメリット
ここでは、SAP ERPを導入するメリットを詳しく解説します。
必要な機能のみ厳選して利用できる
SAP ERPは、「モジュール」と呼ばれる単位で複数の機能が細分化されています。例えば、財務諸表や総勘定元帳を管理できる財務会計モジュールや、見積もり・受注・出荷までのプロセスを一元管理できる販売管理モジュールなどが代表的です。
それぞれのモジュールは単体としてはもちろん、複数の組み合わせにも対応しています。そのため、対象業務や要件に合わせて柔軟にシステムを構築できるのが特徴です。幅広い機能を一括利用できる総合型のERPを導入すると高額な費用がかかりますが、必要な機能のみ厳選して利用できるSAP ERPであれば、コストの最適化につながります。
グローバル展開に対応しやすい
グローバル展開に強いのもSAP ERPの特徴です。展開している地域は130か国以上、1,000地域以上にのぼり、対応言語も40種類を超えます。多国籍展開がゆえに対応している通貨も豊富です。
一方で、多言語や多通貨に対応していないERPでは、各国の税制度や商習慣に個別対応できるよう、拠点ごとに異なるシステムを導入しなければなりません。SAP ERPであれば、1つのシステムで複数のグローバル拠点に対応できます。IFRS(国際財務報告基準)に対応しているのも特徴です。
機能の追加開発にかかる費用や工数を削減できる
SAP ERPには、「SAP Business Technology Platform(旧SAP Cloud Platform)」が用意されています。そのなかでERPに標準搭載されていない機能の拡張やアプリケーション開発が可能です。
従来、ERPの未実装の機能を追加するには、アドオン開発が必要でしたが、SAP Business Technology Platformを活用することで効率的に機能の拡張や開発が可能になります。例えば、データ分析基盤の構築やAI機能の実装などが含まれます。
SAP ERPの主なモジュール例
SAP ERPに搭載されているモジュールとしては、次のような種類があります。
- 生産管理(PP)
- 購買管理(MM)
- 財務会計(FI)
- 管理会計(CO)
- 設備管理(EAM)
- 販売管理(SD)
- 資金管理(TR)
- 人事管理(HR)
- プロジェクト管理(PS)
- 倉庫管理(EWM)
- 輸送管理(TM)
代表的な5つのモジュールを抜粋して紹介します。
1. 生産管理(PP)モジュール
生産管理(PP)モジュールは、工程管理や生産指示、実績計上など、生産管理に必要な全般的な機能を搭載しています。また、計画手配を行う際に製造指図を作成し、工程管理や入庫処理として活用できるのも特徴です。システムに登録された生産量や工程別の作業時間といったデータは、原価管理モジュールに反映できます。
2. 在庫購買管理(MM)モジュール
在庫購買管理(MM)モジュールは、品目計画から入出庫管理、購買管理、請求書照合までの、在庫管理の一連のプロセスに対応しています。在庫の状態を正確に把握できるため、余剰在庫の削減や発注業務の効率化につながります。また、財務会計モジュールを連携すると、購買入庫や製品出庫といった区分別の仕訳が可能です。
3. 販売管理(SD)モジュール
販売管理(SD)モジュールは、見積書作成から受注、発送、入金までの流れを一元管理するためのモジュールです。売上データが記録されるため、財務会計モジュールと連携して会計管理を効率化したり、BIツールとの連携で売上予測を行ったりと、さまざまな形で活用できます。海外への発送に対応したサブモジュールを利用できるのもポイントです。
4. 財務会計(FI)モジュール
財務会計(FI)モジュールでは、損益計算書や貸借対照表、総勘定元帳など、社外向けの財務諸表を作成できます。財務諸表を作成するには、販売や生産、在庫などの幅広い情報が必要です。そのため、モジュール同士の連携範囲が広く、さまざまなデータを1か所に集約できます。
5. 人事管理(HR)モジュール
人事管理(HR)モジュールは、勤怠管理や給与計算、福利厚生管理など、人事管理に必要な幅広い機能を備えています。また、タレントマネジメントやパフォーマンス管理の機能により、人的資本管理を効率良く実施できるのもメリットです。頻繁に役職変更や配置転換が行われる企業に向いています。
SAP ERPを導入する際に注意すべきポイント
SAP ERPを導入する際は、いくつか注意すべきポイントが存在します。それぞれの注意点を押さえたうえで、事前に必要な対策を行いましょう。
モジュールを増やし過ぎるとコストや時間がかかる
SAP ERPでは、モジュールによって柔軟にシステムを設計できるため、導入に必要な費用や工数にも大きな差が現れます。特に大規模なシステムを構築しようと思えば、導入コストが高額になったり、導入期間が長期化したりするケースもあります。
そのため、まずはスモールスタートで限定的な範囲から費用対効果を検証することが大切です。段階を追って徐々にシステムを拡張することで、組織内が混乱するリスクを避けつつ、よりスムーズな定着を図れます。
システム構成によっては専門的な知識が求められる
SAP ERPでアドオン開発をする場合、「ABAP(Advanced Business Application Programming)」と呼ばれる独自のプログラミング言語を用いるケースがあります。ABAPはSAP製品独自の言語なので、いちから知識や技術を習得しなければなりません。そのため、ABAPに精通した人材の採用や従業員の教育が必要になることもあります。
ABAPを習得するのに時間や費用がかかる場合、JAVA言語をベースにアプリケーション開発を行えるSAP Business Technology Platformを活用するのも一案です。
SAP ERPは2027年でサポートが終了
SAP ERPは、2027年をもって標準保守サービスが終了します。セキュリティプログラムは引き続きアップデートされるものの、SAP社からのサポートが受けられず、新たな課題が発生する可能性があるため、早めの対策を心がけることが大切です。
対応策としては、SAP社の最新型ERPであるSAP S/4HANAに乗り換える方法があげられます。他社製品に乗り換える場合と異なり、SAP ERPを利用してきたノウハウをそのまま活かせるのがメリットです。そのほか、SAP ERPがうまく定着しない場合は、この機会に他社製品へと移行するのも良いでしょう。
いずれの方法を採るにせよ、データの移行に際して業務フローを見直したり、必要なデータを洗い出したりといった準備が必須です。
SAP ERPを活用して自社独自のシステムを構築しよう
SAP ERPではモジュールを組み合わせて独自のシステムを構築できるため、大規模な基幹システムの構築からスモールスタートでの導入まで、幅広いニーズに対応可能です。自社の要件に沿ってシステムを最適化すれば、最小限の費用でERPを導入できます。
しかし、その分、独自のシステムを構築するには各モジュールに対する深い理解が必要です。まずは現状の課題をもとに、導入目的や対象業務を明確にしましょう。そのうえで、モジュールごとの役割や組み合わせによる効果を入念に検証することが大切です。
SAP ERPの特徴やメリットを理解したうえで、導入を検討してみてください。