コアコンピタンスを確立するには?分析ポイントと成功事例を解説

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水落 絵理香(みずおち えりか)
水落 絵理香(みずおち えりか)

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コアコンピタンス(Core Competence)とは企業のもつ「強み」の中でも競合他社には真似できない「中核的な力」を意味します。

コアコンピタンスを確立する方法とは|分析ポイントと成功事例を解説

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製品のライフサイクルが短くなり、「企業寿命」という言葉も用いられる中で、企業はその存続をかけて他社にはない独自の強みを見極めて定義づけを行い、顧客に価値を提供していかなければなりません。

本記事では、コアコンピタンスの定義や意味、コアコンピタンス経営の概要をはじめ、混同されやすい「ケイパビリティ」との違いや自社におけるコアコンピタンス確立のための分析方法について事例を交えてわかりやすく紹介します。

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    コアコンピタンスとは?

    コアコンピタンスとは?

    「コアコンピタンス」という言葉は、ゲイリー・ハメルとC.K.プラハードの”The Core Competence of the Corporation(企業のコア・コンピタンス)”という論文を通じて広く知られるようになりました。

    顧客に対して、他社には真似のできない自社ならではの価値を提供する企業の中核的な力

    『コア・コンピタンス経営』

     

    コアコンピタンスを定義する3条件

    コアコンピタンスは単なる強みとは異なります。主力製品や製品を生み出す技術力を指すものでもありません。コアコンピタンスと呼べるのは、3つの条件を満たしたものです。ハメルとプラハードは3条件を、論文が出された1990年当時に世界の自動車業界をリードしていた本田技研工業株式会社(HONDA 以下、ホンダと表記)を例に詳しく説明しました。コアコンピタンスの3条件とは以下を指します。

    • 顧客に大きな価値を提供する
    • 競合と明確な違いがある
    • 企業として複数の製品・サービスを持ち、多種多様な市場に参入可能である
       

    顧客に大きな価値を提供する

    コアコンピタンスは顧客にとって大きな価値を提供しているものでなければなりません。顧客はコアコンピタンスの存在には気が付かなくても、利便性があり、価値を感じるのでサービスや製品を購入・利用します。

    当時、ホンダの持つエンジンと車の動力源であるパワートレインというふたつのコアコンピタンスは、顧客に優れた価値を提供して多くの顧客を惹きつけました。
     

    競合と明確な違いがある

    どこの企業も持っている能力では「コア」とは成りえません。市場競争を勝ち抜くためには他社が簡単には真似のできない、中核的な能力が求められます。

    1990年当時、ホンダのエンジンとパワートレインに匹敵する機能を提供できる企業は他にはどこにもなく、明確な違いとなって表れていました。
     

    企業として複数の製品・サービスを持ち、多種多様な市場に参入可能である

    コアコンピタンスは単に技術力だけを指すものではありません。技術をビジネスとして展開できるマーケティング能力や事業化能力を備えている必要があります。

    当時のホンダは、エンジンとパワートレインという技術力を自動車、オートバイ、芝刈り機、発電機などの製品に活用して多くの市場に参入し、マーケティングによって競争上の優位性を獲得していました。
     

    企業にコアコンピタンスが必要な理由

    ハメルとプラハードは、コアコンピタンスとは要するに「未来のための競争」だと説明しています。

    コアコンピタンスを持つ企業は、新しい顧客価値を提供しうる製品やサービスへの一番乗りが可能になるため優位性を保てます。

    既存市場のシェア拡大を目指すのではなく、他社にはない自社の強みを発揮する場所として新たな市場機会を発見しなければなりません。将来的に多くの利益を獲得するために、企業にコアコンピタンスが必要とされています。
     

    コアコンピタンス経営とは?

    コアコンピタンス経営とは、自社のコアコンピタンスを定義し、ビジネスモデルを構築する経営戦略を指します。

    企業のコアコンピタンスを分析し、定義するためには、企業の「製品力」「営業力」「マーケティング力」「サポート力」など全体的な分析が求められます。

    コアコンピタンスの分析は俯瞰力を要するため、各事業部ではなく、経営陣が行わなければなりません。

    コアコンピタンスを軸にリソースを集中投下するためには、個別の事業部では不可能です。経営陣主導の下、長期的な視野を持つ企業の経営戦略として行いましょう。
     

    コアコンピタンスとケイパビリティとの違いは?

    自社の強みを分析する上で、コアコンピタンスと並んで「ケイパビリティ」という概念があります。ケイパビリティとは、元となった英語の意味「capability(能力)」から転じた「企業の持つ組織的な能力」を意味します。

    ケイパビリティもコアコンピタンスも、共に「自社の強み」を意味しますが、 コアコンピタンスは特定の技術力や製造能力に焦点を当てている一方、ケイパビリティはバリューチェーン全体に及ぶ組織的能力という違いがあります。

    コアコンピタンスで定義する強みとは、「顧客が利便性を感じる製品力」や「購入後の顧客を支援するサポート体制」など、価値を生み出す個別の技術やノウハウに焦点を当てたものです。

    一方、ケイパビリティが重視する「バリューチェーン」とは、下図のように企業が顧客に提供する価値の連鎖を意味します。
     

    【製造業でのバリューチェーンの例】

    コアコンピタンスとケイパビリティとの違いは?

    バリューチェーンの分析手法にはさまざまな形式がありますが、仮に自社の主活動に着目した場合、「購買物流での強み」⇒「製造での強み」⇒「出荷物流での強み」⇒「マーケティング・販売での強み」⇒「サービスの強み」という一連のつながりの中で、他社と差異化できる大きな価値を提供できるかを分析します。その結果、明確化されたものがケイパビリティとなります。

    コアコンピタンスの分析・定義により自社の強みの源泉を明確化できるのに対し、ケイパビリティの分析・定義では自社が強みを発揮するプロセスを明確にできる違いがあります。

    バリューチェーンをはじめとした業務分析のフレームワークについては、以下の記事でも詳しく解説しています。ご興味のある方は、ぜひ参考にしてください。

    コアコンピタンスを定義づけ強みを見極めるための3ステップ

    コアコンピタンスを定義づけ強みを見極めるための3ステップ

    自社にしかない強みを見極めるためには、以下の3つのステップでコアコンピタンスを見出し、定義づけましょう。

    1. 自社の強みの抽出
    2. 強みの評価
    3. 強みの絞り込み
       

    ステップ1:自社の強みの抽出

    コアコンピタンスは個別の製品やサービス、ノウハウではなく、それらを生み出すための基盤となる汎用性を備えた技術を指します。例えば「リモートワークによって従業員が働きやすい環境を提供している」などの内部制度の強みは、コアコンピタンス分析では取り上げません。

    • その強みは顧客に大きな価値を提供できるか
    • 競合他社と差異化できる明確な違いはあるか
    • さまざまな市場に参入可能か

    以上の3つの観点から自社の持つ強みをできるだけ多くピックアップしてください。
     

    ステップ2:強みの評価

    ピックアップした強みがコアコンピタンスに該当するものかどうかは、以下の5点の質問によって評価します。

    • 模倣可能性(Imitability)
    • 移動可能性(Transferability)
    • 代替可能性(Substitutability)
    • 希少性(Scarcity)
    • 耐久性(Durability)
       

    模倣可能性(Imitability)

    模倣可能性の有無を見極めるために「その強みは他社では真似られないものか」を問いましょう。

    模倣される機会が増えるほど、市場価値は下がります。一方で、他社が模倣できない強みは他の追随を許さないため、市場を独占できます。
     

    移動可能性(Transferability)

    移動可能性とは、その強みが他の製品やサービスに応用・転用できる能力を意味します。「その強みは他の製品やサービスに応用できるか」を検討しましょう。

    移動可能性が高ければ、他の市場への市場機会が拡大します。さまざまな市場において幅広く製品・サービスを提供すれば「〇〇分野なら~社」というイメージが生まれ、顧客の第一想起にもつながります。
     

    代替可能性(Substitutability)

    置き換えることのできない強みを持っていると、市場を独占できる可能性が高まります。

    自社の強みは「他に置き換えることのできないものか」を検討してください。
     

    希少性(Scarcity)

    希少性とは、競合他社がその能力やノウハウを知らない、または、製品やサービスが市場にほとんど出回っていない状態を指します。

    希少性が低い、すなわち、ありふれた製品やサービスに対しては、顧客は価値を感じません。そこで、検証すべき強みは「業界内において希少性があるものかどうか」を問いましょう。
     

    耐久性(Durability)

    コアコンピタンス分析での耐久性とは、他社に対して長期間、優位性を保持できる強みを指します。

    耐久性が低いと、一時的に市場を席巻することはできても、長期間にわたって優位に立つことはできません。

    その強みは「持続的に優位性を保てるのか」を検討しましょう。
     

    ステップ3:強みの絞り込み

    評価された強みの中から他社にはない強み、独自のビジネス形態や特技を見極めます。

    最後に、絞り込まれた独自の強みを「コアコンピタンス」として1つのフレーズにまとめます。
     

    コアコンピタンス確立時の注意点

    コアコンピタンス確立時の注意点

    コアコンピタンスの重要性は理解できても、自社にはコアコンピタンスと呼べるほどの大きな強みはないと考えるかもしれません。しかし、スモールビジネスであっても、自社独自の領域を見出してコアコンピタンスを確立することは可能です。コアコンピタンスを確立するためには以下の3点を念頭に置いてください。

    • 長期的なビジョンを持つ
    • 自社技術の育成に努める
    • 時代に合わせて進化させる
       

    長期的なビジョンを持つ

    コアコンピタンスは、長期的なビジョンの下で確立されます。「自社は顧客にどのような価値を提供できるか」という問いを基本に、10年先を見据えてビジョンを立てましょう。
     

    自社技術の育成に努める

    他社との差異化を図るには、自社技術の育成が不可欠です。変化する市場を見据えながら開発努力を続けてください。競合他社を分析しつつ、自社独自の開発を推し進めましょう。
     

    時代に合わせて進化させる

    どれだけ優れたコアプロダクトであっても、社会や環境の変化によっては陳腐化を余儀なくされ、優位性が失われます。

    市場ニーズに応えられるよう「顧客に〇〇という価値を提供する」という明確なビジョンを軸に、自社技術やノウハウを常に進化させましょう。
     

    コアコンピタンスを活かした4つの企業

    最後に、社会や環境が大きく変化する中で、コアコンピタンスを軸に市場を牽引し続けている企業の事例を紹介します。
     

    ユニ・チャーム

    ユニ・チャームは創業1961年、建材の製造企業としてスタートしました。その後、生理用品の製造・販売によって大きく成長し、国内では生理用品市場でトップシェアを維持しているほか、世界でもトップクラスのシェアを獲得しています。

    コアコンピタンス

    不織布・吸収体の加工成形技術

    コアプロダクト

    紙おむつ、生理用品

    創業事業である建材事業は2002年に、その他コアコンピタンスから外れる事業からも順次撤退し、現在は「不織布・吸収体の加工成形技術」というコアコンピタンスを軸とした経営にシフトしています。

    コアコンピタンスを活かした製品は、赤ちゃんから高齢者まで、あらゆる年代向けに提供されており、市場規模の小さい低体重児用の紙おむつの開発など、将来を見越した開発と製品化も行っています。
     

    富士フイルム

    富士フイルムは、国産の写真フィルム製造を行う企業として1934年に創業しました。長らくフィルムやカメラなど写真システムの提供を行っていましたが、今日では化粧品や医薬品の製造販売に加え、再生医療の分野にも進出しています。

    コアコンピタンス

    精密な技術力とコラーゲン

    コアプロダクト

    フィルム⇒化粧品・医薬品・再生医療

    写真フィルムの分野では、国際的にはコダック社が優勢で、特に1970年代から1990年代初頭にかけてのアメリカ市場ではフィルムシェア90%と、コダック社がほぼ独占していました。

    しかし、コダック社はデジタルカメラ、スマートフォンの登場によって新時代に対応できず、2012年に経営破綻を余儀なくされます。

    富士フイルムにおいても、フィルム事業は2011年には最盛期の1/10にまで落ち込みました。しかし、フィルムの主原料であるコラーゲンやフィルムの劣化を防ぐ抗酸化技術を活かし、化粧品や医薬品、再生医療の分野に進出して事業転換に成功しています。
     

    Apple

    Apple社は1976年に創業されたテクノロジー企業です。iPhoneやiPadなど多くの製品を送り出していますが、消費者がApple製品の最大の特徴として最初に思い浮かべるのは、洗練されたデザインでしょう。

    コアコンピタンス

    洗練されたデザイン

    コアプロダクト

    テクノロジー製品

    Appleが消費者から評価されているのは、業界をけん引する高い技術力ではなく、優れたデザイン性です。他社には真似できない洗練されたデザインを、製品だけでなく店舗やウェブサイト、広告などあらゆる顧客との接点にまで広げ、価値を提供し続けています。
     

    Amazon

    Amazonは1995年、オンライン書店としてサービスを開始しました。現在は世界18か国でEコマース事業を展開しています。

    コアコンピタンス

    短納期・優れたカスタマーサービス・低価格で幅広い製品の提供

    コアサービス

    ECサイトの運用

    Amazonのビジョンは「地球上で最も顧客中心の会社であること」であり、物流、プラットフォームとツール開発においてイノベーションを続けています。
     

    コアコンピタンスを確立し自社の提供価値を見極めよう

    企業が成長して発展を続けていくためには、他社が真似できない製品やサービスを顧客に届けなければなりません。しかし、デジタル環境が進化した今、どれだけ顧客に好意的に受け取ってもらえたとしても類似品がすぐに登場するだけでなく機能を向上させた新製品も現れます。

    このような時代下における企業のコアコンピタンスは、新製品やサービスをどこよりも早く提供できるだけでなく、事業形態を転換したとしても別の市場でビジネスを伸ばせる力が求められます。

    たとえ、他社と差異化できる強みが未だ見つかっていなくとも、本文に紹介したコアコンピタンス分析を通じて自社の強みを見極められれば、長期的な視点から顧客にどのような価値を提供できるかを明確にでき、コアコンピタンスを確立できるでしょう。

    ぜひ、本文を参考に貴社の強みを分析してコアコンピタンスを確立し、将来的な経営戦略にお役立てください。

    マーケティング用語については以下の記事でも詳しく解説しています。ご興味のある方はぜひご覧ください。

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