国内B2CビジネスのEC化率は、2019年の6.76%から2020年には8.08%にまで高まり、EC市場は競争が激化しています。そのような状況で近年注目を集めているのが「パーソナライズ」という考え方です。
パーソナライズとは、画一的な情報を発信するのではなく、一人ひとりの属性や行動履歴に基づいて最適な情報を提供する手法です。ユーザーは自分の好みに合った商品やサービス、あるいは適切な情報を取得でき、結果として企業に対する信頼感が高まります。
競争激化によりECサイトの売上不振に悩んでいる場合は、パーソナライズを活用してみてはいかがでしょうか。本記事でお伝えする、パーソナライズの仕組みや事例を踏まえた6つの施策を参考にしてみてください。
パーソナライズ事例大辞典
HubSpotが提供するお役立ち資料が無料で今すぐダウンロードいただけます。
- HubSpotが提供する資料
- 資料はすべて無料
- ビジネスに役立つ情報満載
- ダウンロード後すぐに閲覧可
今すぐダウンロードする
全てのフィールドが必須です。
パーソナライズの基礎知識
まずは、パーソナライズに関する基礎知識を解説します。
パーソナライズとは?
パーソナライズとは、画一的な情報を発信するのではなく、一人ひとりの属性や行動履歴、興味関心を基に適切なサービスやコンテンツを提供する手法です。「パーソナライゼーション」とも呼ばれます。
たとえば、ECサイトで特定の商品ページにアクセスした場合、その閲覧履歴に基づいて「あなたへのおすすめ商品はこちら」といった情報が表示されます。ほかにもニュースサイトでは、過去に読んだ記事の傾向から各ユーザーに合ったニュースを配信する場合もあります。
パーソナライズとカスタマイズとの違い
パーソナライズと意味を混同しやすい言葉にカスタマイズがあります。どちらも、ユーザーが自分の好みに合うサービスやコンテンツを利用できるという点は変わりません。ただ、「誰が」ユーザーの好みに合わせようとするのかというところに大きな違いがあります。
- パーソナライズ:「企業」がユーザーの属性や好みに合った情報を提供
- カスタマイズ:企業から提供された情報を「ユーザー」が自分の好みに合うよう変更
たとえば、Google検索では、各ユーザーの検索履歴や閲覧履歴に基づいて各々異なる結果ページが表示されるため、これはパーソナライズに当たります。一方、Google検索で「パーソナライズを無効にする」という設定はユーザー自身で行うものなので、こちらはカスタマイズです。
ユーザーが自身のニーズを正確に把握している場合、カスタマイズは有効に機能しますが、ユーザーが自身のニーズを理解していない場合は、企業側が適切な情報を提供するパーソナライズが効果的です。
Webマーケティングにおいてパーソナライズが注目される理由
Adobeが2021年11月に調査した「未来のマーケティングに関するグローバル調査」によると、AIや機械学習を活用する領域としてもっとも多いのが「コンテンツのパーソナライゼーション(55%)」だといいます。それだけ多くのマーケティング担当者がパーソナライズの重要性を認知しているのでしょう。
では、近年はなぜパーソナライズが注目されているのでしょうか。その理由を3つのポイントに分けて解説します。
顧客との関係維持
近年は少子高齢化によって新規顧客の獲得が困難になりつつあり、既存顧客を維持する考え方がますます重要化しています。
総務省統計局の人口統計データによると、全人口に占める0~14歳の割合は1989年の18.8%から2018年には12.2%に減少。徐々にではありますが右肩下がりの傾向が続いています。
このような状況で、企業としては新規顧客の開拓だけではなく、既存顧客の維持にも目を向けることが重要です。
既存顧客の維持や定着に欠かせないのがパーソナライズという考え方であり、既存顧客を維持する考え方が重要化すると共に注目度が高まっています。顧客一人ひとりのニーズに適した情報提供や対応をすることで、顧客と企業との結びつきを強化できます。
情報収集に対する考え方の変化
情報収集に対するユーザーの考え方は、時代と共に変化しています。
博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所の「メディア定点調査2019」によると、メディアやインターネットの情報について「世の中の情報量は多すぎる」と感じる人は、2016年の42.1%から2019年には51.5%に増加。「インターネットの情報は鵜呑みにできない」人の割合も、71.7%から80%に増えています。
膨大な情報のなかから、ユーザーが自分にとって有益な情報のみを選別しようとする傾向が読み取れるでしょう。つまり、ユーザーの属性や嗜好に基づく情報提供の重要性が高まっているということです。
データ分析の発展
現在は、ビッグデータやAIを駆使してユーザーの行動データを効率良く取得できます。こうしたテクノロジーが進化したことも、パーソナライズの注目度が高まりつつある理由の一つです。
たとえば、ふるさと納税ポータルサイト「さとふる」は、AIを活用して個々のユーザーを「初回来訪者」や「非会員来訪者」、「寄附実績のある来訪者」といった細かいステータスに分類しています。各ステータスに合わせてトップページのコンテンツをパーソナライズ化することで、ユーザーは自分に合った返礼品や自治体を効率的に探せるようになりました。
B2CとB2Bで異なるパーソナライズの活用方法
パーソナライズの活用方法は、ビジネスの対象が個人(B2C)なのか、それとも企業(B2B)なのかによって異なります。本章では、それぞれの活用方法を詳しく解説します。
B2Cのパーソナライズ活用方法
ECサイトでユーザーの購入履歴や閲覧履歴からおすすめ商品を提案するほか、カートに入れた商品に関連する別の商品を勧めるといった方法があります。
ターゲットが個人ユーザーの場合は本人が決裁権を持つことが多いため、ユーザー本人の興味や趣向に合った提案が必要です。また、感情的に意思決定をするケースが多いこともあり、感情に訴えかける文言やデザインを採用するのも方法の一つです。
B2Bのパーソナライズ活用方法
オウンドメディアやブログで閲覧履歴を基に最適なコンテンツを提供するほか、メール配信やeBookの提案を通じて、見込み客が抱えている課題にアプローチするといった方法があります。
法人ユーザーを対象にパーソナライズを実施する場合、利用者本人が決裁者とは限らず、購買の意思決定までに複数のプロセスを経由することが多いため、認知度や関心度に応じて提供する情報を変えることが重要です。
パーソナライズ化するメリット&デメリット
ECサイトやWebサイトなどでパーソナライズを実施することで、ユーザーは自分の好みに合った商品やサービス、あるいは適切な情報を取得できます。その結果、企業に対する信頼が高まり、売上数量や顧客単価の向上といった成果が期待できます。
その反面、パーソナライズ化することでデメリットが生じることもあります。以下で詳しく説明します。
パーソナライズ化するメリット
パーソナライズ化を行うメリットは以下の通りです。
- コンバージョン率の向上
- エンゲージメントの向上
- 直帰率の減少
- 顧客定着率の改善
- 効率的なマーケティング施策の実行
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
コンバージョン率の向上
パーソナライズを行うことで、過去に購入した商品と関連深い別の商品を提案できます。プリンターを購入した人にインクカートリッジを勧める、ノートパソコンを買った人にマウスの購入を提案するといった方法により、個別商品のコンバージョン率の改善が可能です。
エンゲージメントの向上
パーソナライズを実施することでユーザーが求める商品やサービスを提案できれば、ユーザーはより効率良く目的のページへと辿り着けます。また、求めている情報を必要なタイミングで取得できればユーザーの利便性が高まり、エンゲージメントの向上に寄与します。
直帰率の減少
Webサイトで直帰率が高くなってしまうのは、ユーザーが求める情報と企業が提供する情報に何らかの齟齬があるためです。ユーザーのニーズや課題に最適な情報を提示することで、直帰率の減少やページスクロール量の増加につながります。
顧客定着率の改善
顧客データを基にパーソナライズしたクーポンの配布、あるいは購入履歴に基づいた限定商品の紹介などを実施することで、顧客定着率を高められます。また、顧客向けのアンケート調査をパーソナライズデータに加える方法も効果的です。
効率的なマーケティング施策の実行
不特定多数のユーザーに対して画一的なアプローチを行った場合、自社に興味を示してくれるユーザーは少数に留まるでしょう。その反面、パーソナライズドマーケティングでは誰に・いつ・どのような内容を提供するのか、自社に興味を持っているユーザーのみに限定できるため、効率良く施策を実行できます。
パーソナライズ化するデメリット
パーソナライズ化を行うデメリットは以下の通りです。
- 提供する情報が偏りやすい
- アナログ施策はコストがかかる
- 商品数やコンテンツ数が少ないと効果が出づらい
それぞれのデメリットについて詳しく解説します。
提供する情報が偏りやすい
ユーザーの興味関心や嗜好に添って情報を提供できるのは、パーソナライズの大きな強みです。しかし、過去に取得したデータばかりを頼りにしてしまった結果、提供する情報に偏りが生まれることがあります。
たとえば、過去に一度おすすめのラーメン店を探していただけにもかかわらず、何度もラーメンに関する情報が表示されると、ユーザーによっては「情報が操作されている」と不満を感じるケースも出てくるでしょう。適宜ユーザーの反応を見ながら、パーソナライズがうまく機能しているかどうか、判断が必要です。
アナログ施策はコストがかさばりやすい
ユーザーの属性や行動履歴を基にダイレクトメールや紙媒体のカタログなどを発送する場合、印刷費や発送費といったコストがかかります。アナログはデジタル施策よりもコストがかさみやすいため、あらかじめ費用対効果を検証しておくことが重要です。
商品数やコンテンツ数が少ないと効果が出づらい
数多くの選択肢のなかから自分に合うものを効率良く見つけてもらうというのが、パーソナライズの役割の一つです。しかし、提供する商品やコンテンツの種類が少ない場合、そもそも選択肢が狭いのでパーソナライズが思うような効果を発揮しないケースもあります。自社の商材はパーソナライズが必要なのか、その特性や性質を見極めて検討することが大切です。
パーソナライズの代表的な施策例
では、パーソナライズはどのような場面で活用されているのでしょうか。代表的な6つの施策をご紹介します。
パーソナライズド広告
パーソナライズド広告とは、検索履歴や閲覧履歴に基づいて個々のユーザーに合う広告を表示する施策です。主にGoogleやYahoo!のWeb広告サービスで利用できます。ユーザーにとっては、興味のある分野の新しい商品や情報を取得できるメリットがあります。
パーソナライズド広告は、パーソナライズを集客に活かしたい方に最適です。
パーソナライズされた動画配信
パーソナライズは動画配信にも活用できます。たとえば、賃貸マンションを探しているユーザーの属性や嗜好を基に適切な間取りの部屋を紹介したり、動画のなかでユーザーの名前を呼びかけたりといった方法が代表的です。テキストや画像よりも短時間で多くの情報を伝えられるメリットがあります。
メールのパーソナライズ
ユーザー属性や購入履歴、興味関心などのデータに基づき、送信するメールの内容やタイミングを調整できます。たとえば購入履歴が1回の顧客には商品Aを勧める、3回の顧客には商品Bを勧めるといったアプローチが可能です。メリットとしては、メール開封率やコンバージョン率の向上が期待できます。
ECサイトのレコメンド機能
ECサイトでユーザーの購入履歴や閲覧履歴などを基に適切な商品を勧めることを、「レコメンド」と呼びます。具体的には、「こちらの商品もおすすめ」や「この商品を見た人はこちらの商品もチェック」といったパーソナライズ化を指します。商品検索のサポートができるため、ユーザーの離脱防止やユーザビリティの向上が期待できます。
ニーズに合わせた提案ができるレコメンドエンジンを活用し、ユーザーからの信頼を獲得しましょう。
SNSのパーソナライズ表示
SNSでは、ユーザーが過去に行った「いいね」やコメントなどの行動履歴を基に、特定のフィードに興味を持ちそうな投稿を表示します。たとえば、Facebookのニュースフィードには、過去のアクションや位置情報などに基づいて最適なニュースが表示されます。
また、TwitterやFacebookでは広告にも同様のシステムが採用されており、自社商品やサービスと関連性のあるユーザーにのみ配信が可能です。
パーソナライズド検索
Google 検索の場合、検索履歴やユーザーの位置情報に基づいて異なる検索結果を表示するパーソナライズド検索を採用しています。「ランチ おすすめ」と検索すると、東京のカフェや大阪の定食屋など、ユーザーごとに上位表示されるコンテンツが異なります。
検索システムについて理解を深めることで、SEO対策に効力を発揮します。
パーソナライズを実施する際に知っておくべき注意点
パーソナライズを活用することでユーザーの利便性が向上し、信頼を得られるなどのメリットがありますが、パーソナライズを実施する際の注意点も存在します。以下でお伝えする2つのポイントを知り、適切なパーソナライズを実施しましょう。
1.5W1Hを基にパーソナライズを考える
まずは、5W1Hを基に施策の土台を構築しましょう。5W1Hには「目的(Why)」や「ターゲット(Who)」、「手段(How)」など重要な要素が含まれています。事前に6つの要素を整えておくことで、論点や主旨のぶれない効果的なパーソナライズが可能です。
パーソナライズの5W1Hは以下の要素で構成されています。
- ターゲットとなるのは誰か?(Who)
- なぜパーソナライズするのか?(Why)
- 何がパーソナライズされるのか、属性か、好みか?(What)
- サイトのどのページをパーソナライズするのか?(Where)
- 効果を観測する期間は?(When)
- どのようにパーソナライズを行うか、メルマガか、動画か?(How)
2.ユーザーのニーズは時間と共に変化する
ユーザーが求める情報や趣味嗜好は常に一定ではないため、時間と共に変化するニーズを追い続ける必要があります。ある時点でパーソナライズされた特定の情報だけを過信せず、こまめにアンケートを取得する、データを新しく書き換えるといった対策が必要です。
パーソナライズの企業事例
最後に、パーソナライズドマーケティングをすぐに実施できるよう、パーソナライズを活用する企業の事例を知りましょう。Amazon、SABON、Spotifyの3つの事例をご紹介します。
【Amazon】ユーザーが欲しいと思える商品を徹底して提案
Amazonでは、ECサイトのパーソナライズ施策である「レコメンド機能」を活用しています。購買履歴からおすすめ商品を紹介する「ショッピング傾向に関連する商品」や、自分と趣味趣向が似ているユーザーの購買履歴を基にした「この商品を買った人はこんな商品も買っています」といった案内が代表的です。
【SABON】香りに基づく独自のレコメンド機能
SABONでは、バス&ボディコスメの販売を行っています。展開する商品には、「グリーン・ローズ」「ムスク」「ラベンダー・アップル」など8種類の香りが存在します。
以前からコールセンターに、「この香りの商品は他にどんなものがありますか?」という問い合わせが寄せられていたことから、「香りを軸にした検索や商品レコメンドにはきっとニーズがあるだろう」という仮説がありました。
そこで、商品詳細ページで閲覧中の商品と同じ香りを持つ商品をレコメンドする施策を実行しました。その結果、ほかのレコメンド施策よりもコンバージョン率が30%向上する成果を上げています。
【Spotify】好きなアーティストの情報を効率良く取得
ユーザー好みの曲を日々紹介してくれる機能をもつ音楽ストリーミングサービス「Spotify」|OPENERS
音楽配信サービスのSpotifyは、パーソナライズを駆使して音楽の好みが異なる各ユーザーに合ったサービスを提供しています。たとえば、ユーザーの視聴履歴から専用のプレイリストを生成するほか、位置情報に基づいて近くで開催される予定のコンサートを紹介するといった施策です。
パーソナライズを実施してユーザーとの信頼関係を築こう
パーソナライズを実施する真の目的は、ユーザーと深い関係性を構築することです。
ECサイトやWebサイトにパーソナライズという考え方を取り入れることで、ユーザーは自分の興味関心や趣味嗜好に合った商品やサービスを認知できます。その結果、ユーザビリティが高まり、企業も信頼の向上や売上アップといった恩恵が得られるでしょう。
パーソナライズを成功させるためには、導入段階で5W1Hを明確にし、市場や商材の特性を理解したうえで実施することが大切です。