テレワークには、在宅勤務やモバイルワーク、サテライトオフィス勤務など、さまざまな勤務形態があります。なかでもサテライトオフィス勤務は、企業の事業内容や従業員のニーズに合わせてワークスペースに焦点を当てた働き方として注目を集めています。
本記事ではテレワークの一形態としてのサテライトオフィス勤務について説明します。サテライトオフィス勤務の基本的な情報やメリット・デメリットだけでなく、サテライトオフィスの種類やオフィス設置時の導入のポイント、サテライトオフィスの企業活用事例までくわしくお伝えします。
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サテライトオフィスとは?
サテライトオフィスとは、企業が通常のオフィスとは別に設置する小規模なオフィスのことです。サテライトオフィスでの勤務は、在宅勤務やモバイルワークと並んでテレワークの一形態として位置づけられています。
サテライトオフィス勤務と通常勤務・在宅勤務・モバイルワークとの違い
テレワークとはパソコンやモバイル機器を活用しながら、会社以外の場所で仕事をこなす働き方を指します。テレワークの形態は3つに大別されます。
- 在宅勤務
- モバイルワーク
- サテライトオフィス勤務
サテライトオフィス勤務と他の勤務形態との違いを整理しておきましょう。
勤務形態 | 特徴 |
---|---|
サテライトオフィス勤務 | 会社が設置した小規模なオフィスに出勤して仕事を行う |
通常勤務 | 本社や支社に出勤して仕事を行う |
在宅勤務 | 自宅で通常勤務と同じ時間帯で仕事を行う |
モバイルワーク | 時間と場所を定めず、必要に応じて利便性の高い場所で仕事を行う |
サテライトオフィスが注目されている理由
昨今、サテライトオフィスという言葉を耳にする機会が急速に増えてきました。なぜ今、サテライトオフィスが注目を集めるようになったのか、その背景について説明します。
2020年から一気に浸透
政府は2000年代からテレワークの導入を積極的に推し進めてきました。2018年に施行された「働き方改革」の中でも、長時間労働の是正や同一労働同一賃金などと並んでテレワークの促進は大きな柱の1本でした。しかし、テレワークを実際に導入する企業は限られていました。
テレワークが一気に浸透したのは、2020年4月に発表された緊急事態宣言がきっかけです。緊急事態宣言を受けて多くの企業がテレワークの導入に踏み切りました。
下記のグラフはザイマックス総研が緊急事態宣言解除後の6月4日~16日、全国の企業を対象に行ったテレワーク実施に関する調査結果です。
コロナ危機における企業の働き方とワークプレイス | ザイマックス総研の研究調査
通常勤務にかわる形態として中心となったのは在宅勤務でしたが、サテライトオフィスは主に従業員1,000人以上の大企業で実施されていたことがわかります。
しかし、実際に導入した企業にさらにくわしく聞いてみると、以下のグラフのような結果が明らかになりました。
コロナ危機における企業の働き方とワークプレイス | ザイマックス総研の研究調査
大企業が以前から設置していたサテライトオフィスを有効活用したのに対し、中小企業の半数が今回のコロナ危機を機に導入を行ったことがわかります。
サテライトオフィスは従来従業員も多く、資金も豊富な大企業が設置することが多かったのですが、緊急事態宣言を機に中小企業にも浸透していったのです。
緊急事態宣言が解除されても、在宅勤務を取り入れた企業の約半数は「今後も継続する」と答えました。
コロナ危機における企業の働き方とワークプレイス | ザイマックス総研の研究調査
完全に収束していないから継続するという判断を下している企業もあるでしょうが、テレワークを実際に導入してみて、好感触を得た企業も多かったことがうかがえます。
BCPの側面からも、サテライトオフィス活用は増加すると予想
2020年は、BCP(事業継続計画:Business Continuity Plan)にどう取り組んでいくべきかを突きつけられる1年となったのではないでしょうか。
サテライトオフィスを設置してワーキングスペースを複数確保すれば、災害時や緊急事態においても事業の継続が可能になります。今後、BCPを考慮しサテライトオフィスの活用を検討する企業は増えていくでしょう。
サテライトオフィスの種類
サテライトオフィスの種類には「設置する所在地による分類」と「サテライトオフィスの契約形態による分類」があります。ここではそれぞれの分類によるサテライトオフィスに期待される役割を見ていきます。
設置場所によるサテライトオフィスの分類
本社がどこにあるかによって求められるサテライトオフィスの役割は異なります。必要に応じて適切な場所にサテライトオフィスを設置することが重要です。
設置場所によるサテライトオフィスの分類は以下のとおりです。
サテライトオフィスの種類 | サテライトオフィスで可能なこと |
---|---|
都市型サテライトオフィス | ・顧客の集中する都市部にオフィスを設置することで、自社と顧客先を往復する時間を削減し、迅速な顧客対応と業務の効率化を図ることができる ・オフィスの機能を分散し、BCPに対応することができる |
郊外型サテライトオフィス | ・従業員の自宅近くにオフィスを設置することで、従業員の通勤時間や通勤コストを削減できる ・子育てや育児など、時間に制約がある従業員の離職を食い止めることができる |
地方型サテライトオフィス | ・地方の遊休施設や空き家をオフィスとして利用することで、地方の人材活用や地域活性化が期待できる ・都市部に拠点を置く企業が、地方へのビジネス拡大を可能にする ・地方移住を希望する従業員にとって、多様な働き方が可能になる |
契約形態によるサテライトオフィスの分類
また、サテライトオフィスはオフィススペースの契約形態によって2種類に分けることもできます。自社が独自で契約する専用型と、複数の社が共同で契約する共用型です。共用型には「シェアオフィス」や「コワーキングスペース」も含まれます。
契約形態によるサテライトオフィスの分類は以下のとおりです。
サテライトオフィスの種類 | サテライトオフィスで可能なこと |
---|---|
専用型サテライトオフィス | 自社専用で設置するので、高いセキュリティを維持しながら多様な働き方を推進できる |
共用型サテライトオフィス | 他社との情報交換や、共同イベントなどで交流を深めることができる |
サテライトオフィスの仕組み
サテライトオフィスは、本社オフィスとICT(情報通信技術)によって接続されたオフィスです。ICTによって離れた場所でも業務の「見える化」が進み、本社との業務の共有化や業務の進捗管理が容易になりました。
円滑に業務を遂行していくためのサテライトオフィスの仕組みをくわしく見ていきましょう。サテライトオフィスは、ICTシステムとツールで支えられています。
- ICTシステム
- セキュリティツール
- 業務支援ツール
- コミュニケーションツール
- 労務管理ツール
ICTシステム
サテライトオフィスは本社オフィスと同程度のICT環境を整えておく必要があります。サテライトオフィスのICTシステムには以下の4つの方式があります。
システム方式 | 特徴/メリット/デメリット | |
---|---|---|
仮想デスクトップ方式 | 特徴 | ・サーバー上の仮想デスクトップに手元端末からアクセスする方式 |
メリット | ・本社オフィスにPCを設置する必要がない ・仮想デスクトップ環境を管理者が一元管理できる |
|
デメリット | ・環境設置コストが高額 ・環境構築のコストが高く時間もかかる |
|
リモートデスクトップ方式 | 特徴 | ・手元端末から本社の自分のPCにアクセスする方式 |
メリット | ・本社オフィスと同じ環境で操作できる ・手元端末にデータが残らない |
|
デメリット | ・オフィスPCの電源を常時ONにしておく必要がある | |
クラウドアプリ方式 | 特徴 | ・端末からクラウドにアクセスする方式 |
メリット | ・導入コストが低く、即日利用できる | |
デメリット | ・データを手元端末に保存することが可能なので、セキュリティ面ではやや不安がある | |
VPN方式 | 特徴 | ・会社で使用している端末を持ち込み、VPN経由で社内システムにアクセスする方式 |
メリット | ・導入コストが低い | |
デメリット | ・手元端末にデータを残すため、厳格なセキュリティ対策が必要 |
月々の使用料を支払うサブスクリプション型のサービスを利用することで、初期費用を抑えることができます。なかでもクラウドアプリ方式は低コストに加えて、申し込んだその日から利用できるので、スモールビジネスにとっては有効な方式といえるでしょう。
セキュリティツール
クラウドアプリ方式や会社で使用している端末を利用する場合は、セキュリティツールを活用することで、安全性を高めることができます。
また、コワーキングスペースなどの共用型サテライトオフィスを活用する場合は、紛失・盗難防止・のぞき見の防止など、専用型サテライトオフィス以上のレベルの対応が求められます。
専用のセキュリティツールとして、セキュアブラウザ、あるいはセキュアコンテナというツールを活用しましょう。
セキュアブラウザはサテライトオフィスの端末にインストールすることで、セキュアブラウザからのみドキュメントやデータを表示できるようにするものです。PC操作終了後に自動的に消去されるため、安全性は高まります。
セキュアコンテナはサテライトオフィスに設置した端末・スマホ・タブレットなどのモバイル機器に「コンテナ」と呼ばれる独立した仮想環境を作り上げます。私物のスマホを利用して業務を行う場合でも、個人使用とは切り離して安全に利用できます。紛失した場合も、遠隔操作によって消去可能です。
業務支援ツール
サテライトオフィスを設置する場合、サテライトオフィスと本社で同等の顧客価値が提供されるようにしなければなりません。本社とデータ・文書類を共有し、業務が属人化しないような環境を整える必要があります。
CRMツールを活用すればリード(有望見込み客)や顧客の情報、商談の進捗状況などを一括して管理することができます。当社HubSpotが提供する無料CRMは、サテライトオフィスの設置コストを抑えたい企業をサポートします。
コミュニケーションツール
オンライン会議システムは、メールやビジネスチャットと並んでサテライトオフィスにとって必須のコミュニケーションツールです。オフィスで勤務する従業員や社外との打ち合わせでオンライン会議システムを利用することで、業務を円滑に進めることができます。
共有型サテライトオフィスの中にはセキュリティを考慮し、電話ブースが設置されているところもあります。オンライン会議システムのほとんどが通常のモバイル機器で会議に参加できるため、共有型オフィスを検討する場合には、セキュリティ対策が入念に取られているところを選ぶようにしてください。
労務管理ツール
リモートで労務管理できるツールを導入することによって、遠隔地で仕事をする従業員の労務管理が可能になります。勤怠管理ツールやプレゼンス管理(在席管理)ツール、またサテライトオフィスの入退室記録などを利用して労務管理を行うことができます。
サテライトオフィスのメリット
サテライトオフィスを設置することで得られるメリットを、会社側・従業員側に分けて見ていきましょう。
サテライトオフィス導入による会社のメリット
サテライトオフィス設置は会社にとって主に5つのメリットがあります。
- 生産性向上
- 人材の維持と確保
- コスト削減
- BCPの対応
- 人的ネットワークの構築
それぞれのメリットを詳しく見ていきましょう。
生産性向上
顧客本社の多くがある都市部にサテライトオフィスを設置することによって、営業効率の向上が可能になります。
自社と顧客の往復時間を削減することができ、その時間を顧客との面談や資料作成に充てることができるからです。面談の時間や内容を充実させることが新規契約や顧客開拓につながります。
人材の維持と確保
柔軟な働き方が選択できることによって、離職率の低下が期待できます。たとえば子育てや介護などに従事していて「長時間の移動時間を確保することが困難」または「在宅勤務が難しい」従業員でも、通いやすい郊外にサテライトオフィスを設置することで、離職を防止できます。
また地方にサテライトオフィスを開設する場合は、地方の優秀な人材を確保できるメリットもあります。
コスト削減
従業員の移動コストや賃料単価の高い都心の本社オフィスの縮小などが可能になります。
BCP対応
本社が被災した場合も遠隔地にサテライトオフィスがあれば、事業継続性が確保されます。またサテライトオフィスが拠点となって、全社員の安否確認を行うなど、被災時の対応も可能になります。
人的ネットワークの構築
共用型サテライトオフィスを利用することで、他社の利用者とネットワークを形成できます。
地方にサテライトオフィスを設置すれば、その地域の地場産業と交流することで新たなビジネスチャンスをつかむことも可能です。
サテライトオフィス導入による従業員のメリット
従業員にとってもサテライトワークには主に3つのメリットが期待できます。
- 業務効率の改善・生産性向上
- ワークライフバランスの向上
- 地方でも仕事の選択肢が増える(地方型サテライトオフィスを設置した場合)
それぞれのメリットを詳しく見ていきましょう。
業務効率の改善・生産性向上
サテライトオフィス導入に伴って、文書類やデータのペーパーレスが進み、ワークフローが効率化されるため、サテライトオフィスに勤務する従業員にとっては仕事のしやすい環境になります。
また、本社オフィスにくらべて独立性の高いサテライトオフィスでは、割り込み業務が発生しにくく、サテライトオフィスに勤務する従業員は、自分の業務に専念できます。
ワークライフバランスの向上
移動時間を短縮することで、子育てや介護の問題を抱える従業員にとって仕事との両立が可能になります。また、時間の制約のない従業員であっても、自己啓発や健康増進などの投資にその時間を充てることができます。
地方でも仕事の選択肢が増える
地方型サテライトオフィスを設置した場合には、地方で働くという選択肢が生まれます。地方に在住する人にとっては、新しい仕事に就けるというメリットがあり、また都市部に在住する従業員にとっては、静かな環境で仕事をすることや育児を楽しむことが可能になります。
サテライトオフィスのデメリット
サテライトオフィス勤務にはデメリットもあります。
サテライトオフィス導入による会社のデメリット
会社側にとってのデメリットとしては、主に以下の2つが考えられます。
- サテライトオフィス導入のコストがかかる
- 活用できないとコストセンターになる
それぞれのデメリットを詳しく見ていきましょう。
サテライトオフィス導入のコストがかかる
サテライトオフィス導入に必要なコストは主に以下の3つです。
- オフィスコスト
- セキュリティ対策コスト
- 労務管理・業務管理コスト
導入にあたっては先行事例を研究し、あらかじめ費用対効果の目安を持っておくことが必要です。
活用できないとコストセンターになる
経営陣や従業員がサテライトオフィスの目的を共有していなかったり、サテライトオフィスでの働き方に対する意識やノウハウがないような場合は、上手く活用することはできません。
緊急事態宣言のさなかにはほとんど準備もできずに在宅勤務が敢行されたことで、オンラインツールやセキュリティツールが使えないといった失敗が様々な企業で起こりました。
サテライトオフィスを導入するためにはある程度まとまったコストが必要となるため、十分に使いこなす必要があります。そのためには社内全体でサテライトオフィスを設置する目的やワークフローを理解し、共有することが必要です。
サテライトオフィス導入による従業員のデメリット
従業員側にとっても2点のデメリットがあります。
- コミュニケーション不足になりやすい
- 自己管理能力が求められる
それぞれのデメリットを詳しく見ていきましょう。
コミュニケーション不足になりやすい
通常のオフィスで日常的に接していれば、同じ部署や関連部署の上司と従業員、従業員同士は業務上の意見交換や質疑応答を簡単に行うことができます。しかし、サテライトオフィスという形態では、本社とサテライトオフィスの間でコミュニケーションを行うためには、ツールの力を借りる必要があります。チャットツールやWeb会議ツールなど、目的に適したツールを導入し、コミュニケーションを仕組み化する必要があります。
自己管理能力が求められる
サテライトオフィスでの業務はオフィスでの業務に比べて自己裁量の部分が大きく、適切な自己管理能力が求められます。専門性の高い部署から先行的に導入することで、ノウハウを共有しつつ、様子を見ながら進めていく必要があります。
サテライトオフィス導入のポイント
ここからはサテライトオフィスを導入するための課題を検討します。
サテライトオフィス導入の最大のネックになるのが、コストの問題です。従来まではサテライトオフィスを設置するのは、従業員が1,000人以上の大企業がほとんどでした。導入にはまとまったコストが必要だったからです。
現在ではクラウドツールが増え、SaaS型のサブスクリプションサービスの提供によって、オフィスコストを除けば全体のコストはかなり下がってきています。
一方、コスト以外にも、セキュリティの問題、サテライトオフィスと本社との意思疎通の問題は大きな問題として残っています。
現状でのサテライトオフィス導入の際に考慮すべき課題は主に以下の3つです。
- オフィスコスト
- セキュリティ対策
- コミュニケーション対策
この3つの課題は、専用型サテライトオフィスと共用型サテライトオフィス、地方型サテライトオフィスによって対処法は異なっています。それぞれの課題とその解決策をご説明します。
オフィスコスト
- 専用型サテライトオフィスを設置する場合
【課題】オフィス賃貸料や整備費用が必要
【解決策】自社施設や関連会社のオフィスをサテライトオフィスにすることで、コスト抑制が可能
- 共用型サテライトオフィスを活用する場合
【課題】シェアオフィスやコワーキングスペースの使用料が必要
【解決策】使用料は賃料よりも安価であるため、予算に合った場所を見つけることが可能
- 地方型サテライトオフィスを活用する場合
【課題】オフィス賃貸料や整備費用のほかにオフィス調査コスト、移動コストが必要
【解決策】総務省が進める「お試しサテライトオフィス」を利用すると、希望地域の地方公共団体が提供する「お試し勤務」施設の利用が可能。「ふるさとテレワーク推進事業」(サテライトオフィスを設置する費用の一部を国が補助する事業)を利用することで、コスト抑制が可能
セキュリティ対策
- 専用型サテライトオフィスを設置する場合
【課題】本社オフィスと同程度のセキュリティ対策が必要
【解決策】クラウドアプリ方式を導入することでコスト抑制が可能
- 共用型サテライトオフィスを活用する場合
【課題】専用型サテライトオフィスよりも高レベルのセキュリティ対策が必要
【解決策】暗号化による情報漏洩対策、復帰時のパスワード対策、モニタリングアラームで端末の盗難防止対策などで対処可能
- 地方型サテライトオフィスを活用する場合
【課題】共用型サテライトオフィスと同様に高レベルのセキュリティ対策が必要
【解決策】情報漏洩対策やパスワード対策、盗難防止対策などで対処可能
コミュニケーション対策
どのようなタイプのサテライトオフィスであっても「会議用ツール」「チャットツール」「情報共有ツール」などのコミュニケーションツールを活用して、情報量が多く密度の濃いコミュニケーションを仕組み化して行う必要があります。それに加え、サテライトオフィスのタイプに合わせたコミュニケーション対策を行っていきます。
- 専用型サテライトオフィスを設置する場合
【課題】本社オフィスとのコミュニケーションに加えて、サテライトオフィスに勤務する従業員間のコミュニケーションの仕組み化が必要
【解決策】フリーアドレス(固定した個人のデスクではなく、自由に着席場所を選ぶスタイル)によって、サテライトオフィス内のコミュニケーションの活性化を図る
- 共用型サテライトオフィスを活用する場合
【課題】利用する従業員数が1人~数人と限られることが多いため、孤立化するリスクがある
【解決策】情報漏れを防ぐためにチャットツールやオンライン会議で対処可能。コワーキングスペースなら、他社との交流の機会であるセミナーや交流会を活用し、従業員の孤独化を防ぐ
- 地方型サテライトオフィスを活用する場合
【課題】家族で移住する場合は、家族も含めたケアが必要
【解決策】会社ぐるみで地域との交流を深める活動を企画する
サテライトオフィス導入の注意点
サテライトオフィスは、設置するだけである程度の費用が必要になってくるため、導入を検討する際には以下の4点を押さえておくことが重要です。
- 目的を明確にする
- 目的の達成度合いを測るための指標を設定する
- 期間を決めて指標の計測を行う
- 顧客に提供できる価値を落とさないように環境の構築を行う
目的を明確にする
自社が何のためにサテライトオフィスを設置するのかをはっきりさせなければなりません。自社の課題を考え、サテライトオフィスの設置がその課題の解決につながるかどうかを検討してください。
目的の達成度合いを測るための指標を設定する
設定した目的が達成されたかどうかは定量的に計測される必要があります。目的の達成度合いは費用対効果の観点から計測することで明確になります。
以下に例を挙げます。
- 移動コストの削減をサテライトオフィス設置の目的とする
⇒ 従業員の移動コストとサテライトオフィスのランニングコストの比較 - オフィスコストの削減をサテライトオフィス設置の目的とする
⇒ サテライトオフィス設置によって削減できたオフィスコストとサテライトオフィスのランニングコストとの比較 - 従業員の離職防止をサテライトオフィス設置の目的とする
⇒ 従業員の定着による採用コストの減少とサテライトオフィスのランニングコストとの比較 - 都心での営業拠点作りをサテライトオフィス設置の目的とする
⇒ 都心部や地方に新しく業務拠点を設けたことによる売上増加とサテライトオフィスのランニングコストとの比較
期間を決めて指標の計測を行う
短期間では成果は出ないので、四半期ごとに数値を出して比較します。また、目的によっては定量的な評価だけでは結果が出ないこともあるので、従業員や顧客に対するヒアリングを行い、定性的な評価を行うことも重要です。
顧客に提供できる価値を落とさないように環境の構築を行う
サテライトオフィスを導入する際には、顧客に必要な情報を、必要なタイミングで提供できるようなICT環境と顧客管理ツールの導入が必要となります。
テレワーク導入によって、多くの従業員は従来の働き方の無駄に気がつきました。その筆頭が「無駄な会議」や「無駄な商談」です。
サテライトオフィスを設置して、移動時間を減らして顧客との商談時間を増やしたとしても、顧客が「無駄な商談」と感じるのであれば、サテライトオフィスの意味がありません。新コロナウイルスの世界的流行を契機とした新しい形の商談は、従来以上に顧客が価値を感じるものでなくては成立しなくなってしまうでしょう。
サテライトオフィス導入事例
実際にサテライトオフィスを活用している企業の例を見ていきます。
都市型サテライトオフィスの事例「日立製作所」
日立製作所は2016年からサテライトオフィス活用を積極的に進めてきました。
現在は都市型サテライトオフィスと郊外型サテライトオフィスを合わせて64拠点(2019年10月時点)を運用しており、利用者も日立グループ全体で、月間のべ5万人が利用しています。
セキュリティ対策としてはオフィス同様仮想デスクトップ方式が導入されており、万全のセキュリティ対策が取られています。勤怠管理はPCの起動時間と終了時間を記録するだけ、自己申告制で残業も可能というゆるやかな態勢が取られています。
郊外型サテライトオフィスの事例「りそな銀行」
りそな銀行では、閉鎖した11の支店(2019年11月時点)をサテライトオフィスに活用しています。
銀行業務のオンライン化が進み、多くの銀行で店舗の統廃合が進んでいます。りそな銀行は閉鎖された11の支店を郊外型サテライトオフィスとして、子育て中や介護中の社員が活用できるようにしています。
試験導入した際には往復の通勤時間と残業時間がそれぞれ2時間削減できたという結果も出ており、今後の利用者の拡大が期待されています。
地方型サテライトオフィスの事例「セールスフォース・ドットコム白浜オフィス」
総務省が推進する「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」の一環として、セールスフォース・ドットコムは2015年和歌山県白浜町にサテライトオフィスを設置しました。
実証事業ではサテライトオフィスを活用したビジネスの有効性について、検証が行われました。その結果、2015年10月~2016年3月末までの半年間の成果として、商談件数20%の増加、契約件数31%の増加という大幅な生産性のアップが見られました。
単にオフィスを設置するだけでなく、地域住民と従業員の交流も進み、小学校で「プログラミング教室」も開設されています。サテライトオフィスがビジネス面で成功を収めただけでなく、地域の活性化を行うこともできました。
サテライトオフィスを通じて多様な働き方を促進しよう
サテライトオフィスを新規に導入するには、顧客に提供できる価値を落とさないことを念頭に、環境を構築することから始めていく必要があります。
企業によっては、営業担当者がモバイルワークのノウハウを持っている場合があります。営業先へ行く前にカフェなどで資料のチェックをしたり、コワーキングスペース利用の経験がある担当者がいる場合は、サテライトオフィスを設置する際の問題点や考慮すべき点をヒアリングしてください。
サテライトオフィス勤務を導入する際に、就業規則内でサテライトオフィス勤務に関して規定しておく必要があります。勤務の規定を整備することで、適正に労務管理が可能になります。
サテライトオフィス勤務の範囲や規模、活用方法などは、事業の性格や従業員の構成によって大きく変わっていきます。試験的な運用と効果の計測を行いながら進めてください。
サテライトオフィスをうまく活用することができれば、従業員の満足度や生産性に良い影響が見られるでしょう。小さく始め、計測と分析を欠かさず、少しずつ前進してください。