インバウンドマーケティングの世界は、情報やデータで溢れかえっています。これはデータ分析が何よりも好きな人にはたまらない状況でしょうが、そうでない人には、指標やKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)の種類が多過ぎて、持て余してしまうかもしれません。
この記事では、NPO組織で寄付の金額や寄付者の数を増やしたい方のために、Network for Goodによるこちらの記事(英語)を参考にしながら、オンラインで寄付を募る場合に測定すべき10のKPIをご紹介します。
新規寄付者獲得率
シンプルですが、さまざまな方法で分析が可能なKPIです。たとえば新規の寄付者をひと月あるいは1年で何人獲得したかを調べたり、チャネル別あるいはキャンペーン別に調査したり、算出したパーセンテージを期間ごと、またはキャンペーンごとに比較したりすることができます。
寄付者更新率
昨年に寄付をした人の数(LYD)を調べ、それらの寄付者のうち何名が今年も寄付してくれたか(TYD)を数えます。そして、TYDをLYDで割ることにより、寄付者更新率が算出されます。たとえば、昨年に100人から寄付を受け取り、そのうちの80名が今年も寄付をしてくれた場合、寄付更新率は80%になります。
この指標は最短で1年から数年ごとに調べるのがよいと思いますが、どれくらいの期間で寄付者が「更新」または「消滅」したかを判断するべきか、検討するのが少し難しいかもしれません。
正味新規寄付者数
このKPIは、NPO組織の寄付を募る活動が停滞しているのか、衰退しているのか、あるいは勢いを増しているのかを確認するために、新規の寄付者数および更新した寄付者数を調べて算出します。最初に説明した寄付者獲得率では、実際には情報を十分に得ることが、通常はできません。
たとえば本年度に100名の人が初めて寄付をしたとすれば、新規寄付者数は100になりますが、仮に寄付者更新率が50%と低かった(昨年100人が寄付をしたとすると、今年はその半数が寄付をしなかった)場合はどうでしょうか。新規の寄付者数が多くても、更新する人の割合が低ければ、その価値は低下してしまいます。
このような重要な情報を含めて新規寄付者を計算し、獲得率をよりわかりやすく示したのが、この正味新規寄付者数です。このKPIは寄付者全体のエンゲージメントレベルを評価するためにも有効です。
新規寄付者の獲得率も重要ですが、寄付金の額を増やそうと、このKPIにあまりにも神経を使い過ぎると、開発チームに多大なプレッシャーを与えてしまうことがあります。これについては、後ほど紹介する寄付者獲得コストや、平均寄付金額のセクションで詳しくお話ししますが、十分な額の寄付金を安定して受け取るためには、多くの人に繰り返し寄付してもらうことが何よりも重要です。
2回目の寄付までの期間
誰かが初めて寄付をしてから、2回目の寄付をするまでの期間を測定します。これを分析することで、獲得した新規の寄付者を維持できているか、それとも先の正味新規寄付者数を低下させるかを確認することができます。「Fundraising Effectiveness Project's 2015」のレポートによると、新規寄付者が再度寄付をする割合は19%と非常に低いのに対し、繰り返し寄付をする人のうち63%は次回もまた寄付をするそうです。
このことから、初回と2回目までの寄付の期間は、できるだけ短い方が望ましいことがわかります。短い期間で寄付者に寄付を習慣づけてもらえれば、それだけ寄付者の生涯価値は高くなることが考えられます。
寄付者再活性化率
たとえば、過去5年間まったく寄付をしなかった寄付者を「失効」と見なすと決めた場合、失効した人のなかから再び寄付をした人の数を調べて算出します。失効した人をターゲットとして再活性化のためのキャンペーンを実施する場合(ぜひ実施しましょう!)、この指標に注目すると、どの方法でキャンペーンを行うのが効果的かを調べることができます。
寄付者獲得費用(チャネル別)
募金を集めるためのキャンペーン(またはチャネル)に費用をかけただけの効果があったかどうかを判断するための指標です。たとえば80万円かけてPPC広告キャンペーンを実施し、寄付を行える機能を持つランディングページへの訪問者を増やしたとします。
そして、その訪問者の中から寄付をした人の数を調べて、80万円をその人数で割ったのが寄付者獲得費用です。仮にこのキャンペーンで寄付者を100人獲得したとすれば、寄付者1人あたりの獲得費用は8,000円になります。
平均寄付金額(チャネル別)
仮に、先のPPC広告キャンペーンで、平均寄付金額が5,000円だったとすると、このキャンペーンはあまり効果的だったとは言えないかもしれません。ですが、寄付の金額を調べる指標では、寄付者の生涯価値を考慮することが重要です。そして、寄付者の維持や再活性化率がいかに重要かも、ここで理解できると思います。顧客獲得費用は、ほぼ必ずと言ってよいほど初回の寄付金額よりも高くなることを覚えておいてください。
平均寄付金額は、キャンペーン別およびチャネル別に調べてください。とりわけ、チャネル別の平均寄付金額は重要ですので、各チャネルのコストと比較しながら、どのチャネルのリソースを増やすべきかを検討してください。たとえば、寄付を受け付けるために作成したランディングページによる平均寄付金額が、ホームページに表示された「寄付」のボタンによる平均金額よりも高かった、などを理解することができます。
寄付者1人あたりの寄付金額(チャネル別)
単純に、各チャネルで一定の期間またはキャンペーン中に集まった寄付金の合計額を、寄付者の人数で割ります。EメールやSNSを利用して寄付を募集した場合や、ダイレクトマーケティングやPPC広告キャンペーンを実施した場合に算出するとよいでしょう。たとえば昨年にEメールで寄付を募集し、500人の寄付者から合計1,000万円の寄付を獲得した場合、寄付者1人当たりの寄付額は2万円になります。
純利益
寄付金の合計額から寄付の獲得費用を引いて算出します。チャネル別に調べてください。たとえば、Facebookで獲得した寄付金額の合計額から、チャネルの維持費を差し引いて計算するなどができます。また、キャンペーン別でも、あるいは寄付者のタイプ別でも調査できます。寄付者のタイプ別に純利益を調べると、新規寄付者の獲得費用と、寄付者を維持または再活性化するための費用との違いなどについて、さまざまなインサイトを得ることができます。
生涯価値(チャネル別)
この記事ですでに、生涯価値という用語を何度も使いましたが、最後にこのKPIを説明します。寄付者の生涯価値は、NPO組織がターゲットを適切に選んでアプローチできているかを調べるうえで非常に重要です。また、寄付者の生涯価値はチャネルによって変動しますので、チャネル別に生涯価値を調べるようにしてください。
LTV(Lifetime Value:生涯価値)を計算するには、いくつかベースとなる指標を調べる必要があります。寄付者のLTVは、まず寄付者の寄付金額を合計し、そこから寄付者の獲得および維持にかかる費用を差し引いて計算します。獲得および維持にかかる費用は、寄付の合計金額ほど正確には出せませんが、寄付者の維持にかかる費用を1年ごとに調べている場合は、その平均額を費用に追加するとよいでしょう。
LTVはチャネルごとに調査すると、より価値が高まります。チャネルごとのLTVを計算するには、そのチャネルにおける寄付者のライフスパンの平均、寄付の平均金額、そのチャネルの寄付者合計数と寄付の合計回数を先に調べる必要があります。以下はFacebookを利用して獲得した寄付者のLTVを算出する例です。
Facebookを利用して獲得した寄付者のLTV: 5(ライフスパンの平均年数)× 10000(寄付の平均金額)×[1000(寄付の合計回数)/500(寄付者合計数)]= 10万円
この例で、たとえばFacebookを利用して寄付者を新規獲得するために1万円の費用がかかるとすると、寄付者1人につき実質9万円を受け取る計算になります。これを先のPPC広告の例と比較しましょう。PPC広告を利用して寄付者を新規獲得するための費用が8,000円で、LTVが5万円だったとします。その場合、PPC広告で獲得した寄付者の方が、費用は低く抑えられるけれども、LTVで言えはFacebookで獲得した寄付者の半分しかない、などのように分析することができると思います。
まとめ
この記事では、NPO組織の募金活動の成果について、重要な要点を部分的に調べるためのKPIをいくつかご紹介しました。より総合的に成果を分析したい場合、あるいは、開発やマーケティングの費用を最大限有効に活用し、高いROIを達成できているか調べたい場合は、これらのKPIを組み合わせて完璧な分析を行う必要があります。
今回はその準備段階として、まずはそれぞれのKPIがどう結び付いているかを理解していただければよいと思います。
編集メモ:この記事は、2017年3月に投稿した内容に加筆・訂正したものです。Nick Cholakisによる元の記事はこちらからご覧いただけます。