「ECサイトを立ち上げよう」と思い立ったら、まずはどのような手段があるのかを知る必要があります。売ろうとしている商材の単価や特徴、自社の予算、そしてお客様が求める購入体験に応じて適切な選択肢を選ぶことが重要です。
これはECサイトだけでなく、オフラインでのビジネスも同じです。ショッピングモールのテナントに出店するか、路面店を建てるか、その路面店を自分でデザインするか、それとも専門店にデザインから建築までお任せするか、と同じ問題だと考えると分かりやすいでしょう。
とはいえ、初めてECサイトの構築を行う人にとっては、どのような選択肢があるのか、自分はどれを選べばいいのかがわからず、不安になる点も多いと思います。今回は、ECサイトを構築するのにはどのような手段があるのかを解説。それぞれの費用感や具体例も合わせてご紹介します。
ネット通販を成功に導くECサイト構築チェックシート
本テンプレートの「サイト構築選択チェックシート」を使えば、自社に最適なECサイトの構築方法を簡単に見極めることができます。準備段階だけではなく運営後のヒントとしてもお役立てください。
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ECサイトの始め方は、大きくは2種類あり
ECサイトの始め方には大きく2通りの方法があります。1つは、ECモールへ出品する方法。特定のブランドが欲しいというよりも「使いやすいカバンが欲しい」「カーテンを新しくしたい」などカテゴリ単位で商品を探す方や、ウィンドウショッピング感覚で様々な商品を回遊する方が多い傾向にあります。
一方、「このブランドの、この商品が欲しい」と指名検索で来る方やリピーターが訪れやすく、より深い関係を構築できるのが自社ECです。この顧客体験の違いを理解した上で「ECモール」を利用するか「自社EC」を構築するかを判断していきます。
ECモールに出店する場合
ECモールは、ECににおける百貨店やデパートと同じようなものと捉えて良いでしょう。メーカーや小売業者が多数出品しており、消費者は様々な商品を比較しながら買い物を楽しむことができます。国内ECモール最大手、「楽天市場」では2019年に4兆円弱もの流通総額(販売総額)があったと決算で発表されており、その市場規模の大きさが伺えます。 (出典:『2020年度決算短信・説明会資料』)
日本市場の代表的なECモールは?
日本でECモールのサービス提供され始めてからおよそ20年たった今でも市場は成長を続けています。
数あるサービスの中でも日本発の「楽天市場」と、アメリカ発の「Amazon」の2強状態が続いています。「楽天市場」の流通金額が3兆8,000億円、「Amazon」が3兆4,200億円となっており、どちらも3兆円を超える巨大市場です。続いて3位以下の流通金額は1兆円以下ではあるもの、それぞれ独自の分野や世界観を強みにしています。
3位以下は順に、検索エンジンを後ろ盾にもつ「Yahoo!ショッピング(PayPayモール)」と「ヤフオク!」フリマアプリの「メルカリ」、ファッションEC最大手の「ZOZOTOWN」と続きます。
このECモールの順位から、スマホ利用による購入が増えているということが読み取れます。特に、ECの中では後発に属する「メルカリ」と「ZOZOTOWN」はスマホアプリのサービスに特化することで急成長を実現しています。
実際に大手ECモールの流通総額の65%はスマホ経由とされており、今後ECサービスを始める上でスマホ対応は欠かすことのできない要素であると言えます。
ECモールの特徴とは?メリット、デメリットは
特徴1.簡単に出店できるので、スタートのハードルが低い
「出店しやすく、参入ハードルが低いこと」がECモールの特徴としてまず上げられます。出店から出品、そして売買成立後の流れまでのフローがモール側で用意されており、まずはそのフローに従うだけで問題ありません。また、プロモーション(販促活動)もモール側にお任せできるため、SEO対策やサイト内回遊の設計まで店舗側が考える必要はありません。
また、分からないことがあれば運営側に問い合わせることができます。楽天市場を例に上げると、出店までにはコンサルタントがつきますし、インターネット上で検索するだけでも多くのノウハウやテクニックが紹介されています。
多くのメリットがある一方、参入障壁の低さゆえ、常に競合と戦う必要があると理解しておきましょう。多くのユーザーは複数ブランドを比較検討した上で購入するため、競合他社との差別化戦略を考える必要があります。
また、カスタマイズ性の悪さもデメリットの1つです。特に、Amazonでは決まったデザインでしか出品することができず、ブランドの特色をページに反映することが難しいです。カスタマイズ性が悪いことで自社商品の良さを訴求しきれず、価格競争に陥りがちであることは、ECモール出店時のデメリットと言えるでしょう。
特徴2.マーケティング・集客に大きな強みを持つ
特にインターネットのビジネス経験が浅い方にとって、Webマーケティングを自社で行うことはかなり難易度が高いのではないでしょうか。SEOやリスティングやSNS等の広告、アフィリエイトなど専門用語が無数にあることに加え、トレンドの変化が早く、しっかり実施しようとするとかなりの労力を割く必要があります。
ECモールの場合は、Webマーケティングのメニューはモール側で用意されており、必要に応じて相応の料金を支払うことで活用することが可能です。ECモール側のWebマーケティング担当者がECモール全体のマーケティングを行っているだけでなく、各店舗の露出が増える仕組みが多数用意されています。
例えば、「人気商品ランキング」やコラボや季節毎のキャンペーンがそれにあたります。検索機能やレコメンド機能の精度向上も、地味ですが重要な施策です。また、オプション機能として、メルマガを配布したり、SNS発信を簡単に行うことができる場合もあります。
ただ、利用するとなるとそれなりの料金を支払う必要があります。モールごとに利用料金の仕組みや支払い率は変わってきますが、自社で構築する場合と比べてどうしても割高になりがち。売上規模が小さいうちは手数料も少なくて済みますが、販売額が大きくなるにつれて支払額も大きくなり、コストが嵩んでいくことになります。
特徴3.物流の手間を減らすことができる
全てのモールで当てはまるわけではありませんが、在庫、倉庫、配送といった、物流(ロジスティクス)の管理、運用を代行してくれる点も大きなメリットです。もともと利益率が高いECですが、より収益力を高めるためには、物流を効率化することが必要不可欠です。また、物流を最適化することで時間通り、かつ最短日数で購入者の手元に商品を届けられるようになることで顧客満足度の向上にも貢献することができます。
その代表的なサービスがAmazonのFBA(Fulfillment By Amazon)です。商品をAmazonが管理する巨大な物流センターに保管できるだけでなく、梱包もすべて任せることができます。人の手によって行うか、自社で構築しなければならなかった在庫管理、梱包、そして出荷の手間を省くことができ、商品開発といったより優先度の高い業務にリソースを割くことが可能になるのです。
自社EC(自社ドメイン)を構築する場合
ECモールに出店するのではなく、自社でサイトを立ち上げて運営する方法もあります。いわゆる「自社EC」と呼ばれるもので、インターネットが普及したことで多くの店舗が自社ECを運営することになりました。現在の市場規模の割合としては、EC流通額全体のおよそ40%が自社ECで発生していると言われてます。
(出典:『先輩がやさしく教えるEC担当者の知識と実務』株式会社いつも)
ただ、一口に「自社EC」といっても、その構築方法はさまざま。インターネット黎明期は自分たちで0から立ち上げるしかありませんでしたが、現在ではさまざまなサービスが立ち上がり、それらを利用することで簡単にECを始めることができるようになりました。
それぞれの自社ECの構築方法について、主に費用面(コスト)と自由度(拡張性)の観点から解説していきます。
ASP(Application Service Provider)
ASPとは、インターネット上のアプリケーションのことをさしています。基本的にオンライン上ですべてのサービスが完結するため、特定のソフトウェアをダウンロードする必要がなく、社内の管理や導入も便利です。また、インターネット環境さえあればどからでも運用できるという、働き方が縛らない点も魅力です。
簡単に導入できる反面、カスタマイズ性が低いことが欠点です。しかし最近のASPサービスでは簡単かつ洗練されたデザインのテンプレートが用意されている場合が多いため、こだわりよりもスピード感が大事な場合は特におすすめです。
昨今のDtoCブームも追い風となり、多くの個人もASPを活用してECを始めていることも特徴で、年商規模がおよそ3億以下が目安になってきます。有料のサービスですと、「Shopify(Shopify)」「MakeShop(GMOメイクショップ株式会社)」の2トップで、他には「カラーミーショップ(GMOペパボ株式会社)」「futureshop(株式会社フューチャーショップ)」があります。
また、基本無料のサービスでは「STORES.jp」や、2019年にマザーズ上場を果たしたBASE株式会社が運営する「BASE」があります。
オープンソース
オープンソースとは、基本無料で公開されているソースコードのこと。自由にダウンロードすることができ、自社でカスタマイズしてECサイトを構築することができます。主にショッピングカート機能は標準で実装されており、オプション機能も豊富である点も魅力です。技術力やノウハウがあれば自由にカスタマイズをすることができます。
デメリットとしては、保守運用を自社で賄う必要があるため、外注するにしても、内製するにしても、その都度コストがかかってくる点が挙げられます。コスト的には、だいたい年商規模3〜5億円ほどの事業者に適しているでしょう。
国内の主要オープンソースサービスだと、「EC CUBE」や「Magent(マジェント)」、WordPress向けの「Welcart(ウェルカート)」が挙げられます。
パッケージ(ECパッケージ)
ECにおける「パッケージ」とは、ECベンダー各社が提供しているECのプラットフォームを指します。提供されたソフトウェアを購入し、自社サーバにインストールするのはオープンソースと同じですが、ECベンダーのサポートが入る点がしが大きな違いとなります。
パッケージの場合、柔軟にカスタマイズし、機能の拡張ができること、ベンダーが持つノウハウを活かしてサイトの構築ができることが大きな魅力です。メリットは導入時のコストとランニングコストが高くなることでしょう。
国内の主要なECパッケージでは、「ecbeing」「EC-Orange」があります。また、近年はクラウドECと呼ばれるパッケージと同等の機能をクラウド型で低コストで提供するサービスが現れており、「ebisumart」や上記ecbeingが提供する「メルカート」等の人気が高まっているようです。
フルスクラッチ
最後に紹介するのは、フルスクラッチでECサイトを構築する方法です。すべてオーダーメイドでECサイトを構築できるため、もっとも自由度は高いと言えます。商材の世界観を反映させたサイトを実現できるため、リピート顧客を囲いこむことに適しています。また、トレンドでもあるOMOを高度に実現するためにはフルスクラッチでなければ難しいケースも。
デメリットはやはりコストです。構築コストも高く、数千万から億単位の開発費用が発生することも珍しくありません。開発期間もかかり、保守も大変であるため、経営体力があり、大規模な投資を行える企業に限られてきます。
自社の目的に合わせたECサイト構築の選定を
ECサービスを始める上で、まずどのような構築方法があるか理解し、自社の課題感や目指す目的を明確にすることが重要です。それぞれの方法をよく比較検討し、その中で最適なサービスを選んでいきましょう。
日本でECが誕生してから20年が経ち、インターネット上にはさまざまなノウハウやテクニックが紹介されています。そういった先人の知恵も参考に、顧客を考えた上で自社顧客に最適なECサイト構築を心がけましょう。