ECサイト(ウェブサイト)はインターネット上の店舗そのもの。「商品を選んで購入する」という最低限のカート機能で充分だったインターネット黎明期とは違い、現在ではブランドの世界観を消費者に体験し、ブランドに共感してもらい、(繰り返し)購入てもらうための重要なチャネルとなりました。
ECモールやASPサービスの登場でECサイトの立ち上げこそは簡単になったものの、それだけ競争は激しくなっており、ECサイトにおける「UX(顧客体験)」のデザインが成否のカギとなっています。今回は、ECサイトにおけるUXデザインの重要性や、各業界における成功事例をご紹介します。
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ECサイトにおけるUXデザインの重要性
UX(顧客体験)とは、消費者がモノやサービスによって得られる体験のこと。メディアでもよく取り上げられる「モノ消費からコト消費へ」という言葉もあるように、形ある商品の「保有」ではなく、購入で得られたモノやサービスによる「体験」に価値を置く消費が、昨今の消費者の傾向です。
こうしたトレンドの中で、大手ECモールだけでなく、個人で経営するECサイトであっても顧客のUXに最適化されたデザインが求められています。では、ECサイトのUXデザインはは具体的にどう行なっていくべきなのでしょうか。
スマホファーストのシンプルデザイン
D2Cブランドを中心に、シンプルなデザインを採用するECサイトが増えています。一昔前はカラフルなテキストと写真・イラストを多用した、情報量が多いECサイトが主流でした。この背景には、消費者がECサイトを利用するデバイスの変化、PCからスマートフォンへのシフトがあります。
中国に次ぐEC大国であるアメリカでは、ECサイトにおける売上のうち、1/3以上がスマートフォンから売上であると言われており、今後もスマートフォンからの売上額は上昇していくものと推測されています。
(参考:「Smartphones Will Account for More than One-Third of Ecommerce Sales in 2019」eMarketer)
スマホファーストのUXデザインで最も大事なポイントが「シンプル」であることです。手のひらサイズのディスプレイに商品の情報を載せ、必要最低限のタップと遷移で購買まで完了できる手軽さがECサイトには求められています。
オウンドメディアで世界観を発信
D2Cブランドのように、オンライン上で世界観を発信しているECサイトではオウンドメディアの運用は必須だと言えます。今すぐ客だけをターゲットにした物売りのサイトではなく、見込み顧客に対してメリットのある情報を届けてあげるECサイトにすることで認知拡大を狙っていきましょう。
最近では、ブランド力の強い大手ECサイトでも自社オウンドメディアを運営する企業が増えてきました。例えばモバイルバッテリー、充電器ブランドのAnkerが運営する『Anker Magazine』では、バッテリーの疑問に答える記事や社員によるおすすめ製品の記事が公開されています。
他にも、元ポパイ編集長であった木下孝浩氏がクリエイティブディレクターを務める、UNIQLOの『LifeWear magazine』や、無印良品の『くらしの良品研究所』、北欧、暮らしの道具店の『読み物』などが成功事例として挙げられます。
オウンドメディアを運営することのメリットはSEOで幅広い検索クエリを獲得することだけではありません。コンテンツによってブランドの世界観を発信することで、ブランドの思想に共感するファンを育てることができるのです。ブランドへのロイヤリティを高めることで購入頻度があがり、LTVの向上に貢献することができます。
サブスクリプションモデルの導入
「サブスク」の略称で一般的になりつつあるサブスクリプションサービス。雑誌の定期購読のようなイメージで、定額料金を払うことで一定期間サービスを受けることができます。動画や音楽の視聴サービスにイメージが強いサブスクですが、最近ではモノのECでもサブスクリプションを導入する企業が増えてきました。
ロボット掃除機「ルンバ」を手掛けるアイロボットでは、おためしのレンタル期間と3年契約プランの『Robot Smart Plan』の提供を開始しています。
ユーザーにとっては手軽に体験できるだけでなく、定額制によって一括購入の負担を減らすことができます。一方でECサイト側としては、定額で売上を積み立てていくことができるため、集積予想を立てやすくなるというメリットがあります。
ECサイトを立ち上げる前に参考にしたい、業界別ECサイト
ECサイトを立ち上げる前に、自社で立ち上げる場合でも、制作会社へデザインを発注する場合でも、他社ECサイトのUXデザイン事例をインプットしておくことは重要と言えます。UXデザインにはトレンドがあり、特に大手ECサイトからは学べることが多いでしょう。
1:ファッション・アパレル
輸入およびオリジナルの衣料品や雑貨を販売するセレクトショップ「BEAMS(ビームス)」の公式ショップ。
購入した商品の受け取りを店舗で行うことができるといったOMO施策に同社は力を入れており、リアル店舗での購買に近い体験が再現されています。
また、各店舗の店員が動画や写真を使ってコーディネートを紹介している点も特徴的です。
ビジネスウェアのカスタムオーダーサービス「FABRIC TOKYO」は、店舗で採寸したデータを元に、ECサイトからオンラインで購入できるというもの。
オウンドメディアでは、自分らしい働き方を提案するWebマガジン「はたら区」を運営。「働き方」という切り口から世界観のメッセージを発信しています。
サンフランシスコ発のアパレルD2CブランドであるEVERLANE(エバーレーン)。ECを中心にアパレル商品を販売しており、「透明性」をキーメッセージとしたブランドの世界観を発信しています。ただ服を売るのではなく、「顧客に対して正しいことをする」という思想に共感が集まり、それがブランドへの評価につながっています。
2:インテリア・家具
家具・インテリアの総合ショップのLOWYA(ロウヤ)。ebisumart(エビスマート)を活用し、自社サイトやアプリを内製しており、作り上げた高いデザイン性と安価な価格帯が若年層を中心に支持を得ています。また、楽天市場では7年連続でSHOP OF THE YEARを2011年から受賞しています。
3:事務用品・文房具
明治37年創業の老舗文房具店、銀座・伊東屋のオンラインショップです。限定モデルの高級筆記具、伊東屋オリジナルの手帳、直輸入のステイショナリーなど、豊富な品揃えと高いデザイン性が強み。また、SNSの運用にも注力しています。
当日・翌日配送がサービスの強みであるASKUL(アスクル)。法人向けの日用品を750万点以上取り扱っており、1,000円以上の購入では配送料が無料になるという、法人向けならではのメリットを全面に訴求しています。
4:家電・PC周辺機器
サイクロン式掃除機に代表される家電メーカーのDyson(ダイソン)。プロダクトの先進的なデザインは公式ECサイトも同様で、サイト内にはオンラインデモで疑似体験することができたり、購入後の保証登録が行えたりと、他社にはない独自の機能が実装されている。
モバイルバッテリーや急速充電器を始め、プロジェクターやロボット掃除機など、幅広い家電製品の開発、販売を手掛けるAnker(アンカー)。Amazonだけでなく、自社サイト内でも購入することができます。オウンドメディア「Anker Magazine」の運営に力をいれていることも特徴です。
5:スポーツ・アウトドア
ヨガウェアを始め、ランニングやトレーニング向けのウェアを販売するlululemon(ルルレモン)。公式サイト内には公式アンバサダーである日本全国のヨガインストラクターやトレーナが紹介されており、また各種イベントの告知も行われていたりと、コミュニティマーケティングに力を入れていることが伺えます。
スイス・アルプスで生まれたランニングシューズ、ウェアのブランド「On(オン)」。「Put fun into the run (ランニングに楽しさを)」というミッションを掲げ、現在日本ではマラソンやトライアスロンの選手を中心に広がりを見せています。
サンフランシスコ生まれのシューズブランド、allbirds(オールバーズ)。シリコンバレーで働く人たちの間で話題となり、アメリカのニュース雑誌・TIMEは「World’s Most Comfortable Shoe(世界で最も快適な靴)」と評価。2020年には日本に上陸し、店舗とECサイトではサステナビリティを全面に打ち出し、ブランドの世界観を発信し続けている。
6:化粧品・医薬品
BULK HOMME(バルクオム)は日本発のメンズスキンケアのD2Cブランドです。日本でまだD2Cのビジネスモデルが浸透する以前から展開しており、サブスクリプションプランや洗練されたサイトデザインは参考になる部分が数多くあります。
BOTANIST(ボタニスト)は、ヘアケアを中心にボディケアアイテムなどを取り扱うブランド。楽天市場では2年連続ランキング1位を獲得。Instagramでのマーケティング戦略が特徴的で、多くのインフルエンサーを巻き込むことでSNS上の認知拡大に成功しています。同ブランドを運営する株式会社I-neは2020年に上場を果たしています。
モノ売りの場所ではなく、顧客接点の1つと捉える
ECサイトが、「ただ商品を売る場所」だった時代は終りを迎えています。自社ブランドの世界観を伝え、見込み顧客が知りたい情報を提供する、企業と顧客が接する重要な場所に成長しました。
ECサイトは立ち上げて終わりではなく、その後の運用や顧客のニーズに合わせてUXデザインをアップデートしていくことも重要です。ただ、ECのトレンドの変化は激しく、競争が激化しているのも事実。難しい場合は無理に自社だけで立ち上げようとせず、実績やノウハウを持つ制作会社と一緒に立ち上げる選択肢も考えるべきです。その場合でも、最低限他社の成功事例を勉強し、どのようなサイトのデザインにしたいか描けるようにしておきましょう。