国内Webサイトの多言語対応の必要性が高まっています。日本のインバウンド需要が増えていること、外国人労働者の数が増えていることなどから、日本語話者ではない人が日本のWebサイトへアクセスする機会が増加しているのです。
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Webサイトを多言語対応しておけば、言語の問題で離脱されてしまうという機会損失を防ぎ、新たなターゲット層へのアプローチが可能となるでしょう。
今回は、WordPressで構築しているWebサイトにおける多言語対応の方法や注意点について解説します。
WordPressを使ったウェブサイトの作成方法
このガイドとチェックリストでは、WordPressでウェブサイトを作成するための詳細な手順をご確認いただけます。
- ドメイン名の設定
- SSL証明書のインストール
- コンテンツの分析
- ウェブサイトのバックアップ
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全てのフィールドが必須です。
企業サイトにおける多言語化の重要性
企業サイトの多言語化の需要が高まっていると述べましたが、実際にはどのような状況となっているでしょうか。
訪日外国人の数
出典:訪日外国人動向2023 - 観光統計 - JTB総合研究所
JTB総合研究所では、訪日外国人数の推移をまとめています。それによれば2014年あたりから訪日外国人数は大きく増加し、2019年にはピークを迎えました。
新型コロナウイルスの影響により2021年には限りなくゼロに近づきましたが、渡航制限の解禁後の2023年は大きく回復していることがわかります。また、2024年も増加傾向となっています。
外国人雇用状況
厚生労働省の発表によると、外国人労働者の数は届け出が義務化された2007年以降、過去最高を更新したとのことです。
前年比で見ても12.4%の増加で、傾向で見ても増加が続いていることがわかります。
出典:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)|厚生労働省
行政の多言語化対応
栃木県宇都宮市では、2024年4月7日までに、「うつのみや多文化共生推進プラン」を策定。このプランでは、市内在住の外国人が増加していることを受け、行政情報の多言語化を強化することを盛り込んでいます。
出典:宇都宮市が行政の多言語化を推進 市内在住外国人1万人突破 多文化共生推進プラン策定|下野新聞 SOON(スーン)
サービスの多言語化
旅行に関するさまざまなサービスを提供する楽天トラベルでは、2024年4月17日からレンタカー予約サービスを多言語化しました。英語・韓国語・繁体字でサービスを利用できるようになっています。
また、各オプションをピクトグラムで表示するなど、言語が違ってもわかりやすくなるような改修も行っています。
出典:楽天トラベル、レンタカー予約を多言語化、英語・韓国語・繁体字で開始、インバウンド需要に対応|トラベルボイス(観光産業ニュース)
多言語対応の株が人気
これまでにご紹介した背景にあわせ、東証プライム上場企業には2025年4月から重要情報の英文開示が義務付けられることから、多言語対応において重要な役割を果たしている銘柄が人気を集めています。
特に宿泊・観光・飲食業界においては訪日外国人の受け入れ体勢が求められており、多言語対応は急務だと考えられます。
出典:脚光浴びる「多言語対応」関連株、外国人受け入れでニーズ急拡大へ <株探トップ特集> | 特集 - 株探ニュース
企業サイトを多言語化するメリット
企業サイトを多言語対応することで、以下のようなメリットが期待できます。
ユーザー体験・信頼性の向上
サイト内容を多言語化することで、その言語を話すターゲットに内容を理解してもらえるようになるため、ユーザー体験は間違いなく向上します。日本の商品・サービスを利用したいと考えていながら、日本語しか記載がないためにアクセスを諦めてしまうケースは少なくないと思われるため、これだけでもメリットは大きいといえるでしょう。
また、このサイト・ブランド・企業は多言語対応してくれるという信頼性の向上にもつながります。
現在はブラウザの機能やAIチャットツールなどを使って翻訳することもできますが、「自分と同じ言語で対話してくれる」という安心感は商品・サービスへの信頼にもつながるでしょう。
SEO効果
多言語対応することで、SEOにもいい効果をもたらします。
例えば、もともと日本語のみのWebサイトを英語・中国語・韓国語・スペイン語に翻訳した場合、Google はそれぞれのページを別ページとしてインデックスするため、検索結果ページに表示されるページ数が単純計算で5倍になります。
当然、検索流入の増加も期待できます。
WordPressで多言語対応する方法
Webサイトを多言語化する方法は、大きくは次の4つに分けられます。
- 言語別にサーバーを分ける
- マルチサイトで言語・地域を分ける
- 多言語に対応したWordPressテーマを選ぶ
- 多言語プラグインを使う
それぞれの詳細を確認してみましょう。
言語別にサーバーを分ける(ccTLD)
国別のホスティングサーバにWordPressをインストールしてWebサイトを構築します。例えば、イギリスからはイギリス内のサーバーにアクセスしてもらうことにより、アクセス速度の遅延を小さくできます。ただし運営コストは大きくなります。
国別のホスティングサーバにWordPressをインストールし、翻訳した上で新しくWebサイトを構築します。例えば、イギリスからはイギリス内のサーバーにアクセスしてもらうことにより、アクセス速度の遅延を小さくできます。
なおccTLDとは「Country Code Top Level Domain」の略であり、日本でいう「.jp」など国ごとに割り当てられているトップレベルドメインのことです。HubSpotブログでも、日本語では「https://blog.hubspot.jp/」、フランス語では「https://blog.hubspot.fr/」といったようにccTLDを分けています。
マルチサイトで言語・地域を分ける
同一サーバー内で、複数のWebサイトを構築して多言語に対応します。サブドメインを設定する場合と、サブディレクトリを設定する場合の2つの方法があります。言語ごとにWebサイトのカスタマイズができますが、サイト管理の負荷は多言語した分だけ増加します。
サブドメインとは、本来のドメインの前に別のラベルを追加したものを指し、例えばHubSpotの本サイト(https://hubspot.jp)に対するブログサイト(https://blog.hubspot.jp)がサブドメインに該当します。ドメインはそもそも、ドメイン全体(いわゆるTOPページのURL)において一番後ろをトップレベルドメイン、その左をセカンドレベルドメイン…というように定義されており、「hubspot」のサブ(下)に位置する「blog」がサブドメインに当たります。
一方のサブディレクトリは、HubSpotのブログサイト(https://blog.hubspot.jp)に対するマーケティングカテゴリ(https://blog.hubspot.jp/marketing)のように、Webサイト内の下の階層に作ったページを指します。
なお、サブドメインとサブディレクトリにSEO上の優劣はないとされているため、どのように多言語化したいかによって選択するといいでしょう。
サブドメインとサブディレクトリについては、以下コラムにてさらに詳しく解説しています。
多言語に対応したWordPressテーマを選ぶ
WordPressテーマの中には、多言語化を前提に作られたテーマがあります。
1つのサーバーで、マルチサイトを作成することなく多言語対応できます。
多言語プラグインを使う
すでに今のテーマを長く使用しており、新しいテーマに変えることは難しい場合は、多言語対応のプラグインを入れることでも多言語化は可能です。
多言語化のための翻訳方法
多言語化のためのWebサイト構築内容について解説しましたが、実際にコンテンツを翻訳するには、主に「自動翻訳」と「専門会社へ依頼」の2つのパターンがあります。
自動翻訳を利用する
現在はAI研究が活発になってきており、自然言語処理などを活用した翻訳サービスも多く登場しています。
自動翻訳といえば、かつては単語やフレーズを直訳するだけの実用性には欠けるものでしたが、現在では一定のクオリティが期待できます。実際に、3つ以上の言語に対応する場合、英語など重要度の高い言語以外は自動翻訳で対応するというケースは少なくありません。
一方で、自動翻訳が完全に信頼できるかといえばそうではなく、本来の意図とは違う文脈で訳されてしまうことも多いでしょう。少なくとも、自動翻訳したコンテンツを人の目で確認できる体制が作れれば安心といえます。
翻訳会社へ依頼する
依頼料金は必要とするものの、自動翻訳と比べると翻訳の専門会社に任せるほうが信頼性は高く、またWebサイトのユーザー体験の向上・SEO効果においてもよりよい影響が期待できます。専門会社による翻訳では、辞書的な翻訳だけでなく、文脈・文化・商慣習・歴史的背景・最新のニュースを反映した翻訳も可能です。
一方で、時間とコストを必要とします。自社に翻訳ができる従業員がいれば内製でコスト削減することも可能ですが、現実的には難しいでしょう。
費用対効果を考えて、自動翻訳か翻訳会社かを選択することが重要です。
企業サイト多言語化に役立つWordPressテーマ
Webサイトを多言語化する場合、比較的簡単なのがWordPressテーマ・WordPressプラグインを使用する方法です。
ここではまず、おすすめのテーマについてご紹介します。
CORPORATE
コーポレートサイト多言語対応WordPressテーマ | LIQUID PRESS
《特徴》
マルチサイト型で多言語化を実現する方式なので、サブディレクトリ、サブドメインなどの事前準備が必要となります。また、Google 推奨の言語アノテーション(hreflang)に自動対応しています。
Real Estate Agency WordPress Theme
Real Estate Agency Responsive WordPress Theme #57617
《特徴》
広い背景表示やスライダー機能を備えた、不動産販売向けのテーマです。シンプルな構造のため、不動産販売以外でも使えそうです。
なお、Retinaディスプレイ(高画素密度のディスプレイ)に対応しており、iPhoneなどでサイトの見栄えを向上できます。本テーマは多言語プラグイン「WPML」を正式サポートしています。
Financial Vision WordPress Theme
Financial Consultant WordPress Theme
《特徴》
金融関連企業の利用を想定して開発されたテーマです。シンプルでわかりやすいUI設計のため、イメージが合えばどの業種でも活用できそうです。
なお、Retinaディスプレイ(高画素密度のディスプレイ)に対応しており、iPhoneなどでサイトのサイトの見栄えを向上できます。
本テーマは多言語プラグイン「WPML」を正式サポートしています。
企業サイト多言語化に役立つWordPressプラグイン
既に企業サイトを運用しており、テーマの変更が難しい場合は、プラグインの導入がおすすめです。多言語プラグインには以下の3つのタイプがあります。
- マルチサイト用プラグイン
1言語毎に1サイト(サブドメイン、サブディレクトリ)を割り当てる方式に対応したプラグインです。言語が増えればその分サイトが増えるため、開発負荷や管理負荷が大きくなりますが、サイト別(言語別)のカスタマイズはしやすくなります。 - 1言語1記事方式プラグイン
1言語毎に1記事を割り当てる方式に対応したプラグインです。例えば、3言語対応の場合は3つの記事を作成する必要がありますが、言語毎に写真や表現を変更するなどの対応がしやすくなります。 - 1記事複数言語型プラグイン
1つの記事に複数の言語を記載する方式です。1つの管理画面内で複数の言語を編集できるメリットがありますが、コンテンツが増えると重くなる傾向があります。また独自タグを利用するため、他プラグインと干渉するリスクがあります。
本記事では、サイトの開発・管理負荷と言語毎のカスタマイズ性のバランスがとれた「1言語1記事方式プラグイン」にフォーカスし、その中からおすすめのプラグインを紹介します。
WPML(onTheGo Systems社)
WPMLは導入実績が多く、定番と呼べる有料プラグインです。WordPress APIを使うほぼすべてのテーマ・プラグインと互換性があるため、高い汎用性があります。
有料プラグインのため、セキュリティ対策、SEO対策、サポート面で安心感があります。
Polylang
Polylang – WordPress プラグイン | WordPress.org 日本語
WordPress言語パックの利用により対応言語の多い無料プラグインです。日本語で記事などのコンテンツ、タグ、カテゴリーを作成しておき、多言語化したコンテンツ、タグ、カテゴリーを関連付けるイメージです。
なお、「Lingotek Translationプラグイン」をインストールすると、自動翻訳機能を追加できます。
企業サイト多言語化の注意点
テーマやプラグインを利用すれば簡単に多言語対応できる環境は整いますが、それだけで完了するわけではありません。
海外の方にもしっかり見ていただけるWebサイトになるよう、以下の2点に注意しましょう。
自社に適した多言語化を行う
まず、本当に自社サイトには多言語化が必要なのか、必要ならどの言語が適切なのかを判断する必要があります。
自社がその地域の方々をターゲットにするかどうかが重要ですが、そもそも需要があるかどうかを知るにはアナリティクスを見るのがおすすめです。
多くのWebサイトにて導入しているであろうGoogle アナリティクスでも、海外からのアクセスがどのくらいあるかを確認できます。Webサイトの多言語化には、場合によってはサイトをもう1つ用意するのに近いコストが必要となるため、必要な言語を見極めることが重要です。
単純な翻訳ではなく、質の高いコンテンツ作りを前提に
多言語化は単なる翻訳作業ではありません。作業の過程で自動翻訳ツールを利用することもありますが、最終的には人(できればその言語を母国語にする人)によるチェックが重要です。
正確だから良いというもではなく、サイトのユーザーがアクションを起こす際に違和感のない表記を選択することが大切です。「違和感がないか」と言う微妙なニュアンスは、やはり母国語として利用している方にしかわからない場合がほとんどです。
各国の文化を理解し、誤解を招きそうな表現は控える
日本では良しとされている表現でも、他国ではNGな場合があるので注意しましょう。テキストだけでなく、画像や写真の選択にも注意が必要です。
例えば親指と人差し指で輪を作るOKサインの場合、日本では全く問題ありませんが、多くの国ではネガティブイメージがあるため避けるべきです。
同じ言語でもどの国、地域で使われているかによって大きく違うことを理解する
また、同じ言語でもどこの地域で使われているかで大きく変わってきます。
英語の場合「アメリカ英語」「イギリス英語」「オーストラリア英語」があります。中国語にも「北京語」「広東語」があります。
多言語化を行う際は、ターゲットユーザーの国や地域まで想定しておきましょう。
どの言語でも、コンテンツの質を意識しよう
多言語化するにあたり、開発コストや管理負荷が大きい順番に記載すると以下のようになります。
- 言語別にサーバーを分ける (ccTLD)
- マルチサイトで言語・地域を分ける
- 多言語に対応したWordPressテーマを選ぶ
- 多言語プラグインを使う
複数のサーバーやマルチサイトを準備した場合、各サイトのカスタマイズの自由度が大きくなるメリットがありますが、その分開発コストや管理負荷が大きくなります。もし自社のWebサイトがWordPressを利用している、利用する予定であるなら、多言語に対応したテーマやプラグインを利用することにより、比較的簡単に多言語化を実現できます。
多言語化の方法を決めた後は、海外ユーザーに違和感なく見てもらえるようなコンテンツを作成しましょう。国ごとの習慣、マナーに注意を払って、テキストや画像を準備する必要があります。できれば翻訳する言語を母国語にする人に自然な文章になっているか確認してもらいましょう。もし、不快感を与えてしまう表現があればその時点で離脱されてしまうかもしれません。
多言語化はWeb開発の側面とコンテンツ作成の両方に注力する必要があり、とりあえず意味だけが伝わるよう翻訳すれば良い、というのは間違いです。
良質なコンテンツは、他社と差別化できるポイントとなります。どのような言語でも相手にとって有益な情報を届けることを意識しましょう。
なお、HubSpotのCMS機能を擁する「Content Hub」では、多言語対応を支援するコンテンツ翻訳機能があります。Content Hubを利用して作成したコンテンツは、翻訳機能により簡単に・素早く翻訳可能であり、2024年5月時点で31の言語に対応しています。
Content Hubではコンテンツマーケティングの支援に特化したさまざまな機能を利用できるため、継続的にコンテンツを更新していきたい場合はぜひご検討ください。