長らく思うように外出できない状況下にあって、人々はありとあらゆることを自宅で行いながら、不自由な毎日から少しでも早く解放されることを願っています。一方で、経営者の間には不安も広がっています。
なぜならここ1〜2年、夏になると業界全体で売上やウェブトラフィックが落ち込み、季節的な業績低迷に見舞われているためです。ビジネスリーダーたちは、消費者がまた街に繰り出すようになれば、さらなる急落が起こるだろうと懸念しています。自社の従業員たちも、ずっと心待ちにしていた休暇を取ったり、転職に踏み切ったりと、一斉に動き始めるため、企業はその対応にも迫られることになるでしょう。
米国人材マネジメント協会(Society for Human Resource Management)は、従業員の41%がバーンアウト(燃え尽き症候群)を経験し、48%が勤務終わりには精神疲労を感じている(英語)という調査結果を発表しています。こうした状況は、生産性や定着率に悪影響を及ぼしかねません。
このため、人の往来が再開した欧米を中心に、経営者たちは2021年夏の動向の変化が最終収益に影響することを懸念していました。しかし、実際はどうだったのでしょうか?
HubSpotは今夏、世界103,000社以上のお客さまの6~7月のウェブトラフィックや取引件数といった匿名データを分析し、2021年夏の結果をパンデミック前の2019年夏の基準値と比較しました。今回は、特に注目したい分析結果をご紹介します。
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2021年夏のビジネス動向
注:以下のグラフやデータにおいて、トラフィックや取引の基準値は、各年4月の数字となります。つまり、2019年6月に基準値を10%下回る場合、2019年4月より10%減少したという意味になります。
ウェブトラフィックは低下傾向に
2021年6月、ほぼ全ての業種で世界中のトラフィックが減少しました。2019年と比較して、トラフィック成長率も全体的に伸び悩んでいます。2019年は6月時点で横ばいになった一方で、今年は6月以降も落ち込みが続きました。
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現時点で、唯一トラフィックが減少していない業界は「レジャー・ホスピタリティー」で、2021年4月から6月にかけてトラフィックが17.72%増加しています。同業界のウェブサイトトラフィックは、2019年4月から6月にかけては13.27%減少しており、ほぼ正反対の結果となりました。
現在「レジャー・ホスピタリティー」のトラフィックパターンは目覚ましく伸びていますが、これはある程度想定の範囲内でした。今夏は国際的な往来が一部再開したことに伴い、旅行、外出、遠出が急増しているという報道が相次いでいます。
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2021年4月から6月にかけてトラフィックが特に大きく減少した業界は、建設(-12%)、金融(-11%)、製造(-7.2%)、貿易・運輸・公益事業(-7.1%)などが挙げられます。
当社のデータを見てみると、季節変動または低迷が最も大きかったのは6月でした。2019年と比較して今年のトラフィックが大きく減少しているのは、貿易・運輸・公益事業(2019年4月~6月は+3.7%、2021年の同時期は-7.11%)、教育・医療サービス(2019年は+17.52%、2021年は-2.7%)、建設(2019年は-0.16%、2021年は-12.06%)などです。
「レジャー・ホスピタリティー」以外で、夏場のトラフィックの減少率が小さい業界は、専門・ビジネスサービス(-1%以下)と教育・医療サービス(-2.7%)です。
地理的な観点で見ても、このようなトラフィックの動向はほぼ全ての地域で見られます。ただし、アジア(と今夏後半のオーストラリア)は例外で、堅調な増加を維持しているか、または大幅な下落ではなく横ばいとなっています。
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アジアのウェブトラフィックが増加している理由、オーストラリアの低迷が食い止められている理由ははっきりしていませんが、これらの地域ではコロナ禍の影響が依然として続いており、ロックダウンや外出禁止令などの措置が取られていることが考えられます。
一方、取引件数は増加傾向に
驚かれるかもしれませんが、夏にトラフィックが低迷している一方で、各業界の成約件数は全体的に増加傾向にあります。
2021年4月から6月にかけての成長率が特に高かった業界は、レジャー・ホスピタリティー(+44.7%)、製造(+13.65%)、貿易・運輸・公益事業(+10.62%)で、最も伸び悩んだ「建設」と「金融」のいずれも、4月の基準値から+2%弱にとどまっています。
成約率の伸びも、2019年4月~6月と比べて高まっています。2019年は調査対象の8つの業種のうち5つで成約率が3.5%以上減少していました。
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6月時点では成約件数が増加し、夏の後半には若干の減少にとどまりましたが、経営者たちは夏の間ずっと慎重な姿勢を崩しませんでした。
早い段階で増加傾向を見せていても、消費者が旅行に出かけたり、自社従業員が休暇に入ったり、また四半期初めには契約獲得へのプレッシャーが少ないことなどが理由となり、夏の後半にかけて業績が落ち込む恐れがあると考えられたためです。しかし、2019年6月に多くの業界が低迷していたときでも、成約件数が同様の増加傾向を見せなかったことを考えれば、楽観視できる部分もありました。
成功企業のリーダーは、夏季を含め、季節的な低迷を迎えている間、トラフィックに加えて、取引件数、有望なリード数、成約件数を継続的にモニタリングしながら、自社の業績を包括的に把握しています。
今回の調査結果から分かるように、季節的な低迷によって有望なリード数、登録者数、取引件数が減少していても、成約件数さえ増加していれば、慌てる必要はありません。ただし、何らかの停滞や変化が見られた場合には、さまざまな方法で、将来の成功を確かなものにするための対策を講じることができます。
季節的な傾向への準備と対策
季節的な変動は、企業にとって常に立ちはだかる課題でもあります。夏季または冬季に業績が落ち込んだときも、季節的なピークを迎えたときも、年間を通じてビジネス成長を維持し、発展していくためのヒントを以下に紹介します。
1. 余裕のある時期に、ビジネスの変化に備えておく
季節的な低迷を迎えている最中でも、これから起こり得る変化を予測して準備する時間はあります。
Business Infrastructure Podcast(英語)の司会者で、Equilibria, Inc.のCEOを務めるAlicia Butler Pierre氏は「季節的な業績低迷を予測し、対策を考え、準備するには、主な方法としてリソース計画と緊急時対応計画の2つの選択肢があります」と述べています。
- 緊急時対応計画:この戦略には通常、事前分析の作成(英語)、FMEA(故障モード影響解析)、災害復旧と事業継続計画などが含まれ、事件や全国的な災害といった、外部要因による想定外の景気変動に備えることができます。
- リソース計画:Butler Pierre氏は次のように述べています。「さまざまなリソースを、製品の生産やサービスの提供(アウトプット)を行うためのインプットとして利用するには、取引日、売上額や請求額、製品またはサービスの種類、顧客のデモグラフィック(人口統計学的)データなどの情報を収集する必要があります。数年間にわたって同じパターンや傾向が見られることに気付けば、季節的な業績低迷を予測して備えられます。つまり、人材や在庫などのインプットを拡大または縮小するタイミングが分かるのです」
画像提供:Alicia Butler Pierre氏
効果的な計画を立てておけば、業績が再び上向いたときに有利になるというのは、データから明らかです。2020年、消費者が一斉に生活必需品をインターネット上で購入し始めたとき、まだオンライン展開をしていなかった企業が急遽オンラインストアを構築しなければならなくなった一方で、既存のオンラインストアも、需要の高い商品を予定通りに供給することに苦労していました。当時、消費者の50%以上(英語)が、お気に入りのブランドよりも在庫があるブランドの商品を選んで購入していました。
「業績が低迷する季節には、ビジネスインフラの改善に注力することを強くお勧めします。繁忙期は注文の対応やプロジェクト期限に追われているため、改善に取り組むのは困難です」とButler Pierre氏は言っています。
「具体的には、テクノロジーや機器のアップグレード、プロセスの自動化、オフィスの再構成(または移転)などです。そうした改善の結果、慌ただしい繁忙期も、製品やカスタマーサービスの質を落とさずに乗り切れるようになります」
2. 需要創出に取り組む
HubSpotのアクイジション担当バイスプレジデントを務めるEmmy Jonassenは、次のように述べています。「残念ながら、市場のマクロ動向に対して、コントロールできることはほとんどありません。例えば、商談の見込みがある企業がどこも休暇に入ってしまい、ウェブサイトへの訪問も担当者への問い合わせもないという場合、できることはそう多くないでしょう」
Jonassenによれば、季節的なビジネスパターンは変えられなくとも、今のうちに以下のように取り組んでおくことで、短期的にも長期的にもメリットが見込めます。
- 低迷期を切り抜ける:需要が低迷している時期には、Top of the Funnel(ファネルの最上層)を少しでも改善すれば大きな効果が期待できます。短期的に行えて、短期的に効果が出る調整を検討しましょう。例えば、広告費用を一時的に増額したり、コンバージョン率向上のために一定期間だけリードフォームのフィールドを1つ減らしてみたり、または、時宜にかなった独自の価値を提供するキャンペーンやオファーを打ち出して、需要創出を促すのも良い方法です。
- あるものを最大限に活用する:需要の低迷期には、あらゆる手を尽くしたいと考えるものです。そこで、顧客創出のための主な手段を精査して、最適化してみるのもよいでしょう。例えば、主要なランディングページの検索順位やコンバージョン率を向上できれば、徐々に需要が拡大していきます。このような最適化に投資することで、トラフィックが回復してきたときに、需要を捉えやすくなります。
- 先を見据えて課題を解決する:需要の低迷期には、需要創出の仕組みの問題点が見つかりやすくなります。これを機に問題点を特定し、将来的に修正するための計画を立ててみましょう。例えば、ウェブサイトがモバイルに最適化されていないために、モバイルのコンバージョン率がデスクトップのコンバージョン率よりも低くなっているなら、モバイル最適化のプロジェクトを計画する絶好のタイミングといえます。
3. 戦略設計にはできる限りデータを活用する
ウェブサイトの閲覧数が減少すると不安を感じるかもしれませんが、夏にトラフィックが低迷することは珍しくありません。アナリティクス(分析)ツールを使用すれば、このような状況に備え、適切に対処できます。
HubSpotブログチームでは、HubSpotトラフィックアナリティクスなどのツールを使用して、長期休暇、オフィス休業、世界各国の祝日などによる季節的な業績の落ち込みを調査し、対処しています。
夏と冬は休暇や祝日が多いため、夏の間に過去のコンテンツの最適化(英語)、長期的なコンバージョン施策、プロセス計画のほか、検索エンジンへの季節性の影響に伴ってトラフィックが急増するレスポンシブコンテンツ(英語)の作成などに取り組んでいます。一方、冬には年末の計画を立てたり、プライベートな充電期間を設けたりすることも多く、新しい年を迎える前にエネルギーを補給します。
季節的な低迷期に、想定外のトラフィックの減少を調査して対処するのもよいですが、大きな原因は季節性によるものであり、減少を防ぐのは難しいということも理解しておきましょう。さらに、リーダーはトラフィック以外のデータにも注目する必要があります。
例えば、オンラインのリード数、Eメールサブスクリプション(配信登録)の伸び率、オンラインの売上、取引作成数などのKPIも確認し、ウェブトラフィックの減少がどの程度の直接的な影響を与えているのかを把握します。トラフィックが減少しても、リードや取引が増加していれば、戦略を全面的に転換する必要性は低いでしょう。もし全てが減少しているなら、プロセス全体を見直す必要があります。
つまり、プロセス計画と同様に、分析結果を徹底的に掘り下げた上で、トラフィックの増減に対処するための最善策を判断しましょう。効果的なウェブアナリティクス戦略の構築方法は、こちらの記事をご覧ください。
4. 既存顧客へのケアも忘れずに
一時的に取引が増加傾向にあっても、建設や金融などの業界では、例年夏に業績が落ち込んだり、成長が鈍化したりします。幸い、ビジネスがそれほど忙しくないときは、既存顧客との関係をメンテナンスして、そこから新たな取引の可能性を探ることに時間をかけられます。
営業リーダーシップの観点からHubSpotでディレクターを務めるDan Tyreが推奨するのは、マネージャーやチームが上半期の新規顧客に対するアップセルまたはクロスセルの方法を検討すること、またはリファーラルプログラムに取り組むことです。
「7月に主要な顧客に電話をかけて状況を確認し、他の部門や関係企業で同じようなサポートのニーズがないかをたずねます」とTyreは言います。
さらに、停滞時期には、プロセスやオペレーションが円滑に行われているかどうかをリーダーや企業側でじっくり評価できます。
新規顧客の創出でも、既存顧客の維持でも、HubSpotのSales HubやService Hubなどのツールを使用すれば、取引作成数、コンタクトのアクティビティー、カスタマーサービスへの問い合わせなどを追跡できます。また、これらのツールを使用することで、Eメール、WhatsApp、Facebook Messengerなど、複数のプラットフォームで顧客や見込み客とのコミュニケーションを行うこともできます。
5. チームのコミュニケーションを強化する
業績が低迷する時期、取引が増加する時期、どちらの場合も、見込み客や顧客との関係と同様、チーム内でしっかりとコミュニケーションすることが非常に重要です。コミュニケーションが乏しいとプロセスが完全に停止してしまう危険性もありますが、適切にコミュニケーションを取れば、プロジェクトをスピードアップし、多額の収益につながります。
業務が忙しくても、ミーティング、SlackやZoomなどのプラットフォーム、Eメールなどを利用して、チーム内で近況報告の時間を確保するようにしましょう。
さらに、多忙な夏の時期でも全員がお互いのスケジュールを把握できるように、カレンダーにはミーティングの予定、作業に集中したい時間帯、休暇など(英語)の最新情報を常に反映しておきましょう。
6. 「会社の業績」と「従業員の健康」を両立させる
季節性の動向により、仕事に追われて息抜きの時間(英語)を取れなくなる人も少なくありません。また、経済活動が再開して自由に旅行できるようになると、健康と生産性のバランスを考慮することがリーダーの重要な課題となってきます。
Tyreは次のように述べています。「今後、仕事から離れる時間の増加が予想されますが、これは今回に限ったことではありません。あらゆるプロセスと同様、営業プロセスにおいても、従業員の希望を聞き入れながら、営業活動の一貫性を維持できるよういつ誰が対応できるのかを把握しておくことが重要です。ストレスがそこまで溜まっていないうちから、オフの時間を確保することは、誰にとってもメリットがあります。例えば、毎週金曜日は在宅勤務にする、またはミーティングを入れないように奨励することで、営業担当者の生産性向上につながるでしょう」
シニア プロダクト マーケティング マネージャーのAlex Girardも同様の見解を示しています。「まず、休暇の重要性を理解することが大切です。休暇を取ってリフレッシュすれば、休み明けに最高のパフォーマンスを発揮できます」
「そして、実質的な効果の大きい重要な業務を優先するようにしましょう。チームで休暇を取る場合には、重要な業務、重要でない業務、後回しにしてもよい業務などについて、全員で認識のすり合わせを行いましょう。そうすれば、皆が休暇を取る時期でも仕事が滞ることはなくなります」
低迷期や繁忙期を乗り切るために役立つツールまとめ
- HubSpotのビジネスソフトウェア:HubSpotのMarketing Hub、Sales Hub、Service Hub、CMS HubなどのCRMプラットフォームは、季節性の影響を受けやすい時期においても、パフォーマンスを測定し、業績の変動やプロセス内の重大な問題を特定して、顧客のバイヤージャーニーを促進します。
- Google WorkspaceまたはMicrosoft Outlook:チームの全てのドキュメント、カレンダー、Eメールを単一のツールスイートに集約し、ビジネスの成長に不可欠なコミュニケーション、プロジェクト管理、新規プロセスの作成を効率化します。
- タスク管理ツール:複数のチームメンバーと作業したり、複数のプロジェクトを管理したりするなら、チームの作業の進捗状況を把握し、作業の阻害要因を特定できるHubSpot(英語)、Trello、Asana、Jiraなどのツールが便利です。
- コミュニケーションツール:HubSpotのようにチームのメンバーが地理的に分散している企業(英語)では、ミーティングや進捗共有の時間を確保できない場合にもメンバー同士が連絡を取り合えるよう、Slack、Microsoft Teams、Zoomなどのコミュニケーションプラットフォームを利用することをお勧めします。
編集メモ
1. 本記事は2021年7月に初めて公開された後、夏後半のデータを加味して9月に更新されました。
2. HubSpotの顧客基盤のデータは、オンラインプレゼンスに投資し、成長戦略の主要素としてインバウンド手法を採用している企業の現状を反映したものです。このデータは集計されているため、HubSpotを含む個別企業の現状は、市場、顧客基盤、業種、地域、規模その他の要因に応じて異なる可能性があります。
お客さまデータのプライバシー保護について
HubSpotは、以下の匿名化手法を採用し、データを特定の個人または法人に結び付けられないよう、特定につながる情報を削除または修正しています。
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- 集計(Aggregation):データセットをグループ化し、同じグループのレコードの各属性値を代表値に変換する手法。HubSpotは、各グループの平均値または中央値を測定指標の集計値として使用しています。