顧客満足度向上への取り組みは、今や企業にとって必然のものとなっています。競合他社が同じように顧客満足度向上に努めており、自社を選んでもらうことが年々困難になってきていると感じる企業は少なくないでしょう。そうした状況のなかで注目を集めているのが「顧客感動」の実現です。
「顧客感動」を成功させるには、当然、顧客のことをより深く知る必要があります。本記事では、顧客感動を実現し、顧客満足度の向上につながるポイントを解説した上で、具体的な事例を紹介します。
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顧客感動(Customer Delghit)とは?
顧客感動(CD:Customer Delghit)とは、顧客の期待値を超えた「感動」や「喜び」を提供することで、顧客ロイヤルティを向上させるプロセスを指します。「Delight YourCustomers」の著者であるSteve.Curtanは、“80%の企業が優れたカスタマーサービスを提供していると思っているが、実際に期待に値する結果があると思っている顧客はたったの8%”と言っています(business.com)。
今や、顧客満足度向上は経営戦略に不可欠な課題であり、単純な施策だけでは、他社との強力な差別化要因にすることが難しい状況です。そこで「顧客満足」をさらに発展させ、感動を与えるサービスを提供し、顧客に感動を与えることで他社との差別化を強化するのが「顧客感動」への取り組みです。対価に見合ったサービスを提供するのは当然であり、従来のマニュアル徹底だけでは、さらなる顧客満足度向上にはつながりにくいでしょう。対価としてサービスを提供するのではなく、顧客の感動を引き出す仕組みを考えてみましょう。
「顧客感動」と「顧客満足」の違いは?
顧客感動は、総合的な意味で顧客満足のさらに上を行くサービスを目指すものです。一般的に、顧客満足は「不満解消」を基盤としており、相手の期待に対して、過不足なく、期待通りの対応を考えます。一方、顧客感動は、「顧客満足を超えて、期待以上の満足を感じてもらえること」を目的とするものです。顧客の心を動かすという結果だけでなく、感動に至るプロセスまでもが付加価値となり、企業へのエンゲージメントが高まります。
マーケティング4.0を提唱するアメリカの経済学者フィリップ・コトラーは、顧客の期待値とパフォーマンスの関係を以下のように分類し、顧客感動と顧客満足の違いをまとめています。
- 顧客の期待>パフォーマンス……不満
顧客の期待値と比べて、提供されたサービスや対応が下回っていると、顧客は不満に感じます。
- 顧客の期待=パフォーマンス……満足
顧客の期待値と、提供されたサービスや対応が同等だと感じたときに、顧客は満足を感じます。
- 顧客の期待<パフォーマンス……感動
顧客の超えたサービスや対応は、顧客の心を動かし、感動を与えます。
顧客満足における4つのレベル
顧客の期待に応えるだけでは、顧客感動は生み出せません。求められる期待値を大きく超えるサービスの提供が必要です。しかし、期待値を超えるためには、ベースとなる顧客の欲求を理解しておかなければいけません。まずは、顧客満足の段階を示す4つの価値について確認しておきましょう。
基本価値(basic)
基本価値は、対価と同等の商品提供があるといった必要最低限のレベルです。顧客にとっては、当然とされる段階で、基本価値を満たしても顧客満足の向上には至りません。
期待価値(Expected)
多くの企業が実施し、当たり前として期待されるサービスは、期待価値に分類されます。例えば、国内の場合、一般的な飲食店に入れば無料でミネラルウォーターやおしぼりが提供されるといったレベルです。標準的な顧客満足であり、特別感は少ないでしょう。
願望価値(Desired)
願望価値は、ここまでしてもらえたらうれしいが、難しいだろうと思われるレベルです。さほど期待はしていないが、顧客は潜在的に望んでいます。上記の例では、無料で提供されるミネラルウォーターがレモン水になっている、ガス入りミネラルウォーターが提供されるといったプラスαの付加価値があります。顧客の嗜好や状況にもよりますが、顧客満足度向上の一歩といえる価値の提供につながり、リピート率向上が期待できます。
予想外価値(Unexpected)
潜在的な願望にもないレベルで、予期しないサービスを受けたとき、予想外価値が生じます。想像を超えたサービスは顧客にとって強烈な特別感を生み、大きな感動を与えます。この結果こそが、顧客感動による顧客満足度の向上であり、リピート率向上や口コミ効果増大、ロイヤリティの向上などが期待できるレベルです。
顧客感動を実現するメリット
顧客満足を超えて、顧客感動をもたらすのは容易ではありません。しかし、顧客感動につながる施策を進めることで、さまざまなメリットが得られます。ここでは、顧客感動を実現することで得られるメリットについてお伝えしましょう。
競合他社との差異化
顧客満足度向上を進める企業が多いなか、さらに一歩深めた顧客感動は、その体験自体が大きな差別化となります。結果として、顧客離反の抑制や優良顧客の醸成につながるでしょう。
ロイヤリティ向上
情報拡散が容易な今、感動体験を広めたいと考えるユーザーは少なくありません。感動体験そのものが口コミとして拡散され、ブランドイメージ向上につながります。また、感動した顧客は、その特別感から企業のファンになり、顧客ロイヤリティの向上が期待できます。
LTV向上
上述したように、顧客感動はロイヤリティ向上につながります。その結果、優良顧客が定着しやすくなり、売上増加やLTV向上が期待できるでしょう。
従業員満足向上
顧客感動を作り出すプロセスは、従業員にとってもモチベーションが高まるきっかけになります。顧客の反応から従業員個々の自己評価が向上し、やりがいを高めることで、サービス環境にも好循環を促します。
顧客感動を実現した4社の事例
顧客感動を与える「感動サービス」を提供し、実際に顧客満足度の向上を成功させている事例をまとめました。
1.ザッポス
アメリカの大手通販会社であるザッポス(Zappos.com)は、靴を中心にアパレル関連の幅広い商品を取り扱いながら、送料無料設定はもちろん、返品時も送料がかからない仕組みを整えています。顧客主体の経営方針により、優れたカスタマーサービスを提供し、消費者は気軽に商品を試せる環境です。
加えて、ザッポスが顧客感動を生んだという逸話は多く、競合他社のウェブサイトであっても顧客が困っていれば購入を助けたり、運送時の事故で商品が水に濡れてしまった顧客のために、スタッフ自ら商品をすぐに届けたりしたという例もあります。
また、サプライズで配送プランをアップグレードし、より迅速な配送を実現するなど、WOWマーケティングを実践する代表的な存在として評価されている企業です。なかでも注目したいのが、ザッポスのコールセンターのKPIで、その指標は「どれだけ顧客に寄り添うことができたか」にあります。同社の元CFO兼COOのアルフレッド・リン氏は、"顧客は有料広告よりも強力な存在である "と語っており、顧客感動を実践するメリットがよくわかります。
参照:Zappos:Delivering Happiness to Stakeholders|Daniels Fund Ethics Initiative University of New Mexico
2.ザ・リッツカールトン
ザ・リッツカールトンは、マリオット・インターナショナルが世界展開するホテルブランドで、顧客に感動を与えたという多くの逸話が語られています。具体的には、バリ島のザ・リッツカールトンに滞在していた食物アレルギーをもつ子どもがいる家族に向けて、シンガポールから特別な卵を取り寄せるなど、よりパーソナライズされた対応を世界規模で実践した例があります。
ザ・リッツカールトンではスタッフに1日20万円の決裁権があり、顧客が喜ぶと思えば、自らの判断でお花を購入して届けることも可能です。スタッフのモチベーションも高く、企業が掲げるビジョンや方針を体現する存在として、現場視点での顧客感動を生み出しています。
参照:Amazingly SHOCKING Customer Experience Story: Ritz-Carlton does it Again!|customer THINK
CSでは不十分!? 一歩先を行く「CD」とは何か?|SUPPORT TIMES
3.株式会社再春館製薬所
ドモホルンリンクルを代表とする通販化粧品を提供する再春館製薬所では、“「お客様に感動をお伝えする」という使命”をもって顧客対応を行っています。従来、カスタマーサービスセンターといった名称が使われる問い合わせ部署を、再春館製薬所では「お客様満足室」とし、さらにそこに勤務する社員は「お客様プリーザー(PLEASER=人を喜ばせる人)」として対応にあたります。顧客の声を活かしながら、容器設計を見直したという例もあり、顧客主体の経営方針を打ち出しています。
社内の表彰制度として、「そこまでやるかお客様感動賞」、「お肌と心の満足とことん賞」を新設し、顧客感動が従業員のモチベーション向上につながる仕組みを整えているのも注目すべき点です。他社商品の相談も受け付けるなど、カスタマーサクセスにつながるサービスを徹底している企業といえます。
参照:【NPSトップ企業に聞く顧客ロイヤルティ向上の秘訣2018】通販化粧品部門 第1位 株式会社再春館製薬所様|NTTコム オンライン
4.HubSpot
もちろん、当社HubSpotも、「いかにお客様に喜んでいただけるか」を起点とした目標設計、組織体制を敷いています。
カスタマーサービス面ではもちろんのこと、営業担当者やマーケターなど顧客接点を持つすべての部署において、顧客の期待を超えた課題解決を進めることを理念としています。
顧客感動を実現させる9つのポイント
さまざまな企業が、顧客感動実現に向けた施策を取り入れています。しかし、改めて自社で実施するとなると、限られた予算のなかで、どうすればよいのか悩むこともあるでしょう。顧客感動はコストを書ければよいというものではなく、工夫を凝らして効果的な提案をすることが大切です。ここでは顧客感動の実現に向けて、意識したいポイントを解説します。
1. 期待価値を満たしていることが前提
顧客感動を実現するためには、少なくとも、最低限の顧客満足を満たしておく必要があります。顧客が顕在的に求めるサービスを提供していることが前提であり、基本的な部分が満たされていなければ、顧客感動を実現はできません。まずは、ベースとなる顧客満足度調査と分析を行い、現状を把握することから始めましょう。顕在する不満を取り除きながら、顧客感動の仕組みを考えることが大切です。
2. 顧客が求める期待値を把握する
上述したように、顧客感動は、顧客の期待値を上回る必要があります。しかし、そもそもの顧客情報がなければ、期待値のボーダーラインが見えてこないでしょう。心理的な要素が大きいとはいえ、ある程度の情報がなければ、特別感のあるパーソナライズ化を進めることはできません。CRMなどを活用しながら、顧客情報を一元化し、情報収集につとめましょう。
3. カスタマージャーニーマップを作成する
顧客感動は、すべてのプロセスで起こりえます。顧客は、どのタッチポイントで、どのような期待値を持っているのかを確認し、プロセスごとにどんな対応が可能なのかを検討しましょう。そのためには、まずはペルソナを設計し、そのペルソナ像をもとにカスタマージャーニーマップを作成してみましょう。
4. パーソナライズされた特別感を提供する
画一的なサービスは、顧客満足にはつながっても、顧客感動には至りません。できるだけ顧客ごとに対応する柔軟性が求められます。どのレベルまでパーソナライズするのかを見極めると同時に、どのチャネルで、どのような対応が可能なのかまで検討してみましょう。
5. 企業全体で取り組む
顧客感動は、スタッフ一人の力でかなうものではありません。感動を生み出すのは、状況そのものだけでなく、最適なタイミングで、最適な配慮を伴ってこその結果です。より柔軟に、迅速な対応で感動を生み出すためにも、チーム全体で取り組む仕組みを作りましょう。そのためには、企業内での情報共有が不可欠です。また、タッチポイントごとに異なる対応にならないよう、一貫したコンセプトを掲げる必要もあります。個別の認識で対応してしまわないよう、企業が目指すゴールに向けたKPIを設定し、共有された情報を効果的に活用しながら、企業全体で大きな感動を作り上げましょう。
6. スタッフに裁量を持たせる
実際に顧客感動を起こすのは、マーケティングの企画部ではなく、顧客と直接接点を持つスタッフです。上述したように、顧客感動を実現するには、タイミングも重要です。ただし、タイムリーな対応は、スタッフの自由裁量権に左右されます。顧客感動を表面的な目標で終わらせるのではなく、具体的な行動として反映されるためにも、自由裁量権を効果的に活用できる人材育成が必要でしょう。経営指針やKPIを共有し、前向きに取り組んでもらうための仕組みづくりを考えてみましょう。
7. フィードバックの仕組みを作る
顧客が感動体験をしたとしても、全てのケースで自ら積極的に伝えてくれるとは限りません。より細やかに状況を把握するためにも、タッチポイントごとに、顧客の声や体験をフィードバックしてもらう仕組みが必要です。また、現場にあたったスタッフからのフィードバックを集める必要があります。ステップアップを図るためにも、フィードバックしやすい環境を整えましょう。
8. 効果測定を行う
顧客感動への取り組みは、成果を可視化しづらいものです。しかし、コストをかける以上、効果測定を行う必要があります。さらに、施策の改善に向けて、PDCAを回しながら定期的に見直すといった取り組みも欠かせません。測定指標としては、顧客満足度としてCSIやNPS、CSATなどを用いるとよいでしょう。そのほか、CDI(Client Delight Index)や、CHI(client happiness index)といった指標も活用できます。
9.長期的な視野で継続する
顧客感動の実現に取り組んだとしても、すぐに成果が出るとは限りません。小さなことの積み重ねが、大きな感動を呼ぶこともあるでしょう。一時的な施策で終わらずに、長期的な視野で取り組むように心がけましょう。ナレッジの蓄積によって、幅広い情報を共有し、次につなげるという継続的な取り組みが、大きな成果を生み出します。
注意したいポイント
顧客感動の実現するプロセスでは、より幅広い視点で企業全体をサポートする必要があります。顧客感動を生み出すつもりが、かえってマイナスイメージを与えてしまわないように注意しなければいけません。施策を実践し、成果を上げるうえで理解しておきたい課題をまとめました。
企業主体ではなく「顧客第一」で考える
顧客感動は、顧客の視点に立った行動の結果として実現します。顧客のニーズや期待値を理解しないまま、企業視点で特別感を演出しても、かえってマイナスイメージを与えかねません。顧客感動は、あくまでも顧客第一の姿勢で生み出されるものであることを、肝に銘じましょう。
現場の主体性が問われる
感動の実現は、同じ顧客であっても、タイミングや条件によって成果が異なります。画一的でないサービスだからこそ感動が生まれるとはいえ、全ての顧客に同じ条件で感動を与えられるものではありません。それでも、顧客は期待以上の特別感を求めています。
そうした背景のなかで顧客感動を生み出すには、全てのスタッフが、同じ視点、同じゴールを目指して取り組む必要があるでしょう。ただし、パーソナライズでの対応を考える以上、マニュアル化するのは難しい面があります。従業員教育を行いながら、ビジョンを共有し、主体的に動くための考え方を定着させなければいけません。さらに、モチベーション維持につながる評価体制も必要です。
上述したように、顧客の感動を受け取ること自体が、従業員満足につながります。しかし、企業としての評価がなければ、継続的な実行は難しいでしょう。現場の従業員が主体的に行動できる環境を整備し、モチベーション向上につながる仕組みを作りましょう。
チームワークが欠かせない
顧客感動は、ナレッジの蓄積によって大きな成果を生むものです。ただし、現場からのフィードバックをどれだけ集められるかによって、ナレッジの蓄積量が変わります。従来の定量調査や定性調査だけで表面的に切り取ってしまうと、具体的な情報が見えないこともあるでしょう。
総合的な情報収集とともに、情報共有ができる環境を整え、チーム全体で俯瞰的に把握することが大切です。また、条件によっては現場判断だけでは対応できないケースも考えられます。フィードバックに基づいて、チームワークでどこまでフォローできるのか、どこまで裁量権を与えるのかを明確にしておくとよいでしょう。
成果測定を行う
顧客感動が、顧客満足度の向上につながっているかどうかを把握するには、実施後の成果測定が必要です。現状を把握し、次の施策につなげるためにも、定期的な成果測定を行いましょう。ただし、指標を明確にするには、KPIの設定が不可欠です。とはいえ、心理的要素の多い顧客感動の成果は、数値のみでは見えてこない部分もあります。どのような評価を行い、どのように分析するのかについても、事前に検討する必要があります。
顧客感動を実現する仕組み作りが必要
当社が創業当初から提唱している「インバウンド」の思想には、「相手が感動するほどの価値を提供し、そこから私たちに興味を持ってもらえれば、良い関係性が構築できるだろう」という想いが込められています。
このインバウンドの思想のもと、マーケティング・営業・カスタマーサクセス・カスタマーサポート全ての部署が連動して顧客起点の施策を実行しています。(全部署での連動性を高めるため、HubSpot CRMで全ての顧客情報を一元管理しています。CRM上では、いつど自社ページを見て、どの資料をダウンロードしたのか、営業とはどのような話をしたのか、カスタマーサポートにはどのような問い合わせをしたのかが時系列で確認できます。)
顧客感動を実現するには、顧客のことをより深く知り、タッチポイントごとに感動を生むための仕組みづくりが大切です。主体性のある現場判断をフォローするためにも、従業員を教育し、全体を把握しながら、チームワークで動ける環境を整える必要があります。顧客感動を実現する企業全体での仕組みを整えましょう。