BIツールを使えば自動的にデータを集計・統合したうえで、分析に役立つレポートやダッシュボード、シミュレーションを表示できます。データを基に判断するような部署であればどこでも活用できるため、経営やマーケティング、営業など幅広いシーンで活躍します。
しかし、「BIツールは複雑で難しそう」というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。そこで本稿ではBIツールの機能や仕組み、活用事例などについて、図や表を用いながら分かりやすく解説します。
ダッシュボードの基礎&各種BIツールのご紹介
ダッシュボードとは何か、活用のメリット・デメリット、データを可視化することでのマーケティング活動の向上についてなど、ダッシュボードの基本を体系的に学ぶことができます。
- ダッシュボードの基礎
- ダッシュボードを活用すべき理由
- BIツールの選び方
- 各種BIツールのご紹介
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BIツールとは?
BI(ビジネスインテリジェンス)ツールとは、企業に蓄積されているさまざまなデータを統合・分析し、経営判断や営業改善などに役立てるソフトウェアで、取り込んだデータを集計してレポートやダッシュボードに自動変換できます。ほかにも分析結果をシミュレーションやプランニングに反映させることも可能です。
経営や営業部門だけでなく、マーケティングやカスタマーサービスなど、データを基に判断するような部署であればどこでも活用できます。BIツールの主な活用シーンは以下の通りです。
- 経営:経営指標の可視化、KPI管理、業績予測
- マーケティング:顧客情報分析、エリアマーケティング
- 営業:予実管理、案件管理、販売傾向分析
- 製造:稼働状況の可視化、在庫の適正化
- 人事:生産性の可視化、人員の適正配置
BIツールが注目されている背景
IDC Japanの調査によると、2020年のBIソフトウェア市場規模は前年比8.8%増となる1,313億円を記録しました。2021~2025年の年間平均成長率も7.1%と予測されており、年々BIツールに対する注目度が高まっていることがうかがえます。
BIツールが注目されているのは、情報に対する重要性がいままで以上に高まっているからです。企業の資源である「ヒト・モノ・カネ」に「情報」が加わった現在、業績を拡大するためにはデータの分析と活用が欠かせません。
デジタル技術が進化し人々の行動様式や価値観が変化するなか、経験や勘に基づいたこれまでの経営方針では優位性を発揮しづらくなっています。とはいえ、データの分析や活用にはスキルとマンパワーが必要で、実行に移すのは容易ではありません。そこで特別なノウハウがなくても運用できるBIツールに注目が集まっているのです。
BIツールとExcelの違いは?
BIツールと同様、Excelでもデータを集計してグラフや表を作成できます。しかしデータ集計・分析業務をすべてExcelで行おうとすると、工数が多くなって膨大な作業時間がかかります。
たとえば取り込んだデータから将来を予測できる「What-iF分析」の機能は、BIツールにもExcelにも搭載されています。
ExcelでWhat-IF分析を実行するには、手動によるデータベース化や情報の取り込みが必要です。また、形式の異なるファイルからデータを取り込むことはできません。
一方のBIツールでは、データ収集から分析データへの反映までの作業をすべて自動化できます。形式の異なる複数のファイルを統合することもできれば、異なる部署間にまたがるデータを簡単に抽出することも可能です。手動でデータベース化する必要がないため、関数の知識も必要ありません。
膨大なデータを扱う場合や社内のスキルやリソースが足りない場合は、ExcelよりもBIツールを使った方が効率的だと言えるでしょう。
BIツールでできること|5つの機能
BIツールでは、以下のような5つの機能が利用できます。
- 自動レポーティング
- ダッシュボード
- OLAP分析
- データマイニング
- シミュレーションとプランニング
それぞれの機能についてメリットを踏まえつつ解説します。
自動レポーティング
BIツールを使うと、収集したデータの分析結果に基づいて自動的にレポートが作成されます。経営の意思決定につながる資料やクライアントへの営業資料の作成など、日々必要となるレポーティング業務を自動化できます。
レポートは、Microsoft OfficeやPDFなどビジネスシーンで頻繁に使用される形式で発行できるため、わざわざファイルを変換する必要がありません。またレポートの元となるデータは、日々最新の情報に更新されます。資料作成や情報更新が自動化されることで、レポーティング業務にかかる時間を大幅に短縮できます。
ダッシュボード
BIツールによって取り込んだデータを、ダッシュボード機能で表やグラフに変換し可視化できます。可視化した情報は一画面に表示されるため、データ分析にかかる時間削減につながります。
たとえば「月別売上」や「商品別売上」、「KPI」など本来は別々に集計されるデータを、BIツールでは一覧表示させることが可能です。一画面に表示させることで対前年比や支店ごとの目標達成率といった分析業務の効率化につながります。
ダッシュボードにまとめた情報を出力し、顧客に提出することもできます。
OLAP分析
OLAP分析(Online Analytical Processing/多次元分析)とは、売上データの販売日時や店舗、顧客情報など複数次元のデータをリアルタイムに分析できる機能です。大量のデータを即座に分析し、必要な結果を素早く抽出できます。
OLAP分析を使うと関連性や法則の分かりづらいデータの可視化につながります。これまでと異なる切り口でデータを分析することで、見落としていた課題を発見できるのがメリットです。
従来では計測できていなかったデータを可視化し、定量的にビジネスにおける課題を特定。結果的にデータドリブンな経営の実現へと結び付きます。
データマイニング
BIツールのデータマイニング機能を使うと、取り込んだ各データ間に隠れている関係性を明らかにしたり、ある事象の発生確率を計算したりと、より高度なデータ分析が可能になります。
データマイニングの代表的な事例に「ビールとおむつ」の逸話があります。米国の大手スーパーで販売データを分析した結果、「おむつを買う人は同時にビールも購入する」というデータが明らかになり、両方を並べて陳列したところ売上が上昇したという実話です。このようにデータマイニング機能は、統計学や人工知能などを駆使して多角的なデータ分析を行ってくれます。
シミュレーションとプランニング
社内でバラバラに収集されたデータを一元管理したうえで、自動的に売上や収益を予測してくれます。予算編成や売上予測を行うときに便利です。
たとえば為替が現在よりも円高になることで、売上や収益にどのような影響が出るかを可視化できます。BIツールによっては、シミュレーションの結果が一定値を下回った場合、アラートで通知してくれる機能もあります。
BIツールの活用シーン
BIツールの活用シーンは、経営判断やマーケティング戦略の策定など多岐に渡ります。ここではBIツールを活用できる主なシーンについて解説します。
経営判断
BIツールを使うと最新の経営情報をリアルタイムに把握でき、迅速な経営判断につながります。たとえば営業利益率や損益分岐点など企業で重視する経営指標を設定し、分析レポートとして定点的に結果を追うことができます。What-iF分析により、複数のパターンから売上や収益のシミュレーションを検証することも可能です。
マーケティング戦略
BIツールではデータ間の関連性や傾向を分析できるため、マーケティング戦略を策定する際にも役立ちます。「商品Aと一緒に購入されやすい商品」「天候による売上や収益の変化」など、これまで手動で行っていた相関分析やクロス分析の自動化が可能です。SFA(営業支援システム)のデータに基づいてユーザーのニーズを可視化することもできます。
営業分析
営業分析にもBIツールが効果的です。説得力が求められる見込み客への提案書やプレゼン資料を作成する際は、BIツールで自動分析したレポートやダッシュボードを出力するだけで済みます。「成約済みの金額」や「見込みの金額」を可視化しておくと、営業マネージャーはリアルタイムで日々の営業成績を把握できます。
BIツール導入で発生する2つのデメリット
BIツールを利用するうえで起こりうるリスクを想定し、それに備えることが大切です。以下で解説するBIツールのデメリットを知り、どのような点に気を付けるべきかを把握しましょう。
成果が出るまでに時間がかかる
BIツールを使ってデータを分析し施策を実行しても、効果が出るまでに数か月から数年かかる可能性があります。なかなか効果が出ないことに焦って判断を誤ってしまったり、途中で挫折してしまったりといったことも考えられます。
自信を持って施策を進められるよう、分析したデータに対して事前に仮説を立てておくようにしましょう。BIツールでシミュレーションやプランニングを作成し、長期運用を見据えたうえで複数のパターンを検証しておくことが重要です。
設定に手間がかかる
データ収集・分析作業やレポーティング業務を自動化できるBIツールですが、適切な結果を表示させるためには、目的に合わせた初期設定が必要です。
たとえばレポーティング機能を有効にするには、業務システムからデータを抽出したうえでBIツールのデータベースに格納します。さらにレポートや扱うデータの種類や集計方法、表現方法などを定義しなければなりません。
こうした作業をスムーズに進めるには、情報システム部門と密に連携をとる必要があります。ほかにもベンダーが提供するデモンストレーションを参考に、ツールの使いやすさを確認するのも良いでしょう。
BIツールの選び方
BIツールを選ぶときは以下3つのポイントを意識しましょう。
- 導入する目的を明確に
- 目的に合う種類を選択する
- 自社に合う導入形態のツールを選ぶ
BIツールは価格やタイプの異なるさまざまな製品が存在します。以下で解説するツール選びのポイントを参考に、自社に合う最適なBIツールを探してみてください。
導入する目的を明確に
BIツールを導入する前に目的を明確にしておくことが大切です。「導入したのはいいものの、ツールが現場の実情に合わず、結局誰も使わなくなってしまった」というのは、新しいツールを導入する際によくある失敗です。
「経営分析・財務分析におけるデータをタイムリーに把握したい」「自社商材の購買層や特性を明確にしポジショニングやターゲティングを強化したい」など、経営陣や現場にヒアリングしながら目的を固めていきましょう。
目的に合う種類を選択する
BIツールは主に、「データ管理機能を搭載したタイプ」と「搭載していないタイプ(分析特化型)」の2種類に分かれます。
データ管理機能を搭載 | データ管理機能が非搭載 | |
---|---|---|
特徴 |
データ管理・分析までBIに必要なすべての機能を搭載。多機能なので全社利用、部署利用、個人利用とあらゆるシーンに適応できる。 |
データ分析機能に特化している。機能が限定されているので、小規模な企業や個人利用向け。 |
メリット |
・ETLやDWHを利用できる ・全社的なデータ統合が可能 |
・UIがシンプルで扱いやすい ・低価格の製品が多い |
デメリット |
・データ管理の設定が煩雑 ・費用が高くなりやすい |
・成型やデータベース化が困難 ・別途ETL/DWHの導入費が必要 |
両者の大きな違いは、ETL(成型ツール)とDWH(データウェアハウス)の機能が使えるかどうかです。
DWHとは膨大なデータを保管できる大型倉庫のようなもので、目的別に並べられたデータを時系列に蓄積させる役割があります。DWHに保存するデータは社内システムから収集しますが、販売システムや購買システムなど複数の基幹システムのデータを集計しなければなりません。
その集計機能を担うのがETLです。ETLは「Extract(抽出)、Transform(変換)、Load(書き出し)」の略で、複数の基幹システムのデータ群を統一したルールに書き換え(整形)、そのうえでDWHにデータを受け渡します。
DWHとETLを組み合わせることで開発工数の削減や高速処理の実現につながり、全社にまたがるような膨大な情報量でも効率良く集計・分析できるようになります。
そのため全社的にデータを統合し分析を行いたいときは、データ管理機能を搭載したBIツールのほうが向いています。
自社に合う導入形態のツールを選ぶ
BIツールの導入形態についても事前にチェックしておきましょう。導入形態は「オンプレミス型」と「クラウド型」の2種類に分かれます。
オンプレミス型 | クラウド型 | |
---|---|---|
特徴 |
「自社運用」とも呼ばれ、ソフトを自社サーバーにインストールして使用する。 |
ソフトをインストールせず、オンライン上でサービスを利用する。 |
メリット |
・設定をカスタマイズしやすい ・独自のセキュリティを構築可能 |
・導入コストを抑えやすい ・導入や運営時の手間を抑制 |
デメリット |
・導入コストが高くなりやすい ・運営管理の手間がかかる |
・柔軟性に欠ける場合がある ・セキュリティが他社に依存 |
設定の柔軟性や安全性を重視するならオンプレミス型、コストの安さや使いやすさを求めるならクラウド型を選びましょう。
ここまで、BIツールの選び方について解説してきました。今度は実際にBIツールを選んでみましょう。以下の記事で無料・有料のツールを13種類紹介しているので、参考にしてみてください。
BIツール活用の成功事例
より具体的なBIツールの効果を確かめるため、他社の事例を参考にしましょう。ここではTrupanionとSACOSの2社の成功事例を紹介します。
データの不正確さや遅延を解消(Trupanion)
ペット保険会社のTrupanionは、経営判断の最適化のためにBIツールを導入しました。
保険サービスでは価格設定や解約パターンが各顧客で異なり、セグメントごとに営業パフォーマンスや顧客維持の経過を監視する必要があります。そこで収集したデータをダッシュボードから一目で確認できるよう、BIツールを導入しました。
導入後のオフィスの壁には、部門ごとのKPIダッシュボードを表示するテレビモニターが吊るされるようになりました。
マネージャーがダッシュボードの前に座り、チームの業績や部門全体のパフォーマンスをリアルタイムで確認します。また、一日の終わりには経営陣が会社のパフォーマンスを確認することで、適切な経営判断ができるようになりました。
参考:Sisense 導入事例
社内外のデータを統合し営業戦略を一新(SACOS)
建設機械レンタルのSACOS(サコス)は、営業分析を効率化させるためにBIツールを導入しました。
これまで営業の活動状況はSFAに、売上実績は基幹系システムにとデータが点在し、マネジメントに有効活用できていませんでした。そこで社内のデータをBIツールに統合。基幹システムとの連携だけではなく、Google Analyticsや地図情報、第三者データも分析に活用しました。
BIツール導入によりデータ共有のあり方が変化し、事業ごとの施策や営業社員の行動などを適切に判断できるようになりました。また、部門を越えてのツールの利用拡大により、予算編成においても大幅な効率化を果たしています。
BIツールを導入し効率良くデータ分析を行おう
BIツールを導入することで、経験と勘に頼らずデータに基づいた経営分析や財務分析が行えるほか、データを活用するシーンであれば部署を問わずに活用できます。BIツールの導入や運用にはコストがかかるものの、膨大なデータの分析時間を大幅に短縮できるので、長期的に見れば費用の削減につながるでしょう。
BIツールを選ぶ際は、あらかじめ導入目的を明確にしたうえで必要な機能を絞り込み、自社に合うBIツールを選別することが大切です。最適なBIツールを導入し、効率良くデータ分析を行いましょう。