日本のビジネス全体がDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現できなかった場合、どのくらいの経済損失が生じるのでしょうか。経済産業省の試算によると、2025年に「年間で最大12兆円」もの経済損失が生じる可能性があると提言されており、これは現在の経済損失の3倍にも当たる金額です。
(参考:『DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開』経済産業省、デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会)
もはや、デジタル技術を活用したビジネスモデルの構築はITサービスだけでなく、あらゆる産業に求められています。実際、国外からもデジタル技術を武器にした新興企業が参入してきています。そうした背景から、企業は自社の競争力の強化、維持のためにもDXを進めていくべであると言えます。本記事では、最新のデジタルトランスフォーメーションの事例を踏まえ、今おさえておくべきDXトレンドを解説していきます。
- デジタルトランスフォーメーションにおける「成功」の定義とは?
- IT業界の成功事例:クラウド/AI/深層学習を活用した開発の高速化・自動化(株式会社Cygames)
- 製造業界の成功事例:3Dプリンタを用いた独自の鋳造法を確立(木村鋳造所)
- 建築業界の成功事例:IoT搭載の建設機械を開発し稼働率を向上(株式会社小松製作所)
- 物流業界の成功事例:ドローンによる荷物輸送を実施(日本郵便)
- 金融業界の成功事例:AIが個人の信用情報をスコアリング(LINE)
- 不動産業界の成功事例:VRによるオンライン内見を実現(株式会社スペースリー)
- 飲食業界の成功事例:AI搭載のカメラで来店客の感情を解析(グリーンハウスグループ)
- 日本におけるDXの課題とは
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デジタルトランスフォーメーションにおける「成功」の定義とは?
経済産業省のレポート内で言及されている内容から、「新たなデジタル技術を活用して、新たなビジネスモデルを創出、または既存のビジネスモデルを柔軟に改変すること」がDXの定義となります。
新たなデジタル技術として挙げられるものは、例えばAI(人工知能)やIoT、クラウド、VR/AR、ドローン、そして5Gなどがあります。それらをただ導入すればよい訳ではなく、ビジネスモデル自体を大きく変革しなければなりません。
なぜそうまでして変革が求められるのでしょうか。「グローバル市場の急速な変化に日本企業が対応しきれていないからだ」と経済産業省のレポートでは指摘されています。
調査では、日本企業の約8割がレガシーシステムを抱えていると言及されています。ここでいうレガシーシステムとは、「複雑化・ブラックボックス化した既存システム」のこと。レガシーシステムを保有したままでは、爆発的に増加するデータを活用できない、業務の維持・継承ができない、セキュリティ上のリスクを防ぐことができないなどの多くの課題に直面してしまい、激化するデジタル競争の中で生き残ることができません。
レガシーシステムによる課題を解消した上で新しいデジタル技術を導入し、ビジネスモデルを創出もしくは変革させることが、DXにおける「成功」の定義であると言えます。
IT業界の成功事例:クラウド/AI/深層学習を活用した開発の高速化・自動化(株式会社Cygames)
生まれておよそ10年が経ち、2020年には1.3兆円規模の成長が見込まれるスマホゲーム市場。市場の成熟が進み、ますますゲームタイトルのヒット率が低下している中で重要になっているのが、アプリ開発の高速化です。
「グランブルーファンタジー」「神撃のバハムート」といった大ヒット作を生み出す株式会社Cygamesでは、全社横断でノウハウを共有できる共通基盤と「開発運営支援」チームを立ち上げ、開発の高速化と自動化に取り組んでいます。各プロジェクト内で生まれたノウハウやリソースデータ(グラフィックデータ、テキストデータ)を社内のエンジニアがいつでも参照できる仕組みを整えることで、大企業の開発現場で起こりがちな同じものを複数の部署で作ってしまうリソースの浪費、いわゆる「車輪の再開発」を防ぐことに成功。また、その仕組みにAIと深層学習を組み込み、自動的にデータにタグを振り分けることを可能にすることで、データ格納の手間も削減しています。こうした開発環境の仕組みづくりによって、大企業の強みを活かしたアプリの高速開発を実現しています。
参考:「攻めと守りで変革を実現 DX最前線」日経BP 2020
製造業界の成功事例:3Dプリンタを用いた独自の鋳造法を確立(木村鋳造所)
製造業におけるDXの代表的な技術革新の1つが「3Dプリンタ」です。
3Dプリンタとは3DCADの設計データをもとに、さまざまな素材による2次元の薄い層を1枚ずつ積み重ねていく「積層製造」によって立体を製作する技術を指します。この技術の革新的なポイントは設計から製造までの圧倒的な速さです。3Dモデルをソフトウェア上で組み立ててすぐにモデルに出力することでそのまま実用テストを行うことができ、「設計→製造→テスト→再設計」のサイクルを早められます。またそのまま販売できるように設計を行えば、一度に大量の製品を安価に生産することも可能です。
静岡県に本社をおく木村鋳造所では、3Dプリンタを活用した独自の鋳造法を展開しています。これまで一般的であった木型ではなく砂を使った鋳型を3Dプリンタで出力し、そこに金属を流し込むという方法で部品の大量生産と短納期を可能にしています。
参考:「木村鋳造所、3Dプリンターの鋳物生産能力1.5倍へ」日本経済新聞社2015年2月18日
建築業界の成功事例:IoT搭載の建設機械を開発し稼働率を向上(株式会社小松製作所)
日本のIoTで最も有名な企業事例が、コマツが手掛ける稼働管理システム「KOMTRAX(コムトラックス)」です。コマツが販売した建設機械の情報、例えば機械の位置やエンジンの稼働、燃料の残量、稼働時間、故障状況などを管理するシステムとして開発されました。現在では遠隔制御も可能になり、集約されたデータを顧客に無償提供するサービスも行なっています。
会社の総利益2%分ものコストをかけて全商品に標準装備された「KOMTRAX」は、現在約30万台の建設機械から日々データを取得しています。コマツ製品を購入した顧客は以下のようなメリットがあります。
・GPS追跡による盗難の防止
・建機の稼働率アップ
・保守サービス費用の削減
・中古価格の向上で、高値で払い下げることができる
建設機械の盗難防止を目的に開発された「KOMTRAX」は、集めたデータを活用した新たなビジネスモデルの確立にも貢献しています。
参考:「建設機械に革命をもたらした「KOMTRAX(コムトラックス)」誕生の足跡 コマツ(株式会社小松製作所)」
物流業界の成功事例:ドローンによる荷物輸送を実施(日本郵便)
Amazonでの実証実験をはじめ、物流産業での導入が期待されるドローン(自立型無人航空機)。機体に配送用のボックスを装着して目的地へ飛行させることで、離島や山間部といった陸路の輸送が困難な場所へ手軽に配送することができます。特に医薬品や輸血用の血液といった、緊急時に速やかな配送が求められるシーンでの実用に注目が集まっています。
2018年には、日本郵便が日本で初めて操縦者から見えない場所を飛行するドローンによる荷物の輸送を始めると発表。2020年には奥多摩郵便局の配達区で3日間の配送試験を実施しました。これまでは20分かけて標高の高い山間部まで配送していましたが、このドローンの配送では半分の時間で安全に配送を完了したそうです。地方における深刻な配達員不足を解消する新たなソリューションとして、今後も実証実験が続けられる見込みです。
参考:「日本郵便、奥多摩町にてドローンを用いた配送の試行を実施」
金融業界の成功事例:AIが個人の信用情報をスコアリング(LINE)
クレジットカードの発行やローンの申し込みで参照される個人の「信用情報」。これまでの支払い実績やネット通販の利用履歴といった多角的な数値から、AIがこの「信用情報」をスコアリングしたものが「信用スコア」です。アメリカや中国では金融サービスだけでなく、さまざまなサービスにも活用が広がっています。
「信用スコア」の導入によるメリットは、これまで定義の難しかった個人の信用情報を客観的に評価できる点です。個人に関するデータからAIが算出することによって、主観に左右されない公正な判断が実現できます。個人融資の金利で優遇されたり、提携サービスでも優遇を受けることができます。
日本では2018年にメッセージアプリを手掛けるLINEが提供を開始した「LINE Score」が有名です。LINEではLINEPayやLINEでのや取り、LINEニュースの閲覧履歴などを評価要素としてスコアリングを行なっています。このスコアはLINE上でのさまざまな支払い、決済サービスや個人への融資サービス、Fintechサービスに利用されており、実際に個人融資サービスでの優遇が始まっています。
参考:「LINE、「日常をちょっと豊かに」していく、独自のスコアリングサービス「LINE Score」を開始」
不動産業界の成功事例:VRによるオンライン内見を実現(株式会社スペースリー)
Spacely, Inc. | 株式会社スペースリー | どこでもかんたんVRのスペースリー(Spacely)
いわゆる不動産テックと呼ばれる中で注目を集める新しいサービスがVRを活用した「オンライン内見」です。2013年に創業した株式会社スペースリーが手掛けるVRクラウドソフト「スペースリー」では、ブラウザ上から賃貸物件のパノラマ画像を閲覧できます。画面に出てくる矢印をクリックすることで、部屋間を移動でき、部屋からの眺望も昼夜で切り替えることもできるそうです。360度のVRによって、写真よりも圧倒的に多くの情報を得ることができます。
また、独自の機能として閲覧者の興味分析も行なっています。VRコンテンツ内のクリックや滞在時間を集計し、どの部屋、写真、コメントにユーザーが興味を持ったかをグラフ化して一覧表示。VRとユーザーの分析をワンセットで提供することで、物件の成約率や反響の向上を実現しています。
参考:「【VR不動産】VRで不動産内見!バーチャルリアリティーの活用方法とは?」
飲食業界の成功事例:AI搭載のカメラで来店客の感情を解析(グリーンハウスグループ)
国内外におよそ520店舗を展開する「とんかつ新宿さぼてん」をはじめとしたフードサービス事業を展開するグリーンハウスグループ。同社では一部国内店舗にAIカメラを導入し、画像解析によって来店客やスタッフの「喜び」を数値化し、顧客満足度向上や店舗スタッフのモチベーション向上を図っています。このAIカメラによって、店舗スタッフの笑顔と良い接客はお客さまの満足度向上と店舗成長と相関関係にあると証明しました。
AIカメラで顧客と従業員の満足度が高い店舗の事例は、動画によって各店舗へ配信することとなり、良い接客事例を横へも展開。70本以上も撮影したマニュアル動画は、各店舗のiPadやスマートフォンから視聴でき、8万回以上のアクセスがあるそうです。
参考:「DXに現場はついてきているか? 「とんかつ新宿さぼてん」のAIが導き出したもの――グリーンハウスグループ CDO 伊藤信博氏 (1/2)」
日本におけるDXの課題とは
これまでの日本企業において、ITやデジタル活用はあくまで業務の効率化とコスト削減を目的に進められてきました。その結果、顧客視点でのDX推進には他国と比べて一歩で遅れることになったのです。
しかしデジタル技術の進展とビッグデータの活用、そしてグローバル市場の競争激化という背景から、今後はより一層、顧客のニーズや満足度のためにITやデジタル活用をしていくべきでしょう。これまで見てきた国内の事例でも、成功したDX事例は「顧客中心主義」であると言えそうです。表面上のデジタル化ではなく、より本質的なデジタルトランスフォーメーションが日本企業には求められています。