この数年間で、Z世代やミレニアル世代後半の若者が最も多く利用しているアプリといえば、InstagramとTikTokの2つが挙げられるでしょう。

Instagramが、2016年のリリース以来着実に成長を続けた末、アクティブユーザー数10億人を突破したのに対し、TikTokはリリースからわずか18か月で世界10億ダウンロードを達成し大きな話題になりました。
どちらのSNSも、エンターテイメント性の高さが特徴です。Instagramのホーム画面には、お気に入りのアカウントが投稿した画像、動画、ストーリーズ、ライブストリームが表示されます。一方、TikTokのホーム画面では、お勧めの短尺動画を次々と視聴し続けることができます。
しかし、今夏の終わりに米国をはじめとする複数の国がプライバシー上の懸念からTikTokの使用禁止を検討。一方、Instagramは音声付きの短尺動画を編集して投稿できるTikTokによく似た機能を新たにリリースしました。この新しい機能は「Instagramリール(Reels)」と呼ばれ、Instagramモバイルアプリのストーリーズセクションから使用できます。
Instagramリールとは?
リールとは、Instagramアプリの新機能です。ユーザーは3~15秒の動画を撮影またはアップロードし、編集して音源やエフェクトを追加してから、フィード、ストーリーズ、Instagramの発見タブでシェアすることができます。
動画を録画して後から音声や音源を追加できるほか、リールのカメラとエディターでは以下の機能も利用できます。
- 充実した編集ツール:ARエフェクトや動画再生速度の変更などの機能があります。
- 音源の引用元を提示:ユーザーがオリジナル音源をアップロードすると、他のユーザーも自分の動画にその音源を使用できます。このとき、音源がどこから引用されたのかがわかるよう、提供元のユーザーが表示されます。
- クリップの結合:1回の撮影のみで作成した動画だけでなく、複数のクリップを組み合わせた動画もシェアできます。
- Instagramフィード、発見タブ、ストーリーズ、プロフィールでのシェア:プロフィールのプライバシー設定に応じて、リールはストーリーズやプロフィールで友人のみにシェアすることも、全体に公開することも可能です。
- モバイル限定:Instagramプロフィールやストーリーズとは異なり、デスクトップ版ではリールを視聴またはアップロードできません。
Instagramリールのリリース背景
Instagramは、2019年11月にブラジルでリールのテストを開始し、翌年8月に全世界でこの機能をリリースしました。これは、ユーザーがInstagramでコンテンツを作成する機会を増やすことを目的としていました。
Instagramが8月に発表したお知らせには「利用者やクリエイター、そしてビジネスがInstagram上で短尺動画を作成したり発見できる新機能『リール(Reels)』を発表しました」と記されています。
Instagramは、TikTokの成功や競合関係がリールのリリース理由だとは認めていないものの、テクニカルライターの間では以下のように戦略的な動きという見方も出ています。
「今週水曜日、Instagramの短編動画機能『リール』がリリースされました。Instagramは最大のライバルであるTikTokが苦境に立たされたところに奇襲をかけたのです。リールでは、TikTokと同じように15秒間の動画を作成し、Instagramアプリで公開したり友人とシェアしたりできます」(Jessica Bursztynsky氏によるCNBCの英語記事)
リールは、InstagramがTikTokに似た機能をリリースする初の試みですが、Facebookという企業全体で見れば、同様の動画編集サービスをリリースしたのはこれが初めてではありません。
2018年、TikTokがリリース直後から大きな成果を挙げる陰で、実はFacebookはLassoという競合アプリをひっそりとリリースしました。
Lassoは、TikTokと同じように縦長のフィードと動画編集ツールを提供していたものの、2020年6月までのアプリダウンロード数は80,000にも達しませんでした。そして7月、Instagramでリールがリリースされる1か月前に、Lassoはサービスを終了しました。
Facebookの広報担当者はTechCrunchの取材に対して「ユーザーの求める自己表現方法を探るために、アプリファミリー全体でさまざまなサービスのテストを実施しています。短編動画アプリであるLassoもその一環であり、今回このサービスを終了することを決定しました。これまで、クリエイティブな作品をシェアし、フィードバックを提供してくださった皆様に感謝を申し上げます。寄せられたご意見は他の動画機能に反映させていただく予定です」と述べました。
ここまでの経緯を知ってしまうと、マーケティング担当者は「自社ブランドにとって、InstagramリールはTikTokに代わる強力なツールになるのか、それともTikTokの他の競合アプリのように失敗に終わるのか?」と首を傾げたくなるかもしれません。
そう疑問に思うのは自然なことでしょう。マーケティング担当者は、短期間でサービスを終了してしまうプラットフォームではなく、確かな実績を持ち、オーディエンスのロイヤルティーが高く、ブランド認知度向上のチャンスに恵まれたプラットフォームだけに時間と費用を投入したいと考えるものです。
TikTokが使用禁止になっていれば、Z世代はこぞってリールに乗り換えたかもしれません。しかし、TikTokがOracleやWalmartとのパートナーシップ契約を締結したことにより、少なくとも当面は多くの国でTikTokを引き続き利用できることになりました。そのため、リールが成功を収めたとしても、一部のオーディエンスは今後もTikTokしか利用しない可能性があります。
他方で、Instagramは広く利用されているプラットフォームであり、これまでにも競合アプリに匹敵するソーシャル機能のリリースに成功してきました。たとえば、Snapchatが先行導入した機能と同様の「ストーリーズ」をリリースし、やがてユーザー数で追い抜いてしまったという話を覚えている方も多いでしょう。
現時点では、リールがTikTokのような成功を収めるかどうかはわかりません。しかし、各企業にとっては、TikTok戦術をゼロから組み立てるよりも、既存のInstagram戦略にリールの活用計画を追加する方が簡単なので、短尺動画コンテンツの有効性を検証する場としても、引き続きInstagramは重宝されるでしょう。
Instagramリールに関心があり、ぜひ試してみたいという方のために、以下のセクションでは、各ブランドによるリールの活用事例や作成手順、マーケティング担当者が自社のInstagramマーケティング戦略に組み込むうえで留意すべきポイントをご紹介します。
各ブランドによるInstagramリールの活用事例
Emmy Mae Bridal
美容とファッションは、Instagramリールに最適なトピックです。オーストラリア、クイーンズランド州のウエディング ドレス ブランド「Emmy Mae Bridal」のリールを見れば一目瞭然でしょう。
同ブランドのリールでは、ときにスタイリッシュな音楽に乗せて、動画でウエディングドレスを紹介しています。実際に投稿された以下のリールをご覧ください。
Earth Official
旅行業界でも、リールはユーザーにリーチするうえで最適なツールとなっています。以下のリールは、旅行関連のコンテンツ、キャンペーン、インフルエンサーを紹介するアカウント「Earth Official」が、タイのランタン祭りの美しい映像にオリジナル音源を付けて投稿したものです。
Critical Care Now
消費者向けビジネスでなくても、オーディエンスと良好な関係が育めていて、独創的なコンテンツを制作できる体制が整っていれば、リールがInstagram戦略にフィットする可能性はあります。
「CriticalCareNow」というInstagramアカウントでは、蘇生などの救命医療を専門とするHaney Mallemat氏が日常でも役立つ情報を発信しています。以下のリールでは、同氏が緊急対応の現場で使用される中枢/末梢動脈ラインについて説明しています。
Instagramのオーディエンスに発信するには、あまりにも専門的あるいは堅苦しい内容のリールだとお思いになるかもしれませんが、それは大きな誤解です。本ブログ記事の作成時点で、このリールの視聴回数は30,200回を超えていました。最新のダンスの振り付けなど流行りに乗ったコンテンツではないのに、これだけの数値を達成したのはすばらしい成果だと言えるでしょう。
Mallemat氏のリールへのエンゲージメントがこれほど多い理由は、Instagramフォロワー数24,000人以上という大規模かつニッチなオーディエンスを獲得することに成功し、どのようなコンテンツがオーディエンスに喜ばれるかを理解しているためだと考えられます。もちろんフォロワーを増やした方が視聴回数も増える可能性が高まりますが、自社のオーディエンスとそれに似たユーザーが求めているコンテンツを踏まえてリールを作成することも、エンゲージメント向上に大きな効果をもたらします。
Instagramリールの使い方
- Instagramストーリーズでリールモードを選択する
- 編集ツールを利用する
- 撮影を開始するか、事前に撮影した動画をアップロードする
- 仕上げのエフェクトを追加する
- リールを公開する
- リールを視聴する
- リールをシェアする
- パフォーマンスを追跡する
- 他のアカウントのリールを視聴する
1. Instagramストーリーズでリールモードを選択する
リールの使用を開始するには、Instagramストーリーズのカメラを起動し、[リール]をタップします。
2. 編集ツールを利用する
リールのカメラで映像を録画する前後には、カメラ画面の左側に4つの編集アイコンが表示されます。
表示されるツールは以下のとおりです。
- 音源:他のユーザーが事前に録音した音源や、Instagramミュージックライブラリの楽曲をコンテンツに追加できます。
- エフェクト:この絵文字のアイコンをタップすると、動画にスタンプやフィルターエフェクトを追加できます。リールのフィルターはInstagramストーリーズのものと似ており、両方の動画形式で共通しているエフェクトが多数あります。
- タイマー:決まった時間のクリップを撮影したいときには、このアイコンをタップして録画時間を設定できます。録画ボタンを長押ししながら撮影する必要はありません。時間を設定したうえで録画ボタンを押すと、画面に3秒間のカウントダウンが表示された後に録画が始まり、指定した時間だけ自動的に撮影が行われます。
3. 撮影を開始するか、事前に撮影した動画をアップロードする
録画ボタンを長押しすると、クリップの撮影が始まります。録画ボタンを離した時点でリール動画をまだ録画できる場合は、もう一度ボタンを長押しすると、最初のクリップが終了した直後から次のクリップを開始できます。
リール用のクリップの録画中には、画面上部の進捗バーに残りの録画可能時間が表示されます。
また、既に録画した動画やTikTokをリールでも公開したい場合は、カメラアイコンをタップすると、カメラロールからクリップをアップロードできます。
4. 仕上げのエフェクトを追加する
エフェクトを使わずに撮影した後で、動画を見てやはり必要だと感じた場合は、リールを公開する前にスタンプ、落書き、テキストを追加できます。
完成して公開できる状態になったら、下部の矢印をタップします。なお、このときに使用できるエフェクトもInstagramストーリーズのものとほとんど同じです。
5. リールを公開する
動画を確認して仕上げのエフェクトを追加してから矢印を押すと、投稿画面が表示されます。この画面では、カバー画像の選択、キャプションの入力、ハッシュタグの追加を行ったうえで、動画をリールとして公開できます。
6. リールを視聴する
リールを公開すると、このコンテンツが発見タブとプロフィールのリールタブに表示されます。
7. リールをシェアする
リールは発見タブだけでなく、フィードにも投稿できます。フィードに投稿したリールは、プロフィールのメイングリッドにも表示されます。また、ダイレクトメッセージとして送信したり、Instagramストーリーズに投稿したりすることも可能です。リールを発見タブにシェアしない場合やフィードに投稿しない場合は、ストーリーズと同様に24時間後に削除されます。
8. パフォーマンスを追跡する
現在、リールの効果を把握するには、その投稿自体を確認する必要があります。Instagramインサイトではまだリールのパフォーマンスデータが提供されていません。代わりに「いいね!」やコメントの数から、エンゲージメントを読み取ってください。
9. 他のアカウントのリールを視聴する
他ユーザーのリールを見たいときは、発見タブを開きます。注目のリールが中央に表示されているので、それをタップしてから下方向にスクロールすると、いくつものリールが見られます。
この一覧から、ユーザーをフォローしたり、リールに直接「いいね!」やコメントを付けたり、シェアしたりできます。ハッシュタグを検索すれば、特定のトピックに関するリールを見つけることもできます。
Instagramリールの注意ポイント
マーケティング戦略の一環として、リールやTikTokなどの最新のSNSプラットフォームの利用を検討しているなら、それぞれのメリット、デメリット、マーケティングにおける重要ポイントを比較したうえで、どのチャネルや機能がマーケティングチームに適しているかどうかを判断することが重要です。
リールの活用を検討するにあたって、注意したいポイントを解説します。
リールは唯一無二の拡散力を持つアプリと競合している
Instagramプラットフォームはロイヤルティーの高い膨大な数のオーディエンスを誇るものの、Z世代のユーザーの多くはバイラル動画やエンターテイメント全般を求めてTikTokを利用する傾向にあります。TikTokはリリースから短期間で驚異的なファンのロイヤルティーを獲得しているため、リールにはTikTok動画ほどの拡散力はないと感じるかもしれません。
TikTokで効果があったものが、リールでも効果があるとは限らない
TikTokは実験性の高いプラットフォームであり、全世界に膨大な数の若年層のオーディエンスを抱えています。こういった要因から、投稿の適切性に関するルールはそれほど多くありません。それに対して、Instagramはリリースからしばらく経っていて、オーディエンスの年齢層が若干高いため、コンテンツに関する規範やオーディエンスからの期待などが、ある程度醸成されています。
TikTok動画を既に投稿しており、リールにも試しに投稿してみたいという場合は、数点アップロードしてみて、パフォーマンスを確認し、両方のプラットフォームで効果的な動画について理解を深めることをお勧めします。
ただし、TikTokとInstagramのオーディエンスの相違点がわかってくるにつれ、TikTokでは反響が大きくても、リールのオーディエンスにはそれほど響いていないことに気づく場合もあるかもしれません。そのときには、リール専用のコンテンツを作成することを検討しましょう。
現時点では広告は掲載できない
現在、Instagramの発見タブのリールでは広告がサポートされていません。しかし、発見タブは全体に公開される場所であり、発見タブにリールをシェアすれば自社ブランドをフォローしていないユーザーにも表示されるため、世界中の新規オーディエンスにリーチするチャンスにはなります。
この記事の投稿時点では、Instagramがリールをオーディエンスに表示するアルゴリズムは明らかになっていません。実際に発見タブからリールフィードを利用してみた限りでは、TikTokとほぼ同じように、所在地、フォロー中のユーザー、最近エンゲージメントを行ったコンテンツとの類似性によって投稿の表示順位を決定しているようです。
リールの利用を検討するにあたっては、上記のポイントに加えて、リールがもたらすビジネスチャンスについても考える必要があります。たとえば、Instagramを使いこなしており、自社のオーディエンスが求めているコンテンツを十分理解している場合には、時間とリソースを費やしてTikTokアプリ戦略をゼロから構築するよりも、リールでTikTok形式のコンテンツを試してみる方がよいでしょう。
試しにリールを利用してみれば、InstagramマーケティングのスキルやInstagramプラットフォームに関する知識に磨きをかけられると共に、プロフィールやその他のコンテンツ、そしてリールという機能自体がブランドに適しているかどうかを確認し、認知度向上につながるように最適化できます。
今回の記事を読んでいただいた方は、ぜひInstagramマーケティングの完全ガイドも併せてご確認ください。また、以下の資料(無料でご覧いただけます)では、ソーシャルメディアの最新動向をチェックできます。

