ABM(Account Based Marketing)は、マーケティング部門と営業部門が協力し、自社にとって優先度の高い企業にアプローチしていく手法です。
ABMはアメリカで2010年代から高い実績を上げ、年々注目度が高まっています。しかし従来の法人営業(B2B)と比較して「優先度の高い企業にアプローチすることの何が新しいのか?」と思われるかもしれません。
法人営業との最大の違いは、ABMがさまざまなマーケティングテクノロジーを活用しながら、顧客情報を一元管理し、マーケティング部門と営業部門が協働でターゲットアカウントに最適なアプローチを行う点にあります。
顧客との購買履歴だけでなく、コンタクト履歴などのデータを一元管理できている企業はどのくらいあるでしょうか。HubSpotの 【2021年版】インサイドセールスに関するデータ集 によると、顧客情報の管理情報を尋ねた質問に対し、「顧客情報の管理方法は明確ではない/わからない」という回答が最多だったのです。取扱製品やサービスの種類が多い企業では、ある部署が取引していることを別の部署が知らないということも起こりかねません。
「優先度の高い企業にアプローチする」という従来の営業方法を維持しつつも、さまざまなツールの活用によって、従来の営業スタイルをアップデートしていく
ことが求められているのではないでしょうか。
本記事では、ABMを推進する上で大きな役割を果たしているABMツールに焦点を当てて説明します。
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ABMとは?
ABM(Account Based Marketing)は「アカウントに基づいたマーケティング」を意味します。ここでいうアカウントとは、自社にとって営業活動の優先順位が高い企業アカウントを指します。 ターゲットとなるアカウントごとに、最適な顧客体験を提供するのがABMです。
なぜ、ABMが注目されているのか?
日本の法人営業(B2B)はもともと、営業担当者が企業の購買担当者と強固な信頼関係を構築し、取引を続けることが一般的でした。日本における営業は、高い営業スキルを持つ担当者が大きな成果を上げることで成立してきました。
しかし、終身雇用型の就労形態が崩れ、属人的な営業活動の弊害が見え始めました。企業の購買行動も、従来の営業担当者を窓口としたものから、Webサイトなどを通して顧客側が主体的に情報を集め、検討する方向に代わっていったのです。
このような背景から、潜在的な顧客を見つけ、ターゲットを絞り込んだ市場に向けて売れるための仕組みを考える「マーケティング」が注目されるようになりました。Webサイトなどを活用し、売れる仕組みを構築できれば、営業活動も効率化できます。
ところが、マーケティング部門を設置する企業が増えるに伴い、マーケティング部門から「WebサイトやWeb広告、SNSを通じて見込み客に出会えたのに、営業が案件化してくれない…。」、営業部門からは「見込み客の選定基準が甘く案件化できない…。」と部門間で齟齬が生じるようになってきました。
見込み客を 営業活動に結びつけられなければ、自社の商品やサービスをお客様に届けることはできません。こうしたマーケティング部門と営業部門の齟齬を解決するために登場したのがABMです。
法人営業をテクノロジーでアップデートするABM
「企業をターゲットとし、最適な顧客体験を提供する」というABMの考え方は。従来の日本の法人営業の考え方と大きな違いはないでしょう。
しかし実際の運用面では大きく異なります。ABMは以下の3点を軸に運用されます。
- 自社の既存顧客データや見込み客の情報、また外部の企業データなどを元に、最優先でアプローチするターゲット企業を選定する
- 見込み客(個人)のデータを企業アカウントに連携させる
- ターゲット情報を部門間で共有し、ターゲットアカウントに対して、適切な情報を適切なチャネルかつ適切なタイミングで提供する
上記の3点を軸とした運用を行うためには、企業内でのデータの一元化が不可欠です。また、個々の見込み客のニーズに合わせて、最適なコンテンツを最適なタイミングで提供しなければなりません。
次の章ではABMをサポートするツールに焦点を当て、どのような役割を果たしているのかを整理します。
ターゲットアカウントの「選定」「施策」「追跡」
ABMをサポートするツールには、主に以下の3つの役割があります。
- ターゲットアカウントのリスト作成
- ターゲットアカウントへの施策
- ターゲットアカウントの追跡
1. ターゲットアカウントのリスト作成
企業には、オンラインやオフラインを通じて獲得した既存顧客や見込み客のデータが蓄積されています。そのデータを一元管理するのがCRM(顧客関係管理)ツールです。
このデータを元に、ABMツールは既存顧客と類似度の高い潜在的な見込み客を自動で抽出し、ターゲットアカウントをリスト化します。
2. ターゲットアカウントへの施策
リスト化されたアカウントに対し、適切な施策を検討します。例えば以下のような施策を実施できます。
- MA(マーケティングオートメーション)を活用し、適切なコンテンツを適切なタイミングで提供する
- スマートコンテンツやスマートCTA(Call-To-Action)を活用し、ターゲットアカウントがWebサイトを閲覧した場合に、最適なコンテンツやCTAを表示する
- ターゲットアカウントが興味を持ちそうな、ブログ記事よりも深い内容のホワイトペーパーやeBookを提供する
3. ターゲットアカウントの追跡
ターゲットアカウントを追跡し効果を測定します。MA(マーケティングオートメーション)を通じて、ターゲットアカウントのメール開封率やクリック率を測定します。
また、Google Analyticsなどのアクセス解析ツールを活用することで、サイト内でのユーザー行動が可視化されます。
コンバージョン率(新規問い合わせや申込みなど)の測定も重要です。コンバージョン率を測定することで、どの施策がコンバージョンに寄与しているかがわかります。チャネル別や施策別のROI(費用対効果)を測定することも重要です。
「インバウンド」と組み合わせて、さらに効果を高める
これまで見てきたように、ユーザーにとって魅力的なブログ記事や、継続的なコミュニケーションを続けるためのコンテンツがなければ、ABMの実現はむずかしいことがわかります。
一般的にABMはプッシュ型の営業で、いわゆる「インバウンド」的な手法とは相反するものと思われがちですが、実際には両者を組み合わせることで、ABMの効果をさらに高めることが可能なのです。
「インバウンド」とは?
当社HubSpotが提唱する「インバウンド」とは、は顧客から価値を引き出す前に顧客に価値を提供するという思想のことです。 例えば、ブログ記事やメルマガ、ホワイトペーパーやeBookなど、相手にとって価値の高いコンテンツを提供し、相手の興味関心を引き寄せて接点を持ち、良好な関係の構築を目指します。
ABMを進める上でも、インバウンドと組み合わせることで、優先順位の高い組織に、適切な情報を適切なチャネルかつ適切なタイミングで届けられるのです。
ABM×インバウンドを実践するため5つのステップ
ここでは実際に、インバウンドとABMを組み合わせて実施する手順を紹介します。
ABMは以下の5つのステップで実践します。
- ステップ1:チームを作る
- ステップ2:アカウントを識別する
- ステップ3:アカウントプランを作る
- ステップ4:コンタクトを惹きつける
- ステップ5:見込み客との関係を強化する
ステップ1:チームを作る
担当するアカウントに従事するメンバーを、営業部門、マーケティング部門からそれぞれ選出します。
ステップ2:アカウントを識別する
このステップでは2つのことを行います。
- ICP(Ideal Customer Profile=理想の顧客像)の設定
- ターゲットアカウントの識別
ICP(Ideal Customer Profile=理想の顧客像)の設定
自社の既存顧客のデータの傾向を分析し、自社にとって理想的なアカウントとはどのような企業なのかを検討します。
- 業種
- 従業員数
- 年間売上高
- 直近の取引額
- 所在地
- 特定の部署の従業員数
- 広告出稿費
- 求人を行っているか
- どんなツールを導入しているか
理想的なアカウントを、上記の項目別に明確化します。
ターゲットアカウントの識別
ICPと自社データをABMツールにインポートし、優先順位の高いターゲットアカウントのリストを作成します。
ステップ3:アカウントプランを作る
ターゲットアカウントごとにプランを設定します。
プラン設定の際は、以下の3点を明確にしましょう。ターゲットアカウントでコンタクトをとる相手は誰か?
- コンテンツを提供するのにふさわしいチャネルは何か?
- マーケティングと営業は、どのように施策を推し進めるか?
ステップ4:コンタクトを惹きつける
ステップ3のプランを元に、コンタクトを惹きつけるコンテンツを作成します。
ステップ5:見込み客との関係を強化する
見込み客との 関係を強化するために、以下のようなことを行います。
- ターゲットアカウントに役立つような事例研究を提供する
- ウェビナーを開催する
- Web会議などメール以外のコミュニケーションを強化する
ABMの導入と施策についてくわしく知りたい人は「 5ステップで実践!ABMの基礎を徹底解説 」を参考にしてください。
ABM実践に役立つ4つのツール
ABMの成果を高めるために導入しておきたい4種類のツールを紹介します。
- CRM(顧客関係管理)ツール
- SFA(営業支援)ツール
- MA(マーケティングオートメーション)ツール
- ABMツール
1. CRM(顧客関係管理)ツール
CRMツールは、顧客との長期的な関係構築のために顧客情報を一元的に管理し、コミュニケーションを最適化します。
ABMではアカウントに紐づけてリード情報を管理することで、ターゲットアカウントとの接点や、これまでの履歴情報を確認できます。
HubSpotでは、CRMをもっとくわしく知りたい方のために「 営業チームを成功に導くためのCRMテンプレート 」で導入に役立つテンプレートを提供しています。
2. SFA(営業支援)ツール
営業の動きをシステム上で見える化するのがSFAツールです。売上や受注数を一元管理し、営業の進捗状況や商談内容を可視化します。
ABMを実践する際には、最初にターゲットアカウントのリストを作成しますが、その際に、CRMツールと並んで重要なのがSFAツールです。
さらにマーケティングと営業部門が協働する上で、行動の最適化が図れます。
3. MA(マーケティングオートメーション)ツール
MA ツールは、顧客や見込み客一人一人のニーズや興味・関心に応えるOne to One マーケティングの実現を目的としています。事前に設定したシナリオに沿って、適切な情報を適切なタイミングで自動提供します。
さらにMAツールは、顧客や見込み客の購買意欲の醸成度合いを点数化するリードスコアリング機能が搭載されています。
「価格ページを閲覧したら7点」「ホワイトペーパーをダウンロードしたら5点」などの行動評価、「部長であれば10点」などの属性評価を行いながらスコアリングします。
ABMを実施する際に、このスコアリングデータは重要な要素となります。
4. ABMツール
ABMツールは、既存顧客のデータから顧客データの傾向を分析し、ターゲットとなるアカウントのリストを自動作成します。MAツールやCRMツール、SFAツールと連携させることによって、さまざまなデータを集約し、業種ごとに分析したり、売上を軸に分析したりできるようになっています。
それでは実際にABMツールにはどのようなものがあるかを見ていきましょう。
おすすめのABMツール5選
代表的な5つのABMツールを挙げ、特徴的な機能を紹介します。
1. Einstein ABM
Einstein ABMは、Salesforce社が提供するABMツールです。AIを取り入れたEinstein ABMは、自社の顧客データを分析し、それを元に成約率の高いターゲットアカウントを抽出します。また、広告配信やターゲットアカウントに合わせたWebコンテンツの表示などを行います。
2. Marketo
Marketoは、Adobe社が提供するABMツールです。1つのプラットフォームで、アカウントターゲットのリストアップから、適切な担当者の選定、パーソナライズされたメッセージの配信、ABMプログラムの最適化など、MA機能も搭載された施策を行います。
3. FORCAS
FORCASは、FORCAS社が提供するABMツールです。自社のCRMツールやMAツールを連携することで、成約率の高いターゲットアカウントリストを作成します。140万社以上の企業情報と約560業界にも渡るデータを保有しているため、自社データと連携させることでさらに精緻な顧客分析が可能になります。
4. uSonar
uSonarは、ランドスケイプ社が提供するABMツールです。uSonarは日本最大の法人企業データベースLBCを元にしています。日本国内に拠点を置く企業の99.7%を網羅しており、LBCを元に企業や担当者を検索することが可能です。
また、LBCを元に自社が保有するリード情報のデータ統合やデータクレンジングを自動で行えるため、ターゲットアカウントの選定が容易になります。
5.HubSpot ABMソフトウェア
FORCASやuSonarと連携し、ABMを推進するツールです。HubSpot CRMでターゲットアカウント情報を一元管理し、部門間で共有します。また、ワークフローを使ってターゲットアカウントのプロファイルの作成や、MAのシナリオ作成も可能です。HubSpotのあらゆるプランに対応しており、現在ご利用のプランにそのまま接続できます。
プラン |
Marketing Hub Professional |
Marketing Hub Enterprise |
Sales Hub Professional |
Sales Hub Enterprise |
月額料金 |
96,000円 |
384,000円 |
54,000円 |
144,000円 |
ABM以外の機能 |
マーケティングオートメーション、Webサイトのトラフィック分析など |
Marketing Hub Professionalの機能+予測リードスコアリングなど |
アカウント当たり最大15件の取引パイプラインなど |
アカウント当たり最大100件の取引パイプラインなど |
上記のほかにFORCAS、uSonarの利用料金が加わります。
ABMツールを導入する上での注意点
ABMは、大企業向けの施策だと考える人もいます。確かにABMツールの導入に投資し、ABMを推進する体制を構築するためには、ある程度のリソースが必要です。
しかしABMは、マーケティングと営業の協働によって、よりよい顧客体験を提供しようと考えている企業であれば、検討する余地があります。
ただし、ある程度の既存顧客とリードを保有していることが前提です。規模が小さく、充分なな顧客や見込み客がいない状況であれば、インバウンドの実践を通して、現状の見込み客に価値を提供することを検討してください。まずはWebサイトのブログ記事を軸にコンテンツを充実させ、顧客との接点を作ることから始めましょう。
よりよい顧客体験を届けるためのABMを開始しよう
法人営業にとって、企業をひとつの単位として営業を行うABMは、
これまでの考え方と共通点も多いでしょう。
しかし、従来の営業方法は、1人の営業担当者が企業の担当者と人間関係を構築することによって、成約に持ち込むというものでした。
一方ABMは、ターゲットアカウントに適切な情報を適切なタイミングで提供するものです。そのためにはマーケティング部門と営業部門の協力が不可欠です。
自社にとって最優先のターゲットアカウントを選定し、そのアカウントに対して最適な顧客体験を提供するABMは、インバウンドの思想と親和性が高く、両者を掛け合わせることで最終的な成果にも結びつきやすいでしょう。そしてABMを可能にするのが、CRMツールやSFAツール、MAツール、ABMツールです。
これからABMに着手しようと考えていた方や、スタートしたものの手応えを感じていない方は、ぜひインバウンドの思想と組み合わせての実践を検討してみてはいかがでしょうか。