要件定義とは?
要件定義とは、顧客とのコミュニケーションを通じて、自社のサービスに対して顧客が期待していることを明らかにするプロセスです。要件定義は顧客と新しく関係を構築していくうえで重要なフェーズであり、信頼関係の構築を促し、プロジェクトを成功させるための前提条件を確認する機会になります。
要件定義の段階で、クライアントのニーズや課題、クライアントが期待する成果を明らかにします。そして、要件定義で明らかにした情報を踏まえて、目標に向けたマーケティング計画を作成します。
要件定義の目標は、クライアントがマーケティング活動を通じて本当に達成したいことに気付けるようサポートし、その目的を達成するにはどのような方法が最適なのかを認識してもらうことです。
また、要件定義の打ち合わせから得られる成果には、バイヤーペルソナの定義、キーワード調査、競合他社の分析などが含まれます。
要件定義のプロセスは、契約締結後に実施することが多いものの、代理店によっては、正式な提案書や長期契約の前に有料のプロジェクトとして提案する場合もあります。
1年単位の契約の締結には抵抗のある顧客にとっても責任が小さいので、顧客との信頼関係の構築や情報の共有を始めるのにぴったりの方法です。
要件定義を実施する手順
要件定義のプロセスは、社内でクライアントのキャンペーンの戦略や目標の決定を担当する人が実施または主導する必要があります。
これはジュニアレベルのアカウントマネージャーには務まりません。というのも、戦略や目標を決めるためにクライアントと詳しい議論をするには、自社のビジネスを深く理解していることが必要になるからです。
また、クライアントとの議論の内容を、今後のキャンペーンやプロジェクトの方針を記した戦略文書に落とし込むことができなければなりません。
文書の形式には、提案書やクリエイティブブリーフ、マーケティングプロジェクトの計画などが考えられます。
要件定義の手引き
ステップ1:クライアントの目標を特定する
まずはクライアントの目標が何なのかを判断する必要があります。
これはクライアントと協力しながら進めていくプロセスで、クライアントから達成したい目標を聞き、その目標をより厳密なものへ調整しながら、「SMART」ゴールを立てます。
「SMART」とは、Specific(具体的)、Measurable(計測可能)、Achievable(達成可能)、Realistic(現実的)、Time-bound(期限付き)の5つの頭文字を取ったものです。
クライアントが達成したいと言っている目標と、実際に必要としていることが食い違う場合も珍しくありません。
たとえば、クライアントが見込み客(リード)を増やしたいと言っているときに、詳しく話を聞いてみると、実はリードの質と営業のコンバージョン率が本当の課題だったと判明する、といったケースが考えられます。
この場合、クライアントの問題も、その解決方法もまったく異なってきます。
適切な質問を通じて本当の課題を明らかにし、明らかにした課題を、自社がクライアントのマーケティングや広告を通じて達成できることとすり合わせていくのが、この段階での代理店の役目です。
クライアントが本当に達成する必要があることを深く理解するには、要件定義セッションで次のような項目について質問してみましょう。
- マーケティングを通じて年度末までに収益をどれだけ上げる必要があるか
- 現在の売上の平均金額はどの程度か
- 現在の成約率はどの程度か
- 獲得する必要のあるMQLやSQLの数はどの程度か
- 既存顧客からどの程度の収益を獲得する必要があるか
ステップ2:業界や競合他社の分析を実施する
クライアントのキャンペーンについて今後の戦略を策定するには、クライアントの業界、競合他社、今後競合する可能性のある他社、そしてその他社が採用しているマーケティングや営業の戦術について、専門家の視点で理解する必要があります。
クライアントの競合他社の一覧を作成したら、ブランドマーケティングに関して以下のような質問をしましょう。
- 顧客が競合他社ではなく貴社を選ぶ理由は何ですか? 競合他社に契約を奪われるとしたら、その原因は何が考えられますか?
- セールスプロセスの中で見込み客(プロスペクト)はどのような懸念を示してきますか? 競合他社については、どのような懸念を挙げていますか?
- 貴社と競合他社の価格設定の違いは何ですか?
- 競合他社はどのようなマーケティング戦術を採用していますか? それは成功していますか?
- 競合他社が提供しているカスタマーサービスはどのようなものですか?
- 競合他社を推奨しているのはどのような人ですか?
- 競合他社が作成したコンテンツの中で特に優れているものはどれですか?
ステップ3:データを細かく確認する
クライアントのマーケティングプログラムの現状を理解しなければ、クライアントのマーケティングの強みと弱み、ブランドの可能性、今後の対策を明らかにすることはできません。
まず、クライアントのコンテンツやウェブサイトの構造とデザイン、Eメールマーケティング、アナリティクス(分析)データ、ソーシャルメディアのプロフィールをチェックします。
そして、ウェブサイトのアクセス数、リードの数、Eメールなどの受信登録者の数、多くのリードを獲得したソース、コンバージョン率、Eメールの開封率とクリック率、キーワードランキング、バックリンク、サイトのパフォーマンスなど、オンラインでのブランドの成果を確認します。
ステップ4:クライアントのマーケティング資産をチェックする
要件定義では、ブログ記事やEメールキャンペーン、パンフレット、セールス イネーブルメント ツール、動画など種類を問わず、クライアントがどのようなコンテンツ資産を持っているかを明らかにすることが必要です。
こうすることで、コンテンツを整理してバイヤージャーニーに合わせて調整し、コンテンツの活用が不十分なせいでプロスペクトの喪失や流出を招いている箇所を特定できます。
また、短期間で成果につながるキャンペーンに活用できそうなコンテンツ資産を特定して、早い段階で成果を出すことで、顧客の信頼を勝ち取る手もあります。
ステップ5:SEO分析を行う
まだ本格的なSEO分析を行う段階ではありません(料金請求の可否やその金額によっては実施しても差し支えありません)が、ちょっとした分析を実施することで、クライアントのオンラインでの認知度や、クライアントの競合他社、ターゲットオーディエンスについて理解を深めることができます。
【簡易的なSEO分析手法】
まず、クライアントが重視しているキーワードを10個程度まで選びます。
そしてそのキーワードの検索順位にのクライアントがランクインしているかどうかを確認し、サイト掲載の難易度や、クライアントのサイトの順位をチェックします。
検索エンジンマーケティング用ツールの開発を手がける米国企業SEMrushから提供されているドメイン比較ツールなどを使用すると、競合他社がターゲティングしていてクライアントがターゲティングしていないキーワードを特定し、キーワード候補のリストを作成できます。
また、インバウンドマーケティング用ソフトウェアの開発を行っているMozのオープン サイト エクスプローラーを使用すると、競合他社に対してリンクを設定しているサイトを確認できます。
こうした便利なツールを利用して、競合他社の状況を正確に理解し、今後のチャンスについての情報をクライアントに提供しましょう。
ステップ6:関係者への聞き取りを行う
クライアントの組織のあらゆる部署から同意を取り付けることが重要ですが、特に役員レベルの同意は欠かせません。
経営状況が悪化したときに、経営陣が真っ先に切り捨てようとするのは、失敗したことが明らかな人と、自分たちがよく理解していないものや効果を信じていないものです。
クライアントの経営陣の視点からブランドの課題を把握するには、関係者への聞き取りを実施するのが有効です。
クライアントとの関係構築では、複数の相手とやり取りをし、その相手が複数の部門にまたがることが不可欠であり、関係者への聞き取りは、自社の目標や成功実績、クライアントのブランドに貢献する意思をアピールするチャンスになります。
ただし、最も重要なのは、クライアント全体の業務状況を明確に把握して、マーケティングの目標と会社全体の目標をすり合わせることです。そこで、以下のような質問をしてみましょう。
- 夜眠れなくなるほど不安に感じることは何ですか?
- 今は競合していなくても、今後競合する恐れのある会社はどこですか?
- 貴社のブランドから連想してほしい特徴は何ですか?
- 貴社の顧客は5年後にどうなっているでしょうか?
- 現在の最大の課題は何ですか?
- 1年後、あるいは5年後の貴社はどうなっているでしょうか?
- 今回のプロジェクトが失敗すると、どのような悪影響がありますか?
ステップ7:顧客のブランドのカスタマーエクスペリエンスを確認する
ブランドを差別化する手段として、カスタマーエクスペリエンスがマーケターの注目を集めつつあります。
米国の投資信託会社AMB GroupのCEOを務めるSteve Cannon氏は、あるウェビナーで「カスタマーエクスペリエンスこそがマーケティングの新しい戦場である」と発言しています。
また、Gartnerの予想では、消費者向け製品への投資額のうち、カスタマーエクスペリエンスの刷新に投入される割合は、2017年までに50%に達する見込みだそうです。
クライアントのブランドを真に理解するには、顧客の視点からクライアントを見る必要があります。
そこで、1人の「顧客」として、クライアントの製品を購入してみましょう。
友人の意見を聞いたり、インターネットで口コミを読んだり、営業担当者に電話で問い合わせたりといった、一般的な手順に沿って購入し、製品が実店舗で販売されている場合は、店舗を実際に訪れて、店員に商品の説明を求めたり、店員の意見や他の顧客の反応を聞いたりしましょう。
そして、実際の体験を通じて得た情報を基に、カスタマーエクスペリエンスの良かった点やあまり良くなかった点について、クライアントと話し合いましょう。
クライアントが自社に仕事を依頼してくるのは、これまでの実績や仕事の質だけではなく、外部の立場からの視点を求めているからです。
製品を購入するまでのクライアントの対応にどのような改善の余地があるのかについて、自分の意見をクライアントに伝えましょう。