代理店における適切な料金体系とは?リテーナー契約のベスト・プラクティスを大公開

向井 拓真(Takuma Mukai)
向井 拓真(Takuma Mukai)

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代理店の価格設定および財務に関するレポート

代理店の料金体系を設定するためのアプローチは数多く存在しますが、今回はHubSpotパートナーSalted Stone社で実際に効果が見られたアプローチをご紹介します。

「効果」について簡単にまとめると、Salted Stone社は過去5年間にわたって毎年、利益率の目標範囲(またはそれに近いところ)に到達しました。このフレームワークを採用した結果、すべてのプロジェクトが黒字になったわけではありませんが、ビジネス全体を見れば確かに安定性が向上しました。

代理店の料金体系は、主にプロジェクト単位の料金体系とリテーナー契約の料金体系の2種類に分けることができます。

プロジェクト単位の料金体系

リテーナー契約の料金よりも、プロジェクトごとの料金を計算する方が簡単です。料金体系がきちんとしていても、プロジェクトを通じてどれくらいの利益率を達成できるかは、さまざまな変動要因によって左右されます。

しかしリテーナー契約に比べれば、変動要因は少なく、内訳を出すのも難しくありません。

当社も最近になってようやくリテーナー契約の料金体系を導入しました。しかし、前もって作業範囲が明確に定義されているなら、プロジェクトごとの料金体系の方が、開始点と終了点がはっきりしているため、変動要因は少ないでしょう。

当社は各プロジェクトで20%の純利益を目標に掲げているため、以下の計算式を使用しています。

(1時間あたりの原価基準 × 3 × 推定作業時間数)× 1.25

  • まず、実作業を担当する各従業員の1時間あたりの原価に3を掛けます。これがその従業員の作業分として請求したい時間単価です(ここではプロジェクトマネージャーなどの管理人員は計算に入れません)。
  • 次に従業員の有償作業時間数を見積もり、その時間数を時間単価に掛けます。
  • プロジェクトに25%を加算します。これは、要件が変更された場合や、少ない見積もり金額を提示していた場合、そして不測の事態に陥ってしまった場合などに備えたバッファーとなります。

例として以下の表をご覧ください。

広告代理店の料金
競争入札や小さい企業の場合など、プロジェクトによっては、原価基準の3倍よりも時間単価を低く設定する必要があったり、25%のバッファーを全額請求できなかったりするかもしれません。

そうしたときには、時間単価を原価基準の2.5倍まで下げる、バッファーを確保しないなどの方法で対処しています。

純利益20%の目標が犠牲になってしまうことは承知の上です。プロジェクトごとの金額を時間ベースで見積もるときには、その他にもいくつか考慮に入れるべきポイントがあります。

たとえば、以下に挙げるような変動要因が考えられるでしょう。

作業時間の予測精度

プロジェクト全体または各フェーズの時間数をあまりに少なく見積もると、プロジェクト全体が軌道から外れてしまいかねません。

200時間と見積もったプロジェクトが、実際には400時間かかってしまったら、そこから持ち直すのは至難の業です。

従業員の生産性

上記の計算式は、チームメンバーが約80%の生産性を発揮することを前提にしています。従業員が8時間のうち4時間分しか働かないとしたら、完璧に見積もったプロジェクトでも予定より長引くことになってしまい、結果として利益率に影響します。

実際にどれだけ働くかにかかわらず、従業員には8時間分の給与が支払われ、代理店の時間単価で損をすることになります。

要件の変更

これはクライアント管理に関係するため、多くの場合、最もコントロールしにくい変動要因です。SOW(作業範囲記述書)はできるだけ詳しく作成しておきましょう。

そうすれば、事前に定義した作業範囲に含まれていない作業をクライアントが指示してきても、合理的かつ明確にその旨を説明することができます。

プロジェクトには管理担当者の人件費もかかりますが、その金額はクライアントに直接請求しません。

管理担当者分の料金は、時間単価(原価基準 × 3)に含まれています。したがって、プロジェクトに関与するプロジェクトマネージャーの原価基準は、実作業を担当するチームメンバーでカバーすることになります。

管理担当者のコストはできるだけ多くのプロジェクトに分散するのが賢明です。

リテーナー契約の料金体系

リテーナー契約の料金を見積もるのは、プロジェクト単位の料金よりも難しくなります。契約期間の初めのころに作業負荷が集中し、作業や成果物のニーズに柔軟に対応することが求められるケースが多いからです。

初期に集中する作業負荷

当社のインバウンド マーケティング プログラムの準備プロセスは、とてもハードです。クライアントの最初のキャンペーンを立ち上げるときには、綿密かつ包括的な準備作業を実施するため、有償作業時間数は180時間以上に達します。

このプロセスを完遂するには、戦略、設計、技術、コンテンツなど、あらゆるワークフローをまとめて引き受ける一括請負型のアプローチが必要となります。

通常はこれを2か月で完了させるようにしています(つまり、このクライアントの最初のキャンペーンは2か月目の終了時に公開されます)。1時間100ドルを基本単価とすると、キャンペーンを立ち上げる前の時点で、マーケティング料金は有償作業時間数に基づいて18,000ドルとなります。

しかし、この計算方法を快く思わないクライアントも少なくありません。ここでちょっとしたクイズです。

クライアントが納得するような形で、準備作業に費やした時間に見合う金額を請求するには、どうすればよいでしょうか? 私たちが導き出した答えは、契約の料金体系を工夫することでした。

原則として、基本契約の料金は以下のように設定しています。

  • 準備(1か月目~2か月目):18,000ドル
  • 継続的サービス(3か月目~12か月目):24,000ドル
  • 合計:42,000ドル
  • 割賦計算で1月3,500ドルの12回払い

最初の30日を過ぎると、クライアントは30日前の事前通知をもって契約を終了できるようになります。

したがって、最初の2か月間(準備段階)の料金を確実に請求することができます。

また、契約書には「早期に解約される場合、残額の一括決済が必要となります」という文言が含まれているため、クライアントには契約終了日までの未払い料金を支払う義務が発生します。

当社ではこうした対策によって、初期のハードな準備作業に対して十分な売上を確保しているのです。

ニーズへの柔軟な対応

特に力を入れるべき作業や成果物は、4つのステージ(Attract:惹きつける、Convert:転換する、Close:顧客化する、Delight:満足させる)ごとに異なり、クライアントがどの部分に強いニーズを抱えているかによっても変わってきます。

たとえば、クライアントのウェブサイトへの訪問者がまだ少ない段階で、リードを顧客に転換するキャンペーンに力を入れてもほとんど効果がありません。コンテンツの作成や、訪問者数を増やすためのプロモーションに力を注いだ方が有益です。

インバウンド方式

ただし、クライアントのニーズはインバウンドプログラムの結果に応じて、移り変わります。ある程度のサイト訪問者数に到達したときには、次にリードジェネレーション(見込み客の獲得)を目的とした最適化を希望するでしょう。

多数のリードを確保できた後は、リードから顧客へのコンバージョン(転換)、たくさんの顧客と契約を結んだ後は、顧客定着率とクロスセルを目指すようになります。

クライアントのニーズがどれくらいのペースで変わっていくのかを正確に予測することは困難です。

では、代理店は12か月先までの料金をどのように計算すればよいのでしょう? これは実に大きな問題です。

あまり科学的とは言えないアプローチですが、当社では、満足の行く仕事を成し遂げるために最低限必要となる金額をまず提示し、クライアントがどのくらいまで支払う意思があるかを見極めたうえで、サービスの内容と料金を決定しています。

たとえば、当社は少なくとも週に2回ブログ記事を投稿し、年に4件のコンテンツを制作することにしているため、ブログ記事1件あたりの平均コストも、コンテンツ1件あたりの平均コストもわかっています。

そして、戦略決定、設計、実装、レポート作成などにかかる時間も、大まかにですが把握しています。それらを踏まえ、まず最低水準のサービス内容と料金を提示し、そこからクライアントの予算とニーズと寛大さを考慮したうえで追加のオプションを提案するようにしているのです。

当社の基準では、少なくとも以下の成果物の提供を想定しています。

当社ではこれがクライアントに真の価値を提供するのに必要な最低限のサービス水準であると考えており、この水準のプログラムの基本的なリテーナー契約は1月あたり3,500ドルからのスタートとなります。

クライアントに投資する

実際のところ、当社のような小規模な企業が成長を続けるには、クライアントを定着させることがきわめて重要です。

そのため、クライアントにパッケージや見積もり、予測情報を提供することと同じくらい、それについてのデジタルペーパーを作成することにも価値があります。

当社では、合意した作業範囲を超えて十分なサービスを提供するようにいつも心掛けており、その結果としてクライアントにご満足いただいています。

満足度の高いクライアントは、サービスへの対価を支払うことをいとわず、組織の成長に貢献してくれる大切な存在です。

目先の利益ばかりを追いかけて大局を見失ってはいけません。今日のコストを惜しまなければ、明日はきっと大きな見返りが得られるでしょう。

コストを投じてばかりのプロジェクトよりも、利益が出ているプロジェクトの方が多い限り、心配は要りません。じっくりと時間を掛けて、自社に最も適した料金体系を運用してください。

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トピック: 代理店ビジネス

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