昨日、コカ・コーラ社のコンテンツ戦略の立役者であるJonathan Mildenhall氏が、 Content Marketing World(コンテンツ・マーケティング・ワールド)で、基調講演を行いました。そして会場は笑顔と涙の渦に包まれました。
Mildenhall氏が素晴らしいストーリーを語ってくれたからです。氏は個々のストーリーを共有する形でストーリーを語ることにより、ストーリーの語り方を私たちに教えてくれたのです(メタ的ですね)。
しかし、すべてが語られ、Mildenhall氏の基調講演が終わったとき、いつもの疑問が残りました。
「コカ・コーラ社のような巨大な予算がない場合は、どうすればいいのか?」という疑問です。
これは、マーケターに共通の悩みではないでしょうか。ですから今回の記事では、コカ・コーラ社が今年ローンチした大ヒットキャンペーンを取り上げ、(Mildenhall氏の基調講演のおかげで明らかになった)背景にある方法論を説明した上で、少ない予算で同じようなキャンペーン効果を上げる方法を考えてみたいと思います。
コカ・コーラ ゼロ ダンスキャンペーン
コカ・コーラ社は、「アイデアの伝染性が高ければ、その広がりはとどまるところを知らない」ということを非常によく理解しています。同社は、コカ・コーラ ゼロを普及させる方法として、新しいダンスを創ろうと考えました。そこでオーディエンスにダンスのアイデアを募ったところ、素晴らしいストーリーが寄せられました。Mildenhall氏は「広告エージェンシーに書いてもらうよりも魅力的なストーリー」と評しています。
寄せられたアイデアの中から選ばれたのは、両親への不満がきっかけで新しいダンスムーブ「Toe Tappy」を思いついた若者のストーリーでした。コカ・コーラ社が行ったのは消費者が作ったダンスをキュレーションすることだけ。それが以下のような素晴らしいコマーシャルになりました。
この戦略の活用例:オーディエンスにリーチし、アイデアを募る
自社のオーディエンス、顧客、ファン、エヴァンジェリスト。彼らは皆アイデアに満ちています。コカ・コーラ社のように大規模なオーディエンスがいなくても心配することはありません。大切なのは規模ではなく、自社に適したオーディエンスであることです。是非オーディエンスにリーチし、彼らのアイデアやストーリーを聞いてください。ハッシュタグを作成して、オーディエンスにアイデアを送ってもらうところから始めましょう。そうすれば、アイデアを集めつつ、キャンペーンを拡散することができます。アイデアが集まったら、それらを検証し、実行する方法を考えましょう。この戦略の実施例:Instagram動画を作成する
アイデアを実行に移すにあたり、高画質な動画、何週間にもわたる編集、有名なモデルや俳優にかける予算が必要とは限りません。公開されている最高のコンテンツには、スマートフォンで撮影されたものも数多くあります。スマートフォンを使って15秒の動画を撮影し、Instagramで共有しましょう。オーディエンスが共有してくれたアイデアでビデオシリーズを作成するのも良いでしょう。その後、これらの動画をウェブサイトやブログにまとめて埋め込み、SNSチャネルでプロモーションしましょう。
「ネームボトル」キャンペーン
当時、コカ・コーラ社はグローバルプレゼンスの拡大に注力しており、10年間で2倍の規模にすることを目標としていました。その時の調査で分かったのが、オーストラリアの10代および若者の50%がコカ・コーラを一度も飲んだことがないという事実でした。これに対処するため、同社はオーストラリアで人気の名前上位150を調べ、コカ・コーラのボトルに印刷しました。すると、どうでしょう。自分の名前が印刷してあるボトルを喜んで購入する人が続出しました。さらに、上位150以外の名前も印刷してほしいという要望が多数寄せられ、同社は好きな名前を印刷できるキオスクを設置。そこには長蛇の列ができました。その後も新しい名前に対する要望は尽きることなく、65000人が参加した投票の結果、新たに50の名前が印刷されるに至りました。キャンペーンの様子は以下の動画でご覧いただけます。
この戦略の活用例:パーソナライゼーション
このキャンペーンでコカ・コーラ社が実施したのは、とてもシンプルなマーケティングの原則の1つ、「パーソナライゼーション」です。マーケティングをパーソナライズすると、質の高いオーディエンスにリーチしやすくなります。次回コンテンツキャンペーンをローンチする際は、自社や自社のオーディエンスが直面している問題について深く考え、それを解消するようなコンテンツを作成してください。自社のサイトの訪問してくれる人々に役立つようなコンテンツや最適な情報を、タイミングよく提供することが大切です。
この戦略の実施例:CTAのパーソナライゼーション
サイト上でフォームを使って訪問者の情報を収集し、同じ訪問者が再度訪れたときには、パーソナライズしたCTAが表示されるようにしましょう。
スーパーボウル 白くまキャンペーン
これは私の大好きなキャンペーンです。Mildenhall氏によると、コカ・コーラ社は一方通行のストーリーテリングから、より動的なストーリーテリングへの移行を望んでいたそうです。そして2013年のスーパーボウルでそれを実現しました。2頭の白くまが試合を観戦する様子をライブでストリーミングしたのです。2頭はそれぞれのチームのファンだという設定で、実際の試合の様子や流れるCMにリアルタイムで反応しました。その様子はこちらでご覧いただけます。
この戦略の活用例:リアルタイムマーケティング
このキャンペーンは、ますますその重要性を増しているリアルタイムマーケティングにフォーカスしています。リアルタイムマーケティングを行うには、時事にアンテナを張り、自社のビジネスに関連するニュースにすぐに反応できなければなりません。ただ、リアルタイムマーケティングといっても、何もかもその場でやらなければならないわけではありません。事前に準備することもできます。もちろん事前に準備できないケースもありますが、スーパーボウルのように大きなイベントが開催されることが分かっている場合には、さまざまなビジュアル素材やツイートを事前に用意しておいて、イベント中に公開することが可能です。ただ、不測の事態に備えて誰かをスタンバイさせておき、すぐに対応できるようにしておくのも大切です。
この戦略の活用例:ニュースジャック
リアルタイムマーケティングを実行するためには、ニュースジャックができなければなりません。ニュースジャックとは、話題になっているニュースを取り上げ、それを自分の業界にからめて発信することです。例えば、モバイルアプリの開発会社であれば、Facebookが最新のモバイル広告機能を発表したというニュースに合わせて、モバイルのプロとしてその機能を活用するヒントを公開すれば、トラフィックを呼び込める可能性が高まります。
以上は、Mildenhall氏が基調講演で触れた多数のキャンペーンのうちのたった3つにすぎませんが、工夫次第で大企業が実施しているアイデアを取り入れることが不可能ではないとお分かりいただけたと思います。コカ・コーラ社の莫大な予算は製作費に充てられているのであり、アイデアに充てられているわけではありません。つまり、予算が少なくても、別の方法をみつけることで、同じアイデアを形にすることは可能です。
Open Happiness(ハッピーをあけよう):顧客のよろこびを重視したモデル
Mildenhall氏の基調講演全体、そしてそこで共有されたストーリーのすべてにおいて心に響いたのが「Open Happiness(ハッピーをあけよう)」というフレーズです。このフレーズは一時期コカ・コーラ社のキャッチフレーズだったこともありますが、単なるキャッチフレーズにとどまらず、同社のコンテンツキャンペーンの根幹を形成しています。同社がただパーソナライゼーションやリアルタイムマーケティングといったテクニックだけにフォーカスしていたなら、どのキャンペーンもこれほどまでには成功しなかったでしょう。そうではなく、キャンペーンを通して顧客によろこんでもらうことを大切にしたからこそ、大きな成功をおさめることができたのです。Mildenhall氏の別のストーリーの中でも触れられていましたが、「ネームボトル」キャンペーンでは、友人の名前が書いてあるボトルを購入することで、消費者が別の消費者をよろこばすこともできました。同社のキャンペーンには、こうした「よろこび」を重視したキャンペーンが数多く見られます。
ただ、顧客を効果的によろこばせるためには、顧客のことを十分に理解する必要があります。 コカ・コーラ社が、オーディエンスを理解するのに時間を投資し、エディトリアルカレンダーを作成し、購入サイクルにコンテンツをマッピングしていることは明らかです。上記の例を見ていただいても、オーストラリアでまったく新しいオーディエンスにリーチしたり、既存の顧客からアイデアを募ったりといったことは、明確な戦略なしには実行できません。そこで、皆さんが優れたコンテンツ戦略を立てられるように実用的なガイドを作成しましたので、是非ご活用ください。こちらからダウンロードしていただけます。成功している大企業の戦略をお手本にしつつ、予算をかけずに自社に適した戦略を立てましょう。
画像クレジット:Omer Wazir
編集メモ:この記事は、2013年9月に投稿した内容に加筆・訂正したものです。Anum Hussainによる元の記事はこちらからご覧いただけます。