通信手段の歴史とは、不便さを解消するための進化の繰り返しです。人類はいつの時代も、より効果的で効率的な意思疎通の方法を探し求めてきました。馬に乗った郵便速達に始まり、普通郵便、電話、ショート メッセージ サービス、Eメール、インスタントメッセンジャー、LINEなど、ありとあらゆる手段が作り出されています。
オンサイトのウェブチャットは、ウェブサイトとほぼ同時期に誕生し、長い間カスタマーサービスに利用されてきましたが、近年ではマーケティングの世界でも新たなツールとして注目を集めています。
今日の消費者はリアルタイムのやり取りを望んでいますが、ほとんどのマーケティング担当者はそのニーズに応えられないまま、リードを獲得するチャンスを逃してしまっています。
そのため、マーケティング担当者やセールス担当者と消費者をリアルタイムにつなぐソフトウェアは、あらゆるCMOにとって夢のようなソリューションと言えます。
しかし、ウェブチャットは優れたツールとは言え、それだけでプロスペクトや顧客の要望に瞬時に応えられるほど都合良くはありません。
チャットを活用すると、これまでにないスピード感でプロスペクト、リード、顧客とやり取りできるようになります。ただし、ここで重要なのは、すばやく声を掛けることではなく、適切なサポートをすばやく提供することです。
スピードはシステム上の問題であり、ソフトウェアの問題ではありません。顧客の抱える問題を迅速に解決するのはツール自体ではないのです。
社内の情報源を統合することによって、担当者がすばやく状況を把握し、プロスペクトや顧客からの問い合わせに対して適切かつ具体的な回答を即座に提供できるようにすることが求められます。
ウェブチャットはそうした情報源の1つに過ぎません。しかし、多くの企業がウェブチャットを導入してはみたものの、それだけで終わってしまっているのが現状です。
ウェブチャットそのものに価値はない
厳しい言い方になりましたが、こう断言する理由をご説明します。
コミュニケーションチャネルに本質的な価値はありません。ただ、次のような2つの価値をもたらしてくれます。
- チャネルを通じて顧客やプロスペクトとつながることで、相手の情報を入手して、より良いサービスを提供できる
- チャネルから保存された顧客サポートの履歴は、次回の問い合わせ時に関連情報として利用でき、その情報に基づいてビジネス戦略を推し進めることができる
新たなコミュニケーションチャネルが増えるたびに、既存チャネルの有効性は全体的に低下します。
であれば、消費者とやり取りするチャネルを1つに絞り、すべての情報を1か所に集約するべきかと言うと、そうではありません。
消費者が期待するコミュニケーション方法には、すべて対応するべきです(企業側のメリットとしては、複数のコミュニケーションチャネルからデータを収集することで、1つのチャネルで完結するシステムを使用した場合よりも、顧客のプロファイルを充実させることができます)。
しかし、成長している企業は共通して、ある運用上の課題に直面します。それは「断片化」という課題です。
ハブスポットがさまざまな企業を対象に、プロスペクトや顧客とどのような方法でやり取りしているのか、プロスペクトや顧客についての情報を社内でどのように共有しているのか調査したところ、次のような結果となりました。
以下の目的のためにどのようなシステムを使用していますか?
プロスペクト、リード、顧客とのやり取り
- ウェブチャット | 22%
- メッセンジャー | 29%
- CRM | 26%
- Eメール/ニュースレター | 84%
- 電話 | 75%
- コミュニティープラットフォーム | 37%
- Twitter | 35%
- その他のソーシャルメディア | 35%
チームメンバー間でのプロスペクト、リード、顧客に関する情報の共有
- CRM | 25%
- Eメール | 84%
- 電話 | 75%
- 社内用メッセージングアプリ(Slack、HipChatなど) | 36%
- コミュニティープラットフォーム | 23%
- 対面での会話 | 22%
- サポートチケット | 3%
数えてみると、従業員と顧客やプロスペクトを相互に結び付ける公式および非公式のチャネルは11種類にのぼります。つまり、11種類の記録システムがあり、顧客の全体像を構成するための情報の断片がそれぞれに保持されているということです。
顧客が抱える問題について前後関係を把握して解決するためには、1つひとつの断片をつなぎ合わせる必要があります。11の異なるデータベースを連携させなければ、顧客の行動の傾向を理解することはできません。
顧客が望むチャネルに合わせて戦略を立てることの大切さ
ビジネスの意思決定の大きな分かれ目となるのは、その決定がお客様へのサービスの向上につながるかどうかです。
一見すると、ほとんどの企業がこうした考えの下で現在ウェブチャットを使用しているように思えますが、現実はずいぶん違うようです。その原因として、3つのポイントが挙げられます。
1)ウェブチャット機能とシステム側のスピードが合っていない
現代の消費者は、必要な情報をその場ですぐに手に入れたいと考えています。あまり辛抱強くはありません。
何よりもスピードを重視するため、待っていられるのはせいぜい30分程度です。
以下の統計データに目を通して下さい。
82% – マーケティングまたはセールスに関して不明な点がある場合に「迅速」な対応が重要またはとても重要であると考える消費者の割合
90% – サポートに関して不明な点がある場合に「迅速」な対応が重要またはとても重要であると考える消費者の割合
見ていただく通り、「迅速」な対応が必要とされていることがわかります。
では、その「迅速」な対応が求められる部門はどこでしょうか。
59% – マーケティング
75% – セールス
72% – サポート
上の3つの数字は、ライフサイクルステージごとの、30分以下の対応を「迅速」であると見なす消費者の割合です。
顧客やプロスペクトからの問い合わせに10分ほどで対応できれば上々でしょう。しかし、ほとんどの企業ではシステム間の情報の集約が必要になるため、マーケティング、セールス、カスタマーサポートの現場担当者は1日あたり45~60分もの時間を社内システムに費やしています。
複数のコミュニケーションツールを管理・利用するために、1日あたりどのくらいの時間を費やしていますか?
このように、顧客が期待する対応スピードと企業による実際の対応スピードには、大きな差があります。
今年のチャットボットツールの使用意向については、消費者の36%が「使用を増やしたい」、60%が「このまま使い続けたい」と答えています。
つまり、企業のチャット対応量(とチームの負担)は、増えることはあっても減ることはありません。
顧客と交わさせる様々なチャネルでの対話をシステムへ統合することは優れたカスタマーエクスペリエンスを実現する土台となります。
今日、明日、または5年後にどのようなチャネルで消費者とやり取りするにしても、統合によってカスタマーエクスペリエンスを強化することができます。
2)ウェブチャット機能が顧客の利便性向上に貢献していない
たとえば、訪問者がeBookをダウンロードしてリードに転換したときや、セールス担当者に問い合わせようとしたとき、または製品に関する問題を報告するときなど、顧客ライフサイクルのあらゆるステージでウェブチャットを利用できるのが理想的な状態です。
しかし、現実はそううまく行きません。1つの部門でしかチャットソフトウェアを配備・管理しておらず、他部門の従業員はチャットを利用できないという場合がほとんどです。複数の部門からチャットにアクセスできるようにしている企業はごく一部に限られます。
社内的な観点から言えば、これは当然の結果でしょう。各部門の責任者はそれぞれ自律的に職務を遂行しており、各自の予算の中でウェブチャットソリューションが後回しにされているだけです。
しかし、これでは顧客の利便性ではなく、部門の責任者の都合を優先させているに過ぎません。顧客にとっては、自分の抱えている問題がどの部門の担当範囲であるかは関係なく、ただ問題が解決されることだけを望んでいます。
顧客がチャットから問い合わせたいと考えるなら、企業はライフサイクルにおけるすべてのタッチポイントでそれを実現する必要があります。ウェブチャットを導入する際には、顧客に接するすべての部門が関与し、データへのアクセス方法を把握して、顧客のニーズに応えることが大切です。
3)ウェブチャットがオフライン時に機能していない
ウェブチャットは、プロスペクトや顧客に対応するチームが設置されている企業に最適なツールです。しかし、担当者がその日の業務を終えて帰宅した後に、チャットで問い合わせが入った場合はどうすればよいでしょうか。
ほとんどのソリューションでは、指定した時間帯以外のチャット対応を停止したり、定型文の応答を送信したりして、営業時間を迎えればまた担当者が対応可能になることをプロスペクトに伝えます。
導入の初期段階ならこの方法も悪くはありませんが、十分とも言えません。単純にチャットでのやり取りを好む顧客は、スムーズなやり取りができなければ、ライフサイクルステージの前進に二の足を踏むようになるでしょう。
そのため、営業時間に縛られず、いつでも顧客の好きな方法で疑問を解消できるようにする必要があります。
だからと言って、24時間体制でチャットをモニタリングしなければならないわけではありません。重要なのは、オフライン時のチャット戦略を準備しておくことです。
- どのような質問事項をチャットボットに組み込めば、訪問者の要望を判断してそれに応えることができるか?
- 確度を評価する作業を早い段階でセールス担当者に引き継ぐための質問事項をプログラミングできるか?
- チャットをセルフサービスのリソースとどのように連携させれば、よくある問い合わせにオフライン中でも対応することができるか?(そのためには、統合ナレッジベースと連携させる必要があります)
「利便性とスピードはシステム上の問題である」ということがおわかりいただけたでしょうか。どんなに優れたウェブチャットソフトウェアでも、すべてのピースをうまく連携させたシステムが整っていなければ、良質なカスタマーエクスペリエンスを提供することはできません。
やがて皆さんは、現在使用しているテクノロジーでは、人の手を介さなければとても会話として成り立たないとお気付きになるでしょう。それは重要な発見です。
しかし理想としては、その事実に気付く前に、すべての会話の自動化に取り組むべきです。そうすれば、顧客への提供価値を最大化することができます。
すべてはビジネスのために
システムの連携が取れていないと、認識のずれが生じます。経営陣はだれもが、現場の従業員以上に状況を楽観的に捉えています。それは次の調査結果を見れば一目瞭然です。
- 顧客との過去のやり取りの完全な記録にアクセスできると強く自負している割合:経営幹部やVPは55%、一般社員は23%
- マーケティング部門からセールス部門に関連情報も含めてリードを引き継ぐことはとても容易だと考えている割合:経営幹部やVPは54%、一般社員は24%
また、経営幹部やVPは、現場従業員がアクセスできる履歴情報についても過度に楽観視しています。
このような認識のずれは、決して良い結果を招きません。顧客が関係する場合にはなおさらです。顧客の80%はカスタマーエクスペリエンスに不満を感じる企業とは取引を停止したいと考えるため、企業が他社との差別化を図るには、10分以内というわずかな時間で対応する必要があります。
また、こうした状況ではコストもかさみます。従業員が複数のコミュニケーションチャネルを切り替えながら作業しているとしたら、それはビジネスに価値をもたらしているのではなく、それまで見つけられなかった情報をただ探し回っているだけに過ぎません。
以下に、企業がシステムの照合のために従業員1人あたり年間でどれくらいの費用を損失しているかの試算を示します(1年を50週として、indeedが発表する米国の役職別平均給与に基づいて算出)。
- マーケティング:従業員1人あたり年間6,513~8,685ドル(平均給与は年間69,483ドル)
- セールス:従業員1人あたり年間4,963~6,617ドル(平均給与は年間52,946ドル)
- カスタマーサポート/サービス:従業員1人あたり年間2,284~3,045ドル(平均給与は年間24,360ドル)
このデータから、マーケティング、セールス、カスタマーサポート/サービスの従業員の給与の9~12%が、ビジネスの成長に貢献しない作業に対して費やされていると推測されます。
”ウェブチャット”を超える”コミュニケーション機能”の出番
ハブスポットのミッションは、数多くの企業のより良い成長を支援することです。お客様が顧客を惹き付け、満足させられるように、顧客の信頼を獲得して長期的な関係を確立するためのお手伝いをしています。
そのためには、ハブスポットのお客様が顧客とより自由に会話できるようにすることが重要となりますが、多数の顧客を相手にそうした1対1のやり取りを実現することは容易ではありません。
そこで、ハブスポットはこの数か月間、コミュニケーション機能という顧客を中心として社内全体の体制とシステムを連携することができる無料の統合型ツールの開発を進めてきました。私たちは強い信念の下、すべてのユーザーを対象にこちらの機能を無料で提供いたします。
コミュニケーション機能は、社内のすべてのコミュニケーションチャネルを集約する共有の受信トレイであり、あらゆるプロスペクトや顧客とのやり取りを一元的に把握、管理して、スムーズに返信することができます。
HubSpot CRMと統合されているため、コンタクトの詳細なプロファイルやコミュニケーション履歴をすべて確認できます。自動化によってウェブチャットの機能をさらに拡張し、ウェブサイト内のあらゆるページで活用することで、リードの獲得、セールストークの展開、サポートの提供などを促進できるようになります。
コミュニケーション機能は、マーケティングに活用される各種システムと、セールスプロセスでの会話やカスタマーサービスへの要望を結び付けるための、信頼できる情報源となるでしょう。
この一元的な情報源によって、連携の取れていないバラバラなコミュニケーションチャネルの問題は解消されます。チームの負担が軽減され、対応スピードが向上するほか、顧客をブランドの強力な味方にできるチャンスが高まります。