プロのアスリートや経営者にどうやって成功を収めたのかを質問すれば、「1つのプロセスを極めた」という答えが返ってくることでしょう。このような人たちは成功につながる方法とそうではない方法を見極めることで、スポーツやビジネスの効率、成果、生産性を向上させてきたはずです。
しかし、組織に何らかのプロセスを導入することは、自分1人のプロセスを作り上げていくこととは次元がまったく異なります。これは企業や部門のような人数の多い組織だけでなく、小さなチームにもあてはまることです。さまざまな要因が絡んでくる中で、自社のプロセスの1つひとつをトラッキングしていくことも簡単ではありません。まして、そのプロセスをどう洗練させていくのかはいっそう困難かつ重要な問題であると言えます。
この50年ほどの間、企業が新しいシステムやデータの流れ(フロー)を理解し、完成させ、導入するために使用してきたツールの中で、特にシンプルかつ効果的なのが「データフロー図」です。データフロー図は、社内のシステムやプロセス・フローを視覚的に表現して分析や整理がしやすくなるようにしたものです。
この記事では、データフロー図の基本をご紹介します。
データフロー図とは?
データフロー図とは、システムやプロセスにおけるデータの流れを視覚的に表現したものです。データフロー図を使ってデータの流れをマッピングすることで、システムやプロセスへの理解を深め、問題点の特定と改善を行うことができます。また、新しいシステムやプロセスをスムーズに導入できるようになります。データフロー図には、システムやプロセスの概要を表すシンプルなものから、細かい部分まで表現した複雑なものまでさまざまな種類があります。
データフロー図は1970年代に普及し、そのわかりやすさから幅広く活用され続けています。システムやプロセスの仕組みを視覚的に表現することで複雑な概念を文章よりもわかりやすく説明できます。データフロー図を見れば大半の人はシステムやプロセスのロジックと機能を簡単に理解できます。
データフロー図には、論理構成図と物理構成図という2つの種類があります。論理構成図で表現されるのはシステムの中をデータが移動していく論理的な流れです。たとえば、データがどこから送られてきてどこを移動し、どのように変換されて最終的にどこにたどり着くのかといった情報が含まれます。
一方物理構成図で表現されるのは、システムの中をデータが移動していく物理的な流れです。たとえば、システムの中で特定のソフトウェアやハードウェア、ファイル、従業員や顧客がデータの流れにどのように関わるのかなどの情報が含まれます。
この2つのどちらを使っても、データの流れを記述することはできます。あるいは、この2つを併用してシステムやプロセスをさらに詳しく分析することも可能です。次の章でデータフロー図で使われる標準的な表記法や記号を確認しましょう。
データフロー図で使われる記号
データフロー図には、長方形、円、矢印、テキストを含む小さいラベルなど標準的な記号が定められており、これらの記号を使ってデータの流れる方向やデータの入出力、データ格納ポイントや各種サブプロセスを記述します。
データフロー図の表記法には、主にヨードン・コード式とゲイン・サーソン式の2つがあり、どちらも図形とラベルを使って、外部エンティティー、プロセス、データストア、データフローという主な4つの要素を表現します。
画像提供:Lucidchart
1. 外部実体
外部実体は「ターミネーター」「ソース」「シンク」「アクター」とも呼ばれ、データフロー図に含まれるシステムとの間でデータを送受信する、外部のシステムやプロセスを表します。外部実体はデータの発信元か送信先のいずれかであり、通常は図の端の方に配置されます。
2. プロセス
プロセスとは、受信したデータを変換し、それを基に出力を生成することでデータとその流れを操作する手続きのことです。この手続きは、計算を実行しロジックを使用してデータをソートしたり、データの流れる方向を修正したりすることで行われます。プロセスはデータフロー図の左上からスタートし、右下で終わるのが一般的です。
3. データストア
データストアとは、後から利用するデータを保持しておくための場所です。たとえば、処理待ちのドキュメントファイルなどはここに保持されます。データの入力は、プロセスを経由してからデータストアを通過していきます。一方データの出力は、データストアから発生してプロセスを通過していきます。
4. データフロー
データフローは、システム内のデータが外部実体からプロセスやデータストアを経由して移動していく経路を表します。データフロー図では、矢印と簡単なラベルを使ってデータの流れる方向を表現します。
さて、実際にデータフロー図の作成を始める前にここで効果的なデータフロー図を作るために必要な4つの原則を押さえておきましょう。
1. 各プロセスには、入力と出力をそれぞれ1つ以上配置する
2. 各データストアには、データの入力と出力をそれぞれ1つ以上配置する
3. システムに格納されるデータが必ずプロセスを通過するようにする
4. データフロー図に含まれるすべてのプロセスが、他のプロセスやデータストアとリンクするようにする
データフロー図のレベル
データフロー図には、システムやプロセスの概要を表すシンプルなものから、細かい部分まで表現した複雑なものまでさまざまなレベルがあり、レベル0(ゼロ)から数字が大きくなるにつれて図が複雑になっていきます。その中でも特に一般的で直観的なデータフロー図は、レベル0の「コンテキスト図」です。コンテキスト図は、システムやプロセスにおけるデータの流れをわかりやすく大まかに示したものであり、たいていの人は見てすぐに理解できます。
レベル1のデータフロー図もシステムやプロセスの概要を表現してはいますが、システム内の1つのプロセスを複数のサブプロセスに分割しており、レベル0よりも詳しい図になります。レベル2ではさらに図が細かくなり、プロセスごとに詳しいサブプロセスを表現します。データフロー図のレベルが2を上回ると、図の情報が多くなりすぎて、システムやプロセスを理解しやすくするという本来の目的を達成できなくなるので、レベル3以上のデータフロー図はめったにありません。
データフロー図のサンプル
データフロー図はソフトウェアエンジニアリングやIT、企業の事業運営、製品の管理やデザインなどのさまざまな分野で、新しいシステムやプロセスの分析、改善、導入に活用できます。そこで、データフロー図がどのような構成で、組織の複雑なシステムやプロセスをどう単純化して表現できるのかについて具体的に理解していただけるように、コンテキストレベルのデータフロー図のサンプルをご紹介します。今回ご紹介するのは、米国の自動販売機型DVDレンタルサービス「Redbox」のデータフロー図です。
このデータフロー図では、顧客(Customer)が外部実体で、DVDレンタルシステム(DVD borrowing system)がプロセス、データフロー、およびデータストアに相当し、DVDの在庫管理の担当者(Shopkeeper)がデータの出力先に当たります。
画像提供:Lucidchart
プロセスの完成度を高める
偉大なアスリートや一流の経営者はもちろん、優れたビジネスやサービスは、どれも卓越したプロセスを構築するだけではなく、そのプロセスの完成度を高めることにも力を入れています。データフロー図を使って組織内のプロセスの現状を把握することで、プロセスの完成度を高めるための具体的な指針を得られるでしょう。