イベントやセミナーで盛んに取り上げられ、様々なビジネスシーンで注目を集めているキーワード「DX:Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション。以下、DX)」。
総務省の情報通信白書によればインターネットの利用率は日本の人口の89.8%にも上り、デジタルテクノロジーの進化はビジネスモデルやプロダクト、サービス、そして私たちの生活そのものに大きな変化をもたらしています。
出典:総務省|令和2年版 情報通信白書|インターネットの利用状況
こうした変化を理解する上で欠かせない考え方がDXであり、2018年に経済産業省が有識者による「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を設置したことからも、その注目度の高さが窺えます。
その一方でDXに取り組んでいる企業はまだまだ珍しく、DXを単にIT化やデジタル化であると誤解をしていたり、言葉自体は聞いたりしたことがあっても、その意義や事例を理解している方は少ないのではないでしょうか。
そこで本稿では、最新の技術トレンドやデジタイゼーション/デジタライゼーションとの比較もご紹介しながら、今知っておくべきDXを解説していきます。
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デジタルトランスフォーメーションの定義とは?
DXは2004年にスウェーデンの大学教授により提唱された概念であり、多くの企業で独自の解釈がなされてきました。
ここでは、令和元年に経済産業省が公開した『「DX 推進指標」とそのガイダンス』の冒頭に記述されているDXの定義を引用します。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応しデータとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し競争上の優位性を確立すること」
つまり、テクノロジーを活用して企業活動をより良い方向に変化させることを言います。
また、DXは狭義には「ビジネスモデルの転換まで到達した最終形」を指しますが、広義に捉えると「最終形に到達するまでのプロセス全般」を指すこともあります。
様々な情報をデータ化し、事業部全体が顧客に向き合える状態になれば、顧客体験を中心とした新しいビジネスモデルを推進できるようになります。
例えば、オフラインの行動データやPOSデータ、Webサイトの訪問履歴といった、一人ひとりのお客様の情報はテクノロジーの進歩によってより正確に把握することができるようになりました。
そういった顧客情報の蓄積や共有は、これまでマーケティングやセールスに関わる部署など、一部の部署でのみ取り組まれるケースがほとんどでした。
しかしDXでは、上記のような取り組みを行い、顧客に提供する価値によい変化をもたらすことを最終的な目標としています。
そのため、企業全体でDXに取り組むこともあります。
いきなり全社的にDXに対する理解を得るのが難しい場合は、一部の部署から部分的にDXに取り組む場合もあります。
なぜ今、DXに取り組むべきなのか?
「IT技術の導入はハードルが高い」「現状維持でも問題ないのになぜDXに取り組む必要があるのか」と感じている企業も少なくないでしょう。
ではなぜ企業は今DXに取り組んでいくべきなのでしょうか。
それは市場の変化から取り残されないよう、企業が生き残っていくためです。
経済産業省のDXレポートでは、「2025年の崖」と称し、多くの企業が既存ITシステムから脱却できず、2025年には大きな経済損失が起きるだろうとしています。
2025年の崖は、DXにより新しいビジネスモデルを創出していかなければならないところ、複雑化・ブラックボックス化した既存システムからどう脱却するかなどが足かせとなり、何をどう変えていけばいいのか見極められなくなることから起きるとしています。
既存システムから脱却できず、爆発的に増加するデータを活用しきれないと、デジタル競争の敗者となってしまうでしょう。
日本は世界と比べてもDXの取り組みに遅れており、グローバル競争でも敗者となってしまう可能性があります。
すべての企業は、何をどうすべきかを経営戦略から見直し、最新のデジタル技術を確実に取り入れ、DXを推進していくことで、これからの時代において競争優位性を獲得できると言えるでしょう。
参照:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(METI/経済産業省)
企業がDXを推進するメリットとは?キーワードは「顧客体験」と「従業員体験」
この章では、上記にてご紹介したDXの定義のうち、広義の「最終形に到達するまでのプロセス全般」を前提に解説を進めていきます。
DXを推進するメリットとしては、「顧客体験」や「従業員体験」の向上があげられます。
とくに「従業員体験」の向上については、IT技術の導入によって業務が効率化され、単純な作業に割いていたリソースを削減できることで、より創造的な仕事にリソースを割けるようになるというメリットが生まれます。
その結果、社員が単純業務から開放され、より顧客のために思考する時間が増え、その結果、顧客体験を意識したビジネスモデルを実現することができます。
ビジネスモデルがより顧客体験を意識したものに変化すれば、まだDXに着手できていない競合他社との差別化になり、さらなる売上の改善が見込めます。
それまで顧客情報が別々の事業部で管理されていた状態が、CRMなどパッケージ製品を導入することで、統合、整理され、顧客に速やかに適切なアプローチをすることができます。複数のサービスを運営し、複数の顧客リストを持つ大企業にとってはよりインパクトが大きくなるでしょう。
従業員体験、顧客体験の双方において、DXを推進することで他にも以下のようなメリットがあります。
従業員体験では、新しいデジタル技術を取り入れることでこれまで属人的だった業務が改善し、工数が大幅に削減できる可能性があります。一元管理システムを導入することにより、部門間の連携が強化され、無駄をなくして生産性を上げることもできます。
また、定量的な評価を行いやすくなり、人事評価が透明化されるというメリットも考えられます。
顧客体験では、商品にデジタルサービスを付加することでこれまでになかったような付加価値を与え、顧客満足度を大きく上げられる可能性があります。
また、精度が高く顧客視点に寄り添った顧客管理ができるようになれば、1人ひとりのニーズに沿ったカスタマーサクセスを実現していくことも可能です。
混同しやすい「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」の違い
DXとよく比較される言葉に「デジタイゼーション(Digitization)」と「デジタライゼーション(Digitalization)」があります。
この2つは語感も似ており、一見すると同じような意味に見えます。しかし両者には大きな違いがあるのです。
- デジタイゼーション
ユーザー・インターフェイス(UI)を改善し、デジタル技術によって業務の効率化やコスト削減、付加価値の向上を目指す。業務やサービス提供のプロセスには変化を起こさない。
自動車の例:生産ラインの自動化によるコスト削減、自動運転の実装で付加価値の向上
- デジタライゼーション
ユーザー・エクスペリエンス(UX)を変革し、デジタル技術によってサービスそのもののアップデートを図り、新しい価値の提供を目指す。業務やサービス提供のプロセスに変化を起こす
自動車の例:タクシー配車アプリ、カーシェアリング
AIやRPA、IoT、ペーパーレス化、5Gなど、一口に「デジタル化」と言っても、その目的によって活用すべき技術は変わってきます。そもそもDX以前に社内でデジタルシフトが進んでいないという場合は、先にデジタイゼーションを検討してはいかがでしょうか。
IT技術の導入で社内業務の効率化、合理化で社員のリソースをまず確保します。そのうえでそのリソースをビジネスモデル全体の変革というクリエイティブな業務に振り分けることで、DXの第一歩を踏み出すことができます。
自社はデジタイゼーションを進めるのか、それともデジタライゼーションから進めるのか、最新の技術トレンドを把握した上で一度考えてみましょう。
DX推進のおおまかなフローとポイント
DXを推進したいと思った場合、どのように推し進めるべきかは企業によって変わってきますが、経済産業省が公開しているDXレポートにDX推進の指標となるシステムガイドラインの構成案がまとめられています。
その構成案では、「経営戦略にDXをどう位置づけるか」「DX 実現に向けた新たなデジタル技術の活用などのために体制・仕組みをどう検討していくか」「その体制や仕組みをどう実現していくか」の3つの大きなフェーズがあるとしています。
最初のフェーズでは、DXが経営戦略を実現するためのものとして位置づけられているか、どのような価値を生み出すのか、どのビジネスモデルを変革するのか、スピーディーな変化へ対応できるかなどを、経営レベルで検討していきます。
次に、ITシステムの構築やデータ活用のための体制が整っているか、経営トップ自らが強いコミットメントを発信しているか、マインドセットは十分か、自社自ら要件定義を行いベンダー企業と協業していけるかなど、DXを実行に移せるかどうかの具体的な検討を行っていきます。
最後のフェーズでは、情報資産の仕分け、新たなデジタル技術への移行、レガシーシステムの刷新などを行い、DXの取り組みを継続していきます。
詳しいガイドラインの内容は、以下のページより確認できます。
参照:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(METI/経済産業省)
DXを具体的にどの部署から実施していくかという視点では、バックオフィスかフロントオフィスかという分け方ができます。
以下にて、バックオフィスとフロントオフィスにおける具体的なDXのポイントについてご紹介します。
バックオフィスにおけるDX
バックオフィス系のDXでとりわけ重要なのが、情報の可視化と脱属人化です。例えば請求書や契約書を紙ベースで保管し、その場所や処理方法が一個人の担当者にしか分からない状態は非常に危険です。担当者が病欠や離職してしまった場合、その業務は宙に浮いてしまいます。
また、もしヒューマンエラーが起きてしまっても、会社としてフォローに入ることができません。そのため紙のデータ化やデータの可視化は最優先で進め、その上で会計、人事、総務といった各種業務の効率化を図っていきましょう。
フロントオフィスにおけるDX
フロントオフィス系のDXでは、まず顧客情報の統合が最優先になってきます。CRMで顧客情報やステータスが可視化されてくると、営業がお客さんにアプローチする際に必要なSFAや、マーケティングを自動化するMAの導入を検討していきましょう。
ここでも意識すべき点が脱属人化です。あるお客さんの情報は担当者にしか分からないという状態は、いち早く解消しましょう。
DXを考える上で重要な技術
現在デジタルを最大限活用し、テックジャイアントと呼ばれるようなGAFAなどは、当時としてはまだマーケットが小さかったり、未成熟だったりする技術に先行投資し、未来のあたりまえを作り上げたことが成功の要因といえます。
ここでは、未来を見据えたDXを行うために注目しておくべきいくつかの技術を紹介いたします。
1. 第5世代移動通信システム、5G
DX時代において、最も重要な技術トレンドが5G(第5世代移動通信システム)です。4Gとの大きな違いとして、「超高速」「超低遅延」「超多数同時接続」の3点が挙げられるます。
たとえば、4輪自動車の自動運転の実用化には、このような5Gの特長が前提になるといわれています。
5GとITの連携によって生まれるビッグデータをどうやって活用するのかが、新たなビジネスチャンスとなります。
つまりデータ活用が、DX化によるビジネスの変革のポイントです。
2. AR(拡張現実)/VR(仮想現実)
- AR(拡張現実)
コンピュータ上で現実の風景と任意の情報を重ね合わせて表示する技術です。特に最近は、スマートフォン向けゲームや観光地での活用に注目が集まっています。また、自動車や航空機のHUD(ヘッドアップディスプレイ)への導入によって、リアルタイムの情報を現実の景色に反映させることで安全性の向上や輸送効率の向上を実現することができます。
- VR(仮想現実)
コンピューター上で作られた仮想的な風景を、現実世界の風景のように体感できる技術です。ゴーグル型のHMD(ヘッドマウントディスプレー)を頭部に装着することでVRの風景を体験することができます。
3. IoT(モノのインターネット)
これまでインターネットに接続できなかった“モノ”をインターネットに接続することができる技術です。
oTによって、たとえば家の鍵をインターネットと接続して、外出先から施錠・解錠を操作するといったことが可能になっています。
このように、機器の中に様々なセンサーと通信機器を組み込むことで、幅広い情報収集と遠隔でのシステム制御が可能になります。
また、蓄積したデータを分析することで新たな知見を獲得し、新たなビジネスモデルの立ち上げに貢献することができます。
4. AI(人工知能)
一般的にはコンピューター上で人工的に人間と同様の知能を実現させるための技術を指します。ただ、研究者や企業によってその解釈は様々であり、厳密な定義はありません。
強いて言えば、与えられたデータをもとに学習し、プログラムしていた計算以上のアウトプットが出せることがAIの特徴と言えます。AIはイメージがしにくい技術ではあるものの、自動運転車や検索エンジン、スマートスピーカーの音声認識、産業用ロボットの制御などですでに実用化が進んでいます。
5. 量子コンピューター
一般的なコンピューターとは違い、量子物理学に特有の「重ね合わせ」「もつれ」「量子干渉」などの振る舞いをコンピューティングに応用したものが量子コンピューターです。
量子コンピューターはその仕組みから、いくつかの分野において従来のコンピューターではなしえないイノベーションを起こす可能性があると言われています。
例えば、暗号や量子シミュレーション、より素早い検索、AIの中でも重要な技術である機械学習などは、量子コンピューターによって大きな進化があるかもしれません。
失敗しないDXプロジェクト推進のコツ
昨日までデジタル化が遅れていた企業が、いきなり今日からDXを導入しますと言っても組織は戸惑うばかりです。
表面上のデジタル化を進めても、それを社員が扱うことができなければ、余計な費用が嵩むばかり。さまざまなDX事例でも「デジタル化を進めたけど浸透せずに諦めた」というのはよく挙げられる失敗事例です。
DXの浸透に失敗する原因の1つとして、当事者意識が足りていないことがよく挙げられます。
そこでおすすめなのが、社内に独立したDX推進チームを作ること。
一般的には情報システム部のイメージに近い役割のものですが、社員のIT教育まで実施するという点で違ってきます。
DX推進チームが社内のデジタイゼーション浸透の責任を持ち、社内の浸透率や業務効率化の指標をKPIとすることで、企業のDX推進が加速したというケースがあります。もし社内に最適な人材がいない場合は、外部のコンサルタントやパートナーとの協業をおすすめします。
DXを推進する目的は、ビジネスモデルを変革し、企業の競争優位性を保つことです。
そのためには、デジタルツールを取り入れるだけでなく、ツールを利用できるような人材の育成や、あらたな人材に対する評価制度の見直しなど、全社的に仕組みを変えることが必要となるケースもあります。
そのような場合、社内の仕組みを現場の社員だけで変えることは難しいため、社長を始めとした経営上層部がDXに理解を示し、率先して社内改革を進めることが必要です。
社員にDX推進を伝える場合は、まずDXの目的とビジョンを明確に伝えることが大切です。
とくに社内全体でDX推進に対する意欲が低い場合は、企業やビジネスのポジションが昔にくらべてカンタンに変わり得ることを説明し、現状に対して社員に少し危機感を持ってもらうことも必要かもしれません。
DX化で自社の継続的な競争優位性を目指すことは、ひいては社員一人一人のメリットにもつながります。
社員一人一人に主体性をもってDXに取り組んでもらうためには、まずそれらの意識の共有から始めましょう。