シリアルアントレプレナーとは、新しい事業を連続で何度も立ち上げる起業家のことです。事業を一つ成功させるだけでも難しいですが、シリアルアントレプレナーは複数の事業を成功させる起業のプロといえます。
アントレプレナーは、事業を立ち上げ、EXITしたあとでも継続的に事業に携わることが多いですが、シリアルアントレプレナーは、事業譲渡や売却をし、EXITの後に得た資本を元に新たなベンチャー企業を立ち上げます。
今日までの日本では、M&Aに対してネガティブに捉えられることが多く、メガベンチャーや大企業による買収件数も少なかったため、シリアルアントレプレナーは珍しい存在でした。しかし、ミクシィや健康コーポレーションなどを筆頭に、メガテック系企業やメガベンチャー企業がM&Aによる成長戦略を取り始めたこともあり、日本でもシリアルアントレプレナーが増えやすい環境が整いつつあります。
シリアルアントレプレナーは、起業のプロであり自身のアイデアを実現しながら、社会へ大きなインパクトを与えることができる魅力的なキャリアの一つです。シリアルアントレプレナーのキャリアがどのように培われているのか様々な事例を知ることで、自身のキャリアパスの参考にできるでしょう。
本記事では、シリアルアントレプレナーの役割や求められる資質、国内外のシリアルアントレプレナーとして代表的な10事例について解説します。
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シリアルアントレプレナーとは?
シリアルアントレプレナーとは、連続してベンチャーを立ち上げる起業家を指します。多くのシリアルアントレプレナーは、一度成功させた事業をIPOやメガベンチャー、大企業にバイアウトされた売却益、成功体験をもとに、投資家から信頼を得て、再び別の新しい事業を立ち上げます。たとえ起業が不成功であっても、その経験を糧にして新たな事業にトライします。
現在の日本では、ベンチャー起業やスタートアップのM&Aが比較的盛んではないため、事業売却やバイアウト自体がネガティブな評価を受ける場合があります。一方、海外ではメガベンチャーに事業売却をするケースは決して珍しくなく、シリアルアントレプレナーとして活躍している起業家も多く見られます。
海外でM&Aが珍しくない理由としては、企業買収を行うことを成長戦略として選ぶ企業が多いという背景があります。例えば、GoogleはYouTubeや決済・送金サービスのpringなどの有力スタートアップを買収していますし、FacebookもInstagramやWhatsAppなどのスタートアップを買収することで成長しています。
日本においても、ミクシィやライザップを運営する健康コーポレーションなどの企業がM&A戦略をとっており、日本においてもシリアルアントレプレナーを増やす土壌が形成されつつあります。
シリアルアントレプレナーの役割
シリアルアントレプレナーとなっている起業家は、IPOではなく、M&Aを主なゴールとして最初の事業を立ち上げます。 シリアルアントレプレナーの役割は、ビジネスモデルを作り事業を成立させることといえます。
そのため、殆どの場合、1→10、10→100の作業ではなく、0→1の事業立ち上げを担います。既に市場が確立しており競合が多く存在しているレッドオーシャンよりも、まだ競合が少なく市場が存在しているかも分かっておらずポテンシャルの高いブルーオーシャンを見抜き、攻略していく必要があります。
シリアルアントレプレナーに求められる5つの資質
シリアルアントレプレナーに求められる資質には、次の5つが挙げられます。
- 実行力と判断力
- 情報感度
- アイデアへの熱狂
- スピード意識
- チャレンジ精神
シリアルアントレプレナーには、まだ世の中で解決できていない課題の解決や新しいビジネスモデルへの挑戦が求められます。世の中にビジネスモデルの成立が証明されていないため、自身の事業アイデアへ熱狂できることが前提となり、実現させるためのチャレンジ精神が必要です。
また、課題を見つけるための視点や新しいビジネスモデルを成立させるための技術などへの高い情報感度が求められます。起業には潤沢な資金があるわけではないため、限りある資金やリソースのなかで最大の効果を得るための実行力と判断力、スピード意識が求められます。
様々な能力が求められるシリアルアントレプレナーですが、成功、不成功にかかわらず、既に起業経験が積み重なっているため起業能力が高く、外部から資金が集まりやすいという特性もあります。
日本国内のシリアルアントレプレナー
海外に比べるとまだまだ少ないものの、日本国内にも最前線で活躍するシリアルアントレプレナーはいます。
山田進太郎氏
山田進太郎氏は、現「メルカリ」の代表取締役社長です。早稲田大学在学時に、当時立ち上げ間もない「楽天」でインターンとして楽天オークションの立ち上げに携わり、大学卒業後、ソーシャルゲーム会社である「株式会社ウノウ」を設立しました。
その後、アメリカのソーシャルゲーム会社である「Zynga」に数十億円で売却しています。ウノウの代表取締役社長を退任後は、2012年に「株式会社メルカリ」を立ち上げ、約7,172億円以上の時価総額で2018年6月にマザーズに上場しました。
「楽天」で経験を積み、「株式会社ウノウ」での起業経験をもとに、「メルカリ」を立ち上げ、より大きな成功を獲得しています。
参考:米国ソーシャルゲーム最大手のZyngaがウノウを買収 - CNET Japan
参考:メルカリ上場、時価総額7172億円に--山田会長「テックカンパニーとして世界目指す」 - CNET Japan
参考:1000万DL突破で躍進中! メルカリ創業者、山田進太郎がピュア”C2C”にこだわる理由 | mercan (メルカン)
家入一真氏
家入一真氏は、「株式会社CAMPFIRE」の代表取締役社長、「BASE株式会社」の共同創業取締役である日本有数のシリアルアントレプレナーです。
2001年には合資会社を設立しレンタルサーバー事業である「ロリポップ」を立ち上げ、合資会社マダメ企画(後「株式会社paperboy&co.」に社名変更)を創業しました。その後、ジャスダック市場へ当時最年少である29歳で上場します。「株式会社paperboy&co.」の代表取締役を退任後には、クラウドファンディングサイトを運営する「株式会社CAMPFIRE」の代表取締役、EコマースプラットフォームのBASEを運営する「BASE株式会社」などの共同創業取締役を務めています。
IPO経験を持つ数少ないシリアルアントレプレナーとして、様々なスタートアップに参画しています。
参考:家入一真の履歴書|ひきこもり、起業、上場、大赤字。天国と地獄を経験して分かった「失敗」の本質 - ぼくらの履歴書|トップランナーの履歴書から「仕事人生」を深掘り!
参考:真似したいシリアルアントレプレナー(連続起業家)日本が誇る25人(前編) | FastGrow
木村 新司氏
木村 新司氏は、東京大学卒業後、「株式会社ドリームインキュベータ」へ入社、2007年3月にアドテクノロジーを主に扱う「株式会社アトランティス(現Glossom株式会社)」を創業しました。その後、2011年には、約22億円でグリー株式会社に売却しています。2013年から2014年には株式会社グノシーの代表取締役に就任、、2016年6月には決済サービスを扱う「AnyPay株式会社」を創業し、取締役として経営に参画しています。それぞれの事業売却後には、経営者としてだけではなくシリアルアントレプレナーとしての情報感度の高さを生かして投資家としても活躍しています。「ウォンテッドリー」「bitFlyer」「Gunosy」といった様々な有名スタートアップにも投資しています。
参考:[jp] GREEがアドエクスチェンジ運営のアトランティスを買収ーー買収金額は約22億円【アップデート】 | TechCrunch Japan
参考:投資家・木村新司のビジョン、個をエンパワーする時代の幕開け(前編) | BRIDGE(ブリッジ)テクノロジー&スタートアップ情報
望月 佑紀氏
望月佑紀氏は、慶應義塾大学3年のときに「株式会社リジョブ」を創業し、求人サイト「リジョブ」をリリースしました。その後、「株式会社じげん」に「株式会社リジョブ」を約20億円で売却しています。
代表取締役社長退任後は、その資金を元手にXVOLVE GROUPをシリコンバレーで創業し、「Beheard(ビーハード)」や「Goten(ゴテン)」などの様々なサービスを立て続けにリリースしています。バイアウトで得た資金と経験をもとに、スピード感のある資金調達を実現し、大きなマーケットを対象とした新しい事業モデルに挑戦しています。
参考:約20億円でのリジョブ売却から3年。上場ではなく売却を選んだ理由、次なる野望 | FastGrow
参考:約20億円で企業売却、「2020年までに世界を獲る」 | INOUZTimes
諸藤 周平氏
諸藤 周平氏は、九州大学卒業後、「株式会社キーエンス」に新卒入社し、「株式会社ゴールドクレスト」を経て、2002年「に合資会社エス・エム・エス」を創業、2003年には介護領域における人材紹介事業を運営する「株式会社エス・エム・エス」を創業しました。創業後には、高齢者住宅販売代理店を行うなど複数回のピポットを繰り返しながらも、介護領域における情報を敏感に感じ取り、人材事業をローンチしています。
その後、11年間にわたり代表取締役社長として経営を行い東証一部上場を実現しました。退任後の2015年にはシンガポールにて「REAPRA PTE. LTD.」を創業し、様々な事業を行うグループを立ち上げ、ベンチャーキャピタルとして投資活動を行っています。
参考:【諸藤周平】大企業でも倒産するから、就職ではなく「起業」を選んだ Vol.1 | Signifiant Style
参考:【諸藤周平】事業を成功させた「何者でもない」というコンプレックス Vol.2 | Signifiant Style
海外のシリアルアントレプレナー
ここからは、海外でも著名な5名のシリアルアントレプレナーを紹介します。
イーロン・マスク氏
アメリカで活躍するイーロン・マスク氏も、シリアルアントレプレナーです。1999年に電子決済サービスを運営する「X.com」を共同創設者として創業し、ネット決済の黎明期を築き上げました。その後、「X.com」は「PayPal」と合併し、2002年に「eBay」に売却されています。
売却益をもとに、2002年には宇宙開発事業を行う「スペースX」を起業、2004年には電気自動車会社「テスラ・モーターズ」へ出資し代表取締役に就任、2006年には太陽光発電会社「ソーラーシティ」を共同創業者として創業しています。より難易度の高い事業領域に挑戦し、世界にインパクトのある起業家となっています。
参考:母はモデル、弟は起業家。イーロン・マスクの家族の華麗なる経歴 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)
参考:イーロン・マスクの知られざる半生、壮大すぎる夢追い人の“基礎”はこうして作られた 連載:企業立志伝|ビジネス+IT
ピーター・ティール氏
ピーター・ティール氏は、法務事務官や証券弁護士、通貨オプショントレーダーとしての経験を活かして、1996年にティール・キャピタル・マネジメントを創業。1998年にはコンフィニティを創業、1999年後期には「PayPal」を発表、2000年3月にはイーロン・マスク氏の「X.com」と合併したのち「eBay」に売却しています。その後、売却した際に得た資金をもとにシリアルアントレプレナーとしてデータ分析会社を創業、他にもアメリカを代表とするスタートアップに投資をしています。
投資した会社には、「LinkedIn」「テスラ」「Space X」「YouTube」「Facebook」「Spotify」「Airbnb」などがあります。高い情報感度やスピード感が求められるシリコンバレーにおいて、シリアルアントレプレナーとして様々なスタートアップをサポートしています。
参考: ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか | ピーター・ティール, ブレイク・マスターズ, 瀧本 哲史, 関 美和 |本 | 通販 | Amazon
参考:条件は“学校中退”!ピーター・ティールから10万ドルを受け取った若者たちは今どうしてる? | AMP[アンプ] - ビジネスインスピレーションメディア
ジャック・ドーシー氏
ジャック・ドーシー氏は、2006年に「Twitter」を共同創業者と立ち上げています。その後、2009年にはモバイル決済事業を行う「Square」を創業し、両社を上場させるなど起業家としての高い能力を発揮しています。
一度はTwitter社のCEOを退任に追い込まれるなどの決してシリアルアントレプレナーとしても決して順風満帆とはいえません。しかし、高い先見性や事業推進力をもとにSquare社を立ち上げ、その後Twitter者のCEOに呼び戻されています。14歳の頃にはタクシー会社が使うシステムを開発するなど、早期時代への先見性と高い技術力を生かしてシリアルアントレプレナーとしてより世界にインパクトを与える事業を展開しています。
参考:ツイッター創業者、新ビジネスと起業を語る | 人物 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
リード・ヘイスティングス氏
リード・ヘイスティングス氏は、「Netflix」を創業したシリアルアントレプレナーです。ヘイスティングス氏は、1991年にソフトウェアのバグ修正ツールを販売する「ピュア・ソフトウェア」を創業後、1995年にはIPOを達成しています。
1996年にはNetflixの共同創業者であるマーク・ランドルフ氏が率いるソフトウェア会社「エイトリア&インテグリティ」を買収し、1997年にピュア・ソフトウェアを600億円で売却しています。
この資金をもとに、1997年、ランドルフ氏とともに共同創業者として立ち上げたNetflixにエンジェル投資家として出資、ランドルフ氏がCEOに就任したものの財政難に陥ったため、CEOを引き継ぐこととなりました。ヘイスティング氏のCEO就任後はサービスの中核となっていたレンタルビデオ事業から、動画ストリーミング事業を立ち上げ、さらにはNetflixオリジナルコンテンツの制作と、顧客の幅広い興味に基づいたサービスを展開しています。
ヘイスティング氏は、動画ストリーミングに早い段階から目を付け事業を成長させるなど情報感度の高さと先見の明を併せ持つシリアルアントレプレナーといえるでしょう。
参考: NETFLIX コンテンツ帝国の野望 :GAFAを超える最強IT企業 | ジーナ・キーティング, 牧野 洋 |本 | 通販 | Amazon
参考:リード・ヘイスティングスが「ネットフリックス」を世界的企業に成長させるまで | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)
アンディ・ベクトルシャイム氏
アンディ・ベクトルシャイム氏は、1982年にコンピュータの製造、ソフトウェア開発を行う「サン・マイクロシステムズ」を創業し、退職後となる1995年にはデビッド・チェリトン氏と共に「グラナイトシステム」を設立しました。1996年には、「グラナイトシステム」を「シスコシステム」に220億円で売却し、2001年には、再びチェリトン氏とサーバーテクノロジー会社である「キーリア」を立ち上げ、2004年に古巣である「サン・マイクロシステムズ」に売却しています。
ベクトルシャイム氏は高い情報感度と投資家からの信頼を蓄積することで、テクノロジー領域における様々な事業を立ち上げ複数回バイアウトを実現しています。起業家としてだけではなく、高い先見性から投資家としても活躍しており、初期段階のGoogleにも投資しています。
参考: サン・マイクロシステムズ―世界的ハイテク企業の痛快マネジメント | カレン・サウスウィック, 山崎 理仁 |本 | 通販 | Amazon
自分を信じ、新たなビジネスモデルへの挑戦を
成功しているシリアルアントレプレナーには、実行力や判断力、情報感度、アイデアへの熱狂、スピード意識やチャレンジ精神など様々な共通点があります。
今回ご紹介した成功者を見ている限り、社会に対してどれだけ価値を届けられるかを考え抜けるかどうかが、成功を分ける1つの要素だと言えそうです。
なお、当社HubSpotも、起業支援プログラム「HubSpot for Startups」を設けています。国内外の有数なVC、アクセラレーター、インキュベーターも参画している本プログラムでは、社会をより良くしていくためために奮闘している起業家が少しでも早く成長できるよう、HubSpot製品の特別価格で提供したり、学習・トレーニングコンテンツを提供したりしています。起業志望で、こちらの内容が気になる方はぜひ一度こちらのページからご相談ください。