株式会社 HR Force(以下 HR Force)は、株式会社 船井総合研究所(以下 船井総研)のWebマーケティング事業室部長であった高山 奨史氏が社内起業として設立し、2018年2月に高山氏を代表取締役社長とする船井総研の子会社として事業独立したHR Tech企業です。「テクノロジーで”働く”を変えていく。」をミッションとし、日本企業のダイレクトリクルーティング*を支援するクラウドサービス「Recruiting Cloud」を提供しています。
(注*: 人材紹介会社や第三者の採用媒体を介さず、企業が直接候補者と繋がりながら進める採用手法)
「Recruiting Cloud」を使うことで、採用側企業は早ければ数分で自社の採用サイトを立ち上げることができ、サービス上に蓄積されたデータを元に求人原稿の魅力度を数値化したり、文言修正の提案を受けたりできます。現在世界で4,000社に利用されるこのサービスを提供するHR Force社のオフィスに伺うと、壁一面にKPIを映し出すモニターや緑が際立つ、まさにテクノロジー企業という空間が広がっていました。とはいえ前身は約50年の歴史を持つ大手企業で、HubSpotやマーケティングオートメーションといった比較的新しい概念や製品を導入する過程に困難はなかったのだろうかという疑問も生まれます。今回はHubSpot Growth Suiteを導入し、同社アカウントマネージャーとしてカスタマーサクセスを担当する石川 徹氏(以下 石川氏)にお話を伺いました。
溢れる見込み顧客と追いつかないオペレーション。200人にメールを送るために新幹線の中で200回「送信」ボタンを押していた立ち上げ期
石川氏の話の中でまず驚いたのは、事業立ち上げ当初は「見込み顧客や商談の数が多すぎて対応しきれない」という、一見羨ましい状況が悩みだったという点でした。事業独立の前に約1年間の準備期間がありましたが、その段階で見込み顧客は2,000社以上蓄積されており、動けば動くほど売上は上がるものの仕組みも人的リソースもなくアクションができていない状態だったといいます。
「ありがたいことに、事業の立ち上がり当初から受注が大量に入ってきたんです。毎日売上計上メールが入り続ける状況で営業的にはとても良かったのですが、受注に対してお客様の採用サイトを納品するという作業が追いつかない。創業者の高山と現取締役の村田も含め全社総出でサイトを作って納品していたのですが、やはり限界がありました。」
マーケティングについても、いろんなスプレッドシートに顧客情報が散らばっており、メールを送りたくてもリストの作り方が分からないという状況でした。スプレッドシートをひとつひとつ確認してマスターリストを作り一斉送信するのですが、送り先に間違いがあって問題になるということが起こっていたそうです。
「メール配信ツールも使っていなかったので、200件メールを送るのであれば新幹線での移動中に僕が200回自分のメールアカウントで送信ボタンを押していくというような状況でした。」
落ち着いたら整理しようというマインドセットでは手遅れになるという危機意識からマーケティングオートメーションの導入を検討し始め、2ヶ月間の検討期間を経て事業独立と同時のタイミングでHubSpotを導入したそうです。しかし子会社として独立企業になる予定であったとはいえ、それまで船井総研本体で前例のなかった製品の導入過程に障壁はなかったのでしょうか。
「ありました。特に船井総研本体が別のマーケティングツールを使っていたので、HubSpot利用の稟議を取る際は非常に大変でした。コンサルティング企業なので、新しい製品を評価ときの視点は通常『それって自分たちのお客さんにも提供できるの?』という視点になるんです。しかし今回の場合はHR Forceという社内の業務フロー改善のための導入だったので、事業に対してどのくらいの粗利インパクトがあるかや、データドリブンという考え方が事業のミッションとも一致するということを見せていきました。また、例えば『マーケティングオートメーション』という言葉ひとつをとってもそれをいきなり稟議でぶつけても疑問を持たれて先に進まない可能性があったので、『自動化ツール』なのか他の言い方なのか…と共通言語の作り方をかなり考えました。」
最終的にはHubSpotのユーザーインターフェースや機能が絶対に良いという強い思いからチーム決裁を取り、導入に至ったと石川氏は語ります。現在同社はHubSpotのGrowth Suite(HubSpotが提供するMarketing Hub、Sales Hub、Service Hubすべてが搭載されたパッケージプラン)を導入しています。
社内向け利用で確信を得てすぐにHubSpot活用を見込み顧客とのコミュニケーションに拡大。チーム横断の見込み顧客フォローの流れをゼロから立ち上げた
導入後は2ヶ月ほどで、HubSpotを使ったマーケティング・セールス施策を一巡させることができたと石川氏は言います。HubSpotの導入支援担当者とともにまずはタスク機能を使って社内向けのリマインダーを出すことから始め、利用イメージが付いたところで外部向けのセミナー告知メールをHubSpotから送信したそうです。
「その時は、こんなにメールって開封されるんだ、うわーすごい、という感じでした。分かってはいたものの実際数字として出てくると、効果に納得感がありました。」
現在は、マーケティング活動で反応が返ってきた企業とその担当者をHubSpotに会社およびコンタクトとして登録しています。セミナー申込数はHubSpot上で常時モニタリングし、セミナー参加から商談への転換率等を元に追加アクションの割り出しなどを行います。
その後セミナーに参加した見込み顧客には「セミナー参加」というフラグを立て、営業チームの取引パイプラインに入るようになっています(HubSpot Sales Hubの機能)。この流れの中で毎月約300件の商談が生まれ、営業チームが受注に向けてコミュニケーションを進めていきます。営業が受注するとHubSpot上で顧客のステイタスが変わり、さらに実際の申込みフォームを受領した段階で顧客情報は石川氏が所属するカスタマーサクセス・サポートチームに引き渡されます。カスタマーサクセスチームはHubSpot上で営業とは別の取引パイプラインを作成し、顧客の採用サイトローンチまでのコミュニケーションを管理していきます。
「カスタマーサクセス・サポートチームは、何十日後、何百日後にきちんと採用サイトが安定している『本当に育ったお客様』になってもらうことを目標とし、お客様側の設定なアクションなどが滞留しないよう支援するのが役割です。私個人としては『最初の3ヶ月でお客さんに僕らのファンになってもらおう』ということをテーマにしているので、HubSpot上で過去の対応履歴も確認した上で、お客様の状態がどうなっているかを確認し、相手を理解してコミュニケーションを取るようにしています。」
石川氏によるとカスタマーサクセスチームは子育て中などの事情でリモートワークを希望するメンバーを中心に約20名で構成されており、各自が遠隔でHubspot上にコメントや情報を残しながら、導入支援を行っています。また、HubSpot Service HubはサービスのFAQページ作成に利用しています。
「考えなくても良い仕事」はHubSpotに任せ、ミッション達成に集中したい
当初はシンプルなセミナー集客メール配信から始まった同社の取り組みですが、その後はフォームやランディングページの細かいABテストを行い、反応が悪ければすぐに手元で別パターンを試すというデータに基づいた仮説検証をすばやく回していける状態にまでなったといいます。しかし逆に失敗したことや苦労していることはないのでしょうか?
「実は初期の段階でデータベースにいろんなものをランダムに格納してしまい、HubSpot上で欲しいデータが見つからずに迷子になってしまうという問題が起こってしまいました。導入後半年くらいのタイミングで入社したメンバーが既存データと蓄積ルールをきれいに整理してくれたことで、顧客が今どこに滞留しているかというボトルネックや投資しなければいけない部分が分かるようになってきました。」
さらに同社が現在意識しているのは、顧客のチャーン*をなくしていくことだと石川氏は言います。サブスクリプションサービスの平均と比べると同社のチャーンレートは低いものの、顧客数が大きいためにレートが少し上がるだけで売上だけでなくメンバーの対応業務量へのインパクトが大きくなります。チャーンレートを下げるための施策として、営業チームは「いかにリードタイムをなくし、見込み顧客とスピーディにコミュニケーション取って受注するか」を追い、カスタマーサクセスチームは「ローンチまでの限られた日数の中でのコミュニケーションをいかに質の高いサイトの納品に繋げられるか」を追っていると石川氏は語ります。
(*注:サービスの解約)
「スピードとローンチ時のサイトの質を両立させることが顧客満足の鍵になります。なので、HubSpotのミーティング予約機能を使ってスムーズに商談の予約を取れるようにしたり、タスクリマインダーを使ってヌケモレを無くしたり、CRM上のログをフル活用したりと、考えなくても良いことはなるべくHubSpotにお願いし人間は考えなければいけないことだけに集中するという切り分けをしています。この点をクリアすることで、『テクノロジーで”働く”を変えていく』というミッションに近づけると考えています。」
HubSpotを活用しやすい事業やチームの特性は?
石川氏は、HubSpotは会社ではなく担当者(コンタクト)を起点に情報の登録やスコアリング等をしていく思想になっている点が特徴と感じているそうです。
「日本企業のお客様が相手で金額の大きい取引だと、どうしても担当者個人には決裁権がなく、相手の『会社』ベースで取引情報の管理をしたいという場面があります。現在当社ではワークフロー機能を使ってあるコンタクトが持つ情報を同じ会社に所属する人すべてに複製するという設定をして社内のニーズに応える工夫をしています。HubSpotはこのような個別ニーズに対応するためにAPIも公開しユーザー自身が裁量を持ってサービス使い込める設計にしていると思うので、これからも市場を啓蒙していくような気持ちでサービスの開発・提供をしていってほしいと思います。」
船井総研内の事業部であった時代と、独立子会社のスタートアップとして事業を行う現在のHR Force両方を知る石川氏によると、船井総研とHR Forceでは規模や歴史の長さの違いから企業文化は別物であるが、顧客の成果に対するコミット力は共通しているそうです。「新しい会社向けのサービスなのではないか」と言われることも多いHubSpotですが、利用者の目線から見るとどうなのか、最後に伺ってみました。
「HubSpotの良さというのは、①見込み顧客への営業活動から既存顧客のサポートまでを1つのサービス上で一気通貫で行うことができること、②属人ではなくチームで顧客と関わる体制を作れること、③チーム全員が同じく質の高いコミュニケーションを取る基盤を作れることだと思っています。マーケティング、営業、カスタマーサービスという機能がバリューチェーンとしてしっかりと繋がっているビジネスで、かつデジタルマーケティングが効果的な業界であれば、チームの人数や会社の創業年数に関係なくHubSpotを使って成果を出せると思います。」