買い手が有利だったかつての採用市場では、求人広告を出稿し、集まってきた候補者の中から企業が理想の人材を選ぶ方法が主流でした。しかし、現在の売り手市場では、候補者が自分に合った企業を選ぶ形に変化しています。
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人材を思うように採用できない状況においては、マーケティングで用いられる「ペルソナ」の設計が、採用活動の重要なポイントになります。
本記事では、採用におけるペルソナの設計方法やポイント、注意点などを解説し、ペルソナ設計に役立つテンプレートもあわせて紹介します。採用活動にペルソナという考え方を取り入れ、自社が求める人材を効率的に採用するための仕組みを整えましょう。
採用における「ペルソナ」とは?
採用における「ペルソナ」とは、採用の際に企業が設定する架空の候補者像です。本来ペルソナは、マーケティングで顧客を明確に想定することを指す言葉ですが、採用活動にも活用できます。
自社が求める候補者を、行動や心理状況に至るまで具体的にイメージすることで、その候補者へアプローチするために最適な施策が自然と導き出されます。
採用活動にペルソナが活用されるようになった背景には、少子高齢化による労働力人口の減少があります。
出典:図表1-1-1 労働力人口・就業者数の推移|厚生労働省
厚生労働省の資料によると、労働力人口そのものは、1990年以降、女性や高齢者の就業者数の上昇などによって増加しています。しかし、15?64歳人口は徐々に減少しており、労働力人口もいずれは減少に転じることが予想されています。
採用活動の難易度が高まるなかで、将来的に自社が必要とする人材を採用するためには、採用手法の見直しが必要といえるでしょう。
採用時のペルソナ設計が重要な理由
採用時にペルソナを明確に設定する大きな理由として、ミスマッチの防止があげられます。
近年、採用市場では人材の流動性が高まっており、せっかく人材を採用しても内定辞退や早期離職が起きるケースが増えています。株式会社リクルートの就職みらい研究所の調査によると、就職内定辞退率は2022年時点で62.1%に上ります。内定辞退や早期離職が発生すると、採用コストが無駄になってしまうため、採用後のミスマッチを防ぐことは重要な課題です。
ペルソナを設定することで、求職者が置かれている状況や行動パターン、心理状況などを深く理解できるようになります。結果的に、より効果的な採用活動が可能となり、闇雲に求人広告を出稿するよりも良い結果が得られることが期待できます。
採用時にペルソナを設計するメリット
ここでは、採用時にペルソナを設計するメリットを具体的に見ていきましょう。ペルソナは、採用活動の過程において、さまざまな形で活用できます。
自社の求める人材の採用につながる
採用のペルソナで求める人材像を明確化できていれば、求職者の立場になって採用活動を進められます。求職者の具体的なニーズを理解することで、適切なアプローチの方法がわかり、自社の求める人材の採用につながります。
例えば、Web記事やSNSを中心に情報収集を行っている30代男性の例を考えてみましょう。この男性へのアプローチ方法を考えたときに、チラシやハローワークを通じた求人よりも、自社サイトやSNSなどを通じたダイレクトリクルーティングを活用したほうが効果的であることが考えられます。
実際にペルソナを設定する際は、ペルソナが興味・関心を持っていることやライフスタイルまで細かく設定します。「30代男性」など、ざっくりとしたターゲット層を定めるよりも、求職者を深く理解できるのがメリットです。
自部署が求める人材像を社内に明確に伝えられる
採用活動には、人材を必要とする部署や人事部の担当者だけでなく、社内の多くの人が関わります。そのため、社内全体で共通認識を持ったうえで採用を進めることが重要です。
ペルソナを設定すると、求める人材のイメージが的確に共有できるため、認識のズレが起こりづらくなります。途中で採用の方向性や合否基準が変わるといった状況を避けることが可能になり、採用のミスマッチを防げるでしょう。
今後の採用に活かせる
人材の採用は、企業と候補者のニーズがうまくマッチして初めて成立します。採用がうまくいった場合は、採用した人材の属性や行動パターンなどをペルソナとして採用し、次回以降の採用活動に活かしましょう。
実際の成功事例をもとにペルソナを設定することで、再現性が高く、かつ属人性を排除した採用活動が可能になります。
また、採用活動を進めるなかで、新たに得られた候補者に関するデータをもとにペルソナを改善していくと、自社の採用基準に沿ったペルソナに近づきます。
採用のペルソナ設定に必要な項目とテンプレート例
採用のペルソナを設定する際は、必要な項目を理解しておくことが重要です。採用のペルソナに必要な項目のテンプレートの例は次の通りです。
- 項目
- 年齢・性別・居住地
- 保有スキル
- 家族構成
- 従事している職業
- ライフスタイル
- 趣味
- 性格
- 最近の悩み
- 企業への要望
自社のニーズや状況に合わせて項目を追加し、オリジナルのテンプレートを作成してみましょう。
採用のペルソナの作り方と活用までの流れ
採用のペルソナを作るためのステップは、次の通りです。
- ヒアリングをもとに現場に必要な人材像を定義する
- 必要な人物像からペルソナを設定する
- 完成したペルソナにズレがないことを確認する
- ペルソナを軸に採用活動を行う
ここでは、各ステップの具体的な手順を紹介します。
1. ヒアリングをもとに現場に必要な人材像を定義する
まずは、現場に必要な人材像を定義します。経営陣や現場の担当者にヒアリングを行い、ニーズを洗い出しましょう。
ここでは、システム開発の人員が不足し、プログラミングスキルを持った人材を採用したいと考えた場合を想定してみます。扱えるプログラミング言語や開発経験といった要件の定義は一般的な採用活動と同じですが、求める人材像が社風に合うかどうかも意識したうえで人材像を定義することも重要です。
採用活動においては候補者のスキルや経験を重視しがちですが、どれだけスキルがあっても社風に馴染めなければ離職につながるリスクがあります。関係者にヒアリングを行う際は、理想とする人材の性格や仕事に対する姿勢なども含めて確認すると良いでしょう。
2. 必要な人物像からペルソナを設定する
必要な人物像を定義できたら、その情報をもとにペルソナを設定します。システム開発に携わる人材を採用する際のペルソナをテンプレートの例にあてはめて整理すると、次のようになります。
ペルソナを設定する際に大切なポイントは、できるだけ具体的に状況を設定することです。それにより、候補者の具体的なニーズが深掘りできます。
3. 完成したペルソナにズレがないことを確認する
ステップ2で完成したペルソナと、求める人材とにズレがないことを確認します。ここでズレがあると、ミスマッチや早期離職につながりかねません。
現場の担当者はもちろん、必要に応じて経営陣とも認識のすり合わせを行いましょう。
4. ペルソナを軸に採用活動を行う
ペルソナを設定できたら、実際の採用活動で活用してみましょう。その際に重要なのが、ここまでのステップで設計したペルソナの思考や行動パターンをイメージすることです。次の具体例を参考にしてください。
- 普段はどのようなメディアから情報を集め、どのSNSをよく利用するか
- 転職活動にあたり利用する媒体やチャネルはなにか
- 年収・労働環境・会社のビジョンなど、採用活用において何を重視する傾向にあるのか
思考や行動パターンを理解できていれば、どのような採用手段が適切なのか、どうアプローチすれば求職者にアピールできるのかを判断しやすくなります。
ペルソナ設計時のポイント
ペルソナを設定する際には、次のようなポイントを押さえましょう。
- 経営陣やマネージャーと相談しながら作成する
- 細かく設定しすぎない
- 都合の良いペルソナを設定しない
- 作成したペルソナは定期的に見直す
注意点もあわせて解説しますので、ぜひ参考にしてください。
経営陣やマネージャーと相談しながら作成する
ペルソナを作る際に、人事部や採用プロジェクトのメンバー内だけで作成すると、社内で求められる人材像との齟齬が発生する可能性があります。そのため、ペルソナ設計は経営陣やマネージャーも巻き込んで行うのがベストです。
また、ペルソナ設計に携わった担当者が面接を行わない場合もあるでしょう。面接の場でズレが生じないように、面接担当者にも作成したペルソナを共有しておきましょう。
細かく設定しすぎない
ペルソナは具体的に設定するのがポイントですが、不必要にペルソナを細かく設定しすぎると、本来の必要条件を満たしていた人材を不採用にしてしまう可能性があるため注意が必要です。
例えば、エンジニア採用のためにペルソナを設計しているのに、「ペットは犬より猫派」「ドラマよりアニメが好き」などを項目に加えるケースです。目的によっては設定すると効果的な場合もありますが、項目を増やしすぎると本来必要な情報が見えづらくなります。
あくまでも、仕事上で必要なスキルや性格などをもとに項目を設定しましょう。
都合の良いペルソナを設定しない
ペルソナを設定するときにありがちな失敗が、自社にとって都合の良いペルソナを作ってしまうケースです。
特に、「新規プロジェクトに必要なプログラミングスキルを持ち、マネジメント経験が豊富で人望も厚い」といったように、採用の要件をペルソナにそのままあてはめないよう注意しましょう。企業の条件を一方的に押し付ける形になり、ミスマッチの防止につながりません。
ペルソナは架空の人物ですが、裏付けられたデータをもとに設定するのがポイントです。
作成したペルソナは定期的に見直す
作成したペルソナがうまく機能しない場合は、設計が甘い可能性があります。ペルソナを作りっぱなしにしてしまうのも、よくある失敗例なので注意しましょう。
ペルソナを見直す際は、現場から求められている人物像を再度確認したり、直近で採用できた社員にヒアリングしたりする方法が効果的です。現状とのズレを把握しながら修正を行い、場合によっては作り直すことも必要になるでしょう。
また、市場動向が変動するとペルソナのニーズや思考にも影響が及ぶため、その意味でも定期的なチェックは欠かせません。例えば、グローバル化がさらに加速し、英語の必要性が増した場合、求職者が英語に関するスキルの向上が期待できる職場を求める可能性があります。
市場動向やトレンドの移り変わりをペルソナに反映し、採用活動を有利に進めましょう。
ペルソナを明確に設定し、自社が求める人材の採用を
採用を成功に導くためには、求職者を具体的にイメージし、求められることを企業側から提供する必要があります。その際に有効なのが、マーケティング活動におけるペルソナ設計です。
ペルソナの設計によって、自社に必要な人材を把握できるため、ミスマッチや早期離職を防げます。また、採用するために最適な手段の選択も可能です。
採用におけるペルソナを設計する際は、経営陣やマネージャーとよく話し合ったうえで、企業が理想とするペルソナを作らないようにするなど、いくつかの点に注意したうえで進めることが重要です。
本記事で紹介したテンプレートも活用しながら、マーケティング思考を持って採用活動にあたることを心がけましょう。