バリューチェーンとは、企業が行う各事業の活動を、価値を創出する流れと捉える考え方です。事業の各工程が創出する価値を把握することで、自社の強みを活かし、弱みを改善できます。
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本記事では、バリューチェーンの具体的な考え方や構成要素、メリットを解説します。実際にバリューチェーン分析を行う際の4つのプロセスや戦略に生かすポイント、企業事例も解説しますので、ぜひご活用ください。
バリューチェーンとは
バリューチェーンとは、企業が行う事業活動を工程や機能に分解して、製品やサービスに価値を加える一連の活動として捉える考え方です。日本語では「価値連鎖」を意味します。経済学者のマイケル・ポーターによって提唱され、経営戦略やマーケティングに活用されてきました。
バリューチェーンと似た用語に、サプライチェーンがあります。日本語で「供給連鎖」を指し、製品やサービスを顧客に届ける流れそのものを意味します。バリューチェーンは事業活動の価値連鎖に焦点を当てる一方で、サプライチェーンはモノやカネなどの供給連鎖に着目するのが異なる点です。
バリューチェーン分析を実施すれば、コスト削減や差異化の機会を特定し、競争優位性を高めることが可能です。
バリューチェーンの構成要素【図解】
バリューチェーンでは、「主活動」と「支援活動」の2つの要素に分けて事業活動の構造を把握します。
ここからは、それぞれの定義と分け方を説明します。
構成要素1:主活動
バリューチェーンにおける「主活動」とは、製品やサービスを顧客に提供するまでの、直接的な事業活動の流れのことです。
例えば、製造業における「主活動」は、次の通りです。
- 購買物流:原材料の仕入れ、保管、在庫管理など、生産準備のための初期活動
- 製造:加工、組み立てなどを含む、原材料から最終製品を製造するプロセス
- 出荷物流:製品の配送や顧客への輸送を管理する活動
- マーケティングと販売:製品の市場への提供、顧客ニーズへの応答、販売戦略の実施などの活動
- サービス: 製品のアフターサービス、顧客サポート、保証や修理サービスを提供する活動
構成要素2:支援活動
バリューチェーンの「支援活動」とは、主活動に直接的にはかかわらない、主活動の支援となる活動のことです。
主に次のような活動があります。
- 調達:原材料やサービスの購買に関わるプロセス
- 技術開発:製品開発、製造プロセスの改善、ITシステムの導入など
- 人事・労務管理:従業員の採用、研修、評価、給与支払いなどの活動
- 全般管理(インフラストラクチャー):会社の組織構造、管理システム、財務管理、法務など企業活動全般を支援する基盤や活動
支援活動は、いずれも直接的に価値を創出しないものの企業に必須の機能です。
バリューチェーン分析のメリット
バリューチェーンの分析によって得られるメリットは、主に次の3つです。
- 事業活動のコストがわかる
- 事業の強みと弱みがわかる
- 競合他社との差異化のポイントがわかる
それぞれを詳しく解説します。
事業活動のコストがわかる
バリューチェーン分析により、事業活動における具体的なコストが把握可能です。
例えば、製品やサービスを提供するまでの各過程を分析することで、過剰な支出や無駄が発生している可能性のある領域を特定できます。さらに、どの活動のコストを減らして、価値の高い活動に資源を集中させれば良いかの全体的な判断が行えます。
結果として、製品やサービスの品質を維持・向上しつつ、低コストの企業体質に移行できるでしょう。
事業の強みと弱みがわかる
バリューチェーン分析には、自社の事業の強みと弱みを客観的に把握できるメリットもあります。
なぜなら、分析によってコストと付加価値を把握することで、製品やサービスが価値を創出する過程における効率性や効果を具体的に評価できるからです。これにより、各活動の提供価値の高さやコストに対する提供価値の高低を判断できます。
強みとして特定できた活動は、企業の競争力を高めるための重要な要素です。一方で、弱みと判断された活動は、改善や再構築が必要になります。
強みと弱みは、経営資源の再配分や競合との事業に違いを創出する判断材料として活用できるでしょう。
競合他社との差異化のポイントがわかる
競合他社との差異化を図るためにも、バリューチェーン分析は有用です。なぜなら、競合他社のバリューチェーンを分析することで、ライバルの強みと弱みを把握できるからです。自社のバリューチェーンと比較すれば、市場における自社の強みが明確になり、差異化できるポイントを特定できます。
同一コストでより大きな価値を提供できていたり、より低コストで同程度の価値を提供できていたりする活動は、差異化のポイントとなりえます。
自社の価値提供の強みとなっている活動にはさらに投資を行い、コストが過剰な活動は競合をベンチマークとしてコスト削減に取り組むなどの経営判断に役立てられるでしょう。
バリューチェーン分析のプロセス
バリューチェーン分析は、次の4つのプロセスを経て行うのが一般的です。
- 自社のバリューチェーンを書き出す
- コストを把握する
- 強みと弱みを評価する
- VRIO分析を行う
1.自社のバリューチェーンを書き出す
はじめに、自社のすべての事業活動を活動別リストアップし、バリューチェーンを図式にする準備をします。
具体的には、主活動と支援活動に分け、詳細な活動を書き出します。
次の表は、主活動を書き出す例です。実際には、主活動を項目に分けたうえで、具体的な説明を記載しましょう。
【主活動を書き出した例】
2.コストを把握する
続いて、次に活動ごとのコストを一覧にします。次の表のように具体的に書き出すことで、活動ごとの収益性やバリューチェーン全体におけるコストの比重を明らかにできます。
【活動別にコストを書き出した例】
バリューチェーン全体におけるコストの配分を見直すには、次のような分析をあわせて行うと効果的です。
- 各活動のコスト比率計算:全体コストに対する各活動の割合や、各活動に対する詳細なコストを計算する
- コストドライバー分析:製品やサービスを提供するためにかかる間接費を、活動単位で計算する
- コスト同士の関係性分析:各活動にかかるコストの相関関係を分析する
3.強みと弱みを評価する
続いて、バリューチェーンにおける各活動の強みと弱みを評価します。
バリューチェーンにおける強みとは、付加価値や費用対効果を産出する要因のことです。一方、弱みとは、付加価値の低さや、仕入れ、生産性における課題、改善点などが該当します。
強みと弱みは相対的であるため、競合他社のバリューチェーンも分析したうえで評価することが重要です。
次の表のように整理すると、強みや弱みの全体像を把握しやすくなります。
【活動別に強み・弱みを書き出した例】
4.VRIO分析を行う
最後に、VRIO分析を実施します。VRIO分析とは、経営資源の競争優位性を評価する分析手法です。
VRIO分析では、経営資源を「経済的価値(Vale)」「希少性(Rarity)」「模倣可能性(Inimitability)」「組織(Organization)」の4つの観点から順番にYesかNoで判定します。
VRIO分析の結果、すべてがYes、もしくは多い場合は競争優位と判断できます。一方で、Yesが少ない場合は劣位であると判断可能です。これらの判断結果を基に、判断対象となる活動が持続的に競争優位性を持つ活動であるかどうかを把握できます。
具体的には、次のような表で整理します。
【VRIO分析の記述方法の例】
バリューチェーン分析を戦略に活かすポイント
バリューチェーンを戦略に活かすポイントは、競合とユーザーの二つの視点から、価値の最大化を図ることです。
競合他社のバリューチェーンを分析した結果、自社が強みだと捉えていた活動が他社に比べてコスト高であると判明する場合があります。逆に、強みだと把握していなかった活動が、競合に比べて大きな強みになっていることもあるかもしれません。
例えば、強力なサプライヤーからの安定した原材料供給を強みと捉えているにもかかわらず、他社よりも単価が高いためにマーケティングコストが大きく圧迫されている場合が該当します。
競争優位を目的として経営資源の配分の最適化を行う際は、競合と比較したうえで投資ポイントを見極めるように意識しましょう。
また、自社の提供価値がユーザーニーズに沿うものかも重要です。ユーザーが価値を感じない活動に投資を行っても、成果は見込めないからです。
競合とユーザー、二つの視点から活動の付加価値を高め、利益を最大化する戦略を立案しましょう。
バリューチェーンの企業事例
バリューチェーンで分析する事業活動の内容は、業界や業種で異なります。
ここでは、業界の異なる3つの企業の具体例を簡単にご紹介します。
トヨタ自動車
「カイゼン」の哲学を活用し、生産プロセス全体で効率性と品質を最大化しているのがトヨタ自動車株式会社です。
特に、サプライチェーン管理において、「より良いものをより安くタイムリーに」お客様に届けるべく、ジャストインタイム(JIT)システムを導入しました。その結果、在庫コストを削減しながら生産効率を高めることに成功しています。
また、現地生産によって部品や設備を現地のサプライヤーから積極的に調達することで、地域社会にも貢献しています。
ユニクロ
独自のSPA(製造小売業)モデルを通じて、設計から生産、販売までの全プロセスを一貫して管理し、価値創出に成功したのが、株式会社ユニクロです。
企画から販売までのプロセスを一貫管理することで、他社には真似ができない独自商品を次々と開発しています。また、効率的なサプライチェーン管理により、高品質な製品を迅速に市場に提供し、在庫コストを最小限に抑えているのも特徴です。
繊維メーカーとの競業で素材を開発するなど、バリューチェーンにおける強みを活かして世界でシェアを拡大しています。
東京ガスグループ
東京ガスグループ株式会社は、2022年にホールディングス型グループ体制に移行したのをきっかけに、市場やお客様に対して直接向き合い、価値を提供してゆくバリューチューンの変革を図っています。
過去、実績のあった業務プロセス改革の取り組みをグループ規模に拡大し、DX化を推進するなどの競争力を向上させる取り組みを行っています。
また、変革は主活動以外に支援活動にも及びました。体制の移行にあわせて、支援活動である人事制度においてもカンパニー別の採用基準を設けるなどの改革を推進しています。
企業活動全体にわたって経営の改善を進めている例といえるでしょう。
バリューチェーンを理解して競争優位に事業を推進しよう
バリューチェーンは、企業の各活動が事業の価値創出にどのように貢献しているのかを明らかにする手法です。
バリューチェーン分析を行うことで、企業は事業活動のコストや自社の強み・弱みを明らかにできます。分析結果を基に適切な経営資源の分配を図ると、競合に対してビジネスの優位性を作り出すメリットを得られるでしょう。
競合他社や顧客の視点からの価値をあわせて考えることで、より適切な経営資源の分配が可能となります。本記事でご紹介したプロセスとポイントを参考に、バリューチェーン分析を戦略立案にお役立てください。