カーン! ゴングが鳴り響き、両選手がリング中央に進み出ます。

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青コーナーは、時価総額1,000億ドルを誇る「フォーチュン50」選手。フォーチュン選手は10年以上活躍しているベテランで、パンチの速さはそれほどでもありませんが、幾多の過酷なラウンドを切り抜け、生き延びてきた選手です。

対する赤コーナーは、軽量級で機敏なフットワークを誇る「スタートアップ」選手。新人ながらメキメキと頭角を現し、フォーチュン選手を倒す自信満々です。ひょっとしたらひょっとするかもしれません。あるいは、スタートアップ選手のパンチは空振りに終わり、ヘビー級のフォーチュン選手がカウンターでKO勝ちすることも考えられます。

もちろん、現実はこれほどシンプルではありません。しかし、私たちマーケティングエージェンシーは、スタートアップ企業とベテラン企業の戦いをこのように捉えがちではないでしょうか。そして、顧客がそのどちらであるかによって、完全にアプローチを変えてしまいがちです。

もちろん、そこにはそれなりの理由があることも確かです。特にブランディングプロジェクトにおいては、スタートアップ企業と大企業を分けて考えたくもなるでしょう。一般的に、スタートアップ企業はイノベーションや開発のサイクルが短く、早い段階で失敗を重ねて、なるべく早くユーザーに製品を届けようとする傾向があります。

このやり方は「ミニマム バイアブル プロダクト(MVP)」(必要最低限で成立する製品)と呼ばれていますが、スタートアップ企業はこのMVPというアプローチを採用することで、「ミニマム バイアブル ブランド(MVB)」(必要最低限で成立するブランド)を目指しているのかもしれません。しかし、ブランドとは何をもって「バイアブル(成立している)」と言えるのでしょう。このやり方で、本当にそのブランドのエッセンス、理念、他社との違いを伝えることはできているのでしょうか。

一方、すでに市場で立場を確立している企業は、デジタルディスラプター(デジタルテクノロジーにより業界に破壊的イノベーションを起こすスタートアップ企業)を「頭の切れる近所の悪ガキ」のように考えていますが、自社のイノベーションではこの悪ガキたちに叶わないので、最終的にこうしたスタートアップ企業を買収しなければならなくなります(ユニリーバやウォルマートが良い例でしょう)。

社内のブランドチェンジのペースも遅々としています。社内政治や関係者の衝突によりブランド開発のペースも遅く、進化し続けるデジタルファーストの消費者についていくことができません。

スタートアップ企業、大企業、それぞれにこうした傾向があることは確かです。しかし、両極端に考える必要はありません。マーケティングエージェンシーとして顧客企業に対するとき、相手がスタートアップ企業か大企業ということより、もっと大切なことがあるのです。

スタートアップ企業はブランディングについてもっと大きな視点で考える必要があります。成熟した大企業は俊敏になることを心がけなければならないでしょう。しかし本当に大切なのは、その企業が「何を象徴しているか」です。今日の消費者は企業のロゴなどにはそれほど関心がありません。企業が象徴しているものに関心があります。こうした消費者の期待に応えるためには、マーケターとして、スタートアップ企業と大企業の良いところを組み合わせ、真のミニマム バイアブル ブランド(MVB)を定義していく必要があります。

つまり、顧客がディスラプターの場合は、 企業が象徴するものを明確にするよう促すアプローチを、大企業の場合は、スローガンを掲げて関係者全員をまとめ、一貫したブランド開発を促すアプローチを考える必要があります。

ポストデジタル時代の今、企業の規模を問わず、組織の内も外も徹底的にデザインしていく必要があるのです。

効果的なブランドガイドラインの作り方

マーケティングエージェンシーは組織デザインを見過ごしてはいけない

「ブランドを体験する」とき、私たちは見て、聞いて、触って、そして感じています。ストーリー、タッチポイント、コミュニケーションがすべて積み重なり、ひとつの包括的なブランドエクスペリエンスを構成しているのです。ブランディングとは、根本的にこの唯一無二のエクスペリエンスを通じて競合他社と自社を差別化することに他なりません。

例えば、顧客の製品が消費者のタスク効率化を意図したものだとしたら、そのスピード感を伝えるためにどのようなコピーにすれば良いでしょうか? 「より速い」ことを表すためにどのような形容詞が使われているでしょうか? 消費者はタスクを素早く片付けたいとき、どのようにデジタルプラットフォームを利用しているでしょうか?

社内外問わず、組織のあらゆるタスクやアクションに対して、こうした明確な視点をもって取り組むことが、かつてなく重要になっています。ブランドとは、その組織の価値の集積です。消費者は、自分自身の価値観と通じるブランドを購入し、関わり、人に勧めます。好きなブランドの名前が入ったTシャツを誇らしく着るのは、そのブランドを選んだ自分の価値観について他の人に知ってもらいたいからです。

もちろん、ブランド戦略を具体化する際は、インサイトや市場要因も重要です。しかし、ブランドを構築する土台となるのは組織自体のデザインでなければなりません。組織内部の価値観が、市場に発信しているメッセージの価値観と一致してなければ、消費者はそっぽを向いてしまうでしょう。その顧客企業は「真正でない」というレッテル貼られてしまい、マーケティングエージェンシーの取り組みは欺瞞のように感じられてしまうはずです。

顧客の事業の未来を描くためには、まず組織から始めましょう。その企業が象徴しているものは何でしょう? それは製品だけではありません。サービスだけでもありません。エクスペリエンスだけでもありません。そのすべてなのです。

Thinktopiaの設立者兼CEOであるPatrick Hanlon氏は、著書『 Primal Branding(プライマリブランディング)』のなかで、人気ブランドが他のブランドと異なる理由を分析し、7つの要素を見つけました(著書の中ではこれを「プライマリコード」と呼んでいます)。Hanlon氏によると、世界で愛されているブランドには、この7つの要素で構成される信念体系(Belief systems)が存在するのだそうです。

このコードの最初に挙げられている要素が、「創業のストーリー(Creation Story)」です。これは、どの組織にもある「真の目的」を明確化するのに不可欠と言えます。どのようなブランドであれビジネスであれ、設立者あるいは共同設立者たちが、自分たちのビジョンを実現するために始めたはずです。このビジョンをまず成文化し、それに基づいて顧客企業のブランドを構築していきましょう。

社内の文化と外へのブランディングを整合する

ディズニーランドのカスタマーサービスは伝説的です。「キャスト」が提供する素晴らしいエクスペリエンスのおかげで、子どもも大人(大きな子ども)もリピーターになります。この卓越したカスタマーサービスを実現できている大きな要因は、ディズニーの従業員全員が、創業者Walt Disney氏のビジョン「地上でいちばん幸せな場所(The Happiest Place on Earth)」を学ぶところからOJT(現任訓練)を始めていることです。職務内容や日々の細かな業務よりも、まず創業のストーリーを学ぶことにより、それがおのずと従業員の日々の行動の指針となっているのです。

レゴは2003年に3億ドルの損失を出しました。Jorgen Vig Knudstorp氏がCEOに就任する1年前のことです。事業を拡張しすぎて、もともとのブロック事業がおろそかになっていました。しかし、幸いにもKnudstoro氏が「教育的な組立ブロックを創る」という原点のビジョンに立ち返り、同社を立て直します。

Knudstorp氏は、しばしばT・S・エリオットの詩を全社に向けて引用しました。「人は冒険をやめてはならぬ / 長い冒険の果てに / 出発点へ辿り着くのだから / そして 初めて居場所を知るのだ 」。それから約10年、レゴは毎年売上を伸ばし、2015年には2桁成長を遂げています。

顧客企業の人材、プロセス、プラットフォームをその企業の原点である目的に整合させることで、 従業員とパートナーに「司令官の意図」を伝えることができます。「司令官の意図」は軍隊の用語で、どのような状態になればミッションが成功なのかを明確に表したものです。これを組織全体に徹底することにより、最終的な結果が司令官の意図に沿っている限り、部下一人ひとりがさまざまな状況で臨機応変に最適な意思決定を行うことが可能になります。

先の例で言えば、ディズニーの従業員やベンダーは、「これをすることで自分は誰かを幸せにしているだろうか?」と自問することにより、最適なアクションを決定できます。レゴのプロダクトデザイナーやエクスペリエンスデザイナーは、ブランドの原点に誠実であることで、方向性を決めることができます。

「言っていることはわかるけれど、どの会社でも通用するわけじゃない。ウォルマートのような(低価格帯の)企業では同じことはできない」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、消費者たちは、より良いエクスペリエンスのためなら喜んで財布の紐をゆるめることがリサーチからも分かっています。

優れたブランドエクスペリエンスは優れた組織から始まります。優れた企業とは、社内の文化と外に向けたブランドマーケティングが、創業のストーリーに整合している企業のことです。自社の存在理由を理解し、その目的を製品やサービスだけでなく、デジタルコンテンツやカスタマーサービスなど、消費者とのあらゆる接点に適用している企業です。

顧客企業がスタートアップであれ、フォーチュン50であれ、リングでの戦いに勝ちたければ、組織全体を内外ともに徹底的にデザインすることが不可欠です。消費者はその企業がディスラプターか大企業かには関心がありません。そのブランドが、期待にたがわない一貫したエクスペリエンスを提供してくれるかどうか関心があるのです。

顧客企業を内外ともに徹底的にデザインするには

素晴らしいブランドは素晴らしいストーリーの上に成り立ちます。ですから、説得力があり記憶に残る創業のストーリーを掘り起こすところから始めましょう。印象的なブランドストーリーを顧客企業の組織デザインにつなげていくプロセスは、何も白紙から始める必要はありません。早い段階で顧客に創業のストーリー、価値観、現在のブランディングで好ましい部分についてヒアリングしておきましょう。

Simon Sinek氏の言うように、「人は、あなたが何をしているかではなく、なぜしているかで購入する」のです。人間はストーリーやナラティブの中で思考します。ですからブランディングにもストーリーやナラティブが必要です。顧客企業がなぜその事業を行っているのか、 なぜ他社と違うのかを明らかにし、記憶に残るブランドを形成しましょう。

次に、顧客が成功するために必要な結果を定義します。マーケティングのエンゲージメントだけでなく、会社全体としての結果です。マーケティングエージェンシーが提供するものは、顧客がこの結果に辿り着くために役立つものでなければなりません。このビジョンを明確化し、顧客が従業員、パートナー、ベンダーすべてに共有できる形にします。そうすれば全社的に仕事の質が上がり、感謝してもらえるはずです。顧客企業に、マーケティングサービスを購入したことを後悔されるようなことだけは、避けなければなりません。

なぜから始めて、その顧客企業に一貫したテーマを見つければ、社内の組織と外に向けたブランディングの方向性を決定づけるブランドストーリーがデザインできるはずです。

編集メモ:この記事は、2016年11月に投稿した内容に加筆・訂正したものです。Peter Senaによる元の記事はこちらからご覧いただけます。

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効果的なブランドガイドラインの作り方

 効果的なブランドガイドラインの作り方

元記事発行日: 2017年10月20日、最終更新日: 2023年8月23日

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