PRとは「企業と社会の間に良好な関係を築く活動や考え方」を指します。第二次世界大戦後、国内にPRが伝えられ、その後のテレビの普及、企業の社会的責任の高まり、CSR活動の価値向上、危機管理、宣伝媒体のデジタル化・多様化など、時代の変化に応じてPRに内包される意義も変化してきました。
情報が溢れる時代において、単に情報発信するだけでは企業と消費者との関係構築が難しくなりつつあります。そこでPRとマーケティングの要素を掛け合わせ、雰囲気の形成、価値観の提供、第三者による拡散を狙った「戦略PR」に取り組む企業が増加しています。
本記事では、企業が戦略PRを行うための基礎知識やメリット、戦略PR実行時のポイントを説明していきます。
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戦略PRとは?
『戦略PR』の著者である本田哲也氏は、戦略PRを以下のように定義しています。
商品そのものにフォーカスしたPR活動ではなく、世の中の時流と商品をつなぐテーマを開発。そこから話題喚起し、空気作りを行い、その盛り上がりを商品販売に落とし込む手法
参照:戦略PRは“空気”をつくる. -消費者と企業のリレーションの原点に戻って-.
まず、PR(Public Relations)の定義から確認していきましょう。PRとは「企業などの団体」と「社会」の間に良好な関係を築く活動や考え方のことです。
日本にPRが導入された第二次世界大戦後、高度経済成長にともなう公害問題が深刻化しました。企業の社会的責任が高まった時期であり、企業のPR活動の必要性も必然的に高まりました。
当時は企業の社会的責任を説明するニーズの高まりから「広報=PR」と捉えられる向きが強くなり、PR本来の「企業と社会の関係作り」から意味がずれていってしまいました。
また、インターネットの普及により情報発信メディアが多様化し、膨大な情報が飛び交う時代になりました。
この状態では、ただ商品をアピールする広告を発信し続けても期待する効果は生まれにくいでしょう。そこで注目されることになったのが戦略PRなのです。
戦略PRが求められる背景
そもそもPRとは「企業等の団体と社会との関係を築く活動や考え方」でした。PRから発展した戦略PRの考え方が広まった背景には、マーケティング分野とPRの融合、及び情報発信媒体のデジタル化への対応が挙げられます。
マーケティング分野との融合
公益社団法人 日本マーケティング協会によるマーケティングの定義は次のとおりです。
マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である。
引用:公益社団法人日本マーケティング協会「マーケティングの定義」より
企業において、マーケティングとPRは別々の活動と考えられ、それぞれの担当部門(営業部門と広報部門など)に分けられていることが一般的です。
一方、戦略PRにおける「消費者の購買意欲を高める雰囲気の形成」は、マーケティング活動における「顧客との相互理解」のひとつに位置付けられます。つまり戦略PRはマーケティングと融合しており、分けて考える方が不自然なのです。
コンテンツのデジタル化
総務省の調査によると、平成30年度の主要な情報発信メディアの利用率は次のとおりです。平成30年になって初めてインターネットの利用率がテレビの利用率を超えました。
平日 | 休日 | |
---|---|---|
テレビ(録画視聴を除く) | 79.3% | 82.2% |
インターネット | 82.0% | 84.5% |
インターネット利用のうち、SNSや動画共有サービスの利用率が高く、それぞれ巨大な市場を形成していることが分かります。
- 主要SNSの利用率: LINE 82.3%、Twitter 37.3%、Instagram 35.5%、Facebook32.8%
- 動画共有サービス(YouTubeやニコニコ動画など)の利用率:71.8%。
これは広告だけでなく、戦略PRにおいてもコンテンツのデジタル化が進んでいると言えます。
コンテンツのデジタル化には、情報発信による効果を定量的に測定できるメリットがあります。例えば、テレビCMの効果を詳細に把握するには別途調査が必要です。
一方、デジタル化されたコンテンツは「投入した資金」や「売上高」に加えて、「クリック回数」、「表示回数や日時」、「表示された時間」、「閲覧者の属性」などさまざまなデータが得られます。そのため、投資対効果と合わせて原因を検討でき、PDCAサイクルによる改善活動が可能です。
戦略PRのメリット
戦略PRについて深堀りする前に、戦略PRがもたらすメリットを確認していきます。言い方を変えると、メリットが得られるような運用を目指すことが大切です。
PR活動の生産性向上
生産性とは投資対効果のことです。企業のすべての活動はリソース(お金、時間、人)を投入して実行されます。戦略PRも例外ではありません。
つまり、戦略PRの実施においてリソースの管理、具体的には予算管理やスケジュール管理、効果検証を行う必要があります。戦略PRの活動フロー全体を管理し、生産性向上のための課題抽出と解決を行います。
PR活動のコスト削減
戦略PRの生産性を向上する方法は以下の2つです。
- 効果を大きくする
- 投資コストを削減する
予算管理やスケジュール管理、活動の効果検証を通じて、投資対効果の小さな案件の中止を判断して、コスト削減を行います。
ステークホルダー・社会との円滑なコミュニケーション
戦略PRを継続的に行うことにより、企業の活動状況を消費者、従業員、株主、取引企業、金融機関、地域社会などのステークホルダーに伝えられます。健全で価値ある活動をステークホルダーに知ってもらえれば、企業価値を高めることが可能です。
戦略PRで考慮する要素
戦略PRを実施するにあたり、考えておきたい要素について解説します。
PR計画
企業の収益向上や企業価値向上のために「何を」「いつ」「どのように」発信するか、つまり戦略PR全体の計画を策定します。4月の新生活スタート、ゴールデンウィーク、ボーナス時期、クリスマスなどの時期から逆算して、戦略PRの活動フローをスケジュール化します。
PR媒体
デジタルコンテンツを想定した場合、PR媒体には、SNS、自社ホームページ、ニュースサイトなどがあります。PR内容や伝えるべきターゲットに応じて媒体を選定します。
例えば、クラウド型会計システムなどのビジネス系商品はFacebook、化粧品やファッションなど見栄えが重要なPR内容ならInstagramなど、各SNSの特徴とPR内容のマッチングを考えて選定します。また、同時に複数の媒体を利用する場合もあります。
PRツール
PR媒体をコンテンツの情報発信場所とすれば、PRツールはコンテンツの入れ物です。ファクトブック、Facebook公式ページ、報道関係者向けのプレスリリース、ニュースリリース、ニュースレターなどがあります。
PR費用
PR費用は、PR媒体、PRツール、配信期間、配信先など、委託する業務の内容や範囲によって大きく変化します。また、委託会社によっても変化します。コンサルティング、コンテンツ作成、配信代行で数十万~数百万円と必要な内容によって費用には幅があります。
戦略PRに基づいたPR方法
戦略PRとは消費者の購入意欲を高める雰囲気を作り出し、その上で企業にも消費者にもメリットのある良好な関係を構築する活動のことです。消費者の購買意欲を高めるひとつの形は「新しいライフスタイルを創造して共感してもらう」ことです。
新製品の紹介で、新機能の説明を羅列しても消費者に共感してもらえません。そのため、客観的事実により新機能が必要であることを消費者に示し、新しい価値観を知ってもらいます。さらに新機能が従来の生活をどのように快適にするかまで丁寧に説明します。
もし新機能に話題性があれば、消費者から消費者への口コミが多くなります。また、テレビなどのマスメディアで取り上げられれば、新製品を広く周知できます。情報の拡散を狙ったコンテンツ作成が成功の鍵です。
多くの消費者は第三者の意見を重要視する傾向があります。そのため、テレビなどのマスメディアで取り上げられることで、よりコンテンツの信頼性を高めることができます。
戦略PRの実施手順
戦略PRの基本的な実施手順は次のとおりです。
- 目的の明確化
戦略を決定して、戦略に基づいたKPI(重要業績評価指標)を設定します。
例:家事を楽にする家電シリーズのブランド確立のため、新規顧客10万人を獲得する
- ターゲットの明確化
例:20~40代の主婦層
- 情報発信メディアの選定
例: Instagram
- コンテンツの作成と発信
例:家事にかかっていた時間を明確化して、製品購入時の時間短縮効果を消費者に伝える。
- 効果検証
KPIの達成度合いとその理由の検証を行う。結果を次の戦略PRに反映する。
戦略PRのポイント・注意点
情報の拡散は「自分ゴト化」、「仲間ゴト化」、「社会ゴト化」の3ステップに分類できます。
- ステップ1. 自分ゴト化…「このニュースは自分に関係がある」状態にする
- ステップ2. 仲間ゴト化…「仲間はみんな知っている」状態にする
- ステップ3. 社会ゴト化…「誰に話してもみんな知っている」状態にする
戦略PR活動により自分ゴト化→仲間ゴト化→社会ゴト化の変化を狙い、新しい価値観を既知の価値観にしていきます。3ステップ目まで進むには、消費者の口コミやマスメディアでの紹介が重要となります。
消費者に新商品の価値観を理解してもらうためには、伝えたい内容を容易に納得してもらえるコンテンツ作りがポイントです。最近では、モバイル通信速度の向上により、動画も強力な伝達手段となっています。
なお、「いかにも広告主視点」(=消費者視点が欠如している)コンテンツは消費者に受け入れられにくいので注意しましょう。「正しい内容」で「発信者の中立性」を保ったコンテンツ作りが重要です。
また、経験とデータに基づき戦略PRを継続的に行ってノウハウを蓄積していきましょう。その際、不明点があったとしても出来るだけ理論的な推定を行い、「勘」や「希望」を排除した内容にすることが大切です。
消費者の共感や関心を得ることを優先して考えよう
「モノを作って情報発信するだけで売れる」時代は既に終わっています。一方的に商品の情報を伝えても、消費者の購買行動につながりません。さらに、インターネット上に膨大な情報発信が飛び交う時代となり、消費者に関心をもたれない情報は、有益な情報に埋もれてしまいます。
戦略PRの考えに基づき「消費者の購買意欲を高める雰囲気作り」を行うことで、消費者に商品の魅力や有用性をしっかりと伝えられます。また正しい情報を分かりやすく提供することにより、消費者からの信頼も得られます。
戦略PRの基本的な考え方は簡単ですが、実際に消費者に共感してもらえるコンテンツを発信して売上を伸ばすにはノウハウの蓄積が必要です。これから始められる企業にとっては、信頼できるパートナーに相談しながら経験を積むのが早道です。