自社開発CRMに限界を感じたら。SaaS移行の判断基準と進め方

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池村真澄
池村真澄

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📋 この記事の要点

  • 自社開発CRMの本当のコストは月額ライセンスではなく、エンジニア人件費・保守負債・AI非対応による機会損失を含めたTCO(総所有コスト)で判断する必要がある
  • 移行を妨げる要因の一つが、長年積み上げた自社仕様を現在も維持すべきかどうかを問い直せていないことにある
  • SaaS CRMへの移行プロジェクトはスコープを絞ったフェーズ分割で進めるケースが多く、第1フェーズを2〜3か月で完了させた事例もある
  • 移行の判断は「すべき・すべきでない」の二択ではなく、「何から始めるか」という具体的な一手を見つけることで前進する

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自社開発CRMに限界を感じたら。SaaS移行の判断基準と進め方

自社でスクラッチ開発したCRMを運用しながら、移行に踏み切れずにいる担当者の方を対象に、SaaS CRMへの移行判断を前進させるための考え方をまとめました。

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    移行を検討し始めたとき、「本当に移行できるのか」より先に「そもそも何で判断すればいいのか」という壁にぶつかることがあります。本記事では、移行の判断基準から、仕様の棚卸し方法・プロジェクトの進め方まで解説します。

    1. 自社開発CRMに限界がくる4つの原因

    自社開発CRMに限界が生じる原因は、本記事では大きく4つに分類しています。見えないコストの蓄積・エンジニアリソースの固定化・データ分断・コードの複雑化です。いずれも運用ルールの変更だけでは解消できず、システムの構造そのものを見直す必要が出てきます。
     

    見えないコストが積み上がっている

    自社開発CRMは外部ライセンス費が発生しないケースが多い一方、それ以外に発生するコストが複数あります。月額費用だけで「SaaSより安い」と判断すると、実際のコスト構造を見誤ります。

    • エンジニアの保守対応工数(機能追加・バグ対応・インフラ管理)
    • 仕様変更や他システムとの連携のたびに発生する開発費・外注費
    • APIの仕様変更に伴うメンテナンスコスト
    • 担当者退職時の引き継ぎコストおよびドキュメント整備費用

    これらは予算書の表面に出てきにくく、「コストがかかっている」と認識されないまま積み上がります。中長期のTCO(総所有コスト)で評価しなければ、SaaS CRMとの正確な比較はできません。
     

    保守にエンジニアが張り付き続けている

    自社開発CRMの保守にエンジニアが継続的に関与することは、機会損失コストを生みます。機会損失コストとは、そのリソースを本来の目的(自社プロダクト開発・事業成長)に使えないことで失われる価値のことです。CRM保守にかかっている費用が「見えている費用」である一方、本来投資できたはずの開発リソースは「見えていない損失」として扱われにくい傾向があります。

    「CRMの保守に社内エンジニアを使い続けることへの疑問が経営側から出てきた」という声は、IT系企業や自社開発チームを持つ製造業などで聞かれます。自社プロダクトの開発に集中させたいエンジニアがCRMの保守に張り付いている状況は、事業の成長速度にも影響します。
     

    データが分断されて全体像が見えない

    例えばCRMと他のシステム(MA・SFA・基幹システムなど)が連携しておらず、顧客情報がツールごとに散らばっている状態です。「複数のツールに情報が分散していて、顧客の全体像が把握できない。アップセルやクロスセルのタイミングを見逃しやすい」という問題は、複数システムを並立させている企業でよく起きます。

    データを統合して活用しようとするとき、この分断がボトルネックになります。特にAI活用を進めようとする段階で、データが複数のシステムに散らばっていることの障壁は大きくなります。自社開発CRMに蓄積されたデータが他システムと連携できない状態は、構造上の問題であり、連携設定を追加するたびに開発コストが発生し続けます。
     

    コードが複雑化して改修できなくなる

    設計図が整備されないまま機能が積み重なると、「どこを変えると何が壊れるかわからない」という状態になります。スクラッチ開発ならではの問題で、長年運用してきたシステムほど深刻になります。

    「システムに触れるのが今や自分一人になっている。自分が辞めたら直せる人がいなくなる」という声は、自社開発CRMを長く運用してきた組織でよく聞かれます。コードを書いた担当者が退職し、仕様を把握している人間がいなくなると、改修の難易度と外注コストは一気に上がります。担当者を増やす、ドキュメントを整備するといった対応が有効なこともありますが、コードの複雑化そのものは解消されません。

     

    2. 自社開発CRMからSaaSへ移行すべきか判断する基準

    自社開発CRMからSaaS CRMへの移行を判断するには、コスト比較の前に自社仕様の棚卸しが必要です。移行判断が進まない要因の一つは、「現在の自社仕様をどこまで維持すべきか」という問いに向き合えていないことにあります。この点を検討し、整理することで、移行の可否と範囲が明確になります。
     

    今の仕様は本当に必要か?機能の棚卸しから始める

    自社開発CRMには、長年にわたって機能が積み上げられています。今も営業活動に欠かせない仕様がある一方で、当時の担当者のリクエストや組織の事情で追加され、今では誰もほとんど使っていない機能が混ざっていることも珍しくありません。

    「今の機能をすべてSaaSで再現できるか」から考え始めると、判断が止まりやすくなります。現行システムの機能が多いほど、その問いへの答えは「難しい」に近づいていくからです。

    そうではなく、まず「今も本当に必要な機能はどれか」を棚卸しすることが出発点になります。棚卸しをしてみると、この機能がなくなったとき、何の数字が下がるかを明確に言える機能は、思ったより少ないものです。

    判断が難しい場合、以下が起点になることがあります。

    • その機能がなくなったとき、どの業務指標に影響が出るか
    • 同業の競合他社が持っていない仕様なのか、それとも業界全体で標準的な業務フローなのか
    • その仕様を維持するために、今後もエンジニアリソースを割き続けることが合理的か

    これらに答えられる機能は「残すべき仕様」の候補です。答えに詰まるものは、「慣れているだけ」の可能性があります。
     

    標準機能で業務は回るか?Fit to Standardという選択

    Fit to Standardとは、CRMなどのシステムが持つ標準機能に合わせて業務フローを見直すアプローチです。自社開発CRMで積み上げてきた独自仕様をカスタマイズで再現するのではなく、標準機能の範囲内で業務を再設計します。これを「妥協」と捉えるか、「合理的な設計の選択」と捉えるかで、移行への向き合い方が変わります。

    Fit to Standardを選ぶと、次のことが変わります。

    • 機能追加のたびに開発コストをかける必要が大幅に減る
    • ベンダーが提供する標準機能のアップデートを継続的に利用できる(プランにより異なる場合があります)
    • 特定のエンジニアに依存せず、担当者が変わっても運用を継続できる

    Fit to Standardは「自社らしさを捨てる」ことではありません。競争優位に直結しない業務フローを標準化することで、本来注力すべき領域にリソースを集中させる判断です。

    なお、自社の業務要件がSaaS CRMの標準機能と大きくかけ離れている場合は、移行後にカスタマイズや外部連携での対応が必要になることもあります。「本当に標準化できない業務フローはどこか」を先に見極めておくと、移行後の設計がしやすくなります。
     

    移行しないリスクは何か?現状維持のコストを確認する

    移行を検討するとき、「移行した場合のリスク」には目が向きやすい一方で、現状を続けることのリスクは見落とされがちです。現場でよく聞かれるのが、次の2点です。

    一つ目は、AI活用の壁です。業務にAIを組み込もうとするとき、自社開発CRMが連携のボトルネックになるケースがあります。「AIを使った顧客分析や営業支援を進めたいが、自社開発CRMとの連携にAPIのメンテナンスコストがかかり続ける」という状況や、「AIのAPIを自前で構築できても、仕様変更のたびに書き換えが必要になる」という懸念は、AI活用を検討した企業から実際に聞かれる声です。SaaS CRMの中には、AIによる顧客分析や営業支援の機能を標準で搭載しているものがあります。自社開発CRMとの差は、運用を続けるほど広がっていきます。

    二つ目は、保守担当者への依存リスクです。属人化が解消されないまま時間が経つと、担当者の退職や異動が組織の運営リスクに直結します。「構築を担当したエンジニアが退職し、誰もシステムの全体像を把握できない状態になった」という状況は、自社開発CRMを長期間運用してきた企業で起きています。

    自社の現状課題を整理したい方は、CRM・MA導入の事前準備チェックリストも参考にしてください。

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    3. SaaS CRMを選ぶ3つの確認軸

    自社開発CRMで抱えていた課題を踏まえると、SaaS CRMを選ぶときに確認すべき軸が自然と絞られてきます。「どれだけカスタマイズできるか」ではなく、「開発なしでどこまで対応できるか」「AI活用との親和性」「移行後の定着を支えるサポート」の3点が、自社開発CRMの課題を引き継がないための判断基準になります。
     

    標準機能の範囲:開発なしで業務をどこまでカバーできるか

    自社開発CRMでは、業務フローに合わせた機能を追加するたびに開発コストが発生していました。SaaS CRMを選ぶとき、同じ構造を繰り返さないために確認すべきは機能の数よりも「開発なしで運用できる範囲の広さ」です。

    具体的には、現在の業務で使っている主要な機能(パイプライン管理・顧客データの更新・レポート作成など)が標準機能でカバーされているかを確認します。追加開発やカスタマイズが前提になっているSaaSは、自社開発CRMと同じ保守コスト構造を持ち込む可能性があります。前のセクションで整理した「残すべき仕様」かどうかの区別が、ここでも判断の基準になります。
     

    AI連携の拡張性:データをどう活用できるか

    自社開発CRMがAI活用のボトルネックになっていた企業にとって、この軸は特に重要です。CRMに蓄積した顧客データをAIでどう活用できるかを確認する際、AI機能がオプションや外部連携前提か、標準で組み込まれているかによって、将来の対応コストが変わります。

    外部のAIツールとAPIで連携する構成は、自社開発CRMでAPIのメンテナンスに追われていた状況と本質的に変わりません。CRM側にAI機能が標準搭載されていれば、そのメンテナンスはベンダー側が担います。
     

    サポート体制:移行後に現場が使い続けられるか

    移行直後の現場は、操作上の疑問が多く出る時期です。以前CRM導入が定着しなかった企業では、現場の疑問に誰も答えられない状態が定着の妨げになっていたケースがあります。サポートへの問い合わせ窓口の広さ・対応速度・言語対応は、定着のスピードに直結します。

    また、SaaSベンダーが提供するサポートに加えて、導入支援を担うパートナー企業のエコシステムがあるかどうかも確認ポイントです。自社内に運用担当者を置きにくい場合、外部のパートナーと組んで移行・定着を進められる環境があるかどうかが、移行プロジェクトの成否に影響します。

    この3軸をもとに具体的な製品を比較したい方は、【2026年】CRMおすすめ10選を比較|AI時代の失敗しない選び方も参考にしてください。

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    4. 自社開発CRMからSaaSへ移行する進め方

    自社開発CRMからSaaS CRMへの移行は、スコープを絞ったフェーズ分割で進めることが現実的です。全機能を一度に移行しようとするとプロジェクトが重くなりますが、第1フェーズを特定業務に絞ることで、2〜3か月での完了が見えてきます。移行を前に感じる不安の多くは、このプロセスの実態を知ることで解消されます。
     

    移行前によくある3つの不安を解消する

    まず「今のデータが消えてしまうのでは」という懸念です。「過去の商談データや顧客の行動履歴は重要な資産であり、それが失われたときのことを考えると怖い」という感覚は、長年運用してきた企業ほど強くなります。ただし、この不安は移行の手順を具体的に把握することで解消できるケースがほとんどです。CSVによるデータエクスポート・インポートや、システム間の連携設定など、実際の手段があります。データ移行の具体的な方法については、別記事で詳しく解説しています。

    次に「自社仕様が再現できないのでは」という懸念です。これは前のセクションで扱った「仕様の棚卸し」と深く関係しています。移行後に必要な機能の多くはSaaS CRMの標準機能・設定・外部連携で対応できますが、「今の機能をすべて再現する」ことを前提にすると成り立ちません。「何を再現すべきか」を先に整理することが、この不安への向き合い方になります。

    3つ目は「プロジェクトが重すぎて組織が耐えられないのでは」という懸念です。「移行=大規模なシステム刷新」というイメージが先行しがちですが、実際の移行プロジェクトでは全機能を一度に移行するケースは少なく、スコープを絞った段階的な進め方が標準的です。
     

    フェーズを絞って始める。移行プロジェクトの現実的な進め方

    SaaS CRMへの移行プロジェクトは、全面置き換えを一気に行うものではありません。まず「何を移行するか」のスコープを絞ることが、プロジェクトを動かす最初の決断です。

    たとえば、第1フェーズとして「営業パイプライン管理と顧客データの一元化」だけを対象にし、MAとの連携やカスタムレポートは第2フェーズ以降に回すという進め方があります。スコープを小さく絞ることで、プロジェクトの複雑度が下がり、現場への負荷も抑えられます。

    移行支援の現場では、以下のステップで進めるケースが見られます。

    1. スコープの確定:第1フェーズで移行する機能・データの範囲を決める。この決定がプロジェクト全体の工数を左右する
    2. 週次定例の設置:進捗と課題を毎週確認し、今週完了すべきことと次週の論点を明確にして進む
    3. 並行運用期間の設計:新旧システムを一定期間並行稼働させ、現場が慣れてから完全切り替えを行う。一斉対応のリスクを抑えられる

    期間の目安は、第1フェーズで2〜3か月を一つの目安とします。既存システムとの連携が多い場合や大規模なデータ移行を含む場合は、並行運用期間を含めて6か月以上になることもあります。いずれも目安であり、自社の規模・連携システムの数・移行するデータの複雑さによって変わります。「どれくらいかかるか」は、スコープを決めた後に具体的な見積もりとして把握できるものです。

    CRM移行プロジェクトに役立つCRM・MA導入の事前準備チェックリストをご用意しています。プロジェクト計画の参考にご活用ください。

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    5. 自社開発CRMからSaaS CRMへの移行に関するよくある質問

    Q. 自社開発CRMからSaaS CRMへの移行にかかる期間はどれくらいですか?

    スコープを絞った第1フェーズであれば、2〜3か月が一つの目安です。既存システムとの連携が多い場合や大規模なデータ移行を含む場合は、並行運用期間を含めて6か月以上になることもあります。期間はスコープの広さと複雑さによって変わるため、移行する範囲を決めた上で具体的に見積もることが必要です。
     

    Q. 自社開発CRMに蓄積したデータはSaaS CRMに移行できますか?

    適切な手順を踏めば移行できます。CSVによるエクスポート・インポートや、システム間の連携設定によるデータ同期など、複数の方法があります。移行リスクを抑えるために、一定期間の並行運用を設けながら段階的に進めるアプローチが多く取られています。データ移行の具体的な方法については、別記事で詳しく解説しています。
     

    Q. SaaS CRMは自社固有の業務フローに対応できますか?

    多くの業務要件は、SaaS CRMの標準機能・設定・外部連携で対応できます。「今の機能をすべて再現できるか」より先に「本当に必要な機能はどれか」を棚卸しすることが前提になります。棚卸しをした上で標準機能との差分を確認することで、移行の現実的な難易度が見えてきます。
     

    Q. 自社開発CRMとSaaS CRMのコストはどう比較すればよいですか?

    月額ライセンスだけでの比較は、実態を反映しにくいことがあります。エンジニアの保守工数・技術的負債の解消費用・AI連携への対応コスト・担当者退職時のリスクを含めたTCO(総所有コスト)で、中長期のスパンを想定して比較することで、より現実に即した判断材料が得られます。
     

    まず触れることから始める

    自社開発CRMの課題を整理し、移行の判断軸も見えてきたら、次のステップは実際に触れてみることです。製品比較は、仕様書や機能一覧だけでは判断しきれないことがあります。実際の画面を触り、自社の業務フローをイメージしながら確認することで、「この機能で対応できるか」「この操作なら現場に定着できそうか」という感触が得られます。移行を決定する前に実際の使用感を確かめることで、机上の比較では気づけなかった判断材料が見つかります。

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