説得力のある提案とはどのようなものでしょうか?
商談は「お客様は自分(自社)の利益が最大になるよう合理的に判断し意思決定を行う」ことを前提に進められます。しかし現実の商談では、どれだけ先方に有利な提案をしても、よくわからない理由で拒否された経験がある営業担当者も多いのではないでしょうか。
実は人間の脳は、かならずしも合理的な判断をするようにはできていません。非合理な意思決定をする脳の仕組みは、行動経済学などによって解明され、その成果の一部は心理学テクニックとして、広告やマーケティングの領域でも導入されています。
TVのカメラアングルやスーパーの試食販売、顧客のリスクに訴えかける営業トークなどの心理学的な裏付けを知れば、より的確に実践できるでしょう。
本記事では数多くの心理学テクニックの中から代表的なものと活用事例を紹介します。心理学テクニックを活用することを通じて、お客様と深い信頼関係で結ばれた、成果につながる営業を目指しましょう。
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営業で心理学テクニックを活用するべき理由
近年の脳機能の研究から、人間には2種類の思考システムがあることがわかっています。
- 迅速で自動的な思考(多くは自分が考えていることにすら気づかない)
- 論理的・分析的に考える遅い思考(自分が「考えている」と意識している時の思考)
1の「迅速で自動的な思考」は人間の無意識下で行われる思考で、以下のような思考に代表されます。
- とっさにブレーキを踏む
- 人の表情を見て一瞬で「怒っている」と判断する
- 初対面の人に「合わないな…」と感じる
- 会社の住所や電話番号を聞かれて即答する
2 の「論理的・分析的に考える遅い思考」は分析的システムとも呼ばれ、以下のような思考に代表されます。
- 資料を読む
- データの数値を見て分析する
- 会議で考えながら話をする
- プロジェクトを立案する
営業活動において、提案やメールなど言葉を媒介とした活動は、分析的システムに働きかけようとするものです。しかし人間の意思決定に大きな役割を果たしているのは、実は1番目の無意識になされている思考です。
母国語で話ができるのも、何も考えずに駅から家まで帰れるのも、時間をかけて習慣化された結果です。無意識になされている思考や行動は、定着するまでには時間がかかります。短時間の商談で相手の無意識に働きかけるには、心理学の洞察を活用したテクニックの助けを借りる必要があります。
ここで紹介する心理学テクニックは、いずれも通常の営業活動ではあまり焦点を当てていない「顧客の無意識」に注目したものです。統計やエビデンスに基づく論理的な営業活動とともに、無意識に働きかける心理学テクニックを活用してください。
心理学テクニックを活用する3つのメリット
テクニックを見ていく前に、心理学テクニックを活用する3つのメリットを押さえておきましょう。
- 顧客と信頼関係を構築できる可能性が高くなる
- 顧客の行動に影響を与えられる
- 認知バイアスを知ることで自分の失敗を回避できる
1. 顧客と信頼関係を構築できる可能性が高くなる
営業では顧客と信頼関係を結ぶことが重要です。しかし初対面の見込み客に、営業にやってきたあなたを「信頼できる人だ」と感じてもらうには、どうしたら良いのでしょうか?
もちろん、提供する商品やサービス自体が相手に価値を提供できることは大前提にあります。そこからさらに信頼を得るには、窓口となる営業担当者者の対応が重要となります。
例えば、自分が風邪を引いて病院に行った時を想像してみてください。パソコン画面に表示されている電子カルテから目を離さないまま「どうされました?」と事務的に聞いてくる医師と、あなたの目を見て、安心させるように微笑みながら「どうされましたか?」と聞いてくる医師がいたら、あなたはどちらの医師を信頼するでしょうか?
患者の眼を見て安心させようとする医師は、意識的か無意識的かはともかく心理学のテクニックを用いています。相手が一瞬で「話しやすいお医者さんだな」「この人なら安心できるな」と思ってもらえるようなテクニックを使って、信頼関係(ラポール)を構築しているのです。
2. 顧客の行動に影響を与えられる
営業の最終目的は、自社が販売する商品やサービスを購入してもらうことです。別の言い方をすれば、購入に向けて、見込み客を動かすのが営業の役割と言えます。
営業経験のある人なら、人の行動を変えることがとんでもなくむずかしいという現実を知っているでしょう。しかし、通いなれた道が工事中なら迂回路を使うように、提案の仕方を変えて環境に働きかけることで、人の行動が変えやすくなります。
例えばマラソンの中継で先頭を走るランナーのランニングシューズが映りこむことで、「あのランニングシューズを履けば、風を切って早く走ることができる」というイメージが視聴者の無意識に刷り込まれていきます。ここではランニングシューズの機能やエビデンスを説明するよりも、「走っている自分の姿」をイメージさせる方が、消費者の購買行動に影響を与えています。
心理学テクニックを知れば知るほど、有名な広告が心理学テクニックを徹底的に活用していることがわかるようになります。本稿を最後までお読みいただき、心理学テクニックの基本を理解したところで、ぜひ有名な広告がどんなテクニックを使っているかを確かめてください。そして、その中から自社に応用できるものがあるかどうかを探してください。
3. 認知バイアスを知ることで自分の失敗を回避できる
認知バイアスとは、無意識の思考のクセのようなものです。人の判断を誤らせる原因となる場合もあるため、自らの認知バイアスの傾向をあらかじめ知っておけば、営業の失敗を回避する余地が生まれます。
例えば、「部長」という役職から先方を男性だとばかり思い込んでメールのやり取りをしていたら、対面の商談で女性だったことが判明して気まずい思いをしたことはないでしょうか? また、ここまでやってきたのだから、と見込みが薄い商談相手に時間ばかりかけて、結局契約に至らなかった経験は?多くの失敗には認知バイアスが絡んでいます。認知バイアスを理解しておけば、自分が陥りやすいバイアスにも気づくことができます。
営業で役立つ心理学テクニック10選
心理学テクニックや認知バイアスは非常に多くの種類があります。ここではその中から営業活動で実際に使える心理学テクニックを以下の4つのカテゴリに分けて、紹介します。
- 信頼関係(ラポール)の構築に役立つ心理学テクニック
- 人を動かす要因に焦点を当てた心理学テクニック
- 無意識(ヒューリスティック)に働きかける心理学テクニック
- 判断を誤らせる認知バイアス(先入観)に焦点を当てた心理学テクニック
1. 信頼関係(ラポール)の構築に役立つ心理学テクニック
ビジネスやコーチングなど、世界で広く受け入れられているNLP(Neuro Linguistic Programming:神経言語プログラミング)では、コミュニケーションの根本に「ラポールの構築」に置いています。ラポールの中でもペーシングとバックトラッキングは、営業で顧客との間に信頼関係を築くテクニックとして、多くの人がビジネスで活用しています。ここではその中から簡単に応用できるペーシングとバックトラッキングを紹介します。
ペーシング
ペーシングは対面する相手の声の高さや話すスピードなどの「話し方」や深刻な雰囲気などの「状態」「呼吸」を合わせることを指します。 目を見て、相手の状態を把握し、話に耳を傾けていると、相手の呼吸が感じとれます。「落ち着いた深い呼吸か」「あるいは浅い呼吸か」「その浅い呼吸は緊張によるものか」「何かいらだっていることがあるのか」などに意識を向けます。
小さな声でゆっくり話す顧客には、同じように小さな声でゆっくり話すだけでも、相手は心の構えを一部解く傾向があります。なぜなら人間の無意識は「自分の同類」を見つけることで安心する傾向があるのです。自分のペースを相手のペースに合わせることで、信頼関係の土台が形成できます。
バックトラッキング
バックトラッキングは相手の言葉をおうむ返しにするテクニックです。
例えば顧客が「当社が今、一番力をいれているのは、当該エリア内でいかに差別化を図るかということなんです」と話していれば、「なるほど、このエリアで御社の差別化に取り組んでおられるのですね」というように、言葉の一部を繰り返すことで、顧客は「自分の言葉が受け入れられている」という安心感を持ちます。
バックトラッキングは広く応用されていますが、誤った使い方に「電話営業などで、機械的におうむ返しをする」例があります。単純に相手が何か言うたびに聞き手がおうむ返しをするのは逆効果です。
相手の話に耳を傾け、呼吸に気をつけていれば、相手が「重要だ」と思っている部分がわかってきます。相手の話のポイントを見極めたうえでバックトラッキングのテクニックを使うことが重要です。 相手の意見にあわせてバックトラッキングを使えば、「重要だと思っていることを共感してもらえた」「意見を受け入れてもらえた」と相手に感じてもらえます。
特に経験がまだ浅く、あいづちがうまく打てない、先方の話を聞いていると「そうなんですか」「そうなんですね?」ばかりになってしまいがちな人には、ぜひ身につけてほしいテクニックです。
2. 人を動かす要因に焦点を当てた心理学テクニック
半世紀以上も前に発見され、今なお効果が失われず、マーケティングの基本として利用されている心理学の原理から「返報性の原理」「一貫性の原理」「単純接触効果」の3つを紹介します。
返報性の原理(ドア イン ザ フェイス テクニック)
心理学者チャルディーニは人の行動に影響を及ぼす要因として「返報性の原理」が働いていることを明らかにしました。
返報性の原理は「人間は好意を示されたら、お返しをせずにはいられない」という心理です。この心理を利用して、人は古来から争いを避けるために贈り物をし合ってきました。
今日でもスーパーでの試食販売や、初回無料サービスはこの「返報性の原理」を応用したものです。営業の場面でも「お客様だからこのサービスをお付けいたします」「お客様だけに特別な情報をご提供します」など、顧客が求めるものをプレゼントしてあげてください。
一貫性の原理(フット イン ザ ドア テクニック)
「人間が、自分の行動に一貫性を保とうとする傾向」に着目した心理学者が、フリードマンとフレイザーです。フリードマンとフレイザーの研究をもとに、フット イン ザ ドアテクニックが生まれました。フット イン ザ ドアテクニックとは、最初に相手にきっかけとなる行動を取ってもらうことで、最終的に目標の行動を取ってもらう確率を上げるというものです。
例えば、あなたの会社では工場の製造補助機械を扱っているとします。その製造補助機械を使うことで工場の安全性は高まるのですが、なかなか必要性を理解してもらえません。そんな時は、安全を喚起する小さなステッカーを何枚か貼らせてもらうことから始めます。
ステッカーを貼るという行為を通じて、顧客が「自社は安全管理に熱心な会社だ」という自己イメージを持つようになると、次に安全性向上に向けての勉強会を開かせてもらえる可能性は高くなります。
このように、 直接目標を達成しようとするのではなく、まずは相手の取りやすい行動を依頼します。その小さな行動が相手の行動変容のきっかけとなり、最終的に自発的に目標達成できるようにする、というテクニックが、フット イン ザ ドアテクニックです。
単純接触効果(ザイアンス効果)
心理学者ロバート・ザイアンスが発表したことから、ザイアンス効果とも呼ばれているのが「単純接触効果」です。 単純接触効果は、意識に上らなくても繰り返し接触することで、好印象が高まるという理論に基づいています。
例えば、毎日目にしていた木が切り倒された、なんとなく喪失感を感じた経験があるかもしれません。人間の脳は、毎日無意識で目にしているものに、親しみを覚えるという傾向があります。
企業が電話番号を掲載したステッカーや自社カレンダーを配るのは、この単純接触効果をねらったものです。定期的なニュースレターや訪問、SNSの定期的な更新など、自社で可能な単純接触効果のテクニックが使える媒体を探してください。
ただ、やりすぎると逆に相手の拒否感を招くということも理解してください。頻繁に流れるコマーシャルを最初は好ましいと感じていても、あまりにそれが過度になるとわずらわしく感じてしまうように、ザイアンス効果も顧客の反応を見ながら活用することが大切です。
3. 無意識(ヒューリスティック)に働きかける心理学テクニック
心理学者、行動経済学者のカーネマンは、無意識で行われる脳の処理システムを「ヒューリスティック」と呼び、行動経済学の基礎を築きました。ここではヒューリスティクスを利用したテクニックを紹介します。
「利用可能性ヒューリスティック」を利用したテクニック
人間は事例がたやすく頭に思い浮かぶものほど、重要な情報だと思い込み、とっさの判断の際に判断材料にする傾向があります。
「利用可能性ヒューリスティクス」を利用して、話題のできごとと提案の内容を関連づけると提案の説得力が増します。例えば、大きな事故が起こった翌日に「利用可能性ヒューリスティックス」を利用して、自社製品は事故を防ぐ上でどのような仕組みが備わっているかに焦点を当てて説明できます。
「代表性ヒューリスティック」を利用したテクニック
「代表性ヒューリスティック」とは、人間が「自分が見たものがすべて」と思い込んでしまう傾向を指します。例えば、これまで出会った九州出身者がみんなお酒に強かったことから「九州出身の顧客もお酒が好きに違いない」と思い込んでしまうようなことです。
「代表性ヒューリスティック」の最も身近な例は、営業担当者の態度、商談における言葉の選び方や話し方に気をつけるというものです。1人の営業担当者の態度や行動が、提供する商品や企業全体の評価を決める、という考え方の背景には「代表性ヒューリスティック」が活用されています。
4. 判断を誤らせる認知バイアス(先入観)に焦点を当てた心理学テクニック
人間の思考には独特のクセがあり、合理的・論理的な思考の邪魔をすることがあります。この思考のクセは「認知の歪み」や「認知バイアス」と呼ばれ、認知バイアス逆手に取ったテクニックや、認知バイアスを取り除くテクニックが知られています。
「現状維持バイアス」を利用するテクニック
「現状維持バイアス」とは、現状を変更する方がよりも好ましい結果が得られることがわかっていても、現状維持を望むバイアスをさします。
例えば、サブスクリプションサービスで継続利用を申し出る場合は、 メリットを訴えるより、これまで利用できたサービスが使えなくなることを訴える方が効果的です。
フレーミング効果を利用するテクニック
フレーミング効果とは、同じ情報を提示する場合も、提示の仕方を変えるだけで、ちがう感情をかきたてる効果があることを指します。ここでのフレームとは、考え方の枠組みや、大きな文脈という意味になります。
特にフレーミング効果の中で注目すべきは、人間の「得をするフレームではリスクを避け、損をするフレームではリスクを冒そうとする」というバイアスです。
例えば「あなたが1万円貰えるとします。ジャンケンをして勝てばその1万円が2万円になるのですが、負ければ何ももらえません。あなたはジャンケンをしますか?」と聞かれた場合、多くの人はジャンケンをしないで1万円もらう方を選ぶでしょう。
逆に「あなたは1万円支払わなければなりません。ジャンケンをして負けたらそのまま1万円を払わなければなりませんが、勝てば支払わなくてよくなります。あなたはジャンケンをしますか?」と聞かれたら、多くの人はジャンケンをするでしょう。
しかし、最初の「勝てば2万円もらえる」ことと、次の「支払わなくてよい」はともに「1/3の確率で余分に1万円の利益を得る」ことに関してはまったく同じで、単なる言い換えに過ぎません。
これを応用すれば、顧客にリスクを取ってほしいときには「損をする」というフレームで提案すると効果を上げやすいでしょう。 例えば「この状態を放置していた場合、今後30%の確率で事態が確実に悪化します」と伝えます。
逆に、新しく何かを取り入れてほしいときには「得をする」というフレームで提案します。例えば「これまで70%のお客様から満足のお声をいただいております」と伝えることが効果的です。
ハロー効果を利用するテクニック
あるひとつの目立つ特徴についての判断に、すべての評価を一致させてしまう認知バイアスがハロー効果です。 ハローとは宗教画などで神や仏の背後に描かれる光輪のことです。神の光輪があたりを照らすように、ひとつの大きな特徴が周囲に影響を与えることを指します。
例えば、敏腕でカリスマ性のあるCEOの会社に対して「良い業績を上げているに違いない」と思い込んでしまうのもハロー効果によるものです。逆に、その企業の業績が悪いことが明らかになると、高名なCEOの評判も「それほどではなかったか」と思うようになるのも、またハロー効果です。
自社の商品やサービスに、競合にはないメリットや優れた点があれば、その点を強く推すことで、ハロー効果のテクニックが活用できます。
心理学テクニックを営業で活用する際の注意点
うまく活用すると便利な心理学テクニックですが、使うときには以下の3つのことに注意してください。
- あからさまにならないように気をつける
- 状況や対象に当てはめることが適切かどうかを考える
- 人を操作するためには使わない
1. あからさまにならないように気をつける
NLPのテクニックの中で、鏡に映ったように相手のしぐさや表情をまねる「ミラーリング」というテクニックがあります。しかしこのテクニックは相手から気づかれやすく不快に思われがちで、場合によっては逆効果になることが少なくありません。
ミラーリングばかりでなく、テクニックを使っていることが露骨にならないように気をつけます。特に 各テクニックを使い慣れないうちは、ロープレのシナリオの中に織り込んで、不自然さがないかどうかチェックして使ってください。
2. 状況や対象に当てはめることが適切かどうかを考える
ヒューリスティックスやバイアスを使うテクニックは、無条件に効果をあげるわけではありません。特に返報性の原理を用いて行われる「サービス」や「無料での提供」は、相手が「無料サービスを受けて当然」と感じているとほとんど効果がありません。
例えば、フリーミアムモデルは最初は完全無料(フリー)で提供し、課金してプレミアムサービスを提供するような販売モデルです。フリーミアムである商品やサービスを提供する場合、フリーモデルに価値を感じてもらえるように、くわしい使い方を説明するとともに、課金モデルを使うメリットを多面的に伝える必要があります。
3. 人を操作するためには使わない
誰も自分を操作されたくないと思っています。そのため多くの場合、相手は「この人は心理学テクニックを利用している」と気がつくと不快に感じます。
営業活動の最終目的は、販売したり、契約を結ぶことですが、一度売ってしまえば良いわけではありません。自社の商品やサービスを次も購入してもらうために、さらに自社のことを好きになってもらうために、顧客には自社の商品やサービスを通じて成功してもらわなければなりません。
そのために、自分が営業を行う目的は、顧客が自社の商品やサービスを通じて問題を解決することにあります。提案を行うのも、提案した商品やサービスによって相手は価値を手にできるからです。 心理学テクニックを利用するのも、間違っても相手を操作して、自分の目的を達成するためではありません。 心理学テクニックを利用することで、相手が価値をより簡単に理解できるからだという原則 を、どのような場合でもわきまえて置くことが必要です。
自社の商品理解、顧客のニーズを理解することが、心理学テクニックを利用する場合の前提であることを忘れないでください。
営業をスムーズに進めるために、自分の認知バイアスも自覚しよう
もうひとつ、認知バイアスは顧客向けの営業テクニックに活用できるばかりではありません。自分自身に当てはめることによって、判断の助けとすることもできることもできます。
ここでは以下の2つのことを説明します。
- 営業担当者として気をつけるべき認知バイアスとは?
- 認知バイアスを避けるには?
1. 営業担当者として気をつけるべき認知バイアスとは?
自分の認知バイアスを意識していれば、認知バイアスによる誤りが防げます。特に営業担当者が気をつけなければならない認知バイアスを説明します。
確証バイアス
「確証バイアス」は、自分が確信していることに対しては、それを裏付けるような情報やデータばかりが目に入って、いよいよ確信を強めてしまうことです。
例えば、自分が営業を行う会社が「見込みがある」と思いたいがために、良い情報ばかりを集め、悪い情報を無意識のうちに無視してしまうことが、確証バイアスにあてはまります。
自信過剰バイアス
「自信過剰バイアス」とは、自分はよく知っている、自分には能力があると感じてしまうことです。
経験をある程度重ねてくると「もう自分はこの業界のことはなんでもわかっている」「顧客企業のことは何でもわかっている」などと半ば無意識のうちに思い込んでしまうことがあります。そのため、知らないことがあっても「これは些細なことだ」「自分が知らないぐらいだから、無視してもかまわない」と無視したり軽視したりすることがあります。
サンクコストバイアス
「サンクコスト」とは、回収の可能性がないコストのことを指します 。「サンクコストバイアス」とは、営業担当者として時間やお金、エネルギーを費やした商談先については、この先、 うまくいかない証拠がどれだけ上がっても、それを無視して努力を続けてしまうことです。
「サンクコストバイアス」は、フランスの超音速旅客機コンコルドの開発失敗が代表的であり、別名「コンコルド効果」とも呼ばれます。コンコルドは開発途中に商業的に採算が取れないことが途中で明らかになったのですが、それまでに膨大な投資がなされていたために、結局開発が継続され、商業的に大きな失敗となってしまいました。
2. 認知バイアスを避けるには?
ヒューリスティックスの判断は、無意識下でなされるため、認知バイアスを避けることは簡単ではありません。しかし、認知バイアスを知っていることで、自分が判断ミスをしていることに気づけます。
自分が認知バイアスや先入観、偏見を持った存在であると認める
人間は誰もが認知バイアスにとらわれており、自分もまたその例外ではありえないことを理解しておく必要があります。また、自分の陥りやすい判断エラーや認知バイアスの傾向についても知っておけば、早い段階で気づけます。
メタ認知の習慣を持つ
メタ認知とは今、抱えている問題から離れて、自分の思考プロセスを客観的に眺める思考のことを指します。うまくいかなくなったらちょっと立ち止まり、自分の思考が「何を前提としているか」を見極めます。
「この顧客のニーズは〇〇だから」ではなく、自分がそう判断するのはどのようなエビデンスに基づいているのだろう、それは間違っていないのか、と考えることで誤りに気づけます。
代替案を検討する
別の考え方はできないか、それ以外の方法はないか、と考える習慣をつけることが重要です。自分1人の思い込みに陥らないために、チームでブレインストーミングをしたり、検討する時間をかならず持ったりするようにします。
心理学テクニックを知り、顧客への提供価値を高めよう
心理学テクニックは多くの種類があり、活用の仕方もまた多様です。そのすべてを頭に入れて、実際に活用しようと思ったとしても、なかなかできることではありません。
しかし、その中のいくつかでも知っていれば「あの時のお客様の反応は、これが理由だったのか」と理解したり、「次の商談ではこの言い方を使ってみよう」と考えたりする助けになります。また、自分の陥りやすい認知バイアスを知ることを通して、失敗を避けることもできます。
また、営業ロープレの中で使っているシナリオの中に、心理学テクニックを盛り込むという利用法もあります。自然に心理学テクニックが盛り込めているかどうか、営業シナリオの中で確認してみましょう。
そうやって心理学の理解と実践を繰り返していけば、商談相手との心理的距離を近づけやすくなり、最終的には提供できる価値が高まっていくはずです。
営業は、人間対人間であるからこその難しさも、また同時に楽しさや、やりがいもあります。営業が苦手と感じる人も、人間の心理の傾向を知ることを通じて対策を立て、営業の楽しさを感じてみてください。