営業担当者にはさまざまな必須スキルがあります。 プレゼン能力や情報収集能力、行動力、トークスキル、レジリエンス(折れない心)、粘り強さ…いずれも大切な能力ですが、その中で特に重要なのが 「聞く力」です。 顧客の言葉に耳を傾け、問題点や課題、悩みや困りごとを聞き出す「質問力」は、営業担当者にとってはきわめて重要なスキルです。
質問力というのは、矢継ぎ早に質問を繰り出すことではありません。相手の話に耳を傾けながら、あいづちを打ったり、うなずいたりするのはもちろん、要所要所で適切な質問をさしはさみ相手からどれだけ深くニーズを引き出せるかが大事なのです。
この記事では、質問力を高めるオープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョンについて解説します。営業現場での活用方法やトレーニングの仕方も説明しますので、ぜひ参考にしてください。
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質問形式は「オープン」と「クローズド」の2つに分類できる
一般的に、全ての質問はオープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョンのどちらかに分類できます。
オープン・クエスチョンとは、質問された人が何を答えても構わないような質問形式を指します。 例えば「商品をお使いになっていかがでしたか?」「この動画をご覧になって、どう思われましたか?」など、相手に自由に答えてもらうことを目的とした質問です。
クローズド・クエスチョンとは「商品をお使いいただけましたか?」「サービスをご利用になったのは何日間でしたか?」などのように、イエス・ノー、または「〇〇」と言い切って、対話をそこで終わらせることができる質問です。
以下に、商談の場でよく使われるクローズド・クエスチョンとオープン・クエスチョンの例を挙げます。
クローズド・クエスチョンの例 |
オープン・クエスチョンの例 |
サービスはご満足いただけましたか? |
サービスをご利用いただいて、いかがでしたでしょうか? |
今後、お使いいただけますか? |
今後、どのような場面でお役に立てますでしょうか? |
この製品はお気に召しましたか? |
お使いいただいてどのように感じられたか、お聞かせいただけますか? |
何かご不明な点はございませんでしたか? |
お困りごとを挙げていただくとしたら、どのようなことがございますか? |
不都合な点がございましたか? |
どのように改良すれば、もっと良くなるとお考えになられますか? |
(相手の話を聞いて)それは~ということですか? |
(相手の話を聞いて)もう少しその点について教えていただけますか? |
オープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョン、それぞれのイメージをつかんだところで、特徴をくわしく見ていきましょう。
オープン・クエスチョンとは?
オープン・クエスチョンは、英語では「open-ended question(開かれた質問)」というように、聞かれて答えておしまいではなく、キャッチボールのように続けられるような質問を指します。オープン・クエスチョンの特徴を理解し、メリットとデメリットを整理しておきましょう。
オープン・クエスチョンの特徴を理解しよう
オープン・クエスチョンの主な特徴は以下の3点に集約できます。
- 回答者により多く話してもらえる
- 質問者はあくまで聞き役に徹し、会話の主導権を回答者にゆだねられる
- 回答者のより深い考えを引き出すきっかけを作れる
オープン・クエスチョンは相手の話を受けて「それはどういうことですか?」や「そこにはどんな強みがありますか?」「そうだとすると、これからどんなリスクが考えられますか?」のように、話を続けていける質問形式です。
会話の流れをあらかじめ予想しておくことが難しいため、思ってもみなかった方向に話が進んでいくこともあります。
反面、相手の話を制限せずに自由に話してもらうことを通じて、質問をきっかけに相手はより深く考えるように促せます。その結果、表面的な会話では引き出せないような重要な情報を得られることがあります。
オープン・クエスチョンのメリット
質問者と回答者の双方のメリットを整理してみましょう。
質問者にとってのメリット |
・自分が知らなかった情報が得られる ・回答者の問題意識や感じ方を深く理解できる ・回答者を理解しようとする姿勢を見せることができる |
回答者にとってのメリット |
・質問者が傾聴している様子を見ることで安心して話せる ・質問をきっかけに、より深く考えることができる ・自分が理解されたことで深い満足感が得られる |
質問者&回答者にとってのメリット |
・コミュニケーションを深め、信頼関係が構築されやすい |
オープン・クエスチョンのデメリット
では、オープン・クエスチョンの質問者と回答者それぞれのデメリットも押さえておきましょう。
質問者にとってのデメリット |
・コミュニケーション自体が目的となってしまい、何も決められない場合がある ・話の向かう方向を質問者でコントロールしづらいため、商談から話がずれてしまう可能性がある |
回答者にとってのデメリット |
・信頼関係が構築されていない段階では、答えにくい質問となる可能性が高い |
クローズド・クエスチョンとは?
クローズド・クエスチョンは英語では「closed-ended questions」となり、答えることによってその話題が終了するような質問のことを指します。クローズド・クエスチョンの特徴を理解したうえで、メリットとデメリットを押さえておきましょう。
クローズド・クエスチョンの特徴を理解しよう
クローズド・クエスチョンは、基本的に「イエス」「ノー」で答えられる質問です。クローズド・クエスチョンには3つの特徴があります。
- 質問者が会話の主導権を握っている
- 確認を積み重ねている
- 回答者は「イエス」か「ノー」の選択を迫られる
クローズド・クエスチョンでは、主導権はあくまで質問者の側にあります。そのため、会話の流れを質問者がコントロールできます。
商談でひとつずつ確認を積み重ねていく際に、クローズド・クエスチョンは欠かせません。確認を積み重ねる段階でクローズド・クエスチョンをおろそかにしていると、後で「言った」「言わない」の水掛け論になる可能性もあります。
反面「ご利用いただけますか?」「ご検討いただけますか?」「ご契約いただけますか?」など、選択を迫られる場合が続くことで、回答者はストレスを感じる場合もあります。
クローズド・クエスチョンのメリット
クローズド・クエスチョンのメリットを、質問者、回答者双方の立場から見ていきましょう。
質問者にとってのメリット |
・回答者の意思を確認しながらプロセスを先に進めることができる ・問題がどこにあるのか把握しやすい ・計画通りに話を進められる |
回答者にとってのメリット |
・自分の意思を決定するきっかけが得られる |
商談において、顧客の理解や同意はひとつひとつ確認しなければならない重要なポイントです。イエス、ノーで明確化されるクローズド・クエスチョンは、避けては通れない質問です。
営業担当者が「これは大丈夫ですか?」「ここは問題ありませんか?」と確認することで、顧客の問題点を洗い出すこともできます。
また、クローズド・クエスチョンの主導権は質問する側にあるため、会話の中に適宜クローズド・クエスチョンを織り交ぜることで、営業担当者は営業や商談の場で計画通りに話を進められます。
クローズド・クエスチョンのデメリット
クローズド・クエスチョンには以下のデメリットがあります。
質問者にとってのデメリット |
・質問を重ねると、尋問のようになってしまう ・回答者の思考を一定の方向に誘導してしまうケースがある |
回答者にとってのデメリット |
・質問が続くとストレスを感じてしまう |
クローズド・クエスチョンは一問一答形式で話が切れやすいため、どうしても質問を重ねることになってしまいます。途中でオープン・クエスチョンを混ぜたりしないと、まるで取り調べのようになる可能性もあるのです。
またクローズド・クエスチョンは「これは正しい考えだとは思いませんか?」「こうすべきだと思いませんか?」のように、自分の望む方向に相手を誘導して回答者を操作することも可能な質問方式です。
回答者はその場では「そうですね」「そう思います」とイエスを重ねるかもしれません。しかし、後日冷静になった顧客から意見を覆される可能性も。自分本位の質問を重ねるのは本質的ではないので注意しましょう。
オープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョン、どう使い分ける?
オープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョンは、それぞれ特徴も異なれば、メリット・デメリットも異なります。どちらか一方ではなく、両方をうまく組み合わせれば、商談を進めやすくなるでしょう。有効な使い方を、商談の段階ごとに見ていきましょう。
オープン・クエスチョンの活用シーン
商談の各段階で、オープン・クエスチョンの有効な使い方を見ていきます。
アイスブレイク
「最近、いかがですか?」「調子はどうですか?」など、気軽な調子で進めていきます。相手の返答を受けて「~というと?」「もう少し詳しくお聞かせくださいませんか?」とオープン・クエスチョンを重ねていくことで、相手の口をほぐすことができます。気軽な会話の中に意外な情報が混ざっていることもあります。
ヒアリング
「その問題を御社がどのように見ておられるのか教えていただけませんか?」「リスクにはどのようなものがあるでしょうか?」など、オープン・クエスチョンによって会話を深めていけるため、通り一遍では聞き出せない、相手の深い問題意識などを聞き出すことができます。
プレゼンや提案
「仮に御社がこのソフトを導入されたとしたら、どのような機能が必要だと思われますか?」など、顧客が知識を持つ分野でオープン・クエスチョンを投げかけることで、前向きに検討してもらうきっかけ作りができます。
クロージング
「今後、決済フローに進めていただくために、弊社で準備しておいた方が良い資料などはどのようなものがありますでしょうか?」など、 オープン・クエスチョンを通じて相手の希望や問題意識、障壁などが共有できます。 また、購買担当者との信頼関係を強固にし、稟議以降の過程を共同で進められるようになります。
フォローアップ
「ご使用感はいかがでしたか?」「使いにくいと感じられる部分がありましたら、ご教示ください。」など、デモや製品の使用後の感想を自由に述べてもらうことを通して、長続きする関係性が築けます。
クローズド・クエスチョンの活用シーン
商談の各段階別に、クローズド・クエスチョンの有効な使い方を見ていきます。
アイスブレイク
初対面に近く、信頼関係が構築できていない相手とは、相手が答えやすいであろうクローズド・クエスチョンを設定し、投げかけることで、会話の口火を切ることができます。例えば、相手が使っているマグカップにプロ野球のロゴが入っているのを見つけたら「プロ野球がお好きなんですか?」とクローズド・クエスチョンを投げかけてみると雑談のきっかけになりますよね。
ヒアリング
「実際にそのプロジェクトには何人の方が関わっておられるのですか?」などのオープン・クエスチョンでさまざまなことを聞き出したあと、「資材管理に問題があるとお考えですか?」とクローズド・クエスチョンで問題の箇所が特定できます。
プレゼンや提案
「X社ではこのような解決策が取られました。その理由がおわかりになりますか?」「ご家族には喜んでいただきたいですよね?」など、相手が答えやすいクローズド・クエスチョンを使いながら、提案に向けた話の流れを作ることができます。
クロージング
「ご決心いただけましたか?」「ご契約をしていただけますか?」のように、明確にしておかなければならないポイントを、クローズド・クエスチョンを通じてはっきりさせることができます。
フォローアップ
「満足していただけましたか?」「カスタマーサポート部門の応対はいかがでしたか?」など答えやすいクローズド・クエスチョンで、顧客とコンタクトを続けることができます。
顧客の状況に合わせた質問を重ね、関係構築を目指そう
商談は、営業担当者が自社商品をアピールする場ではありません。商談相手の状況を理解し、ニーズを汲み取るための場です。オープン・クエスチョンを適宜差しこむことで、より相手の状況を理解しやすくなるでしょう。丁寧にオープンクエスチョンを重ね、相手が自分でも気づいていなかった課題を引き出せるとベターでしょう。そこまで行けば、エンゲージメントが向上し、成約に繋がる可能性も高くなります。
もちろん、クローズド・クエスチョンも商談の中では欠かせません。合意形成の上でどこまで合意ができているかを営業担当者が把握するためにも、クローズド・クエスチョンで要点を押さえておかなければなりません。
しかし質問があまりに続くと、相手は尋問されているように感じます。そのような時は、あいづちに近いオープン・クエスチョンの「というと?」や「もう少しお聞かせいただけますか?」などをはさみ、質問が続いていることを意識させないようにしましょう。
話し上手は聞き上手、という言葉もあります。トレーニングによってオープン・クエスチョンに慣れ、聞き上手な営業担当者を目指してください。