顧客満足度向上は、今や企業にとって欠かせない目標の1つです。また、顧客満足度向上への取り組みは一部の部署で完結するものではなく、企業全体で一丸となって取り組む必要があります。
社内の意識統一に向けて、最もわかりやすく取り入れやすいのがスローガンの作成です。スローガンは企業としての方向性を社内外に示すのに役立つものですが、本質が伝わらなければ意味がありません。今回は、満足度向上のために役立つスローガンの作り方と、具体的な事例を紹介します。
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顧客満足(CS)向上におけるスローガンの役割とは?
スローガンは企業の経営方針を示すものであり、社内だけでなく社外関係者が受ける印象にも影響します。顧客満足度向上を目的としたスローガンであっても、そのほかにもさまざまな役割があることを理解しておきましょう。具体的には以下のような役割が挙げられます。
1. 経営方針を社員と共有する
スローガンを設定するそもそもの目的は「認識の共有」にあります。シンプルな言葉で目的や方向性を示すことで、包括的な企業の姿勢を伝えます。
2. 企業イメージを明確にする
上述したように、スローガンには企業の経営方針が反映されます。企業のビジョンやあり方などが表現され、ブランドイメージに直結します。影響の大きさは社内スローガンとして内部のみにとどめるのか、社外まで公開するのかによって異なりますが、たとえ社内のみの共有であっても、社員に自社に対する認識をあらためてもらうきっかけになるでしょう。
3. 自社独自のストーリーを盛り込み、競合との差異化を図る
社外にスローガンを公表する場合、オリジナルのスローガンは他社との差異化も期待できます。自社の独自性、例えば顧客に対する想いや何を提供しようとしているのかという姿勢が伝わるよう工夫することで、ストーリー性のあるスローガンが生まれます。
4. 顧客ロイヤリティの向上
スローガンは社内の意思統一だけでなく、社内の取り組みとして伝えることで顧客からの信頼を得ることにもつながります。スローガンを通して、どのような姿勢でサービス改善に取り組むのか、どのような意図をもって対応しているのかなどをアピールできるチャンスです。スローガンに内包した思いが顧客に伝わることで、顧客ロイヤルティ向上が期待できます。
顧客満足度向上に向けたスローガンづくりのポイント6つ
何度もお伝えしているように、スローガンは企業の方針が現れるものです。語感やイメージだけで作ってしまうと、ブランドイメージとのズレが起きる可能性があります。効果的なスローガンを作る6つのポイントに沿って、スローガンを考えてみましょう。
1. 目的を決める
スローガンは何のために作るのかを明確にしましょう。顧客満足度向上を目指すと言っても、それだけでは上位概念すぎて具体的な行動イメージが持ちにくいでしょう。何を達成できれば顧客満足度を向上できるのか、KPIを共有するところから始めます。
2. 対象を定める
スローガンの方向性を決めるうえで、誰をメインの対象とするのかを決めるのも重要です。社内向けといった大まかな対象ではなく、部署ごとなのか、社員全員なのか、社外まで公表するのかなど、できるだけ対象となり得る関係者を洗い出しておきましょう。
スローガンの作成を外注したり、社員から集めたりする場合でも、対象を明確に伝えることでより良いアイデアが出てくる確率が高まります。アプローチする対象を決め、より相手に届きやすい言葉を考えましょう。
3. テーマを決める
顧客満足度向上に向けたスローガンをつくる際には、その時々に合ったテーマも必要です。特に社員からアイデアを集める場合、テーマがなければ、それぞれの立場で考えることになります。結果として、統一感がなかったり、別の立場では理解できなかったりするスローガンになってしまうかもしれません。多くの提案から絞り込む場合、本質的な目的からズレないためにも、KPIにそった明確なテーマを提供することが大切です。一方、トップダウンで作成する場合にも、指針を伝える必要があるため、目的を表すテーマの設定は欠かせません。近年では、従業員満足まで考慮したスローガンが良く見られます(詳しくは事例紹介にて解説します)。幅広い視点からテーマを絞り込んでみましょう。
4. 期間を定める
スローガンを作る前に、実際に使用する期間を事前に定めておきましょう。企業スローガンとして長期で使用するのか、年単位、もしくは月単位で見直すのかによっても、打ち出す内容が変わります。社外にまで公表する場合には、長期的に使用されるケースが多いかもしれません。長期的な使用を目的とするのであれば、これまでのブランドイメージとかけ離れないように注意が必要です。短期の場合には、その都度KPI値を見直しながら、KGIに近づけるための継続性のあるスローガンを考えてみましょう。
5. オリジナルで明快なメッセージにする
目的や対象を明確にし、テーマや期間を設定したら、いよいよスローガン作成に着手します。このとき、たくさんの意図を盛り込もうとすると、かえってわかりづらくなってしまいます。スローガンのメリットは、短文で明快に目的を伝えることにあります。複雑なスローガンは相手に響きにくいため、明快で定着しやすいメッセージにするとよいでしょう。できるだけ短い言葉で、対象に伝わる用語を意識します。特に、オリジナル性とユーモアのあるスローガンは、注目を集めやすく、心に残りやすくなるでしょう。キャッチーなスローガンにすれば、ブランドイメージ強化として差別化にも役立ちます。このとき、できるだけ前向きな印象のある言葉を選ぶことも大切です。ネガティブなメッセージは社員のモチベーションにも影響します。ミスをカウントするような「失点方式」ではなく、成果につなげるような「得点方式」のメッセージを考えてみましょう。
6. スローガンに合ったアクションプランの設定と成果測定
スローガンは掲げるだけでは意味がありません。スローガンの作成と同時に、メッセージで表した本質的な目的の達成を目指すために、明確な施策を取り入れる必要があります。標語作成を慣例行事のようなイベントで終わらせず、スローガン作成と施策の実施はセットで考えましょう。また、施策を実施したら、その成果が出ているかを測定することも大切です。スローガンの作成は、KPIを達成に近づけることが本来の目的であることを忘れてはいけません。特にスローガンを短期で使用する場合には、定期的な顧客満足度測定でPDCAを回し、確度を高めていきましょう。
顧客満足度向上に直結したスローガンの事例
企業風土や対象によって、響く言葉が変わるため、それぞれの条件に合ったスローガンの作成が求められます。とはいえ、具体的にどんなメッセージが有効なのか迷うこともあるでしょう。参考として、国内企業が掲げたスローガンの事例を見てみましょう。
「聴こう」お客様の声 「動かそう」お客様の心/コベルコシステム株式会社(2020年度)
ITコンサルティングやシステムインテグレーションを提供するコベルコシステム株式会社では、CS経営を推進し、年度ごとに顧客満足度向上のためのスローガンを設定しています。例年の方向性から、社員の姿勢を問うスローガンが多く見られます。
過去には“満足から感動へ 期待を超える『価値』を作り出そう(2019年度)”、“信頼は熱意と誠意の積み重ね(2018年度)”、“ともに見よう!お客様の視線のその先を”といったスローガンがあり、いずれも社員の応募作品から投票形式で決定されたものです。
社員の応募で良質なスローガンが提示されるということは、企業方針が社内で明確に伝わっており、テーマとして共有されているからでしょう。社員自らが提案し、その姿勢を伝えることで、消費者に誠実な印象を与えることが期待できます。
顧客満足 落とすは簡単 上げるは至難 みんなで築こうクボタのCS/株式会社クボタ計装
計量機器・計量システムの設計・製造・販売を行う株式会社クボタ計装では、創業50周年を迎え、「CS標語 日めくりカレンダー」を作成しました。このカレンダーには、クボタ計装の社員から集められたスローガンの中から、審議により選定された31作品が掲載されており、そのうちのひとつとして、公表されたのが上記のスローガンです。
“一人が不用意な言動をすることで簡単にCSは低下します。グループ全員が意識をもって築き上げなければなりません。”といった想いがこの標語に込められています。明快でわかりやすく、企業全体の姿勢を語るスローガンとなっており、社名が入っていることから社員のロイヤルティ向上も期待できるでしょう。このスローガンを含んだ日めくりカレンダーは社員の意識向上とともに、企業風土の熟成を目的として全国の拠点に配布されている点にも注目です。毎日カレンダーにそって社員が唱和し、意識を高めています。
参照:50周年記念 CS標語日めくりカレンダー(作者インタビュー)|クボタはかり.net
応える。伸ばす。間接業務ソリューション/NTT西日本(2009年)
大手電気通信事業のNTT西日本では、2009年にCS向上の目的を含む企業スローガンを提示しています。
“「応える」お客様の期待に「応える」
「伸ばす」お客様の業績を「伸ばす」
「間接業務ソリューション」課題を解決し、新しい企業価値をご提供“
やや長文であるものの、複数のポイントで顧客へのベネフィットを示しているのが特徴です。顧客の視点に立って品質、サービスを向上させることを、3つの文章で表現し、なおかつ自社事業の認知度アップにもつながるソリューション業務にも触れています。顧客満足度向上とともに認知度向上につながるスローガンといえます。
参照:社会的価値の増大|NTT West Group CSR Report 2009
全力CS ~選ばれるオリコへ~/株式会社オリエントコーポレーション
クレジットカード、融資事業を主とする株式会社オリエントコーポレーションは、公式サイトでスローガンを公表しています。全力CSという端的な表現で、企業の姿勢を示しており、具体的には以下のような意図を込めるとして自社サイト内で解説しています。
“全社一丸となって、力を合わせ、お客さまの期待を超える取り組みをしていくことで、お客さまから、お取引先から、社会から、さらには私たち社員自身からも選ばれるオリコをめざしていきます。”
スローガン単体では読み取れませんが、その意図から顧客満足だけでなく、従業員満足にも触れていることがわかります。また、「オリコCS向上宣言」として企業方針も明確に打ち出したスローガンとなっています。
もっと便利に もっとやさしく もっとステキなHANEDAへ/東京国際空港ターミナル株式会社
羽田空港として親しまれる東京国際空港ターミナル株式会社では、“標準的なサービスにとどまらず、お客さまの期待を超える、もっと高いレベルのサービスを提供したい”としてスローガンを掲げています。
また、合わせてCSアクションとして具体的な8つの目標を掲げることで、より明快なメッセージを伝えている点も注目すべきでしょう。“これらのAction(行動)は、ターミナルで働くスタッフ個人、またはグループや組織が自ら何をすべきか考え、行動するための共通の指針として日々活用していきます。”とあり、スローガンには顧客満足だけでなく従業員満足、ステークスホルダー満足まで意識したものとなっています。
顧客満足度(CS)向上のためのスローガン活用における課題
スローガンはあくまで視覚化したツールのひとつであり、目的を達成するための戦略が必要です。スローガンから顧客満足度向上の成果につながるための課題点と対策を解説します。
ゴールを明確にし、施策を実施する
スローガンには目的があり、そのゴールに向かって進むための道しるべにすぎません。「スローガンを作れば終わり」ではく、目標に向かって行動に移すための施策を実施することが大切です。そのためには、指標となるKPIの設定が欠かせません。企業が元々設定しているKGI・KPIをベースに、部署ごとの達成に向けた施策を検討しましょう。
行動に落とし込む
スローガンを行動に落とし込むためには、社員全体にその意図や思いをきちんと共有する必要があります。スローガンとして表面的な言葉だけを定着させるのではなく、その裏側にある目的などをしっかり認識させることが重要です。組織力の強化につなげ、企業全体が同じゴールに向かって進むスローガンにする必要があります。
効果測定を行う
スローガンを掲げ、施策を実施しても、効果測定を行わなければ成果は見えません。顧客満足度の指標を立て、定期的に調査し、PDCAを回しながら成果を確認しましょう。その都度、目的達成に向けた施策の見直しに取り組むことが大切です。ただし、定期的な顧客満足度調査において、そのフローやプロセスにコストがかかりすぎていると、継続できない可能性があります。できるだけ簡易に実施できるよう、プロセスを見直してみましょう。
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スローガンは効果測定に向けた指標が必要
顧客満足向上につながるスローガンとして、本質的な目的を見失わないように注意しなければいけません。目的達成に近づけるためにも、KPIを設定し、テーマに沿ったスローガンを意識することが大切です。また、スローガン設定後は、目標達成のための施策を明確にし、定期的な成果測定が欠かせません。スローガン作成をイベントで終わらせないためにも、顧客満足度向上につながる仕組み作りから始めましょう。