顧客がカスタマーサポートに相談したいことがある場合、できるだけすぐに解決したいと思っている場合が一般的です。
しかしカスタマーサポートに電話しても、すぐにサポート窓口に繋がらないことも少なくありません。またメールによる問い合わせだと「いつ回答してくれるのか?」と、不安な気持ちを抱えた状態で返信を待つしかありません。顧客は待たされることで不満を溜めてしまっているのです。
そこで、チャットサポートを導入することにより顧客からの問い合わせに素早く対応でき、顧客満足度の向上が期待できます。問い合わせに対応する企業側にとっても、サポート業務の効率化が可能です。これらのメリットを発揮するには、チャットサポートの仕組み、メリットとデメリット、注意点をしっかり理解した上でカスタマーサポートの業務設計を行う必要があります。
本記事では、チャットサポートの概要、メリット、代表的なツール、自社に合ったチャットサポートシステムの選定方法を解説します。
人間中心のカスタマーサポート
人と人のつながりを大切にするカスタマー サービス プログラム構築の秘訣
- 人間らしさを失わないオートメーション
- チャットボットを活用するサポートの未来
- フィルターとワークフローを使用する
- サポートチームを支援する
今すぐダウンロードする
全てのフィールドが必須です。
チャットサポートとは?
商品やサービスについて問い合わせをする場合、一般的に電話やメールが利用されます。顧客が問い合わせを行うチャネル別の特徴は以下の通りです。
チャネル | 顧客の行動 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
電話 | ・電話をかける ・自動応答がある場合は指示に従う |
・オペレータにつながれば柔軟な対応が可能 | ・混雑時につながりくい ・対応時間外は問い合わせできない |
メール | ・問い合わせフォームに入力 | ・時間を気にせずに問い合わせできる | ・企業からの回答に時間がかかる |
電話で問い合わせる場合、オペレータにつながれば柔軟な対応が可能です。しかし電話窓口には受付時間が設けられていたり、電話自体が繋がりにくい場合があったりします。また、メールはいつでも問い合わせできますが、回答を得るための待ち時間が発生します。
チャットサポートの場合は、顧客からの問い合わせをWebサイト上でリアルタイムに対応できます。チャットサポートを利用して、顧客の問い合わせに素早く、そして柔軟に対応することで、電話とメールのそれぞれのメリットを同時に顧客に提供できるのです。
チャットサポートの仕組みは3つに分類できる
チャットサポートには、大きく3つの仕組みがあります。サポート業務に導入する際は、それぞれの特徴を理解しておきましょう。
チャットサポートの種類 | 特徴 | |
---|---|---|
自動応答型 | シナリオ型 | 事前に登録した質問と回答に基づき解決方法を提案 |
人工知能型 | 過去の問い合わせ実績を学習して解決精度アップ | |
有人対応型 | オペレータによる柔軟な解決が可能 | |
ハイブリッド型 | 簡単な質問は自動で応答し、オペレータの負荷低減 |
自動応答型
自動応答型は、顧客の問い合わせに自動回答する仕組みのチャットボットを利用したチャットサポートです。チャットボットには「シナリオ型」と「人工知能型」があります。
シナリオ型
「シナリオ型」のチャットボットでは、大きな括りの質問から個別の質問をすることによって顧客の意図を絞り込みます。
例えば、特定の銀行の口座振替を行いたい顧客に、複数の選択肢を続けて提示する中で、以下の項目を順番に選んでもらったとします。
- 支払い方法を変更したい
- 口座振替が可能か知りたい
- 支払いに対応している銀行か知りたい
顧客は上記の順番に選ぶことで「〇〇銀行による口座振替ができます」という情報にたどり着けます。
精度の高い回答を行うには「顧客が抱える問題」「問題解決のための質問」「質問に対する回答のパターン」などを想定し、できるだけ多くのパターンを登録しておく必要があります。
人工知能型
「人工知能型」のチャットボットでは、基本的に「想定される質問」に対して「回答」を登録します。「シナリオ型」との主な違いは次の通りです。
- 顧客が入力した文章全体を分析して回答を行う
- 問い合わせ実績から学習して、意図は同じだが表現が違う質問にも回答できる
有人対応型
有人対応型とは、顧客の問い合わせに対してオペレーターが回答するチャットサポートです。自動応答型では回答を行うためのデータを事前に登録しておく作業が必要でした。これに対して有人対応型では、コミュニケーション環境を導入した上でオペレーターがいればすぐに運用できます。
有人対応型の場合はオペレーターが適切な回答を行いますが、問い合わせ件数が多い場合は回答が遅れることがあります。また、電話やメール対応とは違うチャット特有の言葉遣いとして、オペレーターは簡潔かつ丁寧な表現を使用するための教育が必要です。
ハイブリッド型
顧客からの最初の対応を自動応答で行い、相談内容を大まかに絞ってから有人対応を行う仕組みです。チャットサポートによる顧客の最初の問い合わせには自動応答で迅速に対応しつつ、複雑な問い合わせにはオペレーターが対応するチャットサポートです。また、有人対応に移行した際には、自動応答の段階で大まかな相談内容を把握できているため、オペレーターの対応時間の短縮が期待できます。
なお、有人対応型、ハイブリッド型は、常時オペレーターが対応するコストがかかります。オペレーターが対応できない時間帯には、メールによる問い合わせに誘導するなどの工夫を行い、顧客からの問い合わせを中断させないようにしましょう。
チャットサポート導入のメリットは?
本章では、企業の立場から見たチャットサポート導入のメリットを解説します。
1.問い合わせ数の増加
顧客にとって、チャットサポートは「画面遷移が少なくて済む」「入力の手間が少ない」などの特性により、電話やメールよりも比較的問い合わせのハードルが低いチャネルです。そのため、サイレントユーザーと呼ばれる「商品やサービスについて気になってはいるが問い合わせまで考えていなかった顧客」と接点を持てる可能性が高くなります。
2.顧客の待ち時間短縮
チャットサポートの導入により、電話やメールでは避けられない「問い合わせまでの待ち時間」「回答までの待ち時間」を短縮可能です。
また、一般的にチャットサポートを利用する人は、インターネット利用に抵抗が少ない傾向があるため、参考URLを示すだけでユーザー自身で解決できる場合があります。オペレーターの作業負荷が軽減できるだけでなく、迅速かつ的確な回答により顧客満足度向上に貢献できます。
3.サポート効率の向上
簡単な問い合わせは自動応答型やハイブリッド型の自動応答を活用することにより、オペレーターは複雑な問題に注力できます。チャットサポートを対応するオペレーターが習熟すると、1人で同時に複数の顧客と対応することが可能です。つまり、サポートの効率化が期待できます。
4.サポート内容・履歴のデータベース化
チャットサポートでの顧客とのやり取りを蓄積することにより、コミュニケーション履歴をナレッジベースとして活用できます。
電話対応のやり取りをナレッジベースで活用するには、音声データをテキストに変換する手間があり、時間と費用が発生します。一方、チャットサポートでの顧客とのやり取りはテキストデータなので、履歴の蓄積や分析の作業負荷が軽減できます。
チャットサポート導入のデメリットは?
チャットサポート導入では、メリットと同時にデメリットも発生します。デメリットもしっかり理解した上で、サポート業務の設計に反映しましょう。
1.メールより迅速な回答が求められる
チャットサポートを利用する時点で、顧客は素早い回答を期待しています。チャットサポートは、クローズボタンなどをワンクリックするだけで問い合わせ画面から離脱できるので、迅速な回答がない場合はすぐに離脱される可能性があります。自動応答を活用し、ユーザーを待たせない施策が大切です。
2.担当スタッフの育成が必要
チャットサポートのオペレーターは、システムの操作方法はもちろん、ビジネス敬語や使ってはいけない言葉を理解した上で、簡潔かつ丁寧な文章を迅速に回答する能力が求められます。
一方、電話対応は丁寧な話し方や話す速度などに留意する必要があります。つまり、チャットサポートと電話サポートの育成内容は同じでないため、オペレーターは専任化しておく必要があります。
チャットサポートシステムの導入事例
チャットサポートシステムを導入した企業サイトが増加し、Webサイト閲覧時によく見かけるようになりました。
当社HubSpotは、無料でチャットツールを提供しており、自社のWebサイトにも実装しています。本章では、実際どのようにWebサイトチャットサポートを設置しているのか、導入事例をご紹介します。
まず、HubSpotのWebサイトにアクセスしてみてください。「画面右下にチャットアイコン」が表示されます。画面右下のアイコンをクリックすると、上の図のようなチャットウィンドウが開きます。
チャットサポートでは、まず問い合わせの意図を確認するための質問をチャットボットが自動で投げかけます。問い合わせ内容が「無料版を利用してみたい」場合には、アカウント登録の画面へのリンクが貼りつけられたメッセージが瞬時に表示され、実作業に誘導できます。この場合には、問い合わせ開始から誘導まですべてチャットボットが対応します。
また、問い合わせ内容が複雑な対応では、下の図のように「担当者と話したい」という選択肢が用意されています。担当者とのやり取りに移行する前にいくつかの質問で顧客の問い合わせの目的や意図を収集します。つまり、情報収集までのやり取りをチャットボットが事前に行います。
上記のウェブチャット機能は、専門知識がなくても簡単に実装できます。
(気になった方は、こちらから気軽に試してみてください)
代表的なチャットサポートシステム4選
本章では代表的なチャットサポートシステムを4つ紹介します。各社のカスタマーサポート業務と予算にマッチしたシステムを探しましょう。
1.sAI Chat(サイチャット)
sAI Chatは人工知能を活用したAIチャットボットサービスで、自動応答型、ハイブリッド型のシステムです。sAI Chat本体の販売だけでなく、導入部門の利用率向上、FAQ改善、KPI管理などの運用もサポートしています。
キリンホールディングス株式会社のお客様相談室では、顧客の何気ない声を収集する目的でsAI Chatが採用されています。シナリオ型、自然文検索(顧客の質問文から質問の候補を表示)による問い合わせ方法を利用しています。
プラン名 | Starter | Professional Sプラン |
Professional Mプラン |
Professional Lプラン |
---|---|---|---|---|
概要 | AIチャットボットを低価格で利用できる | AIチャットボット導入後、効果的なFAQの追加やAIの学習が行える | ||
FAQ数上限300件 | FAQ数上限300件 | FAQ数上限500件 | FAQ数上限1,000件 | |
費用 | ・初期費用30万円 ・8万円/月 |
・初期費用50万円 ・15万円/月 |
・初期費用50万円 ・20万円/月 |
・初期費用50万円 ・25万円/月 |
2.Zendesk Chat(ゼンデスクチャット)
Zendesk社はカスタマーサポート業務全般に対応したシステムを提供しています。サポート業務全般を網羅したZendesk Support Suiteの他、チャットのみに対応したZendesk Chatなど、個別業務毎のシステムも提供しています。
Zendesk Chatは、Google Translateを採用した多言語対応による有人対応型システムです。またサイト閲覧者の行動に応じてメッセージを自動的に送る機能があります。
なおZendesk Chatの管理画面では、Webサイト上のチャットだけでなく、Facebook、Twitter、LINEなど、SNS系メッセージの一元管理が可能です。
クラウド会計サービスを提供してるMoney Forwardでは、メール、電話、チャットによる月間約2万件の問い合わせを少人数体制で対応するため、Zendesk ChatとZendesk Supportを導入しています。Slackとの連携による内コミュニケーションの効率化も実現しています。
プラン名 | Lite | Team | Professional | Enterprise |
---|---|---|---|---|
概要 | ・一度に対応可能なチャットは1件のみ | ・同時進行可能なチャット数は無制限 ・部門は2個まで |
・部門数は無制限 | ・各種測定基準のリアルタイム監視 |
費用 | 0ドル/月 | 14ドル/月 | 29ドル/月 | 59ドル/月 |
3.ChatPlus(チャットプラス)
簡単なタグを埋め込むだけで、Webサイトの閲覧者とリアルタイムでチャットできるシステムです。有人での柔軟な対応に加えて、チャットボットの自動応答にも対応可能です。
通常、チャットサポートシステムは顧客向けに導入されますが、Chat Plusは社員向けシステムとしての導入実績があります。日本航空(JAL)の働き方改革の一環で、ChatPlusのチャットボットを導入し、導入1ヵ月で問い合わせ数を30%削減しました。
プラン名 | ミニマムプラン | ビジネスライトプラン | ビジネスプラン | プレミアムプラン | AIチャットボット |
---|---|---|---|---|---|
概要 | ・基本的な機能 ・アカウント数:1 |
・チケット機能、チャット画面の編集 ・アカウント数:2 |
・高機能レポート ・アカウント数:3 |
・ナレッジベース ・アカウント数:5 |
・AI機能搭載 ・アカウント数:5 |
価格 | 1,500円/月 | 9,800円/月 | 15,800円/月 | 28,000円/月 | 150,000円/月 |
4.HubSpot「ウェブチャット」
HubSpotは営業活動の促進からカスタマーサービスの効率化、Webサイトの構築に対応した統合型CRMプラットフォームを提供しています。「Marketing Hub」「Sales Hub」「Service Hub」「CMS Hub」で構成されており、Service Hubにチャットサポート機能(ウェブチャット)が実装されています。
Service Hubを利用すればコーディングなしにチャットボットの作成、カスタマイズが可能です。目的に応じたテンプレートが用意されており、運用開始までの作業量を軽減可能です。テンプレートの編集が可能ですが、テンプレートを利用せずゼロからチャットボットを構築することもできます。
また、HubSpotが提供する無料のCRMツールと連携しており、問い合わせいただいた顧客の情報や問い合わせ内容、応答履歴は自動的にCRMに蓄積され、一元管理できる状態に。問い合わせ内容だけでなく、自社Webサイトのどのページを閲覧したのか、どの資料をダウンロードしたのか、営業担当者とどのようなやり取りをしたのかまですべて1つの画面で確認できます。
プラン名 | Starter | Professional | Enterprise |
---|---|---|---|
概要 | ・ユーザー数 2~ ・チケット管理、ウェブチャット、チャットボットなどの基本機能 |
・ユーザー数 5~ ・チケットの割り当て機能、ナレッジベース対応 |
・ユーザー数 10~ ・複数のチームやビジネスを管理 |
価格 | 5,400円/月 | 43,200円/月 | 144,000円/月 |
自社に合ったチャットサポートシステムの選び方
前章で紹介したシステム以外にも多くの特徴的なチャットサポートシステムが販売されています。どのシステムを利用するか選ぶ際に検討すべき点を説明します。
チャットシステム導入の目的
各企業では問い合わせの仕組みとして、チャットだけでなく、電話やメール、SNSなどの複数チャネルを利用するケースも少なくありません。また、企業によって各チャネルの問い合わせ数も異なるでしょう。そのため、チャットシステムを導入した際にどのように併用するか、何の目的で導入するのかを明確にしておく必要があります。
複数チャネルを活用したカスタマーサポート業務を十分検討した上で、チャットに求められる役割を実現するシステムを選びましょう。
使いやすさ
使いやすさは、特に以下の観点から確認してみましょう。
- シナリオ型や人工知能型における運用前のデータ登録
- 登録済みのテンプレートの有無
- チャット作業やレポート機能
できれば無料の試用期間を利用して、実際の使い勝手を確認しましょう。
サポート体制
システムのサポート体制について、無料/有料のサポート対応内容を確認して、導入部門の実力に合ったサポート体制を整備しておきます。
予算
高精度なAIチャットボットは高額になる傾向があります。必要な機能を精査して、購入すべきシステムとプランを選びましょう。
チャットサポートシステム導入時の注意点
主な顧客が高齢者で、インターネットの利用率が低い場合、チャットサポートシステムへの投資は不向きかもしれません。企業リソースを電話対応など、ユーザーが利用する可能性の高いツールに集中させる方が良いでしょう。
先に説明したとおり、チャットサポートシステムには「メールより迅速な回答が求められる」「担当スタッフの育成が必要」などのデメリットがあります。チャット担当者の専任化、電話やメールのチャネルとの連携なども十分に検討しておきましょう。
一方、AI技術の進化に伴い、チャットボットの性能は年々向上しています。顧客の問い合わせ時に入力された文章を分析して回答するなど魅力的な機能が実現していますが、一般的に自動応答の精度を向上させるには時間と費用が必要です。チャットサポートシステム特有の作業やコストを把握しておくことも留意しておきましょう。
業務効率化と顧客満足度向上を両立しよう
チャットサポートシステムの利用は、顧客と企業の双方に以下のようなメリットがあります。
- 顧客:待ち時間なしで問い合わせができ、迅速に問題を解決できる
- 企業:サポート業務の効率化と顧客満足度向上を実現できる
「チャットボットの性能向上」「チャット内容のナレッジベース対応」「サポート業務のパフォーマンス測定・分析機能の充実」など、カスタマーサポートに関するシステムは進化し続けています。多くのカスタマーサポートシステムでは、機能に応じた価格が設定されているケースが多く、予算や業務に応じたシステムが選択可能です。
一方、チャットサポートシステムが進化してもオペレーターの教育は必要です。実際の運営では、オペレーターはチャット対応に専任化して、業務の習熟後は1人で複数のチャットを担当するという考え方がおすすめです。
カスタマーサポート業務において、チャットサポートは有力なチャネルであることは間違いありません。顧客満足向上や競合他社との差別化にチャットサポートをご活用ください。