近年、多くの業界でサブスクリプション方式でのビジネス展開が広がっています。B2B領域ではSaaSをはじめとするソフトウェアが台頭。B2Cではもはや定番ともいえる動画・音楽の配信サービスに加え、飲食やファッション業界にも浸透し始め、これまでになかった新しい価値が生み出されています。
さらなる発展が見込まれるサブスクリプションビジネスですが、当然、参入すれば誰しも成功するわけではありません。今回は、サブスクリプションビジネスの成功事例とともに、成功するための5つのヒントをご紹介します。
最新事例付き!サブスクビジネスを成功に導く完全ガイド
サブスクリプションビジネスの基本と指標を理解して成功へと導きましょう。
- サブスクビジネスのメリットとデメリット
- ビジネスを成功に導く実践方法
- 指標を使った分析方法
- サブスクビジネスの事例
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サブスクリプションビジネスの市場規模は?
サブスクリプション(Subscription)とは、設定された定額料金を支払ったユーザーが、一定期間、契約範囲内で製品やサービスを利用できるビジネスモデルです。近年、所有ではなく利用を望むという価値観が広がったことから、ユーザーのニーズに合致する仕組みとして認知されるようになりました。そうした背景をもとに、現在では、さまざまな業界で採用されています。
サブスクリプションビジネス市場は伸び続けており、株式会社矢野経済研究所の調査によると、2020年度の国内市場規模はエンドユーザーの支払額ベースで前年比28.3%増に。2021年度は、13.8%増と予測されています。
また、プラットフォームサービスを提供するZuoraの調査では、サブスクリプションビジネスに参入した企業の売上高の年平均成長率は18.1%に達するという結果も。サブスクリプションビジネスの可能性は大きく、アイデア次第でさまざまな活用が可能でしょう。
多くの成功事例がある一方で、淘汰されたサービスも少なくありません。サブスクリプションビジネスにいち早く参入し、長く生き残り続ける企業には、どのような共通点があるのでしょうか。
【B2B向け】サブスクリプションビジネスの事例
ではここから、サブスクリプションビジネスの成功事例を確認していきましょう。まずは、特に普及が進んでいる「ソフトウェア」領域から。なかでもB2B向けのSaaS型が急成長しています。
1.Salesforce
統合CRMプラットフォームを提供するSalesforce。創業者のマーク・ベニオフがSaaSやサブスクリプションの概念を生み出し、その後のソフトウェア業界を一新させた草分け的な存在でもあります。
製品そのものの質はもちろん、サービスの充実を図り、カスタマーサクセスに注力している戦略がみられます。基本パッケージに加えて、「Sales Cloud」やマーケティングオートメーションの「Pardot」など用途に合わせて様々なソリューションを揃えています。
2.Sansan
Sansanは、社内の名刺を一元管理できるプラットフォームを提供し、名刺から紐づけした顧客管理を行えるサービスを提供しています。紙ベースの名刺は担当者ごとに管理するケースが多く、更新が遅れたり、引継ぎに手間がかかったり、重複してアプローチしてしまったりする可能性があります。データ化し共有すれば、営業力アップにつながるでしょう。
新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、多くの企業が利益減になるなか、Sansanの収益は増加しています。連結売上高は2020年と比較して、2021年には1.2倍となり、連結営業利益は前年同期の6.3倍の成果を出しています。新規加入率が解約率を上回る結果となった成功事例です。
3.SmartHR
人事や労務管理の効率化に役立つ、労務管理クラウドソフトSmartHRは、人材を確保するたびに必要になる業務をクラウド化できるツールです。従業員がいる企業が対象であり、大きな市場があります。
労務管理を一元化すれば、業務標準化にも役立ち、ペーパーレスでの生産性の向上につながるでしょう。特に手間のかかる社会保険や扶養などの手続きなど、細かい労務が一元管理できるのが大きな特徴です。リリース初期は月額プランの提供のみであり、解約しやすい仕組みを整えています。改善サイクルを高め、解約率を0.5%まで抑えている成功例です。
4.freee
freeeは法人向け会計ソフトをはじめ、人事労務、法人設立用ソフトなど、幅広く展開しています。サービスの主軸となる会計ソフトは、仕分け入力が不要で、請求書を発行すると自動で売上が計上される仕組みです。
簿記形式ではなく、知識がない人でも扱いやすいため、個人事業主のシェアも少なくありません。単なる会計処理ではなく、業務プロセスの最適化、効率化を目的としているのが特徴です。
5.Slack
ビジネスコミュニケーションツールのSlackは、フリーミアム戦略で急成長を遂げました。タスク管理や、オープンチャットなど、社内SNSとして活用可能です。無料プランでも基本的な機能が使えますが、一部制限があります。有料プランではメッセージ履歴が無制限で閲覧でき、同時通話人数が最大15名となるなど、大規模に対応します。また、共有ファイルの容量が1人当たり10GB以上になるのも魅力でしょう。
企業内の活用はもちろんのこと、外部とのアプローチにおいても無料で利用できるため取り入れやすいツールとなっています。
6.HubSpot
マーケティングオートメーションツールから始まり、現在はCRMを中心にマーケティング、セールス、カスタマーサービス、CMS、オペレーションなど、事業成長に携わるあらゆる部門に向けたソリューションを提供する当社HubSpotも、サブスクリプションサービスを提供しています。
現在マーケティングオートメーション領域では世界シェア1位を維持しており、小規模な事業者からエンタープライズまで幅広い企業に利用されています。あらゆる要望に対応できる豊富な機能を有しながらわかりやすさも両立し、ITに不慣れな方でも活用いただけるツールを目指しています。
【B2C向け】サブスクリプションビジネスの成功事例
続けて、B2C向けの成功事例をみてみましょう。大まかな業種別に事例を紹介します。
1.Adobe
B2Cにおいても、SaaSの活用が広がっています。クラウド型のサブスクリプションビジネスの代表例ともいえるのが、Adobeです。Photoshopやillustratorなどのクリエイターツールを、2011年よりサブスクリプション方式で提供しています。以前は、買い切り型のソフトウェアを提供していていましたが、現在ではほぼすべてのサービスをクラウド型に移行し、Creative Cloudとして認知度を高めました。
リアルタイムで新機能をアップデートするなど、マーケティングオペレーションを見直し、スピード感のあるデータ分析と改善で、カスタマーサクセスを実現している事例です。
2.Netflix
デジタルコンテンツの配信サービスも、今ではサブスクリプションビジネスの代表的なモデルとなりました。なかでも全世界でシェアを広げているのがNetflixです。成功例として注目されるのが徹底したパーソナライズ化の仕組みでしょう。特定ユーザー評価と同じ意見を持つ他ユーザーの好みとの関係性を特定し、カスタマイズした提案を行っています。
売上は右肩上がりで、その理由はアメリカ以外での会員増にあるとされています。オリジナルのコンテンツを多く有しながら、グローバル展開で拡大し続けています。
3.Spotify
動画配信同様にデジタルコンテンツとして注目されるのが音楽配信サービスです。Spotifyでは、定額で約5,000万曲の楽曲が無制限に聞けるサービスを提供しています。制限を設けた無料プランの利用をはじめ、有料に移行する際も無料利用期間が3か月間と長く設定されているため、登録のハードルが低くなっています。フリーミアム戦略でアップセルを強化し収益を高めています。
4.WorldLibrary Personal
電子書籍のサブスクリプション化は、Amazonをはじめ、大手出版社などが多く参入しています。近年では、利用者の年齢層や嗜好に合わせてニッチ化が進んでいる業界です。なかでも注目したいのが、WorldLibrary Personalです。サブスクリプション方式で、子どもの月齢に応じた絵本をレンタルするというユニークなサービスを展開しています。世界中から集めた絵本をプロが選書し、毎月異なるものが届きます。
その後の買い取りすることも可能で、クロスセルを広げていることがわかります。基本的にはファミリー層対象のB2Cですが、子ども向け施設に導入されるなど、マーケットを広げています。
5.Laxus
今や、ファッション業界のサブスクリプションビジネスは少なくありません。主軸となる服はもちろん、バッグやアクセサリーといった小物まで、定額でのリースが可能です。成功事例として注目したいのが「Laxus」でしょう。購入すれば高価なブランドバッグを、定額で気軽に利用でき、好みに合わせて交換できるという仕組みを整えています。初回トライアルから有料サービスへの移行率は90%以上というアップセルの成功例です。
6.キリンホームタップ
大手ビールメーカーのキリンビール株式会社がスタートした定額制モデル、キリンホームタップは、自宅で生ビールが飲めるという体験型を主軸としたアプローチを行っています。オリジナルの専用サーバーをリースし、作り立ての生ビールが届く仕組みです。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、アルコールの提供が自粛されたこともあり、自宅で生ビールを楽しめる機会そのものが人気を集める理由でしょう。ウォーターサーバー同様に、重たい飲料を定期的に注文できるうえ、店舗と同様の味わいを日常で楽しめるのが魅力です。嗜好品でありながら生活に密着し、利用の習慣化を促すサービス例です。
7.NOREL
新車購入率が年々減少傾向にある背景の1つに、所有から利用に切り替えるケースがあります。そうしたニーズを満たしているのが、自動車リースのサブスクリプション利用です。高額な初期費用が不要で、毎月定額制のリースプランで手軽に利用できるというベネフィットを提示しています。
自家用車の管理や手続きにかかる負担が経験できるうえ、最短3か月で乗り換えが可能です。さまざまな車種を揃え、豊富なプランを提示するなど、ユーザーの好みに合わせて選択の自由度を拡大させたサービスといえます。
8.トイサブ!
利用者1万人突破となる、月額制のおもちゃレンタル、トイサブ!は、子どもの成長に合わせて使い捨てになりがちな知育おもちゃを定期的に届けるサービスです。
世界中から集めた1,600種類、63,000点のおもちゃから、利用者に合ったものをおもちゃプランナーが選定し、パーソナライズ化して提供されます。おもちゃの汚れや破損、紛失については、原則弁償する必要はありません。「日本サブスクリプションビジネス大賞2019」グランプリを受賞しています。
サブスクリプションビジネスの9割は失敗している
サブスクリプションビジネスには多くの成功事例があり、さまざまな業界のサービスが認知度を高めています。上述したように、サブスクリプションビジネスは伸びしろがあるモデルです。初期費用さえかければ、さまざまなアイデアを実現化できるでしょう。ただし、成功するサービスの裏には、多くの失敗例がみられます。
コンサルティングファームの株式会社クニエの調査では、「サブスクリプションビジネスに参入した91%の事業は失敗に終わる」としています。最重要KPIの達成率が100%に満たないケースを挙げ、失敗の理由を挙げるという興味深い調査結果がみられます。
サブスクリプションビジネスを成功させるためには、過去の事例から学び、常に改善を図る必要があるでしょう。
サブスクリプションビジネスに失敗をもたらす要素
失敗事例として一時話題となったのが、AOKIホールディングスが提供していたスーツのサブスクリプション事業「suitsbox」です。サブスクリプションビジネスへの参入から、わずか半年でクローズするという残念な結果となりました。
さまざまな要因が考えられますが、1つには、豊富な品ぞろえを求めるユーザーのニーズに応えられなかったという背景があったようです。加えて、運用コストが増大したのも要因とみられています。
サブスクリプションは、単に定額でサービスを提供すればよい、というものではありません。ユーザーとの継続的な関係を築き、価値の高いサービスを提供し続けるというカスタマーファーストの意識が求められます。ユーザーの潜在的なニーズを把握しないまま、企業主体のサービス展開になってしまうと、解約リスクが高まり、失敗に終わる可能性があるでしょう。
また、サービスの質の向上とともに、財務面でも明確な見通しが求められます。長期利用を前提とした安易な価格設定で、顧客平均単価を見誤ってしまうと、コストに対して収益が上がらず、事業を継続できなくなるかもしれません。いずれも、カスタマーサクセス、財務両面で、現状を把握し、常に評価を行いながら改善に取り組む必要があるでしょう。
サブスクリプションビジネスを成功に導く5つのポイント
サブスクリプションビジネスは、顧客との関係性が大きく影響します。一度の購入で売上に直結する買い切り型とは、収益確保の仕組みが異なることを理解しておかなければなりません。成功に導くために5つのポイントを解説します。
1.新しい価値を提供する
継続的な利用を促すには、ユーザーのニーズに合わせた柔軟な対応が求められます。サブスクリプションは購買意欲が低下した消費者に向けて、所有ではなく「利用の機会」を提供するものです。市場拡大に伴い、競争率も激化している昨今、自社ならではの価値の提供を考える必要があります。
2.データを活用し、課題解決に取り組む
サブスクリプションビジネスのメリットとして、データの収集がしやすい点が挙げられます。サービス全体の改善はもちろんのこと、カスタマーサクセスの向上を意識しながら収益拡大につなげなければなりません。フリーミアム戦略やアップセル、クロスセルによる収益確保においても、データドリブンな改善プロセスによって、より価値の高い顧客体験を提供することを目的として検討する必要があるでしょう。
3.ROIを正しく把握し価格設定を行う
サブスクリプションビジネスの成功は、安定した収益の確保と事業拡大にあります。しかし、提供されるサービスの多くが先行投資型であり、従来の買い切り型とは収益に至るプロセスが異なります。解約率が高い状況が続けば、初期コストが増大し、事業継続が危うくなるでしょう。初期投資の回収を含め、ROIを考えた価格設定を検討する必要があります。
4.KPIを設定し、適切な評価を行う
データを活用して改善を図るとしても、明確な指標がなければ現状把握も難しいものです。適切なKPIを設定し、定量化しながら課題把握に努めなければなりません。ただし、サブスクリプションビジネスの指標となるKPIは、種類が多く、単発での評価になりがちです。組織全体の目標と一致させながら、効果的なKPIを探らなければなりません。
また、サブスクリプションビジネスは変化し続けており、改善プロセスも柔軟性が求められます。ユーザーのニーズや市場動向を踏まえながら、適時、KPIを見直すことも大切です。
5.PDCAを回しながら、カスタマーサクセスに取り組む
何度もお伝えしているように、サブスクリプションビジネスは、ユーザーとの関係性が成功のカギを握ります。より良い改善につなげるために、KPIに基づいて定期的にPCDAを回し、カスタマーサクセスの向上に取り組みましょう。
価値提供に徹し、サブスクリプションビジネスを成功に導こう
サブスクリプションビジネスを成功させるには、ユーザーの多様性とニーズを加味した価値の提供と、フリーミアム採用や段階的な価格設定といった戦略的なプランが欠かせません。カスタマーファーストの考え方と同時に、ROIを考えることも大切です。収益を拡大するためには、改善のプロセスを明確化し、具体的な行動に移す必要があるでしょう。
カスタマーサクセス向上に向けて、適切なKPIを設定し、PDCAを回しながら自社サービスの価値を高めましょう。