サブスクリプションビジネスにおけるKPIの重要性と設定のコツ

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水落 絵理香(みずおち えりか)
水落 絵理香(みずおち えりか)

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近年、サブスクリプションビジネスが注目を集め、多くの企業が参入を図っています。市場拡大に伴い、競争が激化するなかで成果を上げるためには、現状を把握し、成長率を見ながらマーケティングを考える必要があるでしょう。

サブスクリプションビジネスにおけるKPIの重要性と設定のコツ

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その際、指標となるのがKPIです。今回は、サブスクリプションビジネスにおけるKPIの重要性とともに、重視すべきKPIや活用時のポイントと注意点について解説します。

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サブスクリプションビジネスの基本と指標を理解して成功へと導きましょう。

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    サブスクリプションとは

    サブスクリプションとは

    サブスクリプション(Subscription)とは、一定期間、契約範囲のサービスを一定の金額で利用できる権利を提供するビジネスモデルを指します。買い切り型のビジネスモデルとは異なり、契約を継続してもらうことで安定した収益を得る仕組みを作る必要があり、ユーザーとの関係構築がビジネスに大きく影響します。

    ライフスタイルが多様化したことにより、所有よりも体験に価値を見いだす人が増えています。そうしたなか、所有にかかる管理の手間がなく、定額で、自分の使いたい範囲だけサービスが受けられるサブスクリプションのビジネスモデルは現代のニーズに合致していると言えます。 

    サブスクリプションビジネスにおける「KPI」とは

    サブスクリプションビジネスにおける「KPI」とは

    サブスクリプションビジネスを成功させるためには、最適なKPIを設定したうえで、現状を把握し、課題解決に向けて取り組む必要があります。

    ここで改めて、KPIの理解を深めておきましょう。
     

    KPIの定義を確認しておこう

    KPI(Key Performance Indicator)は、日本語では「重要業績評価指標」と訳され、最終目標に向けた中間指標を意味します。組織の目標達成に向けて設定されるもので、そのプロセスを定量化して可視化するために用いられます。

    一般的には、最終目標となるKGI(Key Goal Indicator/重要目標達成指標)達成に向けて、複数のKPIを設定しながら、現状を把握し、課題を明確にするための指標として活用されるものです。ただし、サブスクリプションビジネスにおけるKPIは、単なる達成度や課題を見るだけでなく、顧客の満足度やカスタマーサクセスなどの把握に努めることが大切です。
     

    サブスクリプションビジネスにおける7つの主要KPI

    サブスクリプションビジネスにおける7つの主要KPI

    ここからは、サブスクリプションビジネスの指標として活用できる主なKPIを7つ解説します。

    1. MRR
    2. ARR
    3. 解約率
    4. CAC
    5. CAC Payback Periods
    6. APRU
    7. LTV
       

    1.MRR(月次経常収益)

    従来の買い切り型とは異なり、サブスクリプションビジネスの指標として欠かせないのがMRR(Monthly Recurring Revenue)です。毎月決まって発生する売上を表す指標で、初期費用や追加費用などの売上をのぞいて算出します。月ごとの成果を比較し、成長率を計る指標となります。

    基本的な計算式は以下のとおりです。

    MRR = サブスクリプション月間売上高=平均単価(ARPA)×ユーザー総数(月全体)
    ※ARPAについては後述します

    ただし、単純な計算にとどまらず、フェーズごとにMRRを設定するとよいでしょう。MRRは細かく以下の4つに分けられます。

    • New MRR……新規顧客を対象とするMRR
    • Downgrade MRR……前月と比較し、取引額が減少した既存顧客を対象とするMRR
    • Expansion  MRR……前月と比較し、取引額が増加した既存顧客を対象とするMRR
    • Churn MRR……その月に解約した既存顧客を対象とするMRR

    総じて、当月MRR = 前月MRR + (New MRR + Downgrade MRR + Expansion MRR + Churn  MRR)で計算できます。どのMRRがボトルネックになっているのか把握し、改善を図りましょう。

    MRRに関してより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

     

    2.ARR(年次経常収益)

    MRRが月ごとの売上であるのに対し、ARR(Annual Recurring Revenue)は年次の売上を計るものです。ただし、アップセルやクロスセル、単発の売上は含めません。B2B型SaaSのように年間契約が主となるビジネスモデルにはなじみやすい指標とされています。一方、月契約が主となるモデルにおいては、なじみづらいと考えられています。自社のビジネスモデルに合わせて、活用を検討しましょう。

    ARR=MRR×12(か月)

     

    3.解約率(チャーンレート)

    解約率はチャーンレート(Churn Rate)とも呼ばれ、CRと略されるケースもあります。その名のとおり解約された数を測る指標で、基本的には月ごとに比較し、解約率が少ないほど事業の成長率が高いと評価できます。

    一般的に、解約率は10%以下、Churn MRRは1%以下に保つとよいとされています。その後の事業成長率を見てみると、チャーンレートが-2.5%の場合と、5%の場合を比較した場合、5年後には、MRRで約4倍の差が出るといわれています。

    参照:SaaSの命運を分けるチャーンレートとは?計算方法と効果的な5つの施策

    基本的な計算式は以下のとおりです。

    解約率=解約総数 ÷ MRR(年次の場合には、解約総数÷ARR)

    ただし、解約率は、さらに以下の2つで分けられます。


    カスタマーチャーンレート(Customer Churn Rate)

    顧客数ベースで解約率を計ります。

    カスタマーチャーンレート=(その月に解約したユーザー数 ÷ 前月末のアクティブユーザー数)x 100

     

    レベニューチャーンレート(Revenue Churn Rate)

    収益ベースでの解約率を計ります。

    レベニューチャーンレート=(その月にダウングレードとキャンセルによって減少したMRR ÷ 前月末のMRR)x 100

    解約率についても、フェーズごとに活用するとよいでしょう。なお、年間契約の解約率は期間を変更し、ARRを当て込むと計算できます。

    解約率(チャーンレート)に関してより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

     

    4.CAC(顧客獲得費用)

    CAC(Customer Acquisition Cost)は、ユーザー1人もしくは1社を獲得するためにかかった費用を把握するものです。ROI(投資収益率)を評価するのにも役立つため、経営指針と合致するKPIを設定することがとても大切です。

    基本的な計算式は以下のとおりです。

    CAC =販売およびマーケティングなど顧客獲得にかかった総コスト ÷ 獲得したユーザー数

    CACがLTVを上回ってしまうと、事業存続は厳しくなります。早期の課題解決を行うためにも、CACは細かい数値を見ていきましょう。

    CACには以下の3つがあります。それぞれの違いを把握せずにまとめて計算してしまうと、明確な現状把握が難しくなるため注意が必要です。
     

    Organic CAC

    検索や口コミ、既存ユーザーからの紹介による自然増の獲得コストを計ります。

    Organic CAC = 自然増の顧客にかかったコスト ÷ 自然増チャネルからの新規顧客数


    Paid CAC

    プロモーション費用をかけるなど、有料チャネルを利用したときの獲得コストを計ります。チャネルごとの計算が可能です。

    Paid CAC = 有料チャネルにかけたコスト ÷ 有料チャネルからの新規ユーザー数


    Blended CAC

    Organic CACとPaid CACの2つを合わせた獲得コストで、全体の解約率といえる指標です。

    Blended CAC = 販売やマーケティングなどの総コスト ÷ 新規獲得ユーザー数

    どのCACに課題があるのかを把握したうえで、LTVを比較することが大切です。LTVについて詳しくは後述します。


    CACに関してより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

     

    5.CAC Payback Periods(CAC回収期間)

    顧客獲得にかかったコストを回収するために必要な期間を検討するための指標です。ユーザーが利益をもたらし始める期間ともいえるもので、ビジネスの成長に従って徐々に減少するのが望ましく、増加すると回収にかかる時間が長くなることを示唆します。

    CAC Payback Period = CAC ÷ (MRR×粗利益=売上高-売上原価)

    CAC Payback PeriodsとMRRに基づき、コスト回収にかかる期間を正確に予測するために欠かせない指標です。
     

    6.APRU(ユーザー平均単価)

    ARPU(Average Revenue Per Use)は、さまざまなプランの総数全体で個々のユーザーごとに得られる平均収益を計る指標です。もともとは通信キャリア業界でよく使われていたKPIで、契約プランが1つしかなければ、基本的に横ばいになります。明確な基準はなく、サービス内容と価格設定によって異なるため、自社の設定を踏まえて確認してみましょう。増加傾向があれば、成長率が高まっていると判断できます。

    ARPU = MRR ÷ 全ユーザー数

    類似する指標として、有料プラン利用ユーザー1人当たりの平均課金額を指すARPPU(Average Revenue per Paid User)もあります。

    ARPPU = MRR(月次経常収益) ÷ 有料ユーザー数

    ただし、上記は有料プランを利用するユーザーのみを対象としているため、フリーミアム戦略を行っている場合には注意が必要です。ビジネスモデルやフェーズによって使い分けるとともに、少数の優良顧客が平均値に大きく影響している可能性を考慮する必要があります。

    ARPUに関してより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

     

    7.LTV(顧客生涯価値)

    LTV(Life Time Value)は、ユーザー1人が取引を始めてから終わるまでにもたらす利益を指します。サブスクリプションビジネスにおいて、最重視すべきKPIといえるでしょう。

    何度もお伝えしているとおり、サブスクリプションビジネスは継続した収益の確保が前提です。長期間、利益をもたらすユーザーが多いほど、長期的な収益が見込めることになります。優良顧客の維持による、CACの削減によってLTV向上を目指しましょう。

    LTV= ARPU(ユーザー平均月次単価) × 粗利率 ÷ レベニューチャーンレート(収益ベースでの解約率)

    ユーザー1人当たりの採算性を示すユニットエコノミクスは、「LTV÷CAC」で算出できます。一般的には、LTVがCACの3倍以上であることが健全なビジネスの目安とされています。ただし、LTVの比率が低いほど、コストがかかりすぎていると判断できます。逆に、高いとコスト削減が行き過ぎているかもしれません。最適な数値を目指す必要があります。

    LTVに関してより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

     

    サブスクリプションビジネスにおける適切なKPI設定のヒント

    サブスクリプションビジネスにおける適切なKPI設定のヒント

    見るべきKPIが多く、どれを重視すればよいのか迷ってしまうこともあるでしょう。サブスクリプションビジネスでのKPI設定は、大きく財務面と、カスタマーサクセス面で分けて考えると整理しやすくなります。
     

    財務面でのKPI

    サブスクリプションビジネスの成功は、継続した収益を確保、拡大することにあります。また、SaaSのように先行投資型のサービスも多いため、資金回収を考えるうえでもKPIの設定は重要です。

    カギとなるKPIは、 LTV、CAC、解約率、MRR、ARR、ARPUなどがあります。その他、RPM(定期利益率)やGEI(成長効率性指標)なども活用を検討してみましょう。
     

    カスタマーサクセスでのKPI

    カスタマーサクセスとは、ユーザーの潜在的な悩みをサービス利用によって解決するように働きかけることを指します。カスタマーサービスが受動的であるのに対し、カスタマーサービスは能動的であるのが大きな違いです。カスタマーサクセスにおけるKPI設定は、契約や更新前のタイミングに行いましょう。

    カスタマーサクセスにおいても、LTVが重視されます。そのほか、アップセル、クロスセル率、解約率などもあります。また、顧客ロイヤルティを計るNPS®(Net Promoter Score/推奨者の比率)や、ユーザーのサービス利用定着までにかかったオンボーディングの完了率なども有効です。
     

    事業を成長させるKPI設定のポイントと注意点

    事業を成長させるKPI設定のポイントと注意点

    KPIは、今後の予測を立て、サブスクリプションビジネスの成果を高めるために設定するものです。しかし、効果的に活用できなければ、期待した成果が出ない可能性があります。KPIを有効活用するために覚えておきたいポイントと注意点を5つ解説します。
     

    1.組織目標に合ったKPIを設定する

    解約率やLTVなど、個別に重視すべきKPIだけを決定しても、組織目標とずれていれば求める成果は得られません。企業指針となるKGIに基づいたKPIになっているか、必ず確認する必要があります。

    また、自社の商材に合わないKPIを設定している可能性もありえます。一般的に使用されるKPIだとしても、安易に採用するのは適切ではありません。自社のビジネスモデルやフェーズに合ったKPIを検討しましょう。
     

    2.改善行動に移す

    KPIで定量化しても、次のアクションにつながらなければ、成果には結びつくことはありません。特に、サブスクリプションビジネスは、スピード感のある対応が求められるものであり、改善が遅延すれば解約リスクにつながります。PDCAサイクルを回し、アクションプランを立てて実行するまでをワンセットとして施策を検討しましょう。
     

    3.改善プランは顧客目線で考える

    KPIに基づいた現状把握ができたとしても、改善策が企業視点になっているとユーザーのニーズを満たせず、解約につながる可能性が高まります。改善策を検討する際には、カスタマージャーニーマップの見直しを図るなど、あくまでもユーザーファーストであることを忘れないようにしましょう。
     

    4.複雑にしすぎない

    サブスクリプションビジネスモデルはデータ収集が容易で、多くの情報を得られるのがメリットです。しかし、多くのデータを集めすぎて算出に時間がかかったり、KPIを多くかけ合わせて複雑にしたりすると、KPIを把握する前に次の変化が訪れてしまうかもしれません。

    スピード感のある対応を進めるためにも、できるだけ容易にKPIが把握できる仕組みが必要です。また、優先すべき項目を明確にし、サイクルを早めるように意識しましょう。
     

    5.KPIは適時見直す

    KPIはあくまで中間指標であり、課題とともに、成果を見るために活用します。何度もお伝えしているように、サブスクリプションはスピード感のあるビジネスモデルであり、その都度、市場にも変化が生じます。ユーザーの潜在的なニーズを把握するとともに、市場の動向を踏まえながら、定期的にKPIを見直すことが重要です。

    また、フェーズごとに、適時細やかな調整を行うことも意識しなければなりません。ただし、上述したように、組織全体の目標とずれては成果につながりません。常にゴールを明確にし、プロセスを描くための指標として活用しましょう。
     

    顧客への価値提供を前提に、適切なKPI設定を

    サブスクリプションビジネスを成功させるためには、顧客に対してどのような価値を提供できるのかが大きな課題といえます。カスタマーサクセスの成果を出すためにも、現状把握は欠かせません。定期的な定量調査と成果分析を行い、PDCAを回しながら改善を進めるために、KPIの設定は不可欠です。

    従来の買い切り型とは評価方法が異なる点を理解し、適時KPIを見直しながら効果的なアクションにつなげることが大切です。ユーザーのニーズを満たし、顧客体験を高める施策を検討するための指標として、自社に合ったKPIを設定しましょう。

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