LTV(Life Time Value)とは、1人または1社の顧客が、取引を開始してから終了するまでの間に自社へもたらす利益を表す指標のことです。日本語では「顧客生涯価値」と呼ばれます。
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現代は、新規顧客を創出する難易度が高まっているといわれています。ビジネスを中長期的に存続させるためには、既存顧客との関係を深めるための取り組みが欠かせません。顧客に正しく価値を提供することで満足度が高まり、LTVの向上につながります。
本記事ではLTVの基本的な考え方や計算方法、LTVを高めることで得られる効果、具体的な施策を解説します。
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LTV(ライフタイムバリュー)の意味とは?
LTVはLife Time Value(ライフタイムバリュー)の略で、日本語では「顧客生涯価値」と呼ばれます。LTVは1人、または1社の顧客が、取引を開始してから終了するまでの間に自社へもたらす利益を表す指標です。
LTVの一例を見てみましょう。例えば、動画配信サービスのサブスクリプションを契約したユーザーが、1年後に解約したとします。そのユーザーが再度サービスを利用することがなかった場合、LTVはユーザーが1年間サービスを利用することで企業にもたらされた利益になります。
LTVは、顧客満足度を高めることによって向上します。顧客へ正しく価値を提供することで中長期的に売上が安定し、新規顧客を創出するためのコストを削減できるなど、企業にとってもさまざまなメリットがあります。
LTVの計算方法
LTVの基本的な計算式は次のようになります。
LTV=1顧客の平均購入単価 × 粗利率 ×1顧客の年間平均購入頻度× 1顧客の継続年数
【例】1顧客の平均購入単価が1万円、粗利率30%、顧客は年平均10回購入し、3年間継続して購入を続けている場合
LTV=10,000×0.3×10×3=90,000(円)
サブスクリプションなどの継続利用が前提となるサービスの場合は、チャーンレート(解約率)を考慮したうえでLTVを計算します。
LTV=1顧客の平均購入単価×粗利率÷チャーンレート
例:1顧客の平均購入単価が5,000円、粗利率50%、チャーンレート5%の場合
LTV=5,000×0.5÷0.05=50,000(円)
事業全体のLTVは、顧客創出や維持に必要なコストを考慮して算出します。
LTV=平均顧客単価 × 粗利率 × 購買頻度 × 継続期間-(新規顧客獲得コスト + 既存顧客維持コスト)
LTVがプラスであれば事業は健全に成長していますが、マイナスだった場合は、早急な対処が必要となります。
例:平均顧客単価 が2万円、粗利率50%、顧客は年平均4回購入し、5年間継続。新規顧客創出に10万円、既存顧客維持に2万円かかっている場合
LTV=20,000×0.5×4×5-(100,000 + 20,000)=80,000(円)
LTVがマーケティングにおいて重視される5つの理由
ここでは、LTVがマーケティングにおいて重視される5つの理由を解説します。
- 既存顧客の重要度が増大
- One to Oneマーケティングの要請
- デジタルマーケティングツールの発展
- 3rd Party Cookie規制
- サブスクリプションサービスの台頭
1. 既存顧客の重要度が増大
LTVが注目されるようになった理由のひとつに、新規顧客創出が困難になるとともに、既存顧客維持の重要度が増大したことがあげられます。
今後、少子高齢化が進んで国内市場が縮小することで、新規顧客の創出はますます困難になっていくことが予測されます。顧客維持費用に対して、新規顧客創出にかかる費用は5倍にも相当する(1:5の法則)といわれています。
既存顧客の維持が重視されるとともに、その指標となるLTVが注目を集めるようになりました。
2. One to Oneマーケティングの要請
大量生産・大量消費の時代には、マスメディアを通じたアプローチが中心のマスマーケティング手法が取られていました。しかし、消費者の嗜好や価値観が多様化するとともに、顧客一人ひとりのニーズに焦点をあてたOne to Oneマーケティングの必要性が高まっています。
One to Oneマーケティングとは、顧客の購買傾向からニーズを把握し、一人ひとりに特別な顧客体験を提供する試みです。特別な顧客体験を通して信頼関係を構築し、自社に対する愛着心(ロイヤルティ)をはぐくむことがOne to Oneマーケティングの目的です。
顧客との関係性を数値化するLTVは、One to Oneマーケティングの施策を評価する指標にもなります。
3. デジタルマーケティングツールの発展
CRM(顧客関係管理)などのデジタルマーケティングツールの発展によって、顧客一人ひとりの行動履歴などのデータ分析が容易になりました。
LTVを指標としてCRMツールに蓄積されたデータを分析することで、顧客のセグメント化が可能になり、それぞれの顧客層に合ったアプローチにつながります。
4. 3rd Party Cookie規制
3rd Party Cookieとは、ユーザーの訪問サイト以外(アドテク企業などの第三者)のドメインから発行されるCookieです。一度Webサイトを訪問したユーザーを追跡して表示するリターゲティング広告などに使われますが、プライバシー保護の観点から規制が強化されつつあります。
3rd Party Cookie規制によって従来のようにリターゲティング広告による新規顧客創出が難しくなるため、既存顧客をいかに維持し、LTVを高めるかが一層重要になります。
5. サブスクリプションサービスの台頭
近年、さまざまな分野で提供されているサブスクリプションサービスは、利用者が支払う定額料金が収益のベースであり、顧客の契約継続がビジネス成長のカギを握ります。LTVは、既存顧客を維持するための施策が成果を上げているかどうかを見る指標のひとつになります。
LTVの指標を活用することで期待できる4つの効果
LTVを指標として活用することで、主に次の4つの効果が期待できます。
- 営業コストを抑えて収益につなげられる
- 適切なマーケティング予算が立てられる
- ロイヤルティの高い顧客の行動を分析できる
- 事業の健全性が把握できる
1. 営業コストを抑えて収益につなげられる
既存顧客に焦点をあてたアプローチは営業コストが抑えられるうえに、長期的で安定した利益を出すことにもつながります。
新規顧客の創出には、商品・サービスや、自社ブランドを認知拡大するためのアプローチが欠かせません。マス広告やセミナー、商談のための人件費など、あらゆる方面で営業コストがかかります。
一方で、既存顧客は新規顧客に比べて、カスタマーサポートやお買い得情報の提供といった比較的コストが低い施策によって、再び商品・サービスの購入につながる可能性が高いといえます。
すでに商品・サービスの良さを知っているため、購入までのハードルが低い点もメリットです。
2. 適切なマーケティング予算が立てられる
LTVを算出することで、新規顧客創出のためのコストや、既存顧客を定着させるためのコストにどれだけ予算をかけられるかがわかります。
例えば、平均的な顧客の商品単価が1万円、年に2回、利用継続期間が3年であるとします。
LTV=10,000×2×3=60,000(円)
粗利率を20%とすると、マーケティング費用の上限値を求めることができます。
CPA=60,000×0.2=12,000(円)
3. ロイヤルティの高い顧客の行動を分析できる
売上について考える際に、「2割の優良顧客が売上の8割を創出する」というパレートの法則がよく使われます。
ビジネスを成長させるためには、既存顧客のなかでも特に購買単価の高い顧客や、長期にわたって自社との取引を継続しているリピーターなど、ロイヤルティの高い顧客を大切にしなければなりません。
LTV分析でロイヤルティの高い顧客層を特定し、行動履歴を通して関係を深めるためのマーケティング施策に活かすことができます。
4. 事業の健全性が把握できる
事業の健全性を把握するためには、ユニットエコノミクスという指標を活用します。ユニットエコノミクスとは、顧客1人(1社)当たりの採算性を示す指標です。
LTVは、業界や商材、サービスごとに大きく変わってしまうため、明確な基準として利用することが難しくなります。
そこで活用したいのがユニットエコノミクスです。ビジネスの採算性、健全性を可視化するために、ユニットエコノミクスを活用します。
例えば、顧客が順調に増えていても、顧客創出に過大な投資をしていては、ビジネス全体で見た場合の収益性は損なわれてしまいます。
顧客創出にかけたコストと創出後に得られる収益の関係を数値化することによって、今後、投資を続けてさらに多くの顧客を創出すべきか、LTV向上の施策を取るべきかがわかります
ユニットエコノミクスは次の計算式で算出します。
ユニットエコノミクス=LTV÷CAC
CACとは、新たな顧客を1人創出するために費やしたコストのことです。
例えば、1人の顧客を創出するために3万円の費用がかかったとします。将来的にその顧客のLTVが10万円であれば、ユニットエコノミクスは次のようになります。
ユニットエコノミクス=100,000÷30,000=3.33…
ユニットエコノミクスの数値は、3~5が目標とすべき基準です。従って、上の例であれば、適切に投資されており、ビジネスの状態は健全といえるでしょう。
数値が3より低い場合は事業の収益性が悪化している可能性があります。また、数値が5より高い場合は、新規顧客創出のためにさらなる投資を行う余地があると考えられます。
LTVを強化・改善するための7つのポイント
LTVを改善するには次の7つの方法があります。
- 顧客単価を上げる
- 購買頻度を増やす
- 継続期間を延ばす
- 顧客ロイヤルティを高める
- 休眠顧客を掘り起こす
- コストを削減する
- 解約率を下げる
1. 顧客単価を上げる
顧客単価を上げるには、アップセルやクロスセルの活用が効果的です。アップセルとは、継続購入している商品のアップグレードを提案するなど、より高額な商品を勧めることを指します。
また、クロスセルとは、スマートフォンと一緒にスマートフォンケースを勧めるなど、関連商品の購入を促すことです。
ただし、アップセルやクロスセルの提案は、顧客が望んでいなければ逆効果になります。顧客行動を分析し、ニーズを理解することが、アップセルやクロスセルの前提となります。
2. 購買頻度を増やす
顧客の購買頻度を増やすためには、顧客と良好なコミュニケーションを取ることが効果的です。
販売サイトを見直し、購入しやすくする工夫を行うのも良いでしょう。また、商品やWebサイトを通じたブランディングによって想起回数を増やすこともできます。
WebサイトやSNS、メルマガなどを通じて顧客とのタッチポイントを増やす施策も効果的です。
3. 継続期間を延ばす
既存顧客に商品・サービスの利用を続けてもらうためには、購入後のアフターフォローやカスタマーサポートで、接点を維持することが重要です。
また、適切な時期に適切な提案を行うには、CRM(顧客関係管理)ツールで情報を管理することも効果的です。
4. 顧客ロイヤルティを高める
顧客ロイヤルティとは、顧客が企業やブランド、商品やサービスに対して抱く愛着心や信頼感のことです。
ロイヤルティの高い顧客は客単価や購買頻度が高く、継続期間も長くなります。そのため、顧客ロイヤルティの醸成は、LTV向上に直結します。
また、既存顧客のロイヤルティを高める施策だけでなく、すでにロイヤルティが高い顧客のさらなるファン化も重要です。例えば、ロイヤルティの高い顧客に対して特別なオファーやプレミアム商品の販売を行うなどの施策が考えられます。
また、良い関係を維持するためのオンラインコミュニティや特別ウェビナーなどに招待するのも効果的です。顧客層に合わせて、最適なインセンティブを提供しましょう。
5. 休眠顧客へアプローチする
休眠顧客とは、前回サービスや商品を購入してから期間が空いてしまっている顧客を指します。CRMなどで休眠顧客をセグメント化し、購買行動を分析したうえで、ニーズに合った訴求を行います。
6. コストを削減する
顧客維持コストを下げて利益を増やすことも、LTV改善の一環になります。
顧客維持コスト軽減のためには、顧客ロイヤルティをアップさせる取り組みが必須です。ロイヤルティの高い顧客に自社の商品やサービスを継続的に購入・利用してもらうことで、新規顧客の創出にかかる費用を抑制できるからです。
単純なコスト削減は、顧客体験価値の低下につながるリスクがありますが、それぞれの顧客に合った価値提供ができれば体験価値を下げずにコスト削減が可能になります。
7. 解約率を下げる
サブスクリプションサービスでは、いかに解約率を下げるかが重要になります。
解約率を下げる方法のひとつとして、CRMなどに蓄積された顧客データを活用して、それぞれの顧客に適したレコメンドやコミュニケーションを行う手法があります。
また、顧客からの質問に答える受動的なカスタマーサポートだけでなく、顧客体験を向上させるための能動的な提案も効果的です。
【ビジネスモデル別】LTV向上につながる施策
LTV向上につながる施策をビジネスモデル別に紹介します。サブスクリプションに代表されるストック型ビジネスの場合は、現時点で契約している有料会員の解約を防止する対策が重要です。継続してもらうためには、定期的な情報発信やプレゼント企画が求められます。
高額プランに案内する施策も、LTVを向上させる方法のひとつです。顧客を高額プランへ移行させるには、提供しているサービスの質を高めなければなりません。まずは現在のプランに満足感を抱かせた上で、アップグレードするとどのような機能が追加されるかを伝えましょう。
店舗販売や単発契約に代表されるフロー型ビジネスであれば、リピーターを増やす施策がカギを握ります。1人の顧客に一度しか購入されないケースも珍しくないためです。商品やサービスの売れ行きを分析し、LTV向上につながる顧客を探してください。
リーチするには、ポイント制度による継続顧客への優遇や商品券などのセミストック型サービスを採用するのもコツの1つです。顧客が「今後も買い物したい」と思わせるような施策を考えましょう。
LTV向上に効果があるツール
LTV向上に効果を発揮できるツールとして、CRM・MA・コミュニケーションツールが挙げられます。
CRMツールは、顧客情報を一元管理してより良好な関係を構築することを目的としています。顧客の基本情報や行動履歴をもとに、どのようにフォローするかを計画する際に役立ちます。
MAは、メールナーチャリングなどのマーケティングに関する業務を自動化するツールです。見込み客の創出から既存顧客との関係構築まであらゆるフェーズで活用できます。自動化できる業務はMAを用いつつ、従業員の負担軽減を意識しましょう。
また、LTVを向上させるには、コミュニケーションツールの導入も重要です。主な代表例として、顧客と気軽にチャットで会話できるチャットボットが挙げられます。スムーズに顧客の要望に回答できるため、満足度を高める上でも取り入れると良いでしょう。
LTVを取り入れてビジネスの成功につなげよう
LTVは、「顧客単価」「購買頻度」「継続購入期間」によって決まる指標です。
LTVを向上させることで、営業コストを必要最小限に抑え、収益性を高めることができます。また、顧客ロイヤルティを醸成するための施策を通して、さらなる価値提供が可能になります。
LTVを高めるうえで重要なポイントは、自社の売上アップや収益改善ではなく、顧客への価値提供を優先することです。顧客満足度が高まり、結果的に自社の収益が改善されるという順番が理想といえます。LTVは、そのための指標として重要な役割を担うでしょう。