チャーンレートは、顧客の解約率・離脱率を意味する指標です。サブスクリプションモデルでは、ビジネスの成長を測る指標として重要視されています。
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サブスクリプションサービスは顧客の継続的な利用を見込める一方で、ひとたび価値を感じられなくなると、すぐに解約されてしまうリスクもあります。そのため、サブスクリプションサービスを成長させるうえで、チャーンレートを抑えることは重要な課題です。
チャーンレートにはいくつかの種類があり、それぞれ意味や用途、計算方法が異なります。本記事では、チャーンレートに関する基礎知識や計算方法をわかりやすく解説します。
チャーンレートとは
チャーンレート(英語表記:Churn Rate)とは、現在の契約数に対するチャーン(解約)の割合を示す指標です。解約率や退会率、離脱率とも呼ばれます。有料会員から無料会員にダウングレードした場合もチャーンレートに含まれます。
チャーンレートは、「当月の解約顧客数÷期首の全契約顧客数」のように、期間を決めて算出するのが一般的です。例えば、当月の解約顧客数が10人で、期首の全契約顧客数が100人なら、次のように算出できます。
- チャーンレート=当月の解約顧客数10人÷期首の全契約顧客数100人×100=10%
チャーンレートが低いほど、契約の継続率が高いことを意味します。後述しますが、一般的な月次目安は3~10%です。そのため、上記のケースは理想的な状態といえます。
LTVとの関係
サブスクリプションモデルにおいて、チャーンレートと並んで重要な指標に、LTV(Life Time Value=顧客生涯価値)があります。
LTVとは、サービスの利用開始から解約までに発生する、顧客一人あたりの利益です。チャーンレートが低下し、契約の継続期間が長くなるほどLTVが高まるため、結果的に企業の利益が増加します。
LTVとチャーンレートは車の両輪のような関係であり、次の計算方法で算出します。
- LTV=顧客の平均単価×粗利率÷チャーンレート
例えば、顧客の平均単価が10,000円、粗利率が50%、チャーンレートが2%の場合、LTVは250,000円です。チャーンレートが2%から1%に改善されるとLTVは500,000円となり、収益は倍増します。チャーンレートの改善がLTVに大きな影響を与えることがわかります。
ネガティブチャーンとは
ネガティブチャーンとは、「解約によって減少した収益額<既存顧客による新規の収益額」の状態を指します。
例えば、1か月間で月額10,000円のプランを解約した顧客が3人いた場合、「解約によって減少した収益額(解約による損失額)」は30,000円です。一方、月額10,000円のプランに契約していた既存顧客の1人が、アップセルやクロスセルにより月額50,000円のプランに乗り換えたとすると、「既存顧客による新規の収益額」は40,000円となります。
この例では後者の金額が大きくなるため、ネガティブチャーンにあたります。
ネガティブチャーンは、新規顧客の創出に比べて、既存顧客のLTVを重視する際に有用です。一般に、新規顧客の創出には、既存顧客へのアプローチに比べて大きなコストがかかります。ネガティブチャーンの達成を目標にして既存顧客に向けた施策を展開すれば、低コストで収益の安定化を目指せるでしょう。
チャーンレートが注目される背景
チャーンレートが注目されている背景には、近年、サブスクリプションビジネスが急激に成長していることがあげられます。台頭が著しいサブスクリプションサービスにおいては、チャーンレートを測定することで自社の商品やサービスがどの程度需要に適っているかを見極められるからです。
仮に、チャーンレートが高ければ、自社の商品・サービスに顧客が価値を感じていない、あるいはニーズとのズレがある状態だと考えられます。そのため、商品・サービスの品質改善や顧客分析の見直しなどの対策が必要です。定期的にチャーンレートを確認して、商品やサービスの成長性を客観的に評価することが大切です。
また、チャーンレートの測定によって、新規顧客の創出コスト(CAC)を削減できます。商品やサービスの解約者が多ければ、離脱数を補うために新規顧客創出の施策を強化しなければなりません。しかし、チャーンレートを改善すれば新規顧客創出の必要性が低下するため、施策にともなうコストを最小限に抑えられます。
このように、チャーンレートはビジネスの持続可能性を判断するうえで欠かせない指標です。
チャーンレートの目安・平均
業種や企業規模によって異なりますが、月次チャーンレートの平均値は3~10%といわれています。
ここでは、アメリカの業界別の平均チャーンレートをご紹介します。次のグラフは、サブスクリプションサービスを提供するRecurly社による業界別の平均チャーンレートです。
出典:Recurly Research:Churn rate by industry(英語)
上のグラフから、ソフトウェアやビジネス関連サービスのようなBtoBサービスのほうが、デジタルメディア・エンタテインメントや教育、消費財、小売などのBtoCよりも、平均してチャーンレートが低くなる傾向が確認できます。
また、顧客規模によってもチャーンレートに差があります。次の表はベンチャー・キャピタリストTomasz Tunguzによる企業規模別のチャーンレートです。
出典:Customer Account Churn Rates by Segment:Tomasz Tunguz(英語)
この表によると、SMB(中小企業)で3~7%、Mid-Market(300~1000人規模の企業)で1~2%、Enterprize(大企業)で0.5~1%となり、導入企業の規模が大きくなればなるほど、解約されにくい傾向を確認できます。大企業を顧客とする場合は、0.5%~1%をターゲットとすると良いでしょう。
チャーンレートの種類と計算方法
チャーンレートは、カスタマーチャーンレート、アカウントチャーンレート、レベニューチャーンレートの3つに分類されます。指標によって計算方法や活用シーンが異なるため、違いを理解しておきましょう。
1. カスタマーチャーンレート
カスタマーチャーンレートは、顧客数を基準にチャーンレートを算出します。一般的なチャーンレートは、カスタマーチャーンレートであることが多く、前出の計算方法で算出します。
【カスタマーチャーンレートの計算方法】
- カスタマーチャーンレート=一定期間内の解約顧客数÷期首の全契約顧客数×100
カスタマーチャーンレートは、料金プランが細分化されていない、一律価格のサービスに向いています。企業アカウントではなく、顧客数を基準にチャーンレートを算出するため、BtoCに向いています。
2. アカウントチャーンレート
アカウントチャーンレートは、企業アカウント数を基準にチャーンレートを算出します。
【アカウントチャーンレートの計算方法】
- アカウントチャーンレート=一定期間内の解約企業アカウント数÷期首の全企業アカウント数×100
カスタマーチャーンレートとの違いは、算出基準が顧客数かアカウントかです。顧客が一定期間でどれだけ解約したかを測れる点では、どちらの指標も同じように活用できます。解約した企業アカウント数を基準にするため、BtoBに向いています。
3. レベニューチャーンレート
レベニューチャーンレートは、収益を基準にチャーンレートを算出します。収益が一定期間でどれだけ減少したかを測る指標です。複数の価格プランがある場合に有効です。
レベニューチャーンレートは増収分(アップセル・クロスセル)を含めるか含めないかで、次の2種類に分かれます。
- グロスレベニューチャーンレート
- ネットレベニューチャーンレート
グロスレベニューチャーンレート
グロスレベニューチャーンレートは、解約やダウングレードによって損失した収益を基準に、一定期間でどれだけ損失が発生したかを測る指標です。
【グロスレベニューチャーンレートの計算方法】
- グロスレベニューチャーンレート=一定期間内の損失額÷期首の総収益×100
例えば、1か月間で月額5,000円のプランを解約した顧客が2人いる場合、「一定期間内の損失額」は5,000円×2=10,000円です。「期首の総収益」が100,000円だとすると、グロスレベニューチャーンレートは10%となります。
ネットレベニューチャーンレート
ネットレベニューチャーンレートは、解約やダウングレードによる損失額に、アップセルやクロスセルなどの増収分を加味し、一定期間でどれだけ損失が発生したかを測る指標です。減収と増収を両方含めて計算するため、収益全体を把握したいときに効果的です。
【ネットレベニューチャーンレートの計算方法】
- ネットレベニューチャーンレート=(一定期間内の損失額ー一定期間内のアップセルなどで得られた収益)÷期首の総収益×100
先ほどと同様に、「一定期間内の損失額」を10,000円、「期首の総収益」を100,000円と仮定し、さらに、1か月間で月額5,000円から月額10,000円の上位プランに乗り換えた顧客が1人いる場合、「一定期間内のアップセルなどで得られた収益」は5,000円です。これらの金額を上記の数式にあてはめると、ネットレベニューチャーンレートは5%となります。
仮に、5,000円から10,000円に乗り換えた顧客が3人おり、アップセルによる収益が15,000円だった場合は、ネットレベニューチャーンレートは-5%とマイナスに転換するため、ネガティブチャーンとなります。
チャーンレートが高くなってしまう要因
チャーンレートを改善するには、まず現状の課題を明らかにすることが大切です。ここでは、チャーンレートが高くなる3つの要因と改善策を解説します。
- 市場ニーズとのズレや時間経過による変化
- 商品やサービスの品質の問題
- カスタマーサービスに対する不満
市場ニーズとのズレや時間経過による変化
市場ニーズは常に変動しています。自社の商品やサービスがこの変化に対応できていなければ、既存顧客の離反を招きかねないでしょう。このような課題を解消するには、入念な市場調査や定期的なトレンドチェックが不可欠です。
商品やサービスの品質の問題
商品やサービスの品質が顧客の期待を下回る場合、チャーンレートが高まりやすくなります。例えば、商品やサービスの導入後に、それよりも低コストで良質な他社製品が市場に出回るケースは少なくありません。運用してはじめて機能や性能の不足に気付くこともあるでしょう。
商品やサービスの品質の問題は、複数の顧客に同様の不満を生じさせかねないため、決して見過ごせない重要な課題です。品質の問題が解約に結び付くケースでは、製品開発の原点に立ち返った改善が必要です。
カスタマーサービスに対する不満
商品やサービスの品質が高い場合であっても、カスタマーサービスの質が低ければ顧客満足度が低下して解約につながる可能性があります。「問い合わせの待ち時間が長い」「適切な問題解決策を得られない」など、顧客の不満が高まる対応が常態化している場合は、対策が必要です。
カスタマーサービスの質を高めるには、顧客理解を深めることが大切です。顧客データを分析したうえで、何に不満を感じているのか、何に満足しているのかを明らかにし、改善策を検討します。
具体的には、チャネルの充実やFAQ構築、マニュアル・トークスクリプトなどの環境整備があげられます。また、これらを効率的に行うために、ツールを導入するのも有効です。
チャーンレートを改善する方法
チャーンレートは、数値を少し改善しただけでも大きな成果を生みます。ここでは、チャーンレートを改善するための8つの施策をご紹介します。
- 解約の原因を把握する
- 機能や使用法などをわかりやすくまとめる
- 価格体系を見直す
- パーソナライズを行う
- リアルタイムの対応を意識する
- カスタマーサクセスを立ち上げる
- 顧客ロイヤルティを醸成する
- ヘルススコアの計測ができるツールを導入する
1. 解約の原因を把握する
チャーンレートを改善するためには、顧客がなぜ解約を考えるに至ったか、原因を把握することが重要です。原因を把握するには、次の2ステップで行います。
- 利用状況を把握する
- 顧客にコンタクトする
最初に、サービスの解約を検討中の顧客がどの機能を使用していたのかを、ログデータから分析します。
サービスの利用状況を分析して使用率の低下している機能がわかれば、顧客にアンケートメールを送ったり、電話でコンタクトを取ったりして解約を検討している理由をヒアリングしましょう。そのうえで、利用状況を踏まえたサービスをより便利に使える機能や、契約プランの見直しなどを提案します。
2. 機能や使用法などをわかりやすくまとめる
サービスの利用率が低く、「使いにくい」「わかりにくい」などの理由が多くあげられる場合には、ヘルプページやFAQページを見直すことが重要です。機能や使用法の説明を第三者に読んでもらい、理解しやすいかをフィードバックしてもらいましょう。
また、動画を使えば、使い方や便利な活用法を視覚的に説明できます。顧客の利用状況に応じて、サービス内容をわかりやすく伝える方法を検討してください。
3. 価格体系を見直す
単にプライスダウンするのではなく、顧客属性に合わせた価格やサービス内容への変更が必要な場合もあります。初期構築費は安価でも、月額料金などが高額だとランニングコストの問題で乗り換えを検討されるケースもあるでしょう。競合他社と比較して価格体系を見直すことも必要です。
4. パーソナライズを行う
パーソナライズとは、顧客データを利用して、顧客一人ひとりに最適化された顧客体験を提供することです。具体的には、顧客のニーズや好みの理解に基づいた商品の提案やWebページの表示、適切なタイミングと内容で送るメッセージ、SNSでのコミュニケーションなど、さまざまな方法があります。
パーソナライズを通じて構築された顧客との信頼関係は、チャーンレートの改善に効果的です。
5. リアルタイムの対応を意識する
商品・サービスの利用履歴や、CRM(顧客管理システム)を活用した行動履歴などのデータから、顧客の状態を把握できます。
例えば、サービスの利用が途絶える、ヘルプページの閲覧が増えるなどの顧客行動は、顧客がフォローやサポートを求めているために起こっている可能性があります。顧客行動を把握し、状況に合わせて、リアルタイムのフォローやサポートを行いましょう。
6. カスタマーサクセスを立ち上げる
カスタマーサクセスとは、商品やサービスの利用を通じて顧客が目的を達成できるようにするための取り組みです。カスタマーサポートが顧客の問い合わせやクレームに対して受動的に対処するのに対し、カスタマーサクセスは顧客理解を深め、顧客の疑問に先回りする積極的な顧客支援を行います。
先述したリアルタイムの顧客サポートを実現するためには、顧客と並走し、顧客の要望をもとにサービスを改善するカスタマーサクセスの設立を検討しましょう。
7. 顧客ロイヤルティを醸成する
顧客は何らかの価値が得られると期待してサービスを利用します。パーソナライズやカスタマーサクセスによる支援など、期待よりも高い体験価値を得ることで、顧客はそのサービスやブランド、企業のファンになり、利用を継続します。
顧客が求める以上の価値提供を通じて長期的な関係を構築できるよう、顧客ロイヤルティの醸成を図りましょう。
8. ヘルススコアの計測ができるツールを導入する
ヘルススコアとは、顧客が自社の商品やサービスを継続して使い続けてくれるかを測る指標です。定期的にログインしているか、必要な機能を利用しているか、など、ヘルススコアの指標を決めて、顧客の健康状態を評価します。スコアが低い顧客は解約リスクが高いため、優先的に問題の解決やサポートを行うなど、顧客に合わせた対応を実施しましょう。
ヘルススコアの計測ツールを導入すれば、顧客のヘルススコアを正確に把握でき、解約の可能性がある顧客に解約を留まらせる対策を実施できます。
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チャーンレートを改善して事業を成長させよう
チャーンレートは顧客の解約率や離脱率、退会率を意味します。有料会員から無料会員にダウングレードする場合もチャーンレートに含まれます。
顧客がサービスを利用し続けることで収益を伸ばすサブスクリプションモデルでは、チャーンレートは最重要指標の一つです。そのため、チャーンレートを定期的にチェックするとともに、顧客の利用状況の把握に努めましょう。
チャーンレートを改善する方法は、価格体系の見直しやパーソナライズなど多岐にわたります。いずれの方法を採用するにしても、より良い顧客体験の提供に注力することが大切です。顧客満足度が向上し、商品やサービスを継続利用してもらえる可能性が高まるため、結果として、事業の成長につながるでしょう。