ヘルススコアとは、自社の商品やサービスに対する顧客の健康度を示す指標です。ヘルススコアを用いることで顧客が自社の商品やサービスをどれくらい活用しているかの「利用状況」を測れます。そのため、カスタマーサクセスでは、ヘルススコアをもとに顧客の継続意向を把握して、それぞれの顧客に最適な対応や施策を行い、解約率の改善などの成果につなげることが重要です。
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本記事では、ヘルススコアの定義や重要性、カスタマーサクセスへの導入手順とそのメリット、注意点などを解説します。
ヘルススコアとは
ヘルススコアとは、顧客が自社の商品やサービスをどの程度活用しているかを示す指標です。ここでは、具体的な意味とその重要性について解説します。
ヘルススコアの意味・定義
ヘルススコアとは、顧客が自社の商品やサービスを健康的に利用しているかを示す指標です。数値が高いほど、顧客は自社の商品やサービスをよく活用している「健康な状態」にあり、今後も長くサービスを利用してくれる可能性が高いと判断できます。
反対に、数値が低ければ、顧客は商品やサービスをあまり活用しておらず、将来的に解約される可能性が高い、と判断できます。
重要性
ヘルススコアは、LTVを高めるために重要な指標です。
LTVは「顧客生涯価値」と呼ばれ、一人の顧客(BtoBでは一社)が契約開始から終了までに自社にもたらす利益のことです。LTVを高めるためには、顧客にできるだけ長く自社のサービスを利用してもらう必要があります。
ヘルススコアが高いと、「顧客がサービスを継続する可能性は高い」と判断できるため、LTVの向上を目指すには、ヘルススコアを高めることが重要です。
LTVについて、詳しくは次の記事で解説していますので、あわせてお読みください。
ヘルススコアをカスタマーサクセスに取り入れるメリット
カスタマーサクセスの目的は、自社の商品やサービスを顧客により活用してもらい、顧客のビジネスを成功させることです。そのためには、ヘルススコアを活用して顧客それぞれに適切なサポートを提供することが重要です。結果として解約率を減少でき、自社の利益の向上が期待できるでしょう。
ここからは、ヘルススコアをカスタマーサクセスに取り入れるメリットについて詳しく解説します。
顧客に合わせた対応ができる
カスタマーサクセスにヘルススコアを導入すると、個々の顧客の状態を判断でき、適切な対応を講じられます。
例えば、企業向けツールを提供している場合に、特定の顧客のヘルススコアが低ければ、疑問解決の場を設けたり、使い方を説明したりするといったサポートを実施可能です。
スコアが低い顧客へのサポートを優先的に行うことは、顧客の成功体験の早期実現にもつながります。さらに、企業やブランドへの愛着・信頼を示す顧客ロイヤルティ(NPS)も向上できるでしょう。
一方で、一定のスコア以上の顧客は自主的にサービスを活用していると判断して、積極的なサポート対象から除外すれば、効率的にカスタマーサクセスを実施できます。
解約率(チャーンレート)を改善できる
ヘルススコアの変化を継続的に確認すると、解約の予兆を察知できるため、解約率(チャーンレート)の改善につなげられます。
一度解約をされた顧客に対して、再度、利用を促すのは難しいでしょう。しかし、ヘルススコアを定期的に確認しておけば、数値が低下した際に原因を特定して解決策を提示できます。例えば、顧客がサービスを活用できていないことが原因であれば、サポートの提供や説明会の実施などの施策を行えます。
特に、サブスクリプション型ビジネスでは解約率は重要な指標となるため、ヘルススコアを導入するメリットは大きいといえるでしょう。
アップセル・クロスセルをするべき顧客がわかる
ヘルススコアは、アップセルやクロスセルの提案をするべき顧客の判断にも役立ちます。なぜなら、ヘルススコアが高い顧客はサービスをよく活用しており、サービスに対する満足度が高く、新たな提案を受け入れやすい状態であると推測できるからです。
アップグレードや別サービスの活用によるベネフィットを伝え、より便利にサービスを利用できると顧客が実感できれば、さらなる満足度向上につながる可能性も生じます。
ヘルススコアで活用される主な指標
ヘルススコアを測定する代表的なフレームワークに、Gainsight社が提唱する「DEARモデル」という手法があります。
「DEAR」は次の4つの観点の頭文字からなる略称です。
- Deployment:正しく利用を開始できているか
- Engagement:顧客との関係は良好か
- Adoption:商品やサービスを利用できているか
- ROI:商品やサービスに価値を感じているか
Deployment:正しく利用を開始できているか
Deploymentは、顧客が正しく商品やサービスを利用開始できているかを確認する指標です。
商品やサービスの導入初期に測定して初期設定やオンボーディングが完了しているかを確認し、スコアが低い場合に導入のサポートを行う基準とします。
例えば、BtoBで顧客企業において複数のユーザーが利用するサービスでは、次の指標の測定が用いられます。
- アカウント発行率:発行可能なアカウント数に対して実際にアカウントが発行された割合
- 初回ログイン率:発行済みアカウント数に対して1回でもログインしたアカウントの割合
- 利用開始率:発行済みのアカウント数に対して何らかの機能を使用したアカウントの割合
- 初期設定の完了率:初期設定の全ステップのうち設定が完了している割合
Engagement:顧客との関係は良好か
Engagementは、自社と顧客との関係性が構築できているかを示す指標です。
顧客が商品やサービスを導入し、運用を始めた後に測定します。
顧客との関係性は、カスタマーサクセスのマネージャーや担当者の定性的な感覚を尊重しながら、次のように共通でわかりやすい指標により判断することをおすすめします。
- NPSスコア:顧客が企業や商品・サービスに対して抱く愛着や信頼の高さ
- イベント参加率:ユーザー会や勉強会などへの参加回数
- 接触頻度:商品・サービスの利用・更新権限を有するキーパーソンとの接触頻度
Adoption:商品やサービスを利用できているか
Adoptionは、顧客が商品やサービスをどの程度活用できているのか、利用状況を示す指標です。
アクティブユーザーの割合や、搭載する機能をどの程度利用しているかを測定します。
例えば、次の指標を用います。
- ユーザーのログイン率:アクティブユーザーの割合
- 機能の利用割合:すべての機能のうち、実際に利用している割合
- 利用頻度:特定の機能を一定期間で、どの程度利用しているか
ROI:商品やサービスに価値を感じているか
ROIは、投資に対する成果を示す指標であり、「DEARモデル」では、顧客が商品やサービスに価値を感じているかを表します。
導入前後の効果比較により、顧客が導入目的を達成できているか(サクセスしているか)を判断します。
商品・サービスを導入する目的は顧客によって異なり、また、顧客が感じる価値は定量化しづらいため、自社での判断が難しい場合があります。その場合は、導入時にゴールを設定しておき、定期的なミーティングやヒアリングでの進捗確認を経てROIを判断します。状況に応じてフォローアップを実施するとROIの向上につながるでしょう。
ヘルススコアの導入手順
ヘルススコアの導入手順は、次の通りです。
- 健康状態の定義づけを行う
- 判断指標を設定する
- スコアの算出方法を定める
- スコアによるアクションを定める
1. 健康状態の定義づけを行う
まずは、どのような状態が「健康」で「不健康」なのかを定義します。不健康な状態から想像すると定義しやすくなります。
不健康な状態の例は次の通りです。
- 使っていないユーザーアカウントがある
- 初期設定が完了していない
- ログインの頻度が低い
- 活用していない機能がある
- サービスの利用率が低い
- サービスの導入目的が達成されていない
不健康な状態に続いて健康な状態を同様に定義することで、定義の抜け漏れをなくせます。
2. 判断指標を設定する
続いて、健康状態を測定するために判断指標を設定します。
判断指標には、数値化でき測定可能な指標を用います。定量評価によって、スコアの良し悪しを判断できるからです。
具体的には、先述した「DEARモデル」における各指標を用いることが可能です。また、次のような指標も判断指標として設定できます。
- 週ログイン率:週に1回以上ログインしているアカウント数/発行済みのアカウント数
- 目標の達成度:実績値/目標値
なお、ROIに関する指標など、自社で測定しづらい判断指標を用いる場合は、あらかじめ顧客に確認し、共通認識を持ったうえで判断指標を設定してください。
3. スコアの算出方法を定める
判断指標に対するスコアの算出方法を定めます。
判断指標の数値に応じてスコアの点数を決めます。例えば、週間ログイン率を指標とする場合は、80%以上なら10点、60%以上80%未満なら5点、60%未満なら0点、という具合です。
また、複数の判断指標を用いる場合は、指標ごとに重みづけをします。すべての指標に対してスコアの算出方法と重みづけを定め、各指標から導き出される点数を合計することで、ヘルススコアを算出できます。
4. スコアによるアクションを定める
最後に、算出されたスコアに応じて、どのようなアクションを行うかを定めます。スコアによって顧客をセグメントし、それぞれのアクション内容を定めましょう。具体的には、LTVを基準として顧客を3つにセグメントします。先述の通り、ヘルススコアが高いとLTVも高くなると想定されるため、スコアで分類することで適切な施策を実施できるからです。
各スコアに対して実施するアクションの内容はタッチモデルの考え方にもとづき、「ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ」の3つの方法を使い分けると良いでしょう。
- ハイタッチ:メールや電話やミーティングなどで個別のサポートをする(個別の手厚いサポート)
- ロータッチ:一斉メールやセミナーなど複数の顧客に対してまとまった対応をする(集団にまとめてアプローチ)
- テックタッチ:サービス内でFAQやチュートリアルを表示するなどの自動的な対応をする(広範囲にアプローチ)
なお、アクションの決定には、LTVを基準として顧客をセグメントするのが一般的ですが、すべての企業に適しているとは限りません。ご紹介した手法を参考にしつつ、自社の状況や顧客の属性などに応じて適切な戦略を練りましょう。
ヘルススコア導入のポイント
ヘルススコアを導入する際のポイントは次の3つです。
- 導入の目的を定める
- 小さく始める
- 運用と改善を繰り返す
導入の目的を定める
ヘルススコアをやみくもに導入しても、目的が決まっていなければ成果の判断が曖昧になり、運用がとん挫する可能性があります。まずは導入目的を明確にしましょう。
目的が定まれば、設定すべき指標の種類や、算出方法、スコアごとのアクションを決定できます。 「サービスの解約率を下げる」「契約単価を上げる」「特定の顧客層のエンゲージメントを高める」など、目的を明確にすることで設計や導入をスムーズに行えます。
小さく始める
導入当初は特に重要な指標に限定して測定し、運用しながら状況に応じて増やしましょう。
測定や分析に慣れていない状態で複数の指標を測定しようとすると確認や分析が煩雑になり、運用しづらくなるからです。また、指標の種類が多いと、スコアが変動する理由を把握しにくくなります。適切でない指標を設定した場合に、原因を特定できない可能性もあるため、注意が必要です。
運用と改善を繰り返す
ヘルススコアを適切に運用するには、効果検証と改善を繰り返すことが大切です。
運用時は、指標の定義や設計にもとづいて仮説を立て、仮説に応じた施策を実施します。そのうえで効果が認められなければ、その原因を特定し、改善策を実施します。
ヘルススコアの目的は、あくまでも自社の商品やサービスの利用状況の把握であり、その後の施策次第でカスタマーサクセスの成果が変わります。改善を繰り返してより効果の高い施策を実施できるよう運用を続けることが重要です。
ヘルススコアに関する注意点
ヘルススコアを上手に運用するための注意点は、次の3つです。
- スコアの判断基準を明確にする
- スコアの更新に手間をかけ過ぎない
- 定期的に定義と設計を見直す
スコアの判断基準を明確にする
ヘルススコアの判断基準は明確にし、客観的に妥当性を検討できるようにすることが大切です。なぜなら、主観的に決めてしまうと、適切な施策を実施できず、PDCAを回しにくくなるからです。
算出方法を決める際に、母数となるデータが多い場合は、分布を確認するなどの方法により客観的にスコアを決められるでしょう。しかし、データが少ない場合は、最終的にスコアの設定は担当者の主観的になりがちです。妥当な判断をするためにも、できる限り明確な基準を設けましょう。
スコアの更新に手間をかけ過ぎない
先述の通り、ヘルススコアは、複数の指標を設定したうえで重みづけに従って合計するため、算出に手間と時間がかかります。スコアの更新頻度が高い場合は、さらに手間が増えるでしょう。
しかし、スコアの更新に手間がかかり過ぎると、本来の業務に割くべき時間を圧迫してしまいます。
用いる指標を限定したうえで、ツールを活用して算出や更新の自動化を進められるよう運用体制を整えましょう。
定期的に定義と設計を見直す
ヘルススコアは、定期的に定義と設計を見直す必要があります。なぜなら、導入当初に設定した指標やスコア設計が適切でない場合や、ビジネスの方針、市場が変化する可能性があるからです。
最低でも、1年に1回程度はヘルススコアをもとに実施した施策の成果を見直し、指標の定義や設計を修正する必要性を再検討すると良いでしょう。
ヘルススコアを活用して顧客のビジネスを成功に導こう
ヘルススコアとは、自社の商品やサービスを顧客がどの程度活用できているかを示す指標です。ヘルススコアを活用することで、顧客ごとに適切なサポートを行えるため、結果として解約率を改善でき、売上の向上が期待できます。
ヘルススコアの判断指標を設定する際は、健康状態を定義づけしたうえで「DEARモデル」を使い、判断指標や算出方法を定めるのが一般的です。
本記事でご紹介した導入のポイントや運用の注意点を参考にしながら、ヘルススコアを活用して顧客のビジネスを成功に導きましょう。
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