アップセルとは、顧客が購入を検討している商品・サービスから、「より上位のもの」を提案する販売手法です。新規顧客の創出にかかる5分の1のコストで利益を生み出せることや、効率的に顧客単価を高められるなどのメリットがあります。
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一方で、提案の仕方によっては押し売りと捉えられてしまい、結果的に顧客の損失につながりかねません。
本記事では、アップセルの概要や重要性などの基礎知識とあわせて、具体的な手法や注意点をご紹介します。アップセルのノウハウを身につけて、ビジネスの持続的成長を実現していきましょう。
アップセルとは
アップセルとは、顧客が購入を検討している商品・サービスから、より高価で付加価値の高いものへのアップグレードを促す販売手法のことです。
例えば、ECサイトでカートに入れた商品に関連する高額商品を提案したり、サブスクリプションサービスで上位プランへのアップグレードを勧めたりすることが、アップセルにあたります。
- サブスクリプションサービスで、通常プランからプレミアムプランへの変更を提案する
- 化粧品の購入者に、ノーマルタイプから悩み特化型タイプへの買い替えを促す
- スマートフォンの購入者に、容量の大きいモデルへの変更を提案する
- 店舗での接客時に、品質の高いワンランク上の商品への買い替えを勧める
- ホテルの予約時に、スタンダードルームからスイートルームへのアップグレードを勧める
アップセルの重要性
アップセルの概念は従来から存在する概念で、近年、取り組む企業が増えています。なぜなら、インターネットの普及により購買行動が変化し、新規顧客の創出が難しくなっているからです。
マーケティングの「1:5の法則」によれば、新規顧客への販売にかかるコストは既存顧客の5倍必要だとされます。既存顧客はすでに企業の商品・サービスを信頼しており、追加の提案を受け入れやすい傾向があるためです。
新規顧客の創出の難しさや、広告費や営業コストの増加、利益率の低下などの課題を解決すべく、顧客1人あたりの売上を効果的に引き上げられるアップセルの重要性が増しています。顧客のニーズや期待に応えられるアップセルを行うことで、顧客満足度を高めると同時に顧客が生涯を通じて企業にもたらす総利益を指す「ライフタイムバリュー(LTV)」の向上を見込めるでしょう。
クロスセルとの違い
クロスセルとは、顧客が購入を検討している商品・サービスに関連する別のものを追加で提案する販売手法です。複数の購入を促して収益を向上させます。
アップセルとクロスセルの最終的な目的は「顧客に価値を提供し、売上につなげること」です。しかし、収益を増やす方法や提案の仕方、実施するタイミングなどが異なります。
アップセルとクロスセルの主な違いは、次の通りです。
アップセルのメリット
アップセルのメリットは、次の通りです。
- 効率的に顧客単価を高められる
- 機会損失を避けられる
- 顧客ロイヤルティや顧客満足度を高められる
それぞれのメリットを解説します。
効率的に売上を伸ばせる
アップセルのメリットは、新規顧客創出コストを抑えつつ、売上を効率的に伸ばせる点です。
新規顧客の創出には、多額の広告・販促費用がかかります。一方で、アップセルは既存顧客を対象とするため、そのコストを大幅に節約できます。
- 商品やブランドの認知がすでにあるため、説明にかかる時間が少ない
- 過去の取引履歴をもとに、効果的なオファーを設計できる
- 既知のメールアドレスや郵送DMなどを活用し、低コストでアプローチできる
- ロイヤルティの高い優良顧客を対象にすれば、高い成約率が見込める
既存顧客のフォローを万全に行いながら、新規顧客の開拓も並行して進めていけば、売上と費用対効果の全体バランスを最適化できます。顧客に高い価値を提供すれば、顧客満足度やロイヤルティ(企業への信頼や愛着)が向上し、結果として自社へも利益がもたらされます。
機会損失を避けられる
アップセルを駆使すれば、顧客の求めるより上位の商品・サービスを提供しないことで、他社に乗り換えられるといった顧客・自社双方にとっての機会損失を避けられます。
既存顧客は既に当社の商品・サービスを認知しているため、アップセルにより新しい商品へスムーズに誘導できる可能性が高くなるでしょう。
顧客ロイヤルティや顧客満足度を高められる
アップセルは顧客ロイヤルティや顧客満足度を高められる点もメリットです。顧客の期待や想定を超える提案によって潜在ニーズにも応えれられるため、高い信頼の創出につながります。
アップセルによる顧客体験の向上は、押し売りではなく、企業への信頼や愛着心をより高められる行為です。顧客との絆を強化することで、安定的な収益基盤の確立につながるでしょう。
アップセルの手法
アップセルの代表的な手法は、次の通りです。
- アップセルにつながる導線を組む
- 無料から有料を訴求する
- 長期契約に割引をつける
- ロイヤルティプログラムを取り入れる
- クロスセルと組み合わせる
それぞれの手法を解説するので、実際にアップセルに取り組む際の参考にしてください。
アップセルにつながる導線を組む
アップセルを実施するポイントは、アップセルにつながる商品を設計し、導線を組んでおくことです。操作性や機能面でアップグレードした商品・サービスをあらかじめ構築しておきましょう。
例えば、顧客管理ツールを提供している企業であれば、ライトプラン・ベーシックプラン・プレミアムプランを用意します。管理できる顧客数や機能に差を付けて、より上位のサービス利用を促します。
価格が高くても、顧客にとって価値を感じられる機能やサポートがついていれば、利用してもらいやすくなるでしょう。
無料ユーザーに有料プランを訴求する
当初はお試し期間として無料で提供し、一定期間経過後に有料プランへ移行してもらう方法もあります。例えば、サブスクリプションサービスやメールマガジンに適した方法です。
この訴求方法では、無料プランと有料プランの間で、データ容量や機能に差をつけて、有料プランを利用したい意欲を高めることが重要です。
長期契約に割引をつける
長期契約に割引をつけることもアップセルに有効です。SaaSビジネスなどのサービスは、月額払いよりも年額払いの方が月単価が安くなる料金体系を取っていることがほとんどです。
一時的に支払う費用は増えますが、月ごとの単価は安くなるためアップセルを訴求しやすく、結果的にLTV上昇にもつながるでしょう。
ロイヤルティプログラムを取り入れる
ロイヤルティプログラムとは、商品・サービスの購入頻度が多い、もしくは購入額が大きい顧客に対して特典や報酬を提供する施策です。継続的な購入やサービスの利用を促進し、長期的な関係を築くことを目的としています。
ロイヤルティプログラムには、既存顧客との関係の強化、リピート率やLTVの向上、良質な口コミの拡散にともなう新規顧客創出などのメリットがあります。
- ポイント型:購入金額や利用に応じたポイント付与
- 会員・階級型:商品・サービスの利用頻度に応じてグレードが上昇
- 無料特典型:優良顧客に対して無料の商品・サービスを提供
- 有料型:料金を支払うことでさらに高品質なサービスを提供
クロスセルと組み合わせる
アップセルとクロスセルとの組み合わせも有効です。具体的には、既存の商品・サービスのアップグレードに加えて関連商品を提案します。
使用サービス:サーバー契約
- クロスセル:セキュリティプランの提案
- アップセル:高速なストレージなど、より高性能なサーバーの提案
アップセルとクロスセルとを組み合わせると顧客のニーズに応じた包括的な提案を行えるため、顧客満足度の向上につながります。また、自社のビジネスの成長や収益向上も期待できるでしょう。
アップセルを成功させるポイント
アップセルを成功させるポイントは、次の通りです。
- ロイヤルティの高い顧客に提案する
- 顧客を徹底的に分析する
- 顧客にお買い得だと感じてもらう
- アップセルによるメリット・ベネフィットを訴求する
- 適切なタイミングで訴求する
ロイヤルティの高い顧客に提案する
ロイヤルティの高い顧客は、利用している商品・サービスへの信頼が厚いため、新しい提案を受け入れやすく、アップセルの成功率が高い傾向にあります。
ただし、提案する商品・サービスが顧客のニーズに合致していることが大前提です。利便性やコスト削減効果など、アップセルが顧客にとって価値があることも提案時に説明しましょう。
- 顧客
中小企業のマーケティング部 - 利用しているサービス
無料版のCRMツール - 提案するサービス
有料版へのアップグレード - 顧客にとってのメリット
高度な自動化機能やワークフローの最適化により業務効率が向上し、空いた時間を他のマーケティング業務に振り分けられる など
顧客を徹底的に分析する
顧客データを収集し徹底的に分析して、最適なオファーを設計するのも重要です。
オファーを設計する際は、顧客データの戦略的活用が欠かせません。購買履歴や閲覧履歴、属性情報など、顧客に関する多様なデータを収集・分析し、個々のニーズや嗜好性を把握することがスタートラインです。
- 購買履歴から、顧客が選択しやすい価格帯や好みのブランド・カテゴリーを特定する
- 閲覧履歴をもとに、興味関心が高まっている商品傾向をリアルタイムで把握する
- 属性情報と行動データを組み合わせ、購買パターンを分析する
- 顧客の行動サイクルを見極め、アップセルに最適なタイミングを見計らう
こうして得られた洞察や発見をもとに、個別化されたオファーを設計します。
「この顧客には、この商品を、このタイミングで」という具合に、顧客一人ひとりに最適なアプローチを目指しましょう。
顧客に得だと感じてもらう
アップセルは、より顧客単価の高い商品・サービスを提案するので、顧客にとっては金銭的負担になるのも事実です。金額がネックに感じると利用につながらないため、お買い得だと感じてもらうことが大切です。
「無料お試し期間を設ける」「長期契約で利用単価を下げる」などの点で訴求し、利用に対するハードルを下げましょう。そのうえで、次に紹介する「アップセルによるメリット・ベネフィット」を伝えると、より割安感を感じてもらうことができます。
アップセルによるメリット・ベネフィットを訴求する
上位の商品・サービスを利用すると、顧客にどのようなメリットやベネフィットをもたらすのかを訴求することも重要です。具体的な効果をイメージしてもらえるよう、わかりやすく伝えましょう。
例えば、CRM(顧客管理ツール)を提供する企業の場合は、次のようなメリット・ベネフィットが考えられます。
- メリット:顧客情報の一元管理により業務を効率化し、顧客満足度の向上につなげられる
- ベネフィット:顧客理解を深めて競争力を強化する。コストを削減しつつ収益を向上させる
適切なタイミングで訴求する
顧客にとって適切なタイミングで訴求するのも重要です。なぜなら、顧客にとって適切なタイミングでない場合の訴求は、ストレスや不快感による満足度や信頼の低下につながるからです。常に顧客の置かれている状況をチェックし、具体的な悩みや課題、ニーズを把握しましょう。
顧客が初めて商品を購入した直後やリピート購入の際など、アップグレードへの関心が高まるタイミングを見定めて提案するのが効果的です。また、顧客のビジネス成長にともない新しいニーズが生まれるタイミングも、チャンスとなり得るでしょう。
アップセルを実施する際の注意点
アップセルを実施する際は、次の2点に注意してください。
- 押し売りをしない
- 定期的にフォローする
押し売りをしない
アップセル施策を検討するうえで、最も重要なのは「顧客視点に立った提案」 です。売上拡大を意識するあまり、自社の都合を優先したレコメンドは慎みましょう。
自社の利益を優先して、顧客に必要のない提案や購入を急かせば、自社への信頼が損なわれてしまい、現在利用している商品・サービスの解約につながりかねません。
顧客のニーズや課題を起点とし、それを解決に導くための最適な選択肢としてアップセルを位置づけることが大切です。
- 提案する商品やサービスが、顧客のどのような課題解決に役立つのかを明確にする
- 過去の購入履歴や行動履歴から、顧客の嗜好や関心事を推察する
- オファー内容や訴求方法は、顧客属性やセグメントに合わせて最適化する
- 購入を急かしたり、必要以上に説得を試みたりせず、顧客の意思を尊重する
- 断られたときの対応も想定し、柔軟にコミュニケーションを調整する
定期的にフォローする
アップセルの目的は、一時的な売上の向上ではなく、顧客と良好な関係を長期的に築きLTVを高めることです。そのため、アップセルが成功したあとの定期的なフォローが求められます。
フォローを通じて、顧客が直面している課題や問題、不満を早期に発見し、迅速に対応できれば、顧客からの信頼を維持・向上させて長期的な関係を築くことができるでしょう。
- 新しい商品・サービスを適切に利用できているか確認する 必要に応じてトレーニングを提供し、顧客がすべての機能を適切に活用できるよう支援する
- 新しい商品・サービスの利用に関する問題の有無や不満の聞き取り 問題解決の提案を行う。解決後もコンタクトを継続し、問題が再発していないか、追加のサポートが必要かどうかを確認する
定期的なフォローは、顧客ニーズの深堀りにもつながります。顧客の新たなニーズや関心を把握し、アップセルやクロスセルの機会を見つけることが可能です。
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顧客ニーズを理解したうえでアップセルを実施しよう
アップセルは、顧客が購入を検討している商品・サービスから、より高価で付加価値の高いものへのアップグレードを促す販売手法です。効率的に顧客単価を高められる他、機会損失の回避や顧客ロイヤルティ・顧客満足度の向上が期待できます。
アップセルを行う際は、無理な押し売りやフォロー不足により顧客から信頼を失う可能性がある点には注意が必要です。本記事を参考に顧客ニーズを理解したうえで、アップセルを実施してください。