アップセルとクロスセルは、顧客単価を高め、LTVを向上させる施策の1つです。企業にとって重要な施策ですが、自社の利益のみを追求すると、必要のない商品・サービスを顧客に押し付けることになり、信頼を失いかねません。
顧客が本当に必要とするものや求めているものを的確に理解したうえで提案すれば、アップセルとクロスセルは顧客にも自社にも恩恵をもたらします。そのためには、アップセル・クロスセルの違いを理解し、適切なタイミングで顧客にアプローチすることが重要です。
本記事では、アップセルとクロスセルの違いについて、収益を増やす手法、提案の仕方、実施するタイミングの3つの項目に分けて、詳しく解説します。
アップセルとクロスセルの違い
アップセルとクロスセルは、次の3つの点で異なります。
- 収益を増やす手法
- 提案の仕方
- 実施するタイミング
アップセルとクロスセルの概要や事例について、詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
1. 収益を増やす手法
アップセルとクロスセルは、ともに収益を増やす手法である点は共通しています。
ただし、アップセルは1つの商品やサービスから収益を上げる手法であるのに対し、クロスセルは1つの商品やサービスに別のものをプラスして収益を上げる手法である点で異なります。
アップセルとクロスセルについて、概要とともにBtoC、BtoCにおける具体例もおさえておきましょう。
アップセル
アップセルは、顧客が過去に購入した、もしくは購入を検討している商品やサービスよりもグレードを上げたものを提案し、購入を促して利益を増やす手法です。
BtoCとBtoBのアップセルの一例は、次の通りです。
【BtoC】
- ドリンクのSサイズを、+30円でMサイズへ変更
- 年会費無料のクレジットカードから、年会費のかかるプランへの変更
- 内容がより充実した、上位サブスクリプションへの移行
- オンライン航空券予約サイトの、座席アップグレードや追加機内サービス
【BtoB】
- システムの利用可能人数が50人のプランから100人のプランにアップグレード
- コンサルティングで、サポート内容をより充実させたハイグレードプランの提案
- より快適性や機能性を重視したオフィス家具の提案
- クラウドサービスの、基本ストレージプランから大容量ストレージプランへのアップグレード
内容は異なりますが、いずれも顧客単価を高める施策となっています。
クロスセル
クロスセルとは、顧客が過去に購入した、または購入を検討している商品やサービスに関連する別のものを提案し、複数の購入を促して収益を増やす手法です。
BtoCとBtoBにおけるクロスセルの一例には次の手法があります。
【BtoC】
- PCとあわせて、マウスや付属機器を提案
- ハンバーガー単品の注文時、ドリンクやポテトのついたセット商品への変更を提案
- ECサイトのカートに入っている商品に関連する商品を表示させる
【BtoB】
- 契約中のシステムと、連携可能なシステムを提案
- サーバー契約時、セキュリティサービスやデータバックアップサービスもあわせて提案
- 名刺やポスターのデザイン制作依頼を受けた際に、ホームページ制作を提案
アップセルとクロスセルの概要をまとめると、次の図のようになります。
2. 提案の仕方
アップセルとクロスセルを成功させるには、それぞれの違いを明確に理解したうえで、提案の仕方を考慮することが大切です。
ここからは、アップセルとクロスセルの効果的な提案の仕方について解説します。
アップセル
アップセルを成功させるために重要なのは、「お得に購入できる」と顧客に感じてもらうことです。先述したように、アップセルはより上位の高額な商品やサービスを購入してもらう施策です。
しかし、顧客からすれば、ただ高いだけの商品やサービスは魅力的ではありません。だからこそ、アップグレードしたものを使うとどのようなメリットがあるのかをアピールする必要があります。「金額の上昇幅よりも享受できるメリットが大きい」と顧客が感じられれば、アップセルの成功率は高まります。
アップセルで効果的な提案方法は、次の通りです。
- アップグレード版の購入割引やキャンペーン
- 限定サービスの提供や特典
- 期間や内容を含めた保証サービスの提示
アップグレードによるメリットの訴求方法には、「作業時間の短縮につながる」「サービスの利用可能範囲が広がり、カスタマイズ性が高まる」などがあります。アップセルを成功させるためにも、顧客が具体的にどのようなメリットを得られるのかを明確にし、商品・サービスに対して価値を感じてもらえるような提案を実施しましょう。
クロスセル
クロスセルの提案で重要なのは、既存の商品やサービスにプラスして新たに導入・購入することで、顧客にどのようなメリットがあるのかを明確にすることです。「いずれ必要になる」「セットで買う方が効果的である」点を顧客に意識させ、購入を促します。
クロスセルの効果的な提案例は次の通りです。
- メディア運用の発注企業に、SNS運用を提案する
- サーバーを契約した企業に、セキュリティプランを提案する
1つ目の例では、メディア運用とあわせてSNS運用を行うことで、ユーザー数の増加が見込める点をアピールできます。2つ目の例では、より安全にサーバーを利用できるメリットを顧客に印象付けられます。
アップセルとクロスセルを成功させるには、顧客一人ひとりに対する理解を深めて、ニーズを的確に捉えることが必要です。顧客の行動や思考を購買プロセスごとに可視化する「カスタマージャーニー」を活用し、顧客理解を深めましょう。
カスタマージャーニーの詳細は、こちらの記事で詳しく解説しているのでぜひ参考にしてください。
3. 実施するタイミング
アップセルとクロスセルを成功させるには、顧客が求めるタイミングで商品やサービスを提案することが重要です。適切なタイミングで訴求できれば、顧客の購買意欲が醸成され、競合他社の商品やサービスよりも自社のものを選んでもらいやすくなるからです。
アップセルとクロスセルを実施する適切なタイミングを、具体例とともに解説します。
アップセル
アップセルの適切なタイミングは、顧客が既存の商品やサービスを活用したうえで、より上位のものを検討し始めるときです。
例えば、顧客が無料トライアルで商品・サービスを利用して、その良さを実感している段階です。ある程度の使用感を把握できる無料期間を経て、顧客の満足度が高まっていれば、機能性やカスタマイズ性に優れた有料プランへのアップセルは成功しやすくなります。
また、取引中の案件で顧客が求める成果を出せた場合も、アップセルを訴求するタイミングです。これまでの実績から顧客からの信頼感が高まっている状態のため、発注数を増やしてもらう提案が通りやすくなるでしょう。
クロスセル
クロスセルの適切なタイミングは、顧客が新しい商品・サービスの購入を決断したときです。「より便利になる商品・サービスはないか」「必要になるものはないか」などを、顧客視点に立って考えてみましょう。
例えば、PCの購入を決めた顧客に対しては、このタイミングでマウスやキーボードなどの付属機器を提案して、操作性の向上を訴求できます。
また、アップセルと同様に、顧客の商品やサービスの活用が進んでいるときも有効です。既に利用している商品・サービスと組み合わせると、より顧客満足度が高まるものはないかを熟考し、顧客に提案してみましょう。
いずれのケースでも、顧客にとって必要なものであれば、追加購入に至る可能性が高まります。
アップセルとクロスセルの違いを理解し、効果的なアプローチを行おう
アップセルとクロスセルは、いずれも顧客単価を高め、LTVを向上させる施策です。
顧客のニーズを的確に理解したうえでの提案が、アップセルとクロスセルの成功には欠かせません。顧客が求めているものを適切な手法・タイミングで提供するためにも、顧客理解に努めることが大切です。
アップセルとクロスセルには、収益の上げ方や提案の仕方、訴求にベストなタイミングに違いがあります。これらの違いを理解し、顧客への価値提供を心がけることで、効果的なアプローチを実施しましょう。