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サブスクリプションモデルあるいはSaaSモデルと言われるビジネスモデルが浸透し、近年、プロダクトの事業性を評価する計算式として「LTV(Life Time Value:ライフタイムバリュー)」の重要性が増しています。

この記事では、これからサブスクリプションサービスの提供に乗り出そうと考えている企業様、あるいはサブスクリプションサービスを既に展開していても思うように収益性が伸びずに悩んでいる企業様向けに、経営指標としての「LTVの算出・活用方法」と、「LTVの高め方」について解説をしていきます。

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なぜ「LTV」が重要視されるのか?


LTVが重要視される背景には、以下3点の理由があります。

  1. 1:5の法則」でも言われている通り、既存顧客をカスタマーサクセスに導くことが、新規顧客開拓を行うことよりも効率的な収益拡大に結び付けられるため
  2. 広告費など、事業やプロダクトに対する適正な投資額を決定するため
  3. 投資家へ提示する事業計画書にLTVは欠かせない要素となっているため

では、「LTV」の観点がないと、どのような問題が発生するのでしょうか。

ケーススタディを通じて考えてみましょう。

ケーススタディ1.「音楽ストリーミングサービス」の仮想事例

  • ARPU(ユーザー平均月次単価):1,000円
  • CAC(顧客獲得費用):5,000円

LTVは1顧客から得られる生涯利益を計算するものです。では、LTVと言う長期視点を持たず、上記のような単月の収益性だけを見て事業を推進すると、どのような問題が発生するでしょうか。

上記に並べたのは「ユーザー1名における平均月次単価」と「ユーザー1名を獲得するために必要となる広告費等のコスト」を表す数字です(各数字の詳しい解説は次章以降に触れてまいります)。

上記の数字だけを見ると、プロダクトは完全な赤字ですね。であれば、プロダクトは「No Go」と言う判断となってしまうでしょう。

ここに、「顧客”生涯”価値」の観点を加えると、事業性の評価結果も、用意できる打ち手も大きく変わってきます。

では次に、基本的なLTVの算出方法をおさらいしてみましょう。

LTVの算出方法


LTVの具体的な算出方法は以下の通りです。

  • LTV = ARPU(ユーザー平均月次単価) × 粗利率 ÷ Net Revenue Churn Rate(解約率)

それでは上記の計算方法で、先ほどの音楽ストリーミングサービスの事業性を評価してみましょう。

ケーススタディ2.「音楽ストリーミングサービス」の仮想事例

  • ARPU(ユーザー平均月次単価):1,000円
  • 粗利率:80%
  • Net Revenue Churn Rate(解約率):3%
  • CAC(顧客獲得費用=ここでは「広告投資費用」とします):5,000円
  • LTV(1,000 × 0.8 ÷ 0.03 = 26,666円) > CAC(5,000円)

上記の計算式から、LTVがCACの5倍を超えていると言う事実が判明いたします。つまり、広告投資に対して、1ユーザーあたり5倍以上の利益が得られると言うことです。

広告投資費用の回収期間も7か月に収まることが分かり、このプロダクトの収益性は充分であると言えます。結果として、プロダクトは継続して「GO」の判断となり、広告費に対しても「より多くの予算を投下していこう」と言う判断になるわけです。

別のケースを見ていきましょう。

ケーススタディ3.「HubSpot」の実例

HubSpotでも、LTVをプロダクトの事業性評価指標として活用しています。上記はHubSpotのプロダクトに関するLTVの推移を表した実際の数値になります。

LTVと言う長期目線で戦略を設計し、「サービスプランの拡充」「カスタマーサクセス/カスタマーサポートへの大幅な投資」を行ったことで、LTVは約3倍まで向上しました。短期的に月次の売上ばかりを追っていたら、上記のような投資判断を行うことはなく、事業はスケールダウンしていたことと思います。

さらに仮想スマホアプリのケーススタディを通じて、LTVの重要性について考えていきましょう。

ケーススタディ4.「スマホアプリ」の仮想事例

  • ARPU(ユーザー平均単価):300円
  • 粗利率:70%
  • Net Revenue Churn Rate(解約率):5%
  • LTV算出:300 × 0.7 ÷ 0.05 = 4,200(円)

つまり、LTVは4,200円となります。(注:アプリビジネスでは解約率ではなく継続率(1-解約率)を使うのが一般的です。)

1社の顧客を獲得することで、得られる単月の売上はわずか300円です。それだけしか情報がない環境であったとするならば、どこまでこのスマホアプリに広告投資ができるでしょうか。

しかし、1社の顧客を獲得することで4,200円の粗利益が稼げると分かっているのならば、広告投資の予算は、大きく変わってくるのではないでしょうか。

では次に、LTVから適正な広告投資額を決定するためにLTVとともに活用できる指標である「CAC」について解説をしていきます。

「CAC」とは?

「CAC」とは、「Customer Acquisition Cost」の略語であり、日本語では「顧客獲得費用」と呼ばれます。

具体的には、顧客1社を獲得するために必要となるマーケティングや営業コストのことを指します。もし、このCACがLTVを上回るならば、当該事業の存続は非常に厳しいと言えるでしょう。

「Organic CAC」「Paid CAC」「Blended CAC」とは?

CACの計算方法に関する解説に入る前に、CACは大きく以下の3種類に分類できることを押さえておくと良いでしょう。

  • Organic CAC自然増の顧客獲得コストを表します。例えば、紹介やクチコミ、検索からの流入は、こちらに分類されます。
  • Paid CACリスティング広告をはじめ、お金を支払って獲得した顧客コストを表します。
  • Blended CAC上記2つを混ぜた顧客コストを表します。

上記を踏まえて、CACの具体的な算出方法を見ていきましょう。

  • CAC = 顧客獲得コスト ÷ 顧客数

そして、CACを算出する上で重要なのは、一般的にLTVがCACの3倍以上であれば、事業の収益性が期待できるとされている点です。また、CACの回収期間は12か月以内が望ましいと考えられています。

ケーススタディ5.「事業に対する投資判断」の仮想事例

試しに、仮に以下A・Bの2種類の事業のいずれかに投資をしようと考えた時、あなたはどちらの事業に対して投資を行うか考えてみてください。

【事業A】

  • ARPU(ユーザー平均月次単価):1,000円
  • 粗利率:70%
  • Net Revenue Churn Rate(解約率):5%
  • CAC:8,000円

【事業B】

  • ARPU(ユーザー平均月次単価):500円
  • 粗利率:80%
  • Net Revenue Churn Rate(解約率):2%
  • CAC:3,000円

あなたは、どちらが投資案件として有力だと考えますか?

正解は「事業B」であり、それぞれの数値を求める計算式は以下の通りです。

【事業AのLTV/CACおよびCAC回収期間】

  • LTV = 1000 × 0.7 ÷ 0.05 = 14,000円
  • LTV/CAC = 14,000 ÷ 8,000 = 1,75
  • CAC回収期間 = 12か月

【事業BのLTV/CACおよびCAC回収期間】

  • LTV = 500 × 0.8 ÷ 0.02 = 20,000円
  • LTV/CAC = 20,000 ÷ 3,000 = 6,66
  • CAC回収期間 = 8か月

これは「ユニットエコノミクス(unit economics)」と呼ばれ、シリーズAにおける投資の判断基準として多用されている数値です。

投資家への事業説明で、この点を明快に説明できなければ投資を得ることは難しいのが現状です。もし、事業に対する出資の受け入れを検討しているのならば、「LTVがCACの3倍以上」「CACの回収期間は12か月以内が望ましい」という2点は、必ず念頭においておきましょう。

「MRR」「Churn Rate」とは?

続いて「MRR」と「Churn Rate」について、簡単におさらいしておきましょう。

「MRR」

「MRR」とは「Monthly Recurring Revenue」の略で、月間経常収益のことを指します。

クラウドサービスなど契約ベースのビジネスで使用される言葉です。

具体的には、当月より新規に課金したユーザー、金額の高いプランへ転換したユーザー、金額の低いプランに転換したユーザー、解約ユーザーなど、全ての課金ユーザーから得られる収益を合算した金額を表します。

「Churn Rate」

「Churn Rate」は「解約率」を意味し、全ユーザー数に対する解約ユーザー数の割合を表します。

LTVを最大化する方法

ここまでご覧いただいてLTVの重要性はご理解いただけたことと思います。

それではLTVを高めるために、どのような施策が考えられるでしょうか。

先に挙げたとおり、LTVを構成する要素は大きく以下の3点です。

①ARPU(ユーザー平均月次単価)
②粗利率
③Churn Rate(解約率)

②の粗利率はマーケティング部門が介入する可能性の低い要素なので②は除き、①と③に対する施策の方向性を挙げていきます。

①ARPU(ユーザー平均月次単価)を向上する施策例

  • そもそもの価格設定を見直す
  • サービスプランを充実させ、既存顧客へのアップセル/クロスセルをはかる

③Churn Rate(解約率)を低減させる施策例

  • 解約理由となるサービスの要素を、1つ1つ潰していく
  • 解約になりやすいタイミングで何らかのインセンティブを提供する

いずれも、早急に実行すべき施策ですが、実はこれらのことを考える前にやるべきことがあります。

それは顧客のロイヤリティを高めることです。小手先で上記の例に挙げたような施策を打っても大きな効果は期待できません。基盤となる顧客ロイヤリティが高まってこそ、効果を発揮する施策なのです。

最近、カスタマーサクセスの部隊を構築する企業も増えていますが、消費の流れが変わり、提供する商品が物からサービスへと変わったこと(SaaS:Software as a Service)によって、「売って終わり」の時代は終焉を迎え、「売ってからが始まり」の時代へと突入しました。

つまり、LTVを高める上で何より重要なのは、顧客ロイヤリティとなったのです。

そして、顧客のロイヤリティが高まった段階で、「アップセル/クロスセル」を行うことが、LTVを向上する活動では重要となります。

顧客ロイヤリティの高め方は、「こちらの記事」にて詳細を解説していますので、ぜひ、ご参照ください。

そして、顧客ロイヤリティを高める施策を行った次の段階で、「アップセル」や「クロスセル」の実現に向け、以下3ステップの活動を行うと良いでしょう。

ステップ1.顧客ロイヤリティを把握する

顧客ロイヤリティを把握する上では、「NPS」が有効です。「NPS」の具体的な手法については、「こちらの記事」をご参照ください。

ステップ2.ロイヤリティ毎に顧客を以下の3つのセグメントに分類する

  • ロイヤリティ高
  • ロイヤリティ中
  • ロイヤリティ低

ステップ3.セグメント別にアプローチの手法を検討する

ロイヤリティ高の顧客に対して手厚いアプローチをし、更なる関係性の向上と情報の提供を行い、アップセル/クロスセルにつなげます。

各セグメントに対するアプローチ方法の大枠は以下の通りとなります。

ロイヤリティの高さ 対応指針 アプローチの方向性
ハイタッチ 専任担当をつけた手厚い対応
ロータッチ 複数担当者による対応
テックタッチ 人手を介さないテクノロジーによる対応


続いて、HubSpotで実践しているセグメント別の具体的なアプローチ手法をご紹介いたします。

ロイヤリティの高さ 対応指針 Hubspotの具体的なアプローチ方法
ハイタッチ カスタマーサクセス担当が専任でつき、顧客の目標を達成するために伴走する。
ロータッチ カスタマーサポートやカスタマーサクセスチームが存在し、複数人で助けが必要な顧客の課題を迅速に解決する。
テックタッチ ヘルプページ、アカデミー、録画ウェビナー、オンラインユーザーコミュニティ等を介した対応を行う。

「アップセル」「クロスセル」の実現に効果的な組織体制は上記の通りです。

また、「アップセル」や「クロスセル」の実現には、顧客のライフタイムに応じた施策の立案が必要となります。

ここでは一例を挙げていきます。

①顧客のライフタイム = サービス導入期のフェーズ

  • プロダクトのスタートアップガイド
  • プロダクトの操作方法の説明

②顧客のライフタイム = サービスを使い始めてからのフェーズ

  • プロダクトの使用方法を体系的に学べるコンテンツ
  • プロダクトの使用において間違いやすいポイントを整理したコンテンツ
  • 他ユーザーのプロダクト使用事例
  • 上記に関する勉強会の開催

③顧客のライフタイム = 基本的な使用方法は押さえ、成果創出に向かうフェーズ

  • 成功に向けたノウハウの共有
  • 他ユーザーのプロダクトを使用した成功事例の共有
  • ユーザーミーティング

これらの手法を顧客セグメントに応じて、デジタルとリアルの両面で展開していくことが、「アップセル/クロスセル」につながる種まきとなるのです。

HubSpotのカスタマーサービス組織が、どのようなフレームワークで顧客の成功を支援しているのか、下記の記事でまとめておりますので、ご参考ください。

HubSpotのカスタマーサービス チームがプロフィットセンターになるまでの軌跡とすぐに実践できるヒント

LTV向上の鍵はメトリクスの「因数分解」

「サブスクリプションサービスを展開すると経営基盤が安定する」とよく言われていますが、実際はサブスクリプションサービスそのものの安定性が高いのではなく、「Webを介したサブスクリプションサービスを行うことでメトリクスが得やすくなり、メトリクスに基づいたデータドリブンな経営が可能となるため、収益の安定化につながる」と言えるのではないか、と筆者は考えていています。

サブスクリプションサービスをこれから展開しようとお考えの企業様、サブスクリプションサービスの収益性をさらに高めていこうとお考えの企業様に、まずは本記事で触れたメトリクスを徹底的に収集・分析していくことを、強くおすすめさせていただきます。

HubSpotではこの他にもマーケティングやセールスに役立つ資料を無料で公開していますので、ぜひこちらからご覧ください。

 

SaaS事業を成長させるためのKPIテンプレート

元記事発行日: 2019年9月20日、最終更新日: 2020年5月13日

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